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プランナーが行く、“気になるゲンバ”No.4

吉羽優子が行く、
神奈川県鎌倉市「まちの社員食堂」

2019/03/27

第一線で活躍中の電通のコミュニケーション・プランナーが、自身のアンテナに引っ掛かった「今ちょっと気になる現場やスポット」をリポートする企画です。

(左から)吉羽優子氏、柳澤大輔氏(面白法人カヤック)
(左から)吉羽優子氏、柳澤大輔氏(面白法人カヤック)

“面白い”の力で、

企業の垣根を越えた地域コミュニティーを創造

今回プランナーの吉羽優子氏が訪れたのは、神奈川県鎌倉市にある「まちの社員食堂」。鎌倉に拠点を持つ30の企業・団体が手を取り合って実現した、鎌倉で働く人なら誰もが使える“社員食堂”だ。鎌倉の40の飲食店が週替わりで、健康的かつおいしいメニューを提供。鎌倉に本社を構えるクリエーティブカンパニー・面白法人カヤックが運営している。

まちの社員食堂

昨今、社員食堂を個性あふれる場にして自社アピールの一環とすることが多い。そんな中、吉羽氏が気になったポイントは、以下の3点だった。

❶ なぜあえて自社に限定せず、さまざまなプレーヤーを巻き込んだ共同の社員食堂にしようと考えたのか。
❷ 実現する上でどのような苦労があったのか、あるいは、なかったのか。
❸ 面白法人カヤックとして重視する「面白いかどうか」以外に、どのような価値基準を持って事業展開しているのか。

面白法人カヤック 柳澤大輔社長に聞く

(左から)吉羽優子氏、柳澤大輔氏(面白法人カヤック)

【Q1】

“街を巻き込んだ、共同の社員食堂”という形が面白いと感じました。着想の背景とは?

きっかけは、2018年11月の新社屋完成で、それまで横浜にもいたカヤックの社員たちがどっと鎌倉に集まることになったこと。鎌倉って観光客向けの飲食店が中心で、働いている人たちが普段使いできるようなコスパの店が少ないんです。だから自分たちで社食をつくろうと。

ただ、やるなら面白いことを、ということで、従来の“閉じている社員食堂”とは逆の、“開けた社員食堂”をつくることに。街の中で人と人がつながる場所をつくりたかったので、鎌倉で働く人みんなの社員食堂というコンセプトに行き着きました。

訪れた人は名刺をケースに入れて首からぶら下げるルールになっているなど、知らない人同士も交流しやすい仕掛けをつくっています。面白かったのは、市役所、観光協会、ベンチャー企業、老舗企業、証券会社など多ジャンルの社員が集まり新たなコミュニティーが誕生したこと。鎌倉ならではの光景だと感じました。

また、地域の飲食店が予想以上に協力的だったことにも驚きました。みんな「鎌倉で働く人のためなら」という気持ちで運営に参加してくれています。

カヤックはIT系のクリエーティブ企業なので、サイトづくりやSNSを活用したコミュニティー管理などは慣れていますが、多くの人が参加してくれているのは、一言でいえば「面白いから」だと思っています。起業した20年前から「面白い」が人を動かすと信じてやってきました。

左脳的な戦略がありつつも、面白いかどうかという右脳的な基準を大切にしている。人の心に刺さるものを生み出す秘訣(ひけつ)だと感じました。(吉羽)

まちの社員食堂

【Q2】

出身地ではない鎌倉にこだわる理由は?

他にはどんな取り組みを行っていますか?

シンプルに「鎌倉が好きだから」なのですが、僕が、何かを背負う上で出身地を気にしない人間だからできるという面もあるかもしれませんね。また、鎌倉は新参者に優しい街。1000 年以上の歴史を持つので、数十年程度なら先に住んでいることなんかはどうでもいいというムードがある気がしますね。

そんな鎌倉をより活性化するために、カヤックは「まちの社員食堂」以外にも「まちの○○」シリーズを展開しています。例えばうちの社員たちも困っていた鎌倉の待機児童問題を解決するための施設「まちの保育園 かまくら」。ここは鎌倉で働く人たちが優先して使える保育園で、2階部分をシェアオフィスにして子どもを預けながら仕事ができたり、新たなコミュニティーが生まれる仕組みになっています。

他にも、鎌倉の人口問題を解決するために地域の企業の合同説明会や合同研修を行う「まちの人事部」、鎌倉に映画館がないという問題を解決するためにカフェやレストランを映画館化させる「まちの映画館」など、さまざまな角度から鎌倉をより居心地の良い街、そして面白い街にするための取り組みを行っています。

「こうでなければならない」という固定概念を持たない柔軟性が魅力。良い会社、良いコミュニティーを築くコツかも。(吉羽)

【Q3】

「鎌倉資本主義」を実現させようとしていると聞きました。

一体何をしようとしているのでしょうか?

まず、「鎌倉資本主義」とは「地域資本主義」のひとつの形です。「地域資本主義」とは、財源だけでなく、人の交流、自然や文化を含めて「地域資本」とし、これらをバランス良く増やしていくことが地域社会の幸せにつながるという考え方。経済成長を測るGDPの数値が国民の幸福度に直結しなくなった世の中において、この「地域資本」の豊かさを測るモノサシをつくり、官民一体となって皆で高めていくことが、人々の幸せをつくっていく。そんな仮説を、まずは鎌倉という地で証明しようとしているわけです。

その第一歩として、現在カヤックは鎌倉独自の地域通貨を発行する計画なども進めていますが、従来の資本主義をアップデートした「鎌倉資本主義」がより整ったとき、この地域に住む人・働く人はもっと面白い毎日を送れます。今は皆がお金よりも「面白さ」を求めている時代ですので、必ず実現できると思っています。

書影『鎌倉資本主義』著:柳澤大輔

「お皿洗いでランチ10円!」券

食券機では「お皿洗いでランチ10円!」券を販売中(1日2人限定)。大胆な割引率はもちろん、働くことで他のお客さんとコミュニケーションをとれるのも魅力。随所に「面白」の仕掛けがちりばめられている。

食券販売機

最後に...(by吉羽)

「まちの社員食堂」の考え方にも、柳澤社長のフィロソフィーにも、外へ開く力や懐の深さを感じました。いろいろなルールがあるがゆえにともすれば窮屈になりがちな今の時代、この柔軟さはとても大事だと思います。また、実際に伺って感じたのは、エグゼキューションへのこだわり。人と人をつなげるための細やかな工夫がいたるところになされていたのが印象的です。日頃、コミュニケーション・プランナーとして戦略からアウトプットまで携わる立場にある自分にとって、さまざまなレイヤーで学ぶべきポイントがありました。

吉羽優子氏