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情報メディア白書2024~激変するメディア環境と生活者~No.2

「耳の可処分時間」が拡大!デジタルサービスで活性化する音声メディア

2024/04/01

「情報メディア白書2024」(電通メディアイノベーションラボ/電通総研編、ダイヤモンド社刊)が3月1日に発行されました。情報メディア産業の全貌を明らかにするデータブックである本白書の発行は、今年で31年目となります。

巻頭特集の「激変するメディア環境と生活者」では、以下の4つの記事において情報メディア市場や人々の行動のトレンドを解説しています。

  1. コロナ禍前後 揺り戻しと定着 二極化が進むメディア利用行動
  2. 乳幼児・小学生のメディア利用行動
  3. 生成AIがクリエイティブ産業に与える影響
  4. デジタルサービスで活性化する音声メディアの現在と今後の可能性について

本連載では、この巻頭特集の内容を一部紹介します。第2回は、「デジタルサービスで活性化する音声メディアの現在と今後の可能性について」をもとに、ラジオを中心とした音声メディアの潮流と活用可能性についてお伝えします。

<目次>

音声メディアサービスの進化と聴取環境の整備が、広告費の増加に寄与

「耳を暇にしたくない」。あらゆるシーンで使われる音声メディアの利用実態

“聴かせるエンタメ”、「AIホリエモン」。広がるコンテンツの取り組み

「耳の可処分時間」の獲得のための、「感覚器ニュートラル」なプランニング

音声メディアサービスの進化と聴取環境の整備が、広告費の増加に寄与

電通が毎年発表している「日本の広告費」では、2023年はマスコミ四媒体合計広告費が前年比96.6%(2兆3,161億円)となる中で、ラジオ広告費は前年比100.9%(1,139億円)と、マスコミ四媒体の中では雑誌広告とともに増加となりました。2021年に4年ぶりに前年比103.8%(1,106億円)で増加へと転じ、2022年には前年比102.1%(1,129億円)で、マスコミ四媒体の中で唯一3年連続の増加となりました。

ラジオ放送による聴取者に加え、インターネットを通じたradikoの利用者が増加する中で、「ラジオ放送/radiko」の聴取者の裾野が広がり、ラジオ広告費が増加していると考えられます。また2023年「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」の中のラジオデジタル広告費も前年比127.3%(28億円)となっています。コロナ禍を機に、特にステイホーム期間中には動画配信サービスなど多くのコンテンツサービスの利用が拡大したとされますが、音声サービスの利用も拡大し、関連する広告費も増加したと推察されます。

一方コロナ禍以前から、デジタルサービスによる音声メディアの聴取環境は整いつつあったといえます。radikoやSpotify、Voicyなどの配信プラットフォーム、「ながら日経」や「朝日新聞アルキキ」などの既存メディアによる音声コンテンツ、Amazonが提供するaudibleなどのオーディオブック、AmazonやGoogleなどによるスマートスピーカー、ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンの普及、さらにはAI(人工知能)による音声認識や音声合成テクノロジーの進化など、コンテンツ、プラットフォーム、デバイスなどさまざまな側面で音声メディアに関わるサービスの進化とその広がりが進みつつあったともいえるでしょう。

本稿では、ラジオ/radiko、音楽配信、音声コンテンツ(ポッドキャストやオーディオブックなど)などの音声メディアに関して、電通が2023年7月に実施した調査(「音声メディア利用調査」)の結果などをもとに、その利用実態を明らかにし、さらに音声メディア関連各社の取り組みなどをご紹介します。

調査の詳細、調査の中のZ世代などの世代区分、ラジオ/radiko、音楽配信などのサービス区分についてはこちらを参照ください。

「耳を暇にしたくない」。あらゆるシーンで使われる音声メディアの利用実態

「音声メディア利用調査」によると、MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー※)の出現率について、個人全体かつ音声メディア全体では43.6%、サービス別の内訳ではラジオ放送/radikoは30.6%、音楽配信は24.8%、音声コンテンツは7.4%となりました。

サービスごとに見ると、ラジオ放送/radikoでは高年齢層になるほど利用率が高く、反対に音楽配信サービスでは低年齢層になるほど利用率が高くなっており、両者は補完関係にあるといえます(図表1参照)。

