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プランナーが行く、“気になるゲンバ”No.2

吉川隼太が行く、
熊本市「ファクトリエ」

2018/12/26

第一線で活躍中の電通のコミュニケーション・プランナーが、自身のアンテナに引っ掛かった「今ちょっと気になる現場やスポット」をリポートする企画です。

(左から)吉川隼太氏、山田敏夫社長(ファクトリエ)
(左から)吉川隼太氏、山田敏夫社長(ファクトリエ)

アパレル業界に

新機軸で参入した風雲児の、“熱量”の大きさ

ライフスタイルアクセントが運営する、メード・イン・ジャパンの“工場直結”ファッションブランド「ファクトリエ」。社長の山田敏夫氏自らが国内600以上の工場へ直接足を運び、高い技術、誇り、独自のこだわりを持つ工場のみと直接提携。工場と消費者を直接結び、世界の一流ブランドと同等の高品質な商品を、ネットを中心に販売する。商品はメンズ・レディースとも洋服から小物雑貨まで多岐にわたり、幅広い年代を対象としている。

ファクトリエ

ファクトリエやそのリーダー山田社長の動向を見るに、さまざまな新規性や独自性が感じられる。その中から、今の時代における、

❶「常識を壊す」ときの流儀は?
❷「コミュニティー」づくりの成功の秘訣(ひけつ)は?
❸「人の心を動かす」ポイントは?

この3点が気になった吉川は、早速取材に向かった。

山田敏夫社長に聞く

(左から)山田敏夫社長(ファクトリエ)、吉川隼太氏

【Q1】

ファクトリエの新しいビジネスモデルは、どのような考えと方法で実現できたのですか?

ファクトリエが目指しているのは、「“作り手の思い”で服を選ぶ」という価値軸をつくることです。「ファッション性」でも「経済性」でもない、第3の価値軸。野菜を農家の方の顔を見て買う感覚ですね。

そこで僕たちは「世界一のクラフトマンシップの伝え手になる」という目標を掲げ、世界のハイブランドの商品も手掛けるような優れた日本の工場を厳選し、各工場のオリジナルブランドをつくり、服のタグには工場名を明記、そして工場から消費者に直接販売できる仕組みを構築しようと考えました。
そのためには、商社やメーカーなどの「中間業者を介さない」、生産者が分かるよう「工場情報をオープンにする」という二つのタブーを乗り越えざるを得なかった。

これはアパレル業界には波紋を広げることになりましたが、僕は「顧客さえ満足し、支持してくれれば問題ない」という考えなので、突き進むだけでした。また、協力してくださった工場にまで圧力がかかってしまったので、結局、商品のタグに「Factelier by」という文字を入れて、あくまでうちからの発注に応えているだけだという形の道をつくりました。
戦いと工夫の結果、現在では全国55の工場でブランドをつくり、まだ道半ばですが生産者と消費者の両者が喜ぶ形を実現。当初反対していた同業の方々からも「一緒に何かをやろう」と声を掛けていただいています。

扱う商品はアパレルですが、その実態は、クラフトマンシップを届けるプラットフォームをつくる会社ですね。(吉川)

 
ファクトリエ

 

【Q2】

ファクトリエとお客さまは強いコミュニティーを築いているように感じますが、意識していることはありますか?

ファクトリエはお客さんを「革命の同志」と呼んでいて、「商品が良いから買おう」というより「価値観に共感するから参加しよう」というお客さんを増やしたいと思っています。そのために僕たちが大事にしていることは三つ。

一つ目は「使命感を持つこと」。「世の中のために成し遂げる必要がある」という意識を持って仕事をしなければ、お客さんを巻き込むことはできません。

二つ目は「『あなたから買いたい』と思わせること」。商店街を見ていると分かるのですが、お客さんとの間にこういった関係性を築けるお店はつぶれません。だからファクトリエの社員は経理もエンジニアもブログを書くし、店頭に立って服も売ります。まずは1:1で「あなたから買いたい」と思わせられるようにならないと、ネットで1:nで関係を築くことはできないんです。逆に「翌日届く」とか「ポイントがたまる」とか、そういう動機で買わせようという発想は一切ありません。

三つ目は「場をつくること」。ファクトリエは定期的に、お客さんを招待して全国の工場へのツアーを行ったり、店舗に工場の方々を呼んで話を聞くイベントを開催したりしています。こういった、他では体験できない貴重な“場”をつくることが、コミュニティーを強固なものにすることにつながっていると感じます。

今、“共感”にお金を払う消費者は多くなっているので、重要な話。良いコミュニティーをつくるには汗をかかなければいけないんですね。(吉川)

【Q3】

これから「to C」がより大切になる時代に、人の心を動かすポイントは何だと考えていますか?

僕が心に刻んでいるのは「自分が熱くないと人は動かない」ということ。つまり、自分が熱狂して初めて周囲も熱くなれるということです。

今、ファクトリエの活動に対し、香川真司さんや浅田真央さん、小山薫堂さんら多くの方が応援してくださっています。実はこのつながりは、全て起業当初に僕が出した手紙から生まれたもの。社員は僕1人、オフィスはアパートの一室で携帯も止まっている…そんな状況で心が折れそうでしたが、自分には成し遂げたいことがあったので、「結果はコントロールできないけれど、行動はコントロールできる」と自分を奮い立たせ、毎日1通、自分が会いたい人に手紙を書くと決めたんです。1000人に手紙を出し、さまざまな方と関係を築くことができました。自分が熱狂していれば、お金がなくても、切手代の82円だけで誰かに動いてもらうことができるんですね。僕は今でも、商品を購入してくださった方全員に、直接手紙を書いています。

それからもうひとつ、これからの時代は「正しさよりも楽しさ」が大切だとも感じています。熊本は震災があったため僕もチャリティー活動に関わることは多いですが、寄付の必要性を説くよりも、清武弘嗣選手を呼んで子どもたちとサッカーをした方が人は集まり、結果的に寄付もしてもらえます。仕事でも、崇高な理念を訴えるだけでなく、それを楽しい形で伝えることにも力を入れなければいけないと考えています。

自分が熱狂する。その熱を、楽しい形で伝える。そうやって、ファクトリエの目指す「作り手の思いで服を買う」という世界をつくっていけたらと思います。


ファクトリエによる日本一長いポスター

今年10月から11月にかけ、ファクトリエが行うチャリティープロジェクトの一環として、全長67メートルの「日本一長いポスター」がJR熊本駅に登場。熊本地震の被災地に住む子どもたち94人が、自由に色を塗ったくまモンTシャツを持ち、笑顔で写る写真、さらにくまモンの写真6枚を合わせた計100枚が掲出された。

最後に...(by吉川)

最近、過度なマーケティングやデータ志向のいき過ぎがある気がしており、今の時代の生身のプランニングのヒントはファクトリエにあるのでは?と思い、山田社長に会いに行きました。実際、すごくヒントがありました。彼から一番学んだのは、人を動かすためには、やっぱり「感性」や「直感」が大事だということ。マーケティングで生まれる“最大公約数的なもの”ではなく、“その人の経験や感情から出る熱量”が人の心に入り込み、人を動かすんだなと。僕自身も、普段の仕事でも、心掛けていきたいなと思いました。

プランナーの吉川隼太氏(電通)