フェイスブック ジャパン×電通「インフルエンサーってそういうことだったのか会議」No.1
【本音版】インフルエンサーと仕事をするときのチェックリスト
2019/06/27
インフルエンサーを活用したマーケティングは、その市場も、活用の幅も広がり続けています。
昨年、電通はインフルエンサーの受容性調査を行い、インフルエンサーのファンが、インフルエンサーからどのような影響を受けているのかを明らかにしました。その結果の一部は、連載「インフルエンサーマーケティング2.0」でレポートしています。
電通はフェイスブック ジャパンとともに、インフルエンサーマーケティングに関する共同調査を行いました。この調査ではインフルエンサー自身に焦点を当てています。インフルエンサー346人へのアンケート調査に加え、各分野で活躍する著名なインフルエンサー7人※へのデプスインタビューを行い、インフルエンサー自身がどのような考えを持ち、企業とどのような関わりを望んでいるのか。そしてこれからどういう取り組みをしていきたいのかを探りました。
その調査から得られた発見を、本連載ではレポートしていきます。第1回となる本コラムでは、企業がインフルエンサーを活用する際の最もオーソドックスな手法である、インフルエンサー自身のSNSアカウントで商品やサービスの紹介をしてもらう、いわゆる「PR投稿」について、インフルエンサーはどう向き合っているのかを西村太一が紹介します。
【目次】
▼これまでに引き受けたPR投稿案件の数は?
▼PR案件を引き受ける基準は?
▼どんな依頼をしてほしい?
▼PR投稿のフォロワー以外への配信
▼オリエン前のチェックリスト
※デプスインタビューにご協力いただいたインフルエンサー7 人
①utoshさん:フードインスタグラマー
フードスタイリスト・料理家。グラフィックデザイナー時代からInstagramで料理写真を投稿。人気のハッシュタグ「#とりあえず野菜食」を発案し多くの投稿を集める。
https://www.instagram.com/utosh/
②ゆうこすさん:美容系インフルエンサー(Instagram、YouTube、Twitterなど)
HKT48元メンバーで、脱退後は自己プロデュースを開始し、「モテクリエイター」という肩書をつくり起業。
https://www.instagram.com/yukos0520/
https://www.youtube.com/channel/UCxS4vbIvtjHQcEW61J2KQIw
③こばしりさん:美容系ユーチューバー
2017年11月にYouTubeを開始し、約1年で登録者数が50万人を突破。美容系の動画をメインに投稿しており、中高生/大学生の層に支持されている。
https://www.youtube.com/channel/UC4GMLPKC8TgfW1BtJ-0vf-Q
④星玲奈さん:ファッション、ライフスタイル系インスタグラマー
2児の母。 出産前は青山にあるヘアサロン「NATURA」でネイリストとして活動。 女性誌や美容誌で読者モデルとして活躍する傍ら 現在は美容関連会社を経営。
https://www.instagram.com/reinahoshi1015/
https://ameblo.jp/reinail/
⑤おかめ微々ちゃん:美容系ツイッタラー
Twitterの美容系匿名アカウントとして活動。専門性の高い美容知識とエッジの利いた発言で圧倒的な人気を誇る。
https://twitter.com/okamenattochan
⑥ソン・リナさん:韓国の美容系インスタグラマー
雑誌モデルや、オリジナルアパレルブランド展開を行っている。
https://www.instagram.com/song_rina/
⑦キム・ウンヘさん:韓国の美容・スポーツ系インスタグラマー
モデルやディレクターとして活躍。
https://www.instagram.com/__bygracekim/
これまでに引き受けたPR投稿案件の数は?
インフルエンサーは、どれくらいの数のPR投稿を引き受けているのでしょうか。これまでに行ったPR投稿の回数を答えてもらいました。フォロワー数別に集計したものが下表になります。
フォロワーを多く抱えているインフルエンサーに対して、多くの依頼があることは想像に難くありません。しかし、フォロワー5,000人以下の、いわゆる「ナノインフルエンサー」と呼ばれるインフルエンサーも、約4割が「50回以上」と答えています。フォロワー数が数千のインフルエンサーも、日常的に企業と関わっていることが見えてきます。
PR案件を引き受ける基準は?
