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情報メディア白書2024~激変するメディア環境と生活者~No.3

「情報メディア白書」巻頭言に見るメディアの役割と在り方

2024/05/16

「情報メディア白書2024」(電通メディアイノベーションラボ/電通総研編、ダイヤモンド社刊)が3月1日に発行されました。情報メディア産業の全貌を明らかにするデータブックである本白書の発行は、今年で31年目となります。

特集の「激変するメディア環境と生活者」では、以下の4つの記事において情報メディア市場や人々の行動のトレンドを解説しています。

  1. コロナ禍前後 揺り戻しと定着 二極化が進むメディア利用行動
  2. 乳幼児・小学生のメディア利用行動
  3. 生成AIがクリエイティブ産業に与える影響
  4. デジタルサービスで活性化する音声メディアの現在と今後の可能性について

今回は、2024年版で「情報メディア白書」を担当して通算14冊目となる電通メディアイノベーションラボ統括責任者/電通総研名誉フェローの奥律哉が、過去の巻頭言を改めて振り返ってみたいと思います。

<目次>

14年間、メディアの役割・在り方の課題を提起し続けた巻頭言

能登半島地震が示す、放送インフラの維持に向けた新たな視点

今後の放送の課題は、「自宅内映像メディアの接触時間シェア」率に集約される

 

14年間、メディアの役割・在り方の課題を提起し続けた巻頭言

担当した最初の年は2011年版、国内のテレビ放送において、地デジ化の集大成としてのアナログ停波が行われた年にあたります。(アナログ停波は2011年7月24日を予定していましたが、3月に東日本大震災があり東北3県ではアナログ停波を1年延期することになりました)

同年を起点に最新の2024年版までの巻頭言のタイトルを時系列に記載し並べてみると、下図のようになります。

情報メディア白書#3_図版01

こうして並べてみると、一貫してメディアの役割や在り方の課題を提起し続けてきた14年間であったと振り返ることができます。巻頭言は毎年1月の2週目に原稿を入稿します。その意味ではまさにその年の年初に私が感じている時代感を表しています。

最新版2024年の巻頭言は、「2024年 インフラとしてのメディアの在り方が問われている~能登半島地震での情報収集と伝達~」です。

こちらは、元旦に能登半島で発生した地震に関する報道を確認してのタイトルでした。

巻頭言冒頭で「2024年は能登半島地震、羽田空港での航空機事故など、日本のインフラを揺るがす事態から幕を開けました。能登半島地震では、地震と津波による家屋倒壊が発生し、生命線である道路が寸断、鉄道や航空も機能を停止しました。断水・停電に加え、固定電話・携帯電話が繋がらない、地上波放送も小規模中継局への非常用燃料が供給できず送信が止まりテレビを観ることができないなど、生活・情報インフラが機能不全に陥りました。避難生活を余儀なくされる住民や孤立しているエリアも多数存在し、被災状況の確認や復旧が困難を極めています」とその課題感を記載しています。

能登半島は周囲を海で囲まれた半島。そこで起きた地震。生活インフラとして大きな役割を果たしている道路網が寸断されたことで、現地で何が起きているのかリアルな情報を得ることが困難となりました。孤立した集落での被災状況など、災害対応の初動である被災状況の確認に時間を要しました。発災直後の現地の被災状況の更新が極めて少なかったことは、報道が上りと下りの双方向の情報流通が前提となってはじめて機能することを改めて認識する機会となりました。

現地の情報を、現地の住民と自治体が確認する、近隣の自治体や官邸が確認するなどの情報流通が、放送や通信網の寸断によって機能しづらい状況が続きました。

能登半島地震が示す、放送インフラの維持に向けた新たな視点

振り返れば、石川県珠洲市と能登町の一部地域は、地上デジタル放送への完全移行時にそのモデル地区に指定された地域です。同地域では全国での完全移行に1年先駆けて、2010年7月24日正午にアナログ放送が終了しました。私も停波のタイミングに現地を訪れており、その瞬間に立ち会うことができました。同地域では約8800世帯が先行停波の対象となり、NHKと民放4社の地上波アナログ放送を視聴できなくなりました。

