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日比昭道が行く、 山形県鶴岡市「ヤマガタデザイン」

プランナーが行く、“気になるゲンバ”No.3

2019/01/24

日比昭道が行く、
山形県鶴岡市「ヤマガタデザイン」

第一線で活躍中の電通のコミュニケーション・プランナーが、自身のアンテナに引っ掛かった「今ちょっと気になる現場やスポット」をリポートする企画です。

(左から)山中大介氏(ヤマガタデザイン)、日比昭道氏
(左から)山中大介氏(ヤマガタデザイン)、日比昭道氏

民間主導で街づくり。

“地域との完全融合”を目指すベンチャーの覚悟

広大な水田地帯に存在する、最先端のバイオテクノロジー研究施設&バイオベンチャー企業の集積エリア「鶴岡サイエンスパーク」。

約21.5ヘクタールの敷地内に、慶應義塾大先端生命科学研究所(微量の唾液や血液や便から健康状態・病気を把握する最先端技術で世界が注目)やSpiber(“人工のクモの糸”を使った新素材を武器に累計200億円以上を調達している繊維ベンチャー)など複数の研究施設、ベンチャー企業が集まる。1999年、鶴岡市の人口減少対策として富塚陽一市長(当時)が若者を集める施策として構想。2001年の慶應大先端生命研の誘致を契機に開発が加速し、現在は地方再生の成功例としても世界から評価されている。

最先端の研究施設、企業が集積する「鶴岡サイエンスパーク」
最先端の研究施設、企業が集積する「鶴岡サイエンスパーク」

今回プランナーの日比氏が訪れる「ヤマガタデザイン」は、山形・庄内エリアで“次の世代につなぐ街”をつくることを目的に、2014年に設立された街づくりカンパニー。山中大介社長の下、18年、鶴岡サイエンスパーク内にホテル「スイデンテラス」と子ども向け遊戯施設「キッズドームソライ」(共に設計はプリツカー賞受賞の建築家・坂茂氏)をオープンしている。

ホテル「スイデンテラス」
ホテル「スイデンテラス」
子ども向け遊戯施設「キッズドームソライ」
子ども向け遊戯施設「キッズドームソライ」

鶴岡市に縁もゆかりもなかった山中社長が、どのように「街づくり」を実行しているのか?事業づくりよりも困難だと推測される「街づくり」のプロセスの中に、これからの事業創造の秘訣があるかもしれない。特に日比氏が気になったのは、以下の2点だった。

❶ さまざまな困難を乗り越える山中社長のメンタリティーは?
❷ 地域住民の方々を、いかに巻き込み、共創しているのか?

山中大介社長に聞く

(左から)山中大介氏(ヤマガタデザイン)、日比昭道氏

【Q1】

街おこしを目指す企業を庄内で立ち上げた経緯や思いを教えてください。

まず、東京出身の私が庄内に来たのは、鶴岡サイエンスパークの構想に感動し、「この場所であればゼロから挑戦できる」と思ったから。ヤマガタデザインを立ち上げたのは、たまたま当時の鶴岡サイエンスパークが「行政主導のままでは開発をこれ以上加速できない」という悩みを持っており、前職で街づくりに携わっていた私に相談をしていただけたからですね。ホントきっかけは“たまたま”でしたが、私はそれを運命だと感じました。

ヤマガタデザインは庄内の課題を解決し、“ 次の世代につなぐ街”をつくることを目的とした会社なので、上場やグローバル進出などは一切考えていません。と、そんなスケールしなそうなことを言うベンチャー企業に普通は投資しないので、現在出資してくれている方は地元にゆかりのある企業・人のみ。でも、われわれはそれでいいと考えていて、いずれは庄内に住む27万人全員を株主にし、庄内と完全融合すること、既存の行政を補完する“民間の行政”になることを目指しています。

地元の方々に信頼してもらうため、当社にはあるルールがあります。それは「入社する際に住民票を庄内に移す」というもの。遠隔でも仕事ができる時代ですが、私たちの本気度を、地元の方々が見ていますから。

資本金10万円で立ち上げた会社ですが、これまでの4年間で23億円の出資をしていただけました。皆さまからの期待に応えるため、庄内に必要なことはすべてやっていきたいと考えています。

住民票を移すという本気感の表明。そして、山中さんは「デザイン=課題解決」と捉えており、デザインの可能性/拡張性を再認識しました。(日比)

 

【Q2】

街のさまざまな課題を解決するために、すべて“素人”な状態から挑戦する… 大変なのでは?

ひとつのビジネスモデルをつくってもそれを横展開していないという点で、経営的に非効率であることは事実。ただ、お金が目的ではないので、自分たちのビジョンを達成するために「やらねばならぬ」というだけなんです。とはいえ、どんな事業にも正解などないので、前例にとらわれずに地頭を使って考え抜くことでどうにかなりますし、常識を超えるものが生み出せることもあります。

例えば「スイデンテラス」はリゾートホテルでもビジネスホテルでもない“コミュニティーホテル”という位置付けで、既存のホテルとは一線を画す存在価値を持つことが世界的にも注目されています。ビジネスパーソン、研究者だけでなく、地域で暮らす方々にも使っていただき、交流が生まれるようなホテルにしたかった。このコンセプトに共感してくださった建築家・坂茂さんが設計を引き受けてくださり、地域色の強いレストランやショップ、水田を眺めながらディスプレーされた本や画集を読んで過ごせるラウンジなども実現しました。

「キッズドームソライ」も、児童館のような場所は無料で使えるものという認識が一般的ですが、会費制を導入し、継続的な運営を行えるように計画しています。

強い使命感を持って何かを成し遂げようと推し進めていると、人を巻き込んでいくこともできます。今、われわれは新たに農業に取り組んで「イロドリファーム」と名付けた農園の開発に着手していますが、次は林業、水産業とやらなければならないことは無限にあるので、使命感を持って取り組んでいきたいと思います。

事業づくり、街づくりに最も必要なのは「使命感」。“偉大な素人”が、当たり前だった世の中の課題を解決していくのかもしれない。(日比)

 

IRODORI FARM

例えば今までは“常識”だったハウスの形を進化させるなどさまざまなイノベーションを模索しつつ、地域と連携して“年間を通した自給自足の実現”を目指す農園を開発中。収穫された野菜は「スイデンテラス」のレストランでも提供されている。

IRODORI FARM

最後に...(by日比)

山中社長にメンタリティーを伺った際、「思い込んでいる」と発言されました。不安があろうがなかろうが、使命であり、やらねばならぬと「思い込んでいる」。「使命だと思い込む力」が彼の芯であり、私は、この覚悟に心を揺さぶられました。そして、「正しいことを言っても、誰も動かない」。だからこそ、あえて隙がある感じを出す。地域の方々に寄り添う(地域の運動会や、宴会に参加したり…)大切さにも言及され、表には見えない努力の姿がありました。ここには、地域再生の新しい形と共に、事業を作るために必要な「覚悟の形」があると思います。

プランナーの日比昭道氏(電通)