インフルエンサーは、依頼を受けた案件をすべて引き受けるわけではありません。どのような依頼であれば快く引き受けてもらえるのでしょうか。PR投稿を引き受ける基準を答えてもらいました。
上位3項目はすべて商品・サービスに関わる項目となっており、トップは「自分のふだんの投稿になじむ商品・サービスであること」です。次いで、商品・サービスに同意できたり、「いい」と感じるなど、インフルエンサー自身にとっての商品・サービスへのロイヤルティーが重要だといえます。一方で、企業や、商品・サービスの知名度はあまり重要ではなく、多様な商品・サービスでの活用が期待できそうです。
これをフォロワー数別に集計するとどうでしょうか。あまり差の出ない項目もありますが、「自分のふだんの投稿になじむ商品・サービスであること」「自分のフォロワーが欲しいと思うだろう商品・サービスであること」といった、自分との親和性や、ファンを意識した項目は、フォロワー数が多いほど高くなる傾向にあります。
例えば、美容系Twitterインフルエンサーのおかめ微々ちゃんは次のように語ります。
まず、送られてきた商品を使ってみてよくないものは受けません。あとはターゲットの年齢層が自分から遠そうな案件は断るようにしています。最近だとシミ、シワ対策の美容液の案件が来たんですが、ターゲットが私の年齢から離れているし、私のフォロワーもシワを対策するような年齢じゃない人が多いので、断りました。(おかめ微々ちゃん)
ゆうこすさんも次のように語ります。
PR案件を引き受ける基準は、まず私が好きであるものであるのはもちろんなんですけど、ファンにとってその情報がメリットがあるかどうかを判断しています。だから私は、比較的新作がいいんですよね。まだ誰も投稿していないから、ファンのメリットになりやすい。
あとは、私の「モテ」というフィルターにかけやすいかということと、自然な投稿ができるかどうかですね。よくオリエンで「自然な投稿をしてほしいので、さりげなく写してください」と言われるんですけど、それは全然自然じゃないと思っているんです。
その商品が好きだから受けたので、それが好きで好きでたまらないわけじゃないですか。「投稿をお願いします」といわれたら、3回くらい投稿しちゃうのが「自然」です。(ゆうこすさん)
多くのファンを抱えるインフルエンサーほど、ファンの存在に意識的で、ファンのメリットを考えています。相性の良いインフルエンサーを起用することは、企業側のメリットも大きいといえます。
一方で、今回デプスインタビューを行った韓国のインフルエンサー2人は、自分自身になじむことを重要視しつつも、
「あまりにも知られていないブランドは断ります」(ソン・リナさん)
「私のイメージ向上にプラスになる商品を選んでいます」(キム・ウンヘさん)
と、日本のインフルエンサーとはやや異なった発言も見られました。自身をブランディングしていく意識が強いのかもしれません。
どんな依頼をしてほしい?
一言にPR投稿を依頼するといっても、自由に投稿してもらうのか、写真や文章の内容まで決めて投稿してもらうのか、大きな幅があります。どのように依頼をするのが、インフルエンサーにとって望ましいのでしょうか。企業への要望を答えてもらいました。
トップは「伝えるべきポイントを絞ってほしい」、次いで「紹介する商品やサービスのことをもっと教えてほしい」「依頼から投稿までの期間をもっと長くしてほしい」となりました。
また、インフルエンサーは、もっと商品やサービスのことをよく知りたいと思っています。インタビューで、ゆうこすさんはそのメリットをはっきり述べています。
商品を送ってもらって試した後に、顔を合わせて、つくっている人の思いや、誰に届けたいのかお話を聞かせてくれるところは、受けたいなって思います。
今回の案件を受けてほしい理由や思いを書いてくださると、生配信の方がいいとか、私のファン層的にこういう書き方のほうがいいと思いますよ、と提案することができるので、より良い施策になると思うんですよね。(ゆうこすさん)
実際に商品に触れてもらう期間を増やすだけではなく、インフルエンサー向けの説明会を行うなど、商品について深くやりとりできる機会を設けることも効果的です。
せっかくマーケティング費用を投下するのですから、商品のベネフィットも伝えてほしいし、キャンペーンの告知もしてほしい、というようにあれもこれも伝えたくなります。しかし、InstagramやTwitterの単発投稿だけで、多くのことを伝えるのは難しく、宣伝色の高い投稿となってしまいます。その上、それはインフルエンサーからも歓迎されないことのようです。
インタビューでは、相性についての発言も目立ちました。美容系ユーチューバーのこばしりさんと、フードインスタグラマーのutoshさんの発言を紹介します。
いつもの動画の雰囲気を考慮してもらえるとうれしいです。私の場合、緩い雰囲気を全てカットでひたすら商品を紹介して欲しいと言われましたが、動画の雰囲気が少し堅く見えてしまうというか…商品の大事なポイントは伝えたいんですが。(こばしりさん)
たぶんクライアント側が僕のこと信用していないんだろうなっていう、「ここ、こう撮ってください」とか「ああしてください」とか、すごくいろいろ言われたのが、嫌でしたね。