※MAU = ソーシャルメディアやアプリなどにおいて、特定の月に利用などを行ったアクティブユーザーの数を指す。

 

情報メディア白書2024#2_図版01

図表2は各メディアの自宅内における利用シーンごとの利用率を示しています。

情報メディア白書2024#2_図版02

音声メディアに関しては、起床時、身支度中、家事・育児中、雑用中といったシーンにおける利用が、動画、SNSと比較して、高い比率となっています。

また「仕事中(在宅勤務)」などは、コロナ禍によって大きくなった利用シーンであり、音声メディアの比率が最も高くなっています。音声メディアが、さまざまな在宅時の生活シーンにスマートフォンなどを通じて溶け込んでいる様子がうかがえ、生活者の日常に寄り添う媒体としてポジションを占めつつあるといえるでしょう。

図表3は自宅外の利用シーン別の各メディアの利用率を表したものです。

情報メディア白書2024#3_図版03

車の運転中はラジオ/radikoが最も高い利用率となっていますが、歩行中や公共交通機関での移動中では、音楽配信サービスの利用が、他のメディアを大きく引き離して最も多い結果となりました。これは、自宅外で過ごす際のすきま時間などにスマートフォンを通じて利用しているものと思われます。

また、同サービスは「散歩やジョギング」、「ジムやスポーツ」における利用も多くなっています。これらはワイヤレスイヤホン・ヘッドホンの普及が後押しをしていると思われ、中でも体を動かすアクティブなシーンでの利用は、単に音楽を楽しむといった目的だけでなく、気分の高揚や集中力アップなどのメンタリティに関連した動機から利用されているとも推察されます。

時間、場所、場面を選ばない、音声メディア利用の環境がさらに整いつつある中で、家事や身支度、勉強中などのながら聴取や、移動中のすきま時間での聴取などは、いわゆるタイパ(タイムパフォーマンス)志向から、時間を有効に活用したい、退屈な時間をつくりたくないなどの意向の表れともいえます。

電通が2022年8月に実施したメディア利用などに関するグループインタビューでは、20代前半の社会人から、「目と耳を暇にしたくない」とのコメントがありました。若者を中心としたメディア接触によって生活の満足度を高めたいとの趣向に、「耳を暇にしない」音声メディアは適合しているといえるでしょう。

“聴かせるエンタメ”、「AIホリエモン」。広がるコンテンツの取り組み

音声コンテンツの聴取機会だけでなく、コンテンツ数や種類も増加しており、特に国内ではポッドキャストの人気が高まっているとされています。

ポッドキャストではニュース、音楽、娯楽・エンタメ、ビジネス・テクノロジー、教育・教養、健康やフィットネス、アート・科学、趣味といったさまざまな番組が提供されています。スポティファイジャパン株式会社Client Partnerの村上正大氏によると、2022年のSpotifyのポッドキャストのユニークリスナー数は、本格的にサービス展開を開始した2019年と比べ42倍、また2023年10月時点でSpotifyにて聴取できるポッドキャストのタイトル数は500万を超えたということです。

他方でradiko社は、2024年2月にはさまざまな音声コンテンツを楽しむことが出来る「ラジコポッドキャスト」を開始しており、さらなるコンテンツの拡大への機運が高まっているのではないでしょうか。

今日では出版不況が叫ばれていますが、audiobook.jpや、Audibleなどのオーディオブックには注目が集まっています。オーディオブックは、「活字が苦手でも利用できる」、「ながら聴取できる」、「プロの声優やナレーターで魅力が増している」、などの点が評価されていることもあり、今後各社でさまざまな新たな取り組みが見込まれています。瞑想やストレス軽減のためのコンテンツや、“聴かせるエンタメ”など、従来の書籍のカテゴリーを超えたジャンルのコンテンツも増加していくことが予想されます。

これらはいわゆるタイパ志向にも沿ったものと考えられ、デジタルサービスを使った音声コンテンツの中で存在感を増していくでしょう。

ラジオ放送局でも新たな取り組みが進みつつあります。2023年7月、ラジオ/radikoの広告セールスに関して、ビデオリサーチの保有データやradikoのデータを活用した、ラジオ広告のデータドリブンな運用型マス広告化をめざす「TRA(Targeting Radio AD)」の実証実験が首都圏ラジオキー局5社によって開始されました。

