情報メディア白書2024~激変するメディア環境と生活者~No.1
「真のスマホネイティブ世代」のメディア利用「原体験」とは
2024/03/18
「情報メディア白書2024」(電通メディアイノベーションラボ/電通総研編、ダイヤモンド社刊)が3月1日に発行されました。情報メディア産業の全貌を明らかにするデータブックである本白書の発行は、今年で31年目となります。
巻頭特集の「激変するメディア環境と生活者」では、以下の4つの記事において情報メディア市場や人々の行動のトレンドを解説しています。
- コロナ禍前後 揺り戻しと定着 二極化が進むメディア利用行動
- 乳幼児・小学生のメディア利用行動
- 生成AIがクリエイティブ産業に与える影響
- デジタルサービスで活性化する音声メディアの現在と今後の可能性について
本連載では、この巻頭特集の内容を一部紹介します。今回は「乳幼児・小学生のメディア利用行動」をもとに、子どものメディア利用における最新トレンドを取り上げます。
<目次>
▼0~12歳児のメディア利用調査を5年ぶりに実施。「真のスマホネイティブ世代」はどう変化した?
▼子どもにとって最も身近なデジタル機器は「テレビ」
▼子どもの成長とともに変わるスマホ利用ニーズ
▼「テレビ番組(リアルタイム視聴)」と「YouTube/YouTube Kids」が二強に!子どもたちの映像メディア利用傾向
▼世代を特徴づけうる幼少期のメディア体験
0~12歳児のメディア利用調査を5年ぶりに実施。「真のスマホネイティブ世代」はどう変化した?
この20年を振り返ると、デジタル技術やインターネットの進化を背景にさまざまなメディアサービスが登場し、情報端末の多様化が進むなど、メディア環境は激変しました。中でも2008年の日本でのiPhone発売以降、Android端末と併せてスマートフォン(以降、スマホ)はパーソナルな情報端末として幅広い年齢層で普及しました。このような変化の中、生活者の間では情報取得の方法だけではなく、エンターテインメントやコミュニケーションの楽しみ方が大きく変わっていきました。
今の子どもたちは生まれた時にはスマホが存在していた「真のスマホネイティブ世代」にあたり、最先端のメディア環境に身を置いています。子どもたちはどのようにメディアに接しているのでしょうか。
電通メディアイノベーションラボは、2023年秋、東京大学名誉教授/東京女子大学教授の橋元良明氏とともに、0~12歳児(小学生)の母親を対象とする定量調査とグループインタビュー調査を行いました。2018年に橋元教授と同様の調査を実施しましたが、その後コロナ禍に伴う生活の変化やネット動画サービスのさらなる普及などがありました。ここでは子どもたちのデジタル機器と映像メディアとの関わり方を中心に見ていきます。
子どもにとって最も身近なデジタル機器は「テレビ」
図表1は年齢ごとのテレビ、スマホ、タブレット、パソコン、家庭用ゲーム機の利用率(家族と共有する端末もしくは子ども専用端末の利用)を示しています。ここでは自ら操作することなく画面を見る状態も「利用」と捉えています。
子どもたちが最もよく利用しているのはテレビでした。調査対象世帯の高いテレビ所有率(95.8%)を背景に、3歳以上では8割から9割の子どもがテレビを利用しています。
同調査においてテレビで何を視聴するかを尋ねたところ、やはり「テレビ番組」が最もよく視聴されていました。ただし、その視聴方法はリアルタイム視聴、録画再生、見逃し配信などさまざまです。また、テレビ番組に次いで「YouTube/YouTube Kids」が多く挙がりました。
グループインタビューでは、「テレビ画面であれば子どもがどのようなユーチューバーの動画を見ているのかを確認できて安心」という、コネクテッドTV(ネットに接続したテレビ。以降、CTV)でのネット動画視聴体験について、肯定的な意見を聞くことができました。
小学生に限ると、テレビに次いで身近なのは家庭用ゲーム機(据置型、携帯型かは問わない)で、7歳以上の利用率は50%を超えます。スマホやタブレットでもゲームはできますが、専用ゲーム機の人気は依然として高いといえます。
全年齢を通してタブレットの利用率はパソコンを上回っています。タブレット利用において特徴的なのは、小学生の自宅以外の端末利用(図表1の表示対象外項目)です。小学1~6年生の子ども専用もしくは家族共有タブレットの利用率は42.1%、自宅以外のタブレットの利用率は20.8%でした。なお、両者の重複は全体の5.3%であまり大きくありません。
自宅以外のタブレットの多くは学校や塾から貸与されたもので、学習や学校からの連絡を確認するために使われることが多いようです。教育現場におけるデジタル化によって、家庭の外でも子どもたちがデジタル機器にふれる機会は広がっている様子です。
子どもの成長とともに変わるスマホ利用ニーズ
今の子どもたちは「真のスマホネイティブ世代」にあたると冒頭で紹介しました。そこでスマホの利用状況を詳しく見ていきましょう。スマホの利用率は、0歳の22.5%を起点に伸長し、6~8歳での落ち込みを経て、12歳では58.5%に達します。この利用率の「谷」が生じる背景には利用ニーズの変化が挙げられます。
図表2は端末所有者別の子どものスマホ利用率を表しています。
乳幼児の頃は寝かしつけなどのために母親が自分のスマホを見せるケースが多いため、家族と共有するスマホがよく利用されます。しかし年齢が上がるに伴い、スマホの使い過ぎや子どもが自発的にふれることによる破損や誤操作への親の懸念などから、その機会が減少すると考えられます。