自分のフィードに投稿する以上適当なことはやらないし、そこは心配しなくても…。依頼に見合ったクオリティーは出すよ、っていう最低条件はあると思っているので、そこを信用していない人から依頼されると、なんで依頼してきたの?って感じです。(utoshさん)
utoshさんの「信頼」という言葉が象徴的です。相性をきちんと考慮した依頼が行えていれば、インフルエンサーのキャラクター、得意分野を信頼しているはず。したがって、無理な依頼、おかしな制約は自然と少なくなっていくのではないでしょうか。
PR投稿のフォロワー以外への配信
PR投稿をインフルエンサー自身のSNSアカウントに投稿して終わり、というだけではなく、それを企業のSNSアカウントで紹介したり、オウンドメディアで2次利用したり、SNS広告素材として用いるなどの活用も可能です。
Twitterでは、インフルエンサーの投稿をそのまま広告として配信する「第三者ツイート配信」という仕組みも使われています。さらに2019年6月、Instagramでもそれに近い機能である「ブランドコンテンツ広告」(※)の提供開始が発表されました。広告配信と絡めたインフルエンサー活用は、ますます広がっていくでしょう。
一方で、これまで見てきたように、インフルエンサーは自身のファンへの親和性を意識して、PR投稿を引き受けるかどうか判断したり、投稿内容を検討しています。そんなPR投稿が、フォロワー以外に配信されることへの抵抗はあるのでしょうか。「広告配信」への意識を答えてもらいました。
フォロワー数が多いほど、広告配信に抵抗がありません。全体でも、「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」を足すと、9割近くのインフルエンサーが広告配信されてもよいと答えています。デプスインタビューでも、フォロワー以外の方に自分の投稿を見てもらえる機会として、歓迎する声が多くありました。
ただし、プラットフォームによる違いもあります。おかめ微々ちゃんは次のように述べています。
店頭で使われる場合は、全然いいと思いますし、基本はOKにしています。Twitterの広告配信はあんまり受けたくないですね。その理由は、全然ターゲットが違うところにランダムで流れちゃうからです。私は、美容に興味がない人にコメントを見たり、反応したりしてほしくない。例えば、美容に興味がない男の人が、興味本位で女子会に入りにくるようなイメージは嫌ですね。(おかめ微々ちゃん)
Twitterでは、美容アカウント(美容垢)、趣味アカウント(趣味垢)、裏アカウント(裏垢)など、トピックによって複数のアカウントを使い分けているユーザーも多くいます。そのため、想定以上の拡散に対しては、他のプラットフォームと比較して慎重になっているインフルエンサーが少なからずいるようです。広告配信する場合、ターゲティングの設定は重要ですが、それはインフルエンサー自身にとっても重要となります。
※ Instagramの「ブランドコンテンツ広告」について
2019年6月に、インスタグラマーやパブリッシャーなどのInstagramのクリエイターによるPR投稿(ブランドコンテンツ)を、企業・ブランド側が広告配信することができる「ブランドコンテンツ広告」が発表されました。
これまでは、インスタグラマーのPR投稿を、企業側が直接広告配信することはできませんでした。そのため、PR投稿をフォロワー以外にもリーチさせたい場合は、企業やブランドのアカウント上で、インスタグラマーの投稿した写真を転載して広告配信を行うのが一般的でした。「ブランドコンテンツ広告」により、インスタグラマーのPR投稿を、インスタグラマーのアカウントのままフォロワー以外にリーチさせたり、その効果測定を企業側で行うことが可能になります。
下記のURLより、詳細を確認できます。
https://ja.newsroom.fb.com/news/2019/06/branded_content_ads/
オリエン前のチェックリスト
インフルエンサーへPR投稿を依頼する際に、オリエン内容をまとめることが一般的です。以上の議論を踏まえて、オリエン内容をまとめる前に、一度改めて確認しておきたい項目を、チェックリストにまとめてみました。
この5点を確認しておくことで、オリエン内容がインフルエンサーに寄り添ったものになるのではないでしょうか。
デプスインタビューにおいて、PR投稿ではあるものの、気に入った商品だから熱量を届けたくて何度も投稿してしまった、という発言が複数ありました。それは、インフルエンサーと企業の理想的な関係です。もちろん、そのようにインフルエンサーが商品やサービスを好きになってくれるかは、コントロールできることではありません。しかし、その確率を上げるために、インフルエンサーと商品との望ましい出合いのために、できることはあります。
【インフルエンサーアンケート調査概要】
・調査時期:2018年12月
・調査会社:トレンダーズ株式会社
・調査手法:インターネット定量調査
・サンプル構成:登録インフルエンサー346 人