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AI×ビッグデータ分析による社会課題の兆し発見

知らなかったでは済まされない!パブリックアフェアーズNo.1

2018/12/14

AI×ビッグデータ分析による社会課題の兆し発見

パブリックアフェアーズ(以下PA)とは・・・企業・組織が周辺環境を把握し、より良い環境をつくり出すため、ステークホルダーと対話を行う活動のことです。本連載では、これからの企業にパブリックアフェアーズが求められる背景から、世論や政策への働きかけに求められる要素について企業広報戦略研究所が開発した「イノベーションPAモデル」まで、紹介していきます。

第1回は、電通パブリックリレーションズと東京大大学院の坂田・森研究室、ホットリンクによる共同研究の結果をもとに、ソーシャルメディアから抽出した社会イノベーション課題と、課題に対する国会議員の認識や情報ニーズなどについて、企業広報戦略研究所の長濱憲が解説します。

企業のイノベーションに求められるPA活動

今日、AI、ドローン、自動運転など、新しい製品やサービスの市場が生まれ続けています。このような領域を新しい収益源とするためには、法整備などに関与し、自ら経営環境をつくり出す取り組みが求められます。

法整備を含むルールメーキングの働きかけには、通常のマーケティング活動とは異なる取り組みが必要です。国会議員や地方議会議員、官僚を含む国内外のレギュレーター、市民団体など、さまざまなステークホルダーを対象とし、理解を得るためのPA活動が求められるのです。

特に、自社製品・サービスの優位性だけではなく、新たなルールを形成することで、どのような社会課題を解決できるか、分かりやすく説明することが必要となります。

ルール形成の対象としては、法令などのハードロー、法令の解釈に関わるガイドラインや技術標準などのソフトローの両方が存在します。しかし、いずれの場合でも、政策関係者への直接のアプローチと、世論の理解を得るためのコミュニケーションの両面が求められます。

経済産業省は、通商政策局の中に「ルール形成戦略室」を設置し、「グローバル社会課題に応じてルールが変化する現在、経営目線による対応が必要」とメッセージを発信しています(※1)。

※1:平成26年3月 経済産業省通商政策局 「企業戦略としてのルール形成に向けて」 5ページ

AI(人工知能)×ビッグデータ分析による社会イノベーション課題の推定

本研究では、「解決することで、社会・経済・生活が大きく変化し、より良くなる課題」を「社会イノベーション課題」と定義し、より幅広い領域における社会課題を対象にAIによる分析を行いました。

開発したAIは「社会イノベーション課題推定AI」と「コミュニティ推定AI」の二つです。まず、政府の成長戦略「未来投資戦略2017」(※2)から社会課題に関するキーワードを抜き出し、「社会イノベーション課題推定AI」に、このキーワードが含まれるTwitterのデータを学習させました。そして2017年7月の1カ月間のTwitterデータから、社会課題と思われるツイートを探させたのです。さらに、「コミュニティ推定AI」を用いて、ツイートがどのようなコミュニティーでつぶやかれているのか、明らかにしていきました(図1)。

AIの分析から抽出された18の社会課題は、Twitter上の「①つぶやき数の多さ」「②つぶやきの特定のコミュニティーへの集中度(トピックエントロピー<※3>の小ささ)」に基づき、4グループに分類されました(図2)。

例えば、つぶやき数が多く、広く分布している社会課題(HH)には、「保育環境の整備・待機児童の解決」が含まれます。「保育園」に関するツイートでは、入りにくさや料金の高さ、保育園がない職場に就職することへの不安など、働く女性の思いがあふれていました。また、「待機児童」に関するツイートを見ると、待機児童数を測る基準が自治体ごとに異なる点について、問題提起が見られました。保育園や待機児童などすでに話題になっている社会課題について、解決を求める生活者の声がネット上に多く存在していることが分かります。

また、つぶやき数が少なく、広く分布している社会課題(LH)には、「QOL/幸福感の向上」などがありました。そのツイートの内訳を見ると、介護を受けるお年寄りのQOL(Quality of Life)に関するつぶやきとともに、診療現場の医師や看護師、シングルマザーや生きづらい男性、美容師や犬のQOLなどについてのつぶやきが存在し、大きな話題にはなっていないもののさまざまな社会課題が存在することが分かります。

※2:未来投資戦略2017:第4次産業革命(IoT、ビッグデータ、人工知能<AI>、ロボット、シェアリングエコノミー)のイノベーションをあらゆる産業や社会生活に取り入れ、様々な社会課題を解決する「Society5.0」の実現を目的とした成長戦略。2017年6月9日閣議決定。

