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デジタルソリューションを乗りこなせ! 新規事業開発との向き合い方No.5

新規事業開発者のための、デジタルテクノロジーの「見極め方」

2019/06/18

新規事業の現場や、ベンチャーへの投資判断をする際、また日常の商談の場でも、聞き慣れないデジタルテクノロジーに出合う機会が増えているのではないでしょうか。

もちろんテクノロジーの内容を全く理解せずに仕事をすることはないと思いますが、とはいえ元になる基礎理論やプログラムの中身まで解析できる必要があるのでしょうか。ビジネスパーソンとしてデジタルテクノロジーをどこまで理解するべきかは非常に難しい問題です。

今回はデジタルテクノロジーについての基本的な考え方と見極めるためのフレームワークを紹介します。

<目次>
「デジタルとは何か?」デジタルの基本を理解する
「デジタルテクノロジーの構造マップ」で四つのパートに分けて分析
サービスの有用性やポテンシャルを判断する

 


「デジタルとは何か?」デジタルの基本を理解する

最初にデジタルテクノロジーを理解する上で前提となる「デジタル」の捉え方を考えたいと思います。

やや漠然とした質問になりますが、皆さん「デジタルって何ですか?」と聞かれたら、何と答えますか?深く考えてみたことがない人も多いのではないでしょうか。

私はデジタルの意味を「情報の空間を変えて制約をなくすこと」だと考えています。以下、解説します。

今、私たちがいる「リアル空間」とは違うところ(パソコンの中、デバイス、クラウドのストレージなど)に、情報の行き来する「デジタル空間」があります。

デジタル空間の中には、リアル空間とは違うルールで情報を収納できるようになっています。それらの情報をリアル空間のデバイスの画面や印刷物などに出力し、私たちは見ている、という捉え方をしています。

デジタルの図
デジタルにおける空間のイメージ

例えば、書籍は紙の枚数分の体積が必要ですが、Kindleなどのタブレットには、そのデバイスの容量や格納のルールに沿って、本棚数個分の膨大な情報を入れ、その画面で読むことができます。

このウェブ電通報も全ての記事を紙にしたらとんでもない枚数になります。しかし、インターネットというデジタル空間に記事の情報を入れておけば、情報の場所をURLというルールで特定することで、スマートフォンやパソコンの画面から読むことができます。

それは、リアル空間が持つ情報の制約をはるかに超えていると思います。

Kindle
Kindleをリアル空間・デジタル空間の情報の行き来で捉える場合のイメージ。デジタルサービスにおけるUX(ユーザーエクスペリエンス)は、基本的にこの流れで表現きる

共通しているのは、ある情報がデジタル空間に「入力」されて、その情報が「変換や計算・保存」されたものが、私たちが見られるようにリアル空間に「出力」されているという流れです。

広辞苑第7版では、デジタル【digital】とは「ある量またはデータを、有限桁の数字列(例えば二進数)として表現すること」と書かれています。

ある量やデータは、アナログな我々のいるリアル空間では、急に二進数になりません。誰かがそれをデジタル空間へ入力して二進数に変え、それを演算した結果を、再びアナログに変換し、我々に見える形で出力して表現しているのです。

デジタルテクノロジーを考える上では、この

「入力」→「計算」→「出力」

という一連の流れが全てにあるということが重要なポイントです。どんなに難しいデジタルテクノロジーであっても、その本質は共通であることを覚えておきましょう。

「デジタルテクノロジーの構造マップ」で四つのパートに分けて分析

前述の捉え方を念頭に置き、デジタルテクノロジーを分析するため、下記の図のように整理しました。この図を私は「デジタルテクノロジーの構造マップ」と呼んでいます。

デジタルテクノロジーの構造マップ

デジタルテクノロジーを、以下の4パートに分けています。

① インプット:入力の部分
② スループット:演算や計算をする部分
③ アウトプット:出力する部分
④ メソドロジー:全体に適用される規則や理論、方法論

サービスの中の各要素を分解してから、その各パートについて、競合と比較したり、一般的な情報を検索して集めたり、具体的にどういうことなのか調べたり、課題がないかなどを深掘りして分析していきます。

