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世界が注目する、日本のメディアアート最前線

アルスエレクトロニカ2018レポートNo.2

2018/12/26

世界が注目する、日本のメディアアート最前線

アルスエレクトロニカフェスティバルにおける日本の作品

前回に引き続き、芸術・先端技術・文化の世界的な祭典であるアルスエレクトロニカフェスティバルのレポートをしていきます。

前回はフェスティバルの今年のテーマ「エラー~不完全のアート」に関する作品を取り上げました。また、テーマ展示とは別の見所として注目されていたのがアートコンペティションであるPrix Ars Electronicaの受賞作品展示です。このコンペは30年以上の歴史があり、コンピュータ界のオスカー賞とも呼ばれ広く知られています。

展示を見てみると日本からの受賞作が多くありました。特にPrix Ars Electronicaの部門の一つであるInteractive Art+では、15作品中5点が日本の作家によるものでした。

また、受賞展示に限らず、前回説明したテーマ展示を含めたフェスティバル全体で多くの日本の作品が見受けられました。では、フェスティバルではどのような日本の作品が評価され、展示されていたのでしょうか。受賞作展示とテーマ展示から作品を以下に紹介していきます。

生命が共通のテーマとして見えてくる日本の作品たち

●生命らしさを運動の複雑さで伝えるロボット

Alter
Takashi Ikegami, Hiroshi Ishiguro, Kohei Ogawa, Itsuki Doi, Supported by Osaka University and Tokyo University
受賞:Interactive Art+部門 : Award of Distinction

あり得たかもしれない生命の形をつくり上げていくことで生命とは何かを探求する、「人工生命」という分野があります。ソフトウエアや化学反応、ロボットに至るまで幅広い範囲を研究対象にしています。“Alter”は、その人工生命のロボットの作品です。

アンドロイドを研究する大阪大学の石黒浩教授や、人工生命を研究する東京大学の池上高志教授らのチームにより開発されました。機械がむき出しになっている見た目に反して、滑らかで複雑な動きが生命らしさを突き付けてきます。

その動きは、人の脳の神経回路を模したモデルであるニューラルネットワークや、歩行などの周期的な運動を生成する仕組みをモデルとしたCPG(Centoral Pattern Generator)によって生成されています。

また、Alterは周囲の環境を読み取ることで、動きを刻々と変化させ予測不能な振る舞いを見せます。それは見る者にとって、Alter独自の個性のように感じられます。「メカニズムも存在目的も生物とは異なる機械が、ときに生物よりも生命性を感じさせるのはなぜか?」という問題を提起している作品です。

●使われなくなってきた電化製品たちの蘇生のおたけび

エレクトロニコス・ファンタスティコス!
https://www.facebook.com/electronicosfantasticos/
Ei Wada(https://eiwada.com/), Nicos Orchest-Lab
受賞:Interactive Art+部門 : Honorary Mentions

“エレクトロニコス・ファンタスティコス!”は、古い家電を楽器に変えて演奏する作品です。ブラウン管テレビは太鼓に、扇風機はギターに、エアコンは琴へと変わり、音を奏でます。その音は、使われなくなってしまった家電が蘇生のおたけびを上げているようだと説明されていました。長い年月を経た道具に取りつくといわれている付喪神(つくもがみ)のような世界観が感じられました。

今回のフェスティバルでは、これらの家電楽器を用いてライブが開かれました。その中でも印象的だったのが、音楽に合わせて演奏者と鑑賞者が手をつなぎ合わせることで初めて音が鳴るという仕組みです。ここでは、会場に居合わせた鑑賞者数百人全員で手をつなぎ、一体となって音を奏でました。私も隣の外国の方とともに手をつなぎ合わせ、鑑賞者から演奏者へと変わる瞬間を体験しました。

今年のフェスティバルで一番盛り上がったと、高く評価されたライブでした。

●一筋の光から生まれる生命感

Rediscovery of anima
Akinori Goto
受賞:Computer Animation部門:Honorary Mentions

画像をクリックして、動画で作品をご覧ください。

一筋の光をオブジェに当てると形が現れ、そのオブジェを動かすと形状として組み込まれた「動き」が出現する作品です。作者である後藤映則さんはこれまでも、オブジェに時間軸を入れるという同様の手法の作品を発表してきました。