※3:トピックエントロピー:トピック内の情報を拡散したユーザーの所属コミュニティーが、どの程度多様かを情報量の概念から求めたものをトピックエントロピーと呼びます。トピックエントロピーが小さければ、当該トピックは一部のコミュニティーユーザーによって拡散されたことを意味し、拡散数が多くても一部のユーザーにしか届いていない可能性が高いことになります。一方、トピックエントロピーが大きければ、多様なコミュニティーのメンバーに広く拡散されたことを意味します。

つぶやきが少なく、広く分布する課題は、国会議員に認識されにくい

この18の社会イノベーション課題への認識について、衆議院および参議院の約700人の全国会議員にアンケートを送付しました。そして、回答を得た64人の国会議員による課題ごとの認識度について、平均点を算出しました。その結果、どのような特徴を持つ社会課題が国会議員に認識されやすいか、明らかになってきたのです。

それでは、国会議員には、どのような社会課題が認識されやすいのでしょうか?調査結果を分析した結果、特定のコミュニティーで話題になった社会課題は、国会議員の認識度が高い結果となりました。一方、全体的に広く分布しており、さらにつぶやきの数が少ない話題は、国会議員に認識されにくい結果となりました(図3)(※4)。

※4:図3では、各国会議員×各課題のスコアの4分類ごとの平均値について、回答した全国会議員×全18課題の全体平均値(82.8点)と比較し、z検定を用いて統計的に有意な差(5%水準)が存在することを確認しました。

さらに、それぞれの社会イノベーション課題について、解決に役立つ情報を得たいと思うか国会議員に質問しました。

※5:図4も図3と同様に全体平均値81.5点と比較し、z検定を用いて統計的に有意な差(5%水準)が存在することを確認しました。

その結果、広く分散しており、つぶやき数も少ない潜在的な社会イノベーション課題(上図のLH)は、国会議員に声が届きにくいだけでなく、課題解決に必要な情報へのニーズも低い結果となりました(図4)。

イノベーションを後押しするルールメーキングを実現するためには、企業の製品やサービスがどのような社会課題を解決するのか、国会議員などのステークホルダーに認識してもらう必要があります。さらにその前提条件として、そもそもどのような社会課題が存在するのか知ってもらうことが重要です。

しかし本調査では、広く分散しており、つぶやき数が少ない社会課題は、国会議員から認識されにくい結果となりました。イノベーションが生み出す製品・サービスによって、社会課題解決の恩恵を受ける潜在ユーザーの声は広く分散している可能性があり、政策関係者に届きにくい可能性が懸念されます。

顕在化する前の社会イノベーション課題を抽出する仕組み

社会課題に対する国会議員の認識度には、Twitter以外の情報源や社会課題の内容も影響しているため、Twitter上での分布との因果関係についてはさらなる分析が必要です。しかし少なくとも、困っている人々が分散している社会課題に対して、国会議員が認識しにくい傾向が存在することは、今後の課題解決を図る上で注目すべきポイントと考えられます。

今回、AIを用いた社会イノベーション課題の抽出の必要性を質問したところ、本調査に回答した国会議員の約9割が、「必要である」と回答しています(図5)。本調査への回答を得た時点で、イノベーションに関心を持つ国会議員が多く含まれている可能性はあるものの、AIによる新しい仕組みづくりに関心を持つ一定の国会議員の存在が示されています。

イノベーションを通じて社会課題を解決するためには、社会に存在する課題を明らかにし、課題解決をけん引する国会議員に対して、課題への正しい理解と議論を促すための情報提供が求められます。

本調査結果から、Twitterなどのソーシャルメディア上から顕在化前の社会イノベーション課題を抽出し、国会議員などの政策関係者に届けていく新しい仕組み(図6)の必要性が示されました。さらに、抽出された社会課題を政策関係者に伝えていくための各企業などによる活動も重要と考えられます。

次回は社会課題について、どのような情報源からどのような情報を発信すれば、政策関係者(国会議員)に認識してもらいやすいのか、調査結果をもとに明らかにしていきます。

【調査概要】

•調査主体:東京大大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 坂田・森研究室、企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)、ホットリンク

①社会イノベーション課題推定AI(人工知能)・ビッグデータ分析

•調査概要:「未来投資戦略2017」およびTwitterのデータを基に、「社会イノベーション課題を推定するAI」と、「ソーシャルメディア上のコミュニティーを推定するAI」の二つのAIを開発。さらに、Twitter上の「①つぶやき数の多さ」「②つぶやきの特定のコミュニティーへの集中度」に基づき、18課題を4グループに分類した。

•分析対象:2017年7月のTwitterのつぶやきをランダムサンプリングした数千万件以上のデータ

②国会議員調査

•調査方法:デジタル・ソサエティ推進議員連盟の協力のもと、国会議員(衆参両院)全員に調査票を送付。調査票またはオンライン上で回答を得た。

•調査期間:2017年12月9日~2018年4月8日

•回収数 :計64人(衆議院議員43人、参議院議員21人)