【続】ろーかる・ぐるぐるNo.151
そこにクリティカル・コアはあるか?
2019/02/21
しばらく前、「お酒を飲むと記憶力が向上する」という研究レポートが話題になりました。アルコールが効き始めると情報の学習能力は低下しますが、その分、お酒を飲む直前に学習したことの定着率が高まる、そんな内容でした。
ぼくも含めた世界中の呑兵衛はこの知らせに快哉を叫び、その効果を期待して夜の街に繰り出し続けた訳ですが、現実にはぼくの場合、とにかく物忘れがひどくなっています。
きょう遊びに来るあの人の名前が思い出せない。作るつもりだったメニューが思い出せない。さっき買ってきたはずのキュウリが見当たらず、そのうちメガネもどこかに行って、何も見えず…。
そんな体たらくですから、150回を超えたこのコラムで過去何を書き、何を書いていないか、ちゃんと覚えていないのです。もちろん一覧表で管理はしていますし、優秀な編集担当者が毎回アドバイスもくれるのですが「あれ!これ、書いてないの?」という意外なヌケモレもあります。
たとえば「クリティカル・コア」もそのひとつ。
2010年のベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』で知った、この概念。大学の講義でも毎年言及しているので、このコラムでも話題にしたと思っていたのですが、どうにもその形跡が見つかりません。
「クリティカル・コア」とは「独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素」。平たく言えば「一見すると非常識だけれど、コンセプトから見ると一貫している、中核となる打ち手」という感じでしょうか。
『ストーリーとしての競争戦略』では、スターバックスの「店舗の雰囲気」「出店と立地」「スタッフ」「メニュー」といった数ある構成要素の中から、クリティカル・コアを「直営方式」だと分析しています。すべての要素は「the third place」というコンセプトから一貫していますが、それらの要素をきちんと維持していくためには「直営でなければならない」からだそうです。
イノベーションを起こすための思考プロセスである「ぐるぐる思考」においては、発見!モードで手に入れた「コンセプト」に従って、磨くモードで具体策を考えていきます。
その時、ちゃんと「一見すると非常識だけれど、コンセプトから見ると一貫している打ち手」が手に入るかどうか。そこが勝負の分かれ目となります。もしそこで指し示された方向に従って進んでも、ありきたりな具体策しか生まれないなら、そこにある「コンセプトもどき」を捨てて、もう一度考え直さなければならないからです。
この「クリティカル・コア」をチェックする習慣さえ身につけていれば、以前ご紹介した「新ヌードル経験」「美しき狼」「エキサイティング・ゴージャスネス」などなど、この世に横行する「フェイク・コンセプト」を見破ることもできます。これは「コンセプト」の品質管理をしていく上でも、とても大切な技術です。
…と原稿を書き終わる頃になって、ようやく、なぜいままで「クリティカル・コア」を扱わなかったのか、思い出しました。それは「ぼくのような半可通が気取って専門用語を使うと、きちんと実感のこもったコラムを書けない」と考えていたから。う~む、やってしまいました!
やはりお酒で記憶力が向上することはないようです。
どうぞ、召し上がれ!