それらには3Dプリンターとプロジェクターといった現代のテクノロジーが使われていました。しかし、今回は石や枝、糸、太陽光という原始的な素材と手法を用いて、数世紀前にも同様の表現が可能であったことを示しています。もし過去にこの表現手法が発見されていたら、社会とどのような接点をもちえたかを問い掛けます。

例えば、紀元前であれば呪術や儀式として使われ、19世紀であればエンターテインメントとして発展していたかもしれません。そして、時代を遡ることで存在したかもしれない“Anima”(アニメーションの語源。「生命」や「魂」を意味する)の形を再発掘しようとしています。

アルスエレクトロニカでは、未来視点で議論されることが多いのですが、この作品は過去からアプローチしています。オブジェの形の中だけでなく、コンセプトにまで時間軸を組み込んだ作品でした。

●おぼろげに浮かぶ光の玉

ObOrO
Ryo Kishi
展示:Theme Exhibitions ERROR - Error, Fake & Failure -

“ObOrO”は,浮遊する照明装置の作品です。下から光で照らされた軽い球が、送風機によって空中に浮き続け、不安定で偶発的な揺らぎを生み出します。作者によると、ふと手をかざしたくなるような、ロウソクの火のおぼろげな揺れをイメージしたそうです。

実際、何も伝えなくとも多くの人が不安定に揺れ動く球に手をかざしていました。また、その不規則な揺らぎは生物のようにも思えてきます。浮かぶ球の周りには常に多くの子どもたちが群がって遊び続けていました。

この作品は、まさに今年のテーマ「エラー」における不安定さやもろさの長所を表しています。普段、私たちの身の回りには不安定なものは意図的には置かれません。だからこそ私たちは不安定なものに、ついつい目がいき魅了されます。会場の入り口に展示されていたのも、そのエラーの魅力を示すシンボルとして機能させるためだったのかもしれません。

●シャボン玉を膨らませ明かりを灯す

Anima
Risako Kawashima, Yasuaki Kakehi
展示:Theme Exhibitions ERROR - Error in Progress -

“Anima”はシャボン玉を膨らませ、光を灯す作品です。

このタイトルには、先ほど“Rediscovery of anima”で記したように“生命”や“魂”といった意味があります。それに加えて、“息”という意味もあります。

体験者は吊り下げられた電球のソケット部分に向かって、シャボン玉を膨らませます。すると、電気を通すシャボン液が電子回路の一部として働き、光が灯ります。しかし、数秒経つとシャボン玉は割れてしまい、光も消えてしまいます。

先ほど紹介した“ObOrO”と同様に、生命性や不安定さを持った照明だと感じました。明かりを灯す時には、命を吹き込むイメージとも重なる、少し手間のかかることを行います。そして、シャボン玉の不安定さから光に終わりがあるのが分かります。手軽に灯すことができ、いつまでも使える光の便利さとは真逆ですが、だからこそ愛着とはかなさが感じられる作品でした。

日本作品と海外作品の違い~無意識と意識

さて、日本からの作品として5点をピックアップしました。この他にもロボットやAIなどを用いた作品が展示されていましたが、特徴として見えてきたのは“生命”というテーマだと思います。

海外の作家は難民問題や、環境問題、監視社会のような社会性を含めた作品を展示していました。そちらは、意識的に物事を捉えさせ、考えさせる作品だと思います。それに対して日本の作品は、無意識へと語りかけてくるものが多い印象でした。想像を越えて日本と海外の特徴の差が見えたフェスティバルでした。

さて、2回にわたってアルスエレクトロニカフェスティバルの作品を紹介しました。アートの分野はビジネスとは遠い存在だと捉えられがちです。しかし、前回の記事で述べたように、ビジネスの分野からアートに新しい何かを求めて多くの人が訪れていました。

同様にアートの分野からもビジネスに歩み寄っています。例えば、アルスエレクトロニカではSTARTS PRIZEという産業や社会とのつながりを強く意識したコンペを数年前から開催しています。そこではアートとテクノロジーと社会、ビジネスがそれぞれ良い化学反応を起こすことが期待されています。

アルスエレクトロニカフェスティバルでは、未来へのヒントがたくさん眠っています。今まで予想もしていなかったテクノロジーの使い方、誰も気づいていなかった問題の発見、そこから呼び起こされた多くの議論などで、これから向かうべき形を見せてくれます。未来の方向を確認するために、ぜひ、あなたもアートの分野に歩み寄ってみてはいかがでしょうか。