サービスの有用性やポテンシャルを判断する

では実際に三つほど例を出して分析しながら、「デジタルテクノロジーの構造マップ」活用のポイントを紹介します。

■決済システムサービスの場合〔競合比較〕

決済システム

この決済サービスを四つのパートに分解した上で競合サービスと比較してみたところ、①~③の流れが全て競合とほぼ同じで、特筆した強みがないことが分かりました。

つまり、技術的にはオリジナリティーがないということです。

こういったサービスは導入時の店舗への営業力と、マーケティングやブランド、他のバリューチェーンとのアライアンスやインセンティブ設計で売っていくことで競争力をつくるべき商品だと判断できます。

ポイント!
・持っているシステムや技術自体の詳細が全部分からなくても、分かる内容を書いて競合と比較してみる。
■フィンテックAI資産運用サービスの場合〔簡易情報収集〕

フィンテック

次は、最近流行しているフィンテックでAIが資産運用を自動でしてくれるサービスを見てみます。

このサービスで使っている計算モデルが分からなかったので検索したところ、非常に一般的なもので、年金などと同じ運用の仕組みになっていることが分かりました。資産を増やす理論的な部分では独自性はなさそうです。

逆に言えば王道の理論を採用して運用しているので安定感があるということになります。入金処理とグラフの描画は他のサービスでも今や当たり前。サービスが成果を出している(=預かった資産を増やしていく)部分が、中間のトランザクション管理です。そのため、このサービスの強みは、AIが常に調整を行ってくれるトランザクション管理であることが分かります。

この事業を上記の分析の観点で競争力を上げていくとすれば、強みであるこのAIの部分を更に深く掘ってより価値を上げられるようにする。または、アナログなサービスや他のフィンテックサービスにも一般的に搭載されている、競争力にはなっていない両サイドのインプット/アウトプット部分でサービスをより良くできるかが成長のポイントになるということです。

ポイント!
・強みのポイントを見つけて分析する。
・最初から技術的なことは考えず、分からない単語が出たら初めて調べる。

■紛失防止デバイスの場合〔ポイントを深掘り〕

落とし物デバイス

最後に、カバンなど忘れそうなものにタグをつけておくと、一定距離スマホから離れたときに落とし物を発見してくれるタグとアプリの紛失防止サービスを見てみましょう。

このサービスは、人の良心を前提に、自分の落とし物はもちろん、助け合いの仕組みをもって他人の落とし物も知らせるという、ユーザー同士のネットワーク効果を生かしているのが特徴です。数が増えれば増えるほど経済圏ができ、規模の経済が事業で働くという仕組みが事業成長を考えていく上でも秀逸です。

データをたくさん取得することができるので、この落とし物を知らせる仕組みを応用してスループットとアウトプットを強化して、例えば防犯に役立てたり、データを生かしたマーケティングなど、違うビジネスを立てて横展開するなどのポテンシャルがありそうです。

ポイント!
・ポテンシャルがある部分を見つけたら、それを妄想してアイデアを広げていくことが重要。

以上のようにまず四つのパートに区切ると、そのサービスがざっくりどこにオリジナリティーがあり、どれくらい有用か、どこに成長させられそうなポイントがあるかを判断できます。

最後に、この「構造マップ」フレームワークは、サービスを実際に技術的に解析するものではないので、サービス内容を誤認したりすると、使えないという弱点があります。

あくまでも「一見よく分からないデジタル技術」を整理する最初の一歩として役立ててもらえれば幸いです。

本連載は今回で最終回になります。ビジネス開発×デジタルテクノロジーをテーマに、私の持っているノウハウや考え方の一部を簡略化して紹介させていただきました。読んでくださった皆様、ありがとうございました。

※なお、本記事でご紹介した内容を更に深掘りして、来年書籍化する予定です。記事ではご紹介できなかった部分や、そこから更に精緻に技術を理解する方法と、それを事業戦略のプランニングにどう接着させていくか。さらに、技術を持つエンジニア/研究者へどう質問をして、社内にどう説明していくべきかまで掘り下げていきますので、ご期待ください。