一方、行動範囲や交友関係が広がる小学生になると、子どもと連絡を取る必要性や、子ども自身の要望に応えるため、子ども専用のスマホを持たせる親が増えます。こうした状況を反映して10歳では家族共有スマホと子ども専用スマホの利用率は逆転します。自分専用のスマホを手にした小学5、6年生の女子児童に日常を聞くと、スマホは友人や家族とのコミュニケーションの他、動画視聴、情報収集など幅広い用途で活用されていることがわかりました。
今やスマホは親世代にとって当たり前の存在で、スマホを子育てに利用するのは自然な流れといえるでしょう。その意味において子どもたちにとっても身近な存在ではありますが、やはり自分専用のスマホを持ってからその利用は本格化するといえます。
「テレビ番組(リアルタイム視聴)」と「YouTube/YouTube Kids」が二強に!子どもたちの映像メディア利用傾向
さまざまなデジタル機器を使いこなす子どもたちはどのような映像メディアに接しているのでしょうか。調査では視聴する場所や機器にかかわらず、テレビ番組やネット動画サービスの1週間あたりの利用日数と、利用者には利用日1日あたりの視聴時間(平日・休日の平均)をたずねました。ここでは特徴的なメディア利用傾向を示す2~3歳と10~12歳の様子を紹介します。
図表3、4では、横軸に週間接触率、縦軸に接触頻度(週間接触者の週あたりの利用日数)をとりました。バブルの大きさは利用日1日あたりの平均視聴時間(分)を表しています。
2~3歳では「テレビ番組(リアルタイム)」と「YouTube/YouTube Kids」が非常に近い位置にあります(図表3)。週間接触率はそれぞれ78.7%、77.5%と肉薄していて、接触頻度は5.0日/週と同一です。
利用日1日あたりの接触時間はそれぞれ50.7分、57.9分と、「YouTube/YouTube Kids」が他の映像メディアサービスを上回ります。他の年齢層と比べても両者がこれほど近似するのは2~3歳だけで、この年齢層の映像メディア利用において「YouTube/YouTube Kids」は非常に大きな位置を占めているといえるでしょう。
10~12歳はさまざまな映像メディアサービスにふれている点に特徴があります(図表4)。
週間接触率において「テレビ番組(リアルタイム)」(90.0%)と「YouTube/YouTube Kids」(85.7%)が高いのは他の年齢層と同様です。さらに、「無料動画[動画投稿・共有]」(YouTube/YouTube Kidsを除く)、「無料動画[動画投稿・共有以外]」の週間接触率もそれぞれ30.7%、30.2%と全年齢層を通して最も高く、利用ハードルが低い無料のサービスによく接していることがわかります。
また、TikTokとInstagramリール動画の週間接触率(それぞれ29.8%、20.3%)、接触頻度(それぞれ3.7日/週、2.4日/週)、利用日1日あたりの接触時間(それぞれ9.7分、3.8分)はいずれも他年齢層より高く、ソーシャルな動画への関心がみられます。
世代を特徴づけうる幼少期のメディア体験
最後に親世代のメディア志向性や情報摂取態度の影響について考えてみましょう。
子どもが、家庭で接する時間が長い親の影響を大きく受けることは当然といえますが、メディア利用の観点で捉えると、現在20代、30代の親は、スマホ、SNS、ネット動画の普及をユーザーとして体験してきた世代です。
消費しきれないほどの膨大な情報にふれる機会が増えたことから、そうした若い世代では効率と時間を重視する価値観(タイパ)が広がったと言われます。親のメディアとの向き合い方はさまざまですが、その態度が家庭におけるメディア利用空間を決定づけることがあります。これはテレビ視聴において顕著で、テレビ番組のリアルタイム視聴の習慣がない家庭では、子どもは番組を録画し、「推し」が登場する部分だけを見るといいます。
グループインタビューではテレビのリアルタイム視聴が希薄な母親もいれば、習慣的にテレビをつけるという母親もいました。また、既に紹介したようにCTVはネット動画を家族で視聴するという新しいお茶の間の光景をもたらしています。この記事では「利用率」や「平均」に代表される数値を紹介してきましたが、家庭によってメディア利用の文脈が異なる可能性がある点には注意を要します。
もっともスマホやCTVが身近にある今の子どもたちが、そうしたものにふれてこなかったかつての子どもたちとは異なるメディア体験をしていることは間違いありません。その原体験が成長した後のメディア利用行動に及ぼす影響は大きく、これからも自身のニーズに合わせてさまざまなデジタル機器やメディアサービスを柔軟に使い分けていくことでしょう。
この世代のメディア利用行動を理解することは、メディアとオーディエンスの今後の関係を考える上でも非常に重要だと考えられます。
■「情報メディア白書2024」の詳細はこちらから。
【調査概要】
調査名:「乳幼児・児童のメディア利用に関する共同研究」の概要
調査主体:電通・橋元良明氏(東京大学名誉教授/東京女子大学教授)
(1)定量調査
・調査対象:0歳~12歳(小学生)の長子を持つ母親2,600名(各年齢200名)
・調査方法:全国インターネット調査
・実査時期:2023年9月
※利用年齢制限があるサービスについては、家族と一緒に、もしくは親の立会いのもとでの利用を含めた回答を得た。
(2)グループインタビュー調査
・調査対象:2グループ(0~2才児の母親6名、小学5~6年女子の母親5名)
・対象者条件:関東1都3県居住、テレビ所有、子どものメディア利用状況などから選定
・実査時期:2023年10月