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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.152

「もやもや」したら「そもそも」

2019/03/07

久々の大阪。
明治生まれの料理研究家、魚谷常吉によれば
「近来東京に進出し、在来からある東京料理を脅かしている関西料理と称するものを、真の関西料理として取り扱うのはどうかと思う。これが東京にある以上、東京料理であって、強いていうならば、関西風東京料理と解するのが正しいのではないか」(『味覚法楽』魚谷常吉 著、平野雅章 編、中公文庫)
だそうで。

物流も情報環境も格段に発達した現代において、どこまでこの説が通用するかは謎ですが、やっぱり食道楽の本場に来ると、胸の高鳴りが止まりません。小さな割烹で出合った出汁巻きひとつ、しみじみ旨いのです。

土地に伝わる習慣という漠然としたテーマになりがちだった「東京料理と関西料理の違い」を、魚谷はいったん「江戸料理と大阪料理」に絞ったうえで、「材料」「風俗習慣」「料理人」という三つの視点から分析しました。彼の書いたエッセイはどれも、味覚という経験的なものを、クリアに解き明かしてくれます。

玉子焼き

さてさて。

ぼくのように恥ずかしげもなく手口を公開している例外を除けば、同じ広告業界で働いている者同士、お互いの「思考のコツ」やその「共有の仕方」を知る機会は限られます。

ところが先日、株式会社フロンテッジで執行役員をしている林裕史さんが学生さん向けのセミナーで話しているのに立ち会ったとき、良いことを聞きました。

「もやもやしたら、そもそもに立ち戻って考えましょう」

これには思わず膝を打ちました。
ぼくたちの思考はしばしば「もやもや」に襲われます。モノゴトが明瞭ではなく、スッキリしない状態。たいてい「何が分からないかすら、分からない」のです。そんなときは、まさに「そもそも」に立ち戻ることが効果的だからです。

もやもや・そもそもの図

そもそも、いま何が分かれば次に進めるんだろう?
そもそも、ぼくたちのゴールは何だっけ?
そもそも、そのゴールに到達すれば、あとは何の問題もないんだっけ?

こうした問い掛けは、近視眼的な状況認識から抜け出してモノゴトを俯瞰し、大きなプロセスの中で位置づけを整理するきっかけを与えてくれます。

そもそも、豆腐ってなんだろう?
そもそも、認知を獲得すればいいってホントかな?
そもそも、なんで広告?
そもそも、価格を上げたら利益は増えるんだっけ?

一方、言葉の「定義」や「目的」「手段」、そこにある「論理」を鵜呑みにしない、こういった問い掛けはアイデアづくりに欠かせない「批判的思考」そのものです。しかもこれであれば、「批判的思考」というコトバが与えがちな「モノゴトに対して攻撃的に、非難する姿勢で臨む」といった誤解を避けることもできます。

「もやもや、そもそも」を使えば、全体観を持って閉塞を抜け出し、さらにそこで行われる議論を、より本質的なものに高める効果が得られます。

林さん
ちょっと陽気な林さん

林さんはもともとコピーライターですが、単なる広告キャンペーン制作の枠組みを超えて、企業経営に活動領域を広げています。この「もやもや、そもそも」アプローチは社内の若手社員研修用に開発したものなんだとか。クリエーティブの演習や実務はもちろん、先輩、上司、世の中を一度は疑って仕事をしたり、キャリアを考えて欲しいというメッセージだそうです。

いま、これを林さんが日々の業務でどのように活用しているのか。酒でも飲みながら、もう少し詳しく聞きたいなぁ。

どうぞ、召し上がれ!