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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.84

そのプロジェクト、妄想から始めてみませんか?「直感と論理をつなぐ思考法」

2019/04/26

新入社員だったある日の話です。右も左も、前と後ろさえ正直分からなかった頃。

参加していたプロジェクトの“正解”を“論理的”に探り当てようとしていた私の顔と、凝り固まった頭がひねり出した(正直つまらない)案を交互に見ながら、ある先輩はこう聞いてくれました。

「で、キミはどうしたいの?」

え、そんな私見、仕事の邪魔になりませんか!?と驚いたことを今でも覚えています。だってビジネスの現場において必要なのは、戦略や論理的思考、さらには明快な根拠。そう信じきっていたんですから。

ところが今、そんな時代が変りつつあるようです。一見すると根拠のない直感を、現実にうまく重ね合わせていく人や企業がマーケットに次々とインパクトを与えている。「2035年までに人類を火星に移住可能にする」とブチ上げたアメリカの起業家、イーロン・マスク氏のように、です。

あえて論理や戦略から始めない。そんなパンチラインとともに、これからの時代の思考術を教えてくれるのが今回ご紹介する『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)です。

『直感と論理をつなぐ思考法』

妄想が仕事に不可欠なのは、あなたの駆動力になるから

妄想が仕事に欠かせない?本当に?筆者である佐宗邦威氏は、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を立ち上げる前から長らく、様々な新規事業に関わってこられたそうです。その中である発見があったといいます。

僕が以前いたソニーでも、うまくいくプロジェクトには、ある種の「直感」からスタートしている「ビジョナリー」な個人の存在がいつもあった。(P.4)

なぜ直感が仕事に効くのでしょうか?理由はシンプルです。

「自分の内面から掘り起こした好きとか関心ごとから生まれた『妄想』を駆動力にしないと、長期的な取り組みはできないから」です。そう、あなたが長期的に取り組む仕事に、実は妄想は不可欠なのです。

社会そのものの変化スピードは上がったのに対し、個別のアクションが具体的な結果を引き起こすまでの期間はむしろ伸びている。それに、思ったとおりの結果が出るかどうかも、どこまでも不確実だ。(P.254)

トライ&エラーのサイクルを短くし、反復を長期にわたって繰り返す。その先にようやく成功が待っている…かもしれない。そんな不透明な時期、辛くないですか?乗り越えるには、好きからくる妄想をガソリンにするのがいちばん強い。自分に嘘をついている暇はないようです。「好きこそ物の上手なれ」という諺が思い起こされますね。

脳には「他人モード」と「自分モード」がある

冒頭の話に戻ります。「キミはどうしたいの」と問いかけられたとき、私は見事に答えに詰まりました。自分でも、自分が何をしたいのか、さっぱり思い浮かばなかったのです。発想力は筋トレのように毎日の積み重ねで鍛えられる、と教わりましたがその逆もまた然りで、毎日サボっていると妄想さえできないようになっていくようです。

その理由の一つが、「他人モード」の時間がどんどん増えていること。業務に追われていたり、部下のマネジメント責任があったり、さらには家事・育児・介護を抱えていたり。

「自分がどう感じるか」よりも、「どうすれば他人が満足するか」ばかりを考えている。(P.2)

こうして「他人モード」に脳がハイジャックされると、直感はどんどんと鈍っていきます。まるで妄想にとっての生活習慣病。すると「自分はこうしたい!」という強い思いが育たなくなり、結果的にプロジェクトを長期的に引っ張っていくことができなくなる。あのアマゾンでさえ、黒字転換に10年かかったのですから、この「他人モード」のハイジャック状態は一刻も早く抜け出さないといけません。

妄想を生み続ける体質になる4つの処方箋

「自分モード」になかなかなれない…。そんな人には、4つの典型的な原因があるそうです。

①内発的動機が足りない
②インプットの幅が狭い
③独自性が足りない
④アウトプットが足りない

特に4つ目が最も多くの人がぶつかるそうですが、他3つも心当たりのある方は多いはず。ご安心ください、それぞれに処方箋が出ています。

①妄想する(自分の妄想をかたちにする)
②知覚する(ビジョンの解像度を上げる)
③組替する(自分なりの切り口を与える)
④表現する(自分らしい表現に落とす)

本の第2章以降では、具体的な習慣づくりの方法にまでアドバイスが及んでいます。例えば「妄想クエスチョン」「偏愛コラージュ」「逆さまスケッチ」「違和感ジャーナル」「セルフ無茶ぶり」など、著者が100以上のプロジェクトやワークショップの中で編み出したノウハウが惜しげもなく紹介されていきます。

私が大好きなのは、「あまのじゃくキャンパス」という、組替の力を磨き凡庸な発想から脱却するトレーニングです。何か分解したい対象、例えば「カフェ」を紙の真ん中に書く。その周りに連想される「あたりまえ」を書いていきます。

・さわやかな笑顔の店員
・清潔感のあるカップ
・世界どこにでもある
・木の家具

これらの要素に対し、あまのじゃくになって真逆を考えてみる。それが「あまのじゃくキャンパス」です。チームでやったらさぞ盛り上がることでしょう。心のどこかにある「ちゃんと論理的に考えなきゃ」という壁を綺麗に取っ払ってくれそうという意味でも、面白そうなワークだと思います。

その妄想、空想となるかみんなのビジョンとなるか

妄想は、ただ頭の中にあるだけでは何も変えてくれません。「空想家」ではいけないのです。周囲を巻き込み、プロジェクトを前に進めていく。そのための力に変えていかなければなりません。

夢を語れば、無形資産が集まる。無形資産が集まれば、有形資産が動く(P.265)

と語ったのは、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんです。妄想と現実を接続し、ビジョナリーとなる。これが難しい。何をすればいいのでしょうか。先ほど4つの処方箋をご紹介しました。このサイクルをぐるぐると回し続けていくことこそ、この本が語るビジョン思考の肝です。特に終わりのステップにも思える4つ目の「表現する」こと。

「すべてのビジョン思考は表現からはじまる」とさえ言っていい。(P.215)

なぜでしょうか。それは妄想を表現すれば、他者からフィードバックがもらえる。それを元にもっといい表現を練ることができる。「具体化→フィードバック→具体化」のサイクルをイタレーション(反復)していく。確実に不確実な時代だからこそ、

「いかに早めに失敗するか」が重要なのだ。(P.220)

「いや…妄想も苦手なのに表現だなんて…」「クリエーターだけができることでしょ…」と心配しないでほしい。本の中にはすぐに取り組める表現のやり方も書いてあります。美大を出たような美しいスケッチも、エンジニアが紡ぐコードで動き出すアプリも、あくまでプロトタイピングの選択肢のひとつだし、立派なものである必要は一切ないのです。

ビジョン思考の世界では、原則として「最終成果物」というものはあり得ない。存在するのはつねに「更新」を控えた試作品、いわゆる「永遠のβ版」である。(P.223)

臆することなく失敗してみよう。それがいちばん、妄想を育ててくれるはずです。

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