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平成の30年 情報メディアの変貌と革新No.1

若者のメディア行動変化が“就寝時刻の前倒し”のせいって本当?

2019/03/04

電通メディアイノベーションラボは、2月に『情報メディア白書2019』(ダイヤモンド社刊)を刊行しました。

情報メディア白書2019の書影

今回の巻頭特集では「平成の30年 情報メディアの変遷と革新」と題して、メディアの利用者動向とビジネス動向の両面から、現在へと至るメディアの歩みを振り返っています。

今回からスタートする連載では、そのエッセンスを紹介するだけでなく、30年を振り返る中で私たちのメディア社会はいったい何を手に入れたのか、平成「後」に向けてどんな課題を抱えているのか、新たな視点を交えて解説していきます。

連載の第1回となる今回は、電通メディアイノベーションラボの美和晃が、『情報メディア白書2019』巻頭特集1のPart 1「メディア接触行動の変貌と“豊かなメディア社会”への展望」の中から、平成の30年間のうち最後の10年間のメディアを取り巻く状況を取り上げます。

特に、その中でも最も注目されることの多い若年層のメディア接触の変化という話題に焦点を当てます。長期の調査データを改めて振り返ることで初めて得られた意外な発見について、お伝えします。

スマホ普及により駆動された若者のメディア環境変化

2011年の東日本大震災から8年が経過しました。遡上する津波、原発建屋の水素爆発など未曾有の映像が次々に目の前に飛び込んでくる経験は、被災地からはるか離れて暮らしている人々をもテレビに釘づけにさせました。

それと同時に、次々と発生する各地の被害状況の共有や、知り合いの安否、交通規制、計画停電中の時間のやりくりの連絡などのため、スマートフォンを通じたSNSでのコミュニケーション利用が飛躍的に広まっていったのもこの頃でした。

また、2011年には地上テレビ放送において全国的にアナログ放送が停波し、一部地区を除き、完全地デジ化が実現します。一方、この頃から並行して若者の間でのテレビ離れが徐々に指摘されるようになってきました。若年層のテレビ離れの原因は、スマホを軸とするネット利用環境の普及自然な流れと受け止められました。「スマホ・ファースト世代」といったフレーズも聞かれるようになり、現在に至っています。

若年層の間で進んだ「就寝時刻の前倒し」

電通メディアイノベーションラボでは、近年、メディア接触行動を生活リズムそのものの中に位置づけて多様性や変化を考える取り組みを進めてきました(7グループ、30タイプで読み解く現代のメディアライフスタイル)。

この作業の中で、若者に特有のテレビ視聴行動変化の背後にあるライフスタイルの変化を探ってみたところ、意外な事実にたどり着きました。それが、「就寝時刻の前倒し」と呼べる現象です。

図表1をご覧ください。ビデオリサーチの生活行動に関する調査データMCR/exを用いて、若年M1層とF1層(それぞれ男・女20~34歳)の就寝行動の変化を、2009年から2018年まで3年刻みで抽出したものです。

横軸に15分刻みの時刻を示し、縦軸には各時刻に就寝していたことを記している(日記式回答欄で「すいみん」という項目を選択した)人の割合を折れ線グラフで示しています(各年のデータとも、月曜日から日曜日まで7日間の平均です)。

M1層の就寝比率
F1層の就寝比率

夜が更けていくにつれて就寝する人の割合が増えていくので、各年とも折れ線が右上に向けて上がっていきます。

23時の最初の15分のところを見ると、M1層では、2009年に18.6%だった就寝率が2018年には33.9%へと上昇しています。また、F1層では、2009年に30.0%だった就寝率が2018年には45.3%へと上昇しています。M1層・F1層ともに、23時を迎えた時点で就寝している人の割合が9年の間に15.3ポイントも上昇してきたのです。

若年層の睡眠時間が33分長くなっている

若年層で就寝時刻が前倒しされてきたことで睡眠時間の長さも伸びてきました。図表2は各年代の2003年から2018年まで15年分の睡眠時間の長さの推移を表したグラフです。2009年以前と以後とを比べると、M1層・F1層の睡眠時間の長さが徐々に伸びてきたことが分かります。2018年は2009年と比べて、M1層では43分、F1層では33分も睡眠時間が長くなっています。

1日当たりの睡眠時間の推移

こうして、2000年代を通じてほとんど変化のなかった就寝時刻が2010年代に入る頃から前倒しされ、睡眠時間も若年層に限って長くなってきたのは、どういう原因によるものでしょうか。

就寝時刻の前倒しとメディア接触行動の変化との関係は?

若者が夜間に早く眠ってしまうようになったら、テレビ離れもやむを得ないと考えたくなりますが、果たしてどうでしょうか。

『情報メディア白書2019』では、若年層の就寝時刻の前倒しの背景として考えられる要因をいくつか挙げて読み解きを試みています。冒頭で述べたような地デジ化に伴うテレビ視聴形態の変化やスマホの普及といったメディアに関わる変化とともに、リーマンショック後の若年層の生活環境や価値観などが複雑に影響していると考えています。ぜひともご一読いただきお考えいただきたいと思います。