これは従来の本数単位のセールスではなく、推計した聴取人数に基づくセールスを検証するための実証実験です。テレビや屋外交通広告などでも、運用型広告を志向したセールスに関する取り組みが相次いで公表されていますが、本取り組みは5社が共同で実証実験を行うという点で、ラジオ媒体の価値向上を目指しており、大いに注目に値します。

2023年9月には、福岡県北九州市のFMラジオ局「CROSS FM」の会長に堀江貴文氏が就任し、インターネットと連動させたビジネスの拡大を進めると表明しました。その施策として、堀江氏の合成音声を使った「AI(人工知能)ホリエモン」によるニュースや交通情報の提供、インフルエンサーらに一部の放送枠を販売する番組制作、会費制のオンラインサロンを通じたリスナーによる番組制作への参画などの構想が明らかにされています。

インターネットとの融合や最新テクノロジーの導入など、同局の取り組みは非常に注目されるところです。

「耳の可処分時間」の獲得のための、「感覚器ニュートラル」なプランニング

冒頭で、コンテンツ、プラットフォーム、デバイスなどのさまざまなテクノロジーの進化が音声メディアの利用拡大につながったと述べましたが、やはりそれをさらに加速させたのはコロナ禍といえるでしょう。

リモートでの就業や学習は、イヤホンを装着する機会を増やし、例えば就業中でもイヤホン装着している相手に、気を使いながら話しかけるといった光景が当たり前になったのではないでしょうか。このような生活者の意識の変化もあって、自分の耳の環境を自由にコントロールできる時間が増えたとも考えられます。

「ながら」聴取や「すきま」時間での聴取は「耳の可処分時間」を拡大させましたが、今やさまざまなプレーヤーがこの可処分時間の争奪戦に参画しつつあります。

従来のラジオ放送は、主に音楽や娯楽を楽しみたい、ニュースを聞きたいといった動機から利用されていたと考えられますが、今日の音声メディアは、それらに加えて、自己研さんしたい、「セルフBGM」を楽しみたい(集中したい、気持ちを高めたいなど)などの、従来のラジオ放送聴取ではあまりなかった動機や目的を取り込みつつあります。

また動画の利用も、実態は音楽や音声だけで楽しんでいるというケースも少なくないでしょう。こうした状況を鑑みると、特に若者に対してコンテンツや広告を届けるにあたっては、単純なメディアの特性だけでなく、どんな目的か、どういった利用シーンでの接点となるのか、目と耳の注意をどれだけ獲得できている状態での接点となるのかなどを十分に洞察した上での、目と耳の「感覚器ニュートラル」なプランニングが、重要であると考えられます。

生活者の動線に寄り添うことができる音声メディアには、さまざまな目的や利用シーンを取り込むことで、さらなる成長が期待できるでしょう。

■「情報メディア白書2024」の詳細はこちらから。

【調査概要】
調査名:「音声メディア利用調査」
調査時期:2023年7月実施
調査方法:インターネット調査
調査数:全国6664サンプル
調査主体:電通ラジオテレビ局/ビデオリサーチ

※世代の定義について
男女15-25歳 = Z世代
男女26-39歳 = ミレニアル世代
男女40-54歳 = 働き盛り世代
男女55-69歳 = アラカン世代

※サービスの定義について
ラジオ/radiko
 ラジオ放送、radiko,その他のラジオ配信サービス(「らじる★らじる」他)が対象
音楽配信
 Spotify、Amazon Music、Apple Music、YouTube Music、LINE MUSIC
 他の音楽配信サービスが対象
音声コンテンツ
 音声配信プラットフォーム(Voicy、Spoon他)
 音声コンテンツ配信(Radio talk、Himalaya他)
 ポッドキャスト(Apple、Spotify、Google他)
 オーディオブックやその他音声コンテンツサービスが対象
テレビ
 地上波、BS放送、CS放送
動画コンテンツサービス
 YouTube、Netflix、TVerなど
SNS
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