【続】ろーかる・ぐるぐるNo.150
「クリエーターが座るべきは、社長の横ではない」説
2019/02/07
皆さんはプレゼンや商談のとき、どこに座りますか?
当然ビジネスマナーとしての上座・下座はありますが、それを踏まえたうえで、昔々、とある先輩から「できるだけ窓を背負え!」「可能な限りキーマンから見て『正面』と『左前の席』は避けろ!」とアドバイスされました。
前者は「後ろから光が差すと『後光』の効果で説得力が増すから」という説。後者は「正面は敵対するからダメ。そして多くの人が右利きで、効き目も右。そうすると自分の左前に対しては無意識に勢いよく指さしたり、しっかりにらんだり、攻撃的な態度を取りやすいんだよ」という、なんともアヤシイ理由でした。
でも何となく気になって、いまでもついついお相手の右前席に陣取ってしまいます。
ちなみに本日のテーマは、そこまで物理的な位置ではないお話。
ADC年鑑2010に佐々木宏さんが「社長の横に、アートディレクターを。」というコピーを寄せてからでしょうか。クリエーターは社長の隣にいて、そのセンスや判断力を活用すべし!という論調が、特に広告業界にはあるように思います。
ぼく自身、広告会社に特有なアイデアづくりの方法論を他分野に転用するためのチャレンジをしているので、とても共感するところもあります。しかし同時に、自分が取り組んでいるプロジェクトの実際を振り返ると、果たして「社長の横」が本当に座るべき位置なのか、疑問も湧いてくるのです。
それは「イノベーションは『どこ』で起こるのか?」という問題と関係します。
経営学における「知識創造」の立場から見ると、イノベーションは組織のトップでもなく、ボトムでもなく、「ミドル」で起こります。ミドルマネージャーが主役となって対話と実践を繰り返し、トップが掲げる理想(ビジョン)と現場(ボトム)が直面する現実の間を行ったり来たりしながら矛盾を解消するプロセスだからです。
「トップダウン」や「ボトムアップ」のような直線ではない「ミドル・アップ・ダウン」によって初めて事業を変革するコンセプトやアイデアは手に入ります。
実際、どこかの企業で新事業開発に携わる場合、意思決定者である経営者とも十分な議論を重ねますが、現場を預かるミドルマネージャーとは、それと比較にならないほど長い時間を一緒に過ごすことになります。
門外漢であるぼくは新鮮な着眼点を持てるかもしれませんが、それをきちんとしたコンセプトにまで昇華し、いままでにない具体策を手に入れるためには、組織の現場が持つあらゆる知識や技術を活用しなければならないからです。
だからこそ、そうやって手に入れた「新規事業計画」を提案するとき、ぼくが座るのはたいてい社長の横でなく、ミドルマネージャーの隣になります。
正直、社長のそばに座って虎の威を借りつつ、さまざまな案件にあれこれ批評するだけで済んだら、さぞかし楽だろうと思うのですが、結局いつも社長はテーブルの向こう側。真正面から対決したくないので(笑)、まぁ、たいてい斜め前になるのでした。
どのように取り組むのが最も効率よく効果を上げられるのか、まだ確信は持てていませんが、当面の間はいまのやり方がベストだと信じて、どこかの経営者の前で大騒ぎしているハズです。
さて、さて。
おかげさまでこの連載も150回を迎えました。隔週木曜、食べ物のよもやま話にお付き合いくださる読者の皆さまに心から感謝申し上げます。
今宵もグビリ、「お祝い」を名目に乾杯です。そういえば連載100回のときも申し上げたのですが、どうぞ特にイノベーションまわりで悩む経営者の方がいらっしゃいましたら、気軽にお声掛けください!食べ物関連でも、もちろん食べ物以外でも。
どうぞ、召し上がれ!