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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.148

あと何本の仕事をできるのだろう?

2019/01/10

今年のお正月も、わが家にはふたつのお雑煮が並びました。すまし汁に角餅の東京式と、白みそにあん餅の高松式。いつまでも譲り合うことのない、2杯。すべてがいつも通りの平和な日々でした。

雑煮

そういえば、あれは2003年の元旦だったでしょうか。わが家の留守電にメッセージが入りました。電話をくださったのは前年、ノーベル物理学賞を受けられた小柴昌俊さん。母がそのお祝いを伝えるために送った40年ぶりの年賀状をご覧になって、連絡をくださったのでした。

今年85歳になる母は、戦後、ピアノを学ぶためにニューヨーク州にあるロチェスター大学イーストマン・ミュージックスクールに留学しました。当然のことながら経済的に厳しい貧乏学生でしたが、時はまさに1950年代の「古き良きアメリカ」。たくさんの楽しい思い出に恵まれました。

おせち1
おせち2

ちょうど同じ頃、ロチェスター大学の博士課程に留学なさっていたのが小柴さん。まだ少なかった日本人留学生同士、時々みんなで集まって遊んでいただいていたそうです。

ノーベル賞のニュースを聞いた母が「小柴さんは古いお知り合いでね、とてもユーモアがある方なの…」なんて言っていたのをホラ話しと聞き流していたのですが、本当だったんですね。その後ぼくも一度だけ、母の付き添いで小柴さんにお目にかかれましたが、つくづく人と人のつながりは面白いものです。

おせち3
おせち4

さて、新年に改めて決意表明するまでもなく、ぼく自身の目標は「広告づくりの方法論で、イノベーションを起こすこと」。広告業界のアイデアを管理する手法やクリエーティビティーそのものが、他分野でも大きな価値を持つと証明することです。

そしてそのためには、企業の現場に入り込み、その組織が持つ思考プロセスを知り、対話と実践を重ねながら、数年の時間を掛けて「アイデアづくりの方法論」を根付かせていきます。ぼく自身に粘り強さが求められるのは当然ですが、それ以上に経営者の方が「この方法論を信じよう」と覚悟してくださることが大切です。実際、成果が出るまでの時間は決して短くありません。方法論を変えることは、組織にさまざまな軋轢も生みます。

そんなストレスを乗り越えてくださる方々との「出会い」なくしては、プロジェクト自体が誕生しません。それはつまり、ぼくの目標に近づけないことを意味します。いま進行しているプロジェクトも、ちょっとしたご縁が広がったものばかりです。

ぼくも今年で50歳。こうして何年か掛けて取り組む大型プロジェクトに、残りの人生で何本取り組めるでしょうか。そう考えると、お仕事やご縁の一つ一つを大切にし、少しでも多くのチャンスを手にしたいと、改めて思うのでした。

サーチライト

さてさて、余談ですが。

イノベーションとは「新しい視点」を見つけることなので、そのためには先入観にとらわれない柔軟な精神、ユーモアが不可欠です。「ニュートリノ天文学」という学問の道を切り開いた小柴さんにも、とても楽しいエピソードがあります。

ある中学の臨時講師をなさった小柴先生。生徒に「この世に摩擦がなければどうなるか?」という出題をしました。答えは「摩擦がなければ、鉛筆の先が滑って答案が書けません」だから「白紙答案が正解」。

なんと自由な発想でしょう!
 

どうぞ、召し上がれ!