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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.159

「判断停止」が必要な理由

2019/06/20

うどん

大阪出張の朝は、うどん一択。琥珀色の出汁をすすれば、二日酔いもどこへやら。頭をしゃっきりさせて向かう仕事場で、最近よくご一緒するのがアート・ディレクターの石崎莉子さん。その穏やかな人柄の向こうに、いつでも鋭い観察眼を光らせています。

石崎さん
石崎さん

例えば彼女が学生時代、卒業制作のテーマに選んだのは「はだいろ」。石崎さんが小学校低学年のとき、人種差別で問題になり、世の中から消えていった色の名前です。

そんな時「そりゃ、ダメだよな。そうだ、そうだ」と簡単に納得してしまいがちですが、石崎さんはそこで思考停止しませんでした。「本当の『はだいろ』って、どういうものなのだろう?」という着眼点から、人形、アニメキャラクターからミスユニバースの各国代表まで、いろいろな「肌の色」を分析して、それをもとにクレヨンまでつくったのです。

ミスユニバースはだいろ

いかがでしょう?ここで表現されている「はだいろ」は多様性に富み、と同時に世の中のリアルを一般化することの難しさも示しているように思われます。まさに石崎さんらしい、やさしさを含んだ問題提起です。

さて。

「思考停止」はクリエーティビティーの敵ですが、しかしコンセプトを生み出す「ぐるぐる思考」の最初のステップ、感じるモードは「判断停止」を推奨しています。

その段階ではまず「その手があったか!」の材料となる情報を集めなければなりません。その際、その情報ひとつひとつが「正しいかどうか」判断することなく、「まぁ、そんな話もあるよね。とりあえず、ふむふむ」と受け入れなければならないのです。

ぐるぐる思考
ぐるぐる思考

ビジネスですから、きちんとしたアウトプットをつくるためには「疑いをさしはさむ余地がないファクト」をベースに思考した方が、はるかに効率が良いと考える方も多いことでしょう。

それではなぜ、「判断停止」した方が良いのでしょうか?

その理由は、ぼくたちが手に入れたい「コンセプト」の正体が「常識を覆す新しい視点」だから。常識を覆す視点をつくるためには「正しい情報」だけでは不十分で、いままでの常識からすると、一見「怪しげな情報」もきっと必要とされるからです。

「コーヒースタンド経営は、回転率が大切」「コーヒーは、安価なものが喜ばれる」「飲食店経営で利益を出すためには、フランチャイズがいちばん」という「常識的な」「正しい」情報だけではスターバックスは生まれなかったはず。

ある知り合いが口にしたであろう「突然時間が空いちゃっても、会社も家も遠いし、街中に居場所がなくてさ」という単なる愚痴のような情報も「とりあえず、ふむふむ」と同じレベルで受け入れたからこそ、きょうの成功があるのでしょう。

しかし現実には、「判断停止の必要性」が分かっていないがために、ずいぶん苦労している例をよく目にします。

例えば、新しい「飲食店業態」を開発するとき。どこかのデータから「消費行動別に分類された5つのクラスター」みたいなものを持ってきて、また別のデータから「成長著しい飲食店に共通する7つのポイント」を準備して。それを掛けあわせて5×7=35の可能性について考える「強制発想」で頑張っているひともいます。

それだけの組み合わせについて考えるのですから、「作業をやった」充実感はあるかもしれませんが、往々にしてその成果は期待したほどのものにはなりません。なぜなら、ここで登場する「5つのクラスター」も「7つのポイント」も、いままでの常識を逸脱しない視点だからです。

すぐれたコンセプトを生むためには、高度な統計処理データも、巷の噂話も、等しく受け入れる覚悟が必要になります。

さてさて。

大阪出張の夜は、飲みに行く一択。二日酔いによる思考停止はアイデアづくりの大敵と知りながら、朝食べるうどんの効力を信じて…。

どうぞ、召し上がれ!

書籍
実は拙著、表紙のイラストも石崎さん作なのです