同地域が先行実施地域に選ばれた背景には、能登半島の先端に位置し三方を日本海に囲まれ、ほかの地域との間で電波の混信が起きにくいこと、またケーブルテレビの普及が進んでおりバックアップ体制も整っていたことなどの事情がありました。能登半島という地理的要素が、地上波デジタル放送のモデル地区選定の背景にあり、今年の正月に発生した地震による放送インフラの課題と同様の背景であることがわかります。

地震発生後、NHKでは、2023年末にサービスを終了したBSプレミアムの 103 チャンネルを使用して、金沢放送局の地上波総合チャンネルを放送するなど、被災エリアの詳細情報を被災地と全国に伝える臨時対応が取られました。その後総務省はNHKからの申請を受け、2024年3月29日に「臨時かつ一時の目的のための放送(臨時目的放送)」に係る衛星基幹放送の業務を認定し、4月以降も継続することになりました。

この施策は、現在議論が重ねられている総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下:放制検)」において、平時と非常時の放送インフラの維持という新しい論点を提示する契機となりました。何ごとにおいても、平時において「日常使い」されていないサービスが非常時に有効に機能する状況は期待できません。つまり、平時のサービスも非常時のインフラ維持を念頭に考えていくことが重要です。この視点に改めてフォーカスがあたり、放送インフラの課題について幅広の議論が現在行われています。

今後の放送の課題は、「自宅内映像メディアの接触時間シェア」率に集約される

放制検は、2021年11月に「放送を巡る諸課題に関する検討会」(2015年~以下、「諸課題検」)の後を受けてスタートしました。構成員を務めた私の当初からの課題意識は、「情報メディア白書2024」の巻頭特集で紹介した、自宅内映像メディアの接触時間シェアに集約されています。

図表2は自宅における映像系メディアの利用傾向を把握するため、ビデオリサーチ社のMCR/exデータ(東京50km圏、2023年6月)を放送経由とインターネット経由の1日あたりの映像メディア接触時間(週平均)について集計した結果です。

情報メディア白書#3_図版02
※シェア率(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、「放送経由」「インターネット経由」の数値が、個々の数値を足した合計とイコールにならない場合があります。

放送経由としては、「テレビRT(テレビ番組のリアルタイム視聴)」と「テレビTS(テレビ番組の録画再生視聴)」があります。インターネット経由に含まれるのは「テレビ動画(テレビ画面でのネット動画視聴)」「PC・タブレット動画」「スマホ携帯動画」です。その他、時間量は少ないですがDVD等のパッケージ再生にあたる「再生視聴(録画TV以外)」があります。図表2ではデモグラフィック別に各映像系メディアの接触時間量と時間量シェアを示しています。

注目したいのは、若年層における放送経由とネット経由の映像メディア接触時間シェアです。男女12~19歳では放送経由が43.2%、ネット経由が55.2%です。同様にM1層(男性20~34歳)では放送経由44.5%/ネット経由54.8%と、映像メディア接触時間シェアにおいて放送経由は半分に届かず、ネット経由が放送経由を上回ります。F1層(女性20~34歳)では放送経由55.4%/ネット経由42.6%と放送経由がネット経由を上回るものの、両者の差は著しく大きいものではありません。

一方、年配層に目を転じると、M3層(男性50~69歳)は放送経由85.7%/ネット経由13.4%、F3層(女性50~69歳)は放送経由87.1%/ネット経由12.0%と、放送経由が占めるシェアが9割弱になり非常に大きいことがわかります。世代間でこれだけの差が生まれている現状は、放制検における議論の前提として極めて重要です。

コロナ禍の足掛け4年を通じて、オーディエンスのメディア利用行動はダイナミックに変化しました。その変化幅はコロナ禍以前のトレンドより大きく、視聴者の生活スタイルの変化に起因しています。

「情報メディア白書2024」特集PART1「コロナ過前後 揺り戻しと定着 二極化が進むメディア利用行動」では、その詳細と総務省会議体での議論についてまとめています。ぜひご参照ください。

■「情報メディア白書2024」の詳細はこちらから。

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