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フェイスブック ジャパン×電通「インフルエンサーってそういうことだったのか会議」No.2

インフルエンサーマーケティングとファンコミュニティーのこれから

2019/07/25

フェイスブック ジャパン×電通によるインフルエンサーマーケティング共同調査の結果レポート第2弾について天野彬が解説します。

2018年に連載した「インフルエンサーマーケティング2.0」では、協働するインフルエンサーのロイヤルティーとモチベーションを最大化していくことがこれからの鍵になるという提言を行いました。その指針に基づきながら、第1回では具体的なインフルエンサーの発言やアンケート調査の結果などを基に、インフルエンサーと協業するときの望ましい姿勢やより良い成果に結び付けるための留意事項をひもといてきました。

今回は、340人のインフルエンサーを対象としたアンケート調査や著名な4人のインフルエンサーへのインタビュー調査の発言からインフルエンサーマーケティングの「これから」に向けた示唆を抽出していきましょう。その領域の広がり、インフルエンサーとそのファンの間の関係性の深化…それぞれの進化の在り方の兆しが見えてきました。

(左から)utoshiさん、キム・ウンへさん、ゆうこすさん、星玲奈さん
 

ハッシュタグで広がるインフルエンサーの影響力:「食」ジャンルの事例から

まず、現状確認としてインフルエンサーはどんなジャンルで投稿していることが多いのでしょうか。アンケート調査の結果からは、食、美容、ファッション・ヘアスタイル、ライフスタイルといったジャンルが続きます。

今回のアンケート回答者に女性が多いという傾向も関係していますが、男性でもそれらの投稿が増えて、むしろインフルエンサー自身の発信内容として、そのようなジャンルが生活者に求められのでしょう。

食ジャンルでのインフルエンサー utosh さんは、オリジナルのハッシュタグ「#とりあえず野菜食」 を生み出し、それがユーザーの間で広がることで自分自身の投稿への還流を促していったと語ってくれました。

なんか野菜のハッシュタグができないかなってずっと思ってました。半年くらいつくりたいと思っていたんですけど。「野菜食」ってちょっとハードル高い。マクロビとかそっちの世界になっちゃいそうな言葉だし、「菜食」も違うし、「野菜食べよう」というのも違うし…みたいなのをずっと思っていて。とりあえず野菜食っていうのは、ちょうどいい塩梅というか。野菜食っていう堅いところを「とりあえず」が打ち消しているのが面白いなって思いました。頑張っていることを自分がつまづかせている、っていうのが面白い(utoshさん)

この「#とりあえず野菜食」 は大変よく広まり、本記事執筆時ではInstagram上で約15万件の投稿があります。utoshさん自身の書籍タイトルにも使われました。初めはutoshさんのことを知っている人やファンが使っていましたが、今は知らない人も使っているそうです。

インフルエンサーが投稿したものでありながら、今ではutoshさんを知らない人も使うようになっている。ユーザーによって自走しているという意味では、まさにシミュラークル型の表れだと考えられます(参照:「スマホネイティブ世代の動画コミュニケーション~SNS検索の定着とシミュラークルの広がり」)。

インフルエンサーマーケティングの領域の拡がり:PromotionからProductへ

インフルエンサーはどのSNSを活動の場として重視しているのでしょうか?アンケート調査の結果によれば、メインで活動しているSNSは他を引き離してInstagramが挙げられています。2番目ではTwitter、そして3番目になると分散します。また、7割のインフルエンサーが複数の場で活動しています。

なお、日韓比較としては、韓国のインフルエンサーの積極性について言及することができます。韓国のインフルエンサーは、決済機能があるのでブログも重視するというコメントが印象的でした。

キム・ウンヘさんはこう位置付けています。

Instagramは写真1枚で表現するものなので、PR用で。つまり私という人のブランディングのための空間として使っています。ブログは決済機能があるので商品販売するためのルートとして使っています。(キム・ウンヘさん)

コミュニケーションだけでなく購買へ。Instagramでは ショッピング機能も実装されアパレルなどを中心にさまざまな業種で導入が進んでいますし、今後はInstagramのチェックアウト機能( USのみ試験運用中、日本での導入時期は未定)によって決済がInstagram内で完結するようになっていくでしょう。SNSの場がどんどんコマースに近づいていく展開も押さえておくことが重要です。

それとも関連して興味深いのは、インフルエンサーとしての今後の活動目標を聞いていくと、企業との商品開発という具体的なプロデュース志向を挙げる人が多くいました。回答上位トップ3は、「アンバサダープログラムへの興味、企業との商品開発、深いファンとのつながり」となります。

ゆうこすさんはこのように発言しています。

クライアントさんって、割とそういうことを一緒に考えてくれないもの、と思っているんですよね、インフルエンサーに対して。だから、打ち合わせもない方がいいし、時間をかけないようにして、商品についてもまとめて、こちらが全部考えてあとは投稿してもらうだけ、の方がインフルエンサーに対しては親切だと思っていると思うんです。(ゆうこすさん)

志のあるインフルエンサーはクライアントとの共創的なパートナーシップを意識しています。商品の良さや自分が携わることの意義を重視する考え方は、必然的にその先の活動へと広がっいくでしょう。

これは、インフルエンサーマーケティングが真にインフルエンサー「マーケティング」化していることを表していると言い換えられるはずです。プロモーションだけでなく、プロダクトそのもののプロデュースへ。

そうした潮流を考える上で、D2C(direct-to-consumer:消費者直販)/DNVB(digitally native vertical brands:デジタルネイティブを起点に生まれたデジタル直販ブランド)という領域への注目度が高まる現状にも目配せしておく必要があります。Placeの場所性が揮発することから、コトラーらが広く提唱するマーケティングの4P(product、price、place、promotion)からPlaceの場所性が揮発し、インフルエンサーがマーケティング全体をカバーしつつある現状が見えてきます。

いくつからの調査からは、小さなスタートアップはもちろん、大きな企業もこのD2C領域に投資しているものの、まだ他社と差別化できていないなど課題が浮かび上がってきています。

そのような「壁」を乗り越えるための方図の一つこそが、インフルエンサーマーケティングのマーケティング的進化。すなわちPromotionからProduct、そしてD2C/DNVBなどでPriceやPlaceのコントロールへ…という4Pへの拡張に他なりません。

ファンコミュニティーとインフルエンサーの関係をひも解く

誰もが発信する生活者になる中で、情報発信する側と受け取る側という非対称的な二項対立の構図は少しずつ溶解し、発信者(インフルエンサー)と受け手(ファン)との多層的な関係性が現れつつあります。

utoshさんは、インフルエンサーの定義についてこのように言っています。

僕はフォロワーが1000人からインフルエンサーだと思います。いまだにいろんなところで聞かれるんですが、1000人いれば自分が発信している側にいるっていう意識が持てるんですよ。インフルエンサーは発信しているという意識がある人だと僕は思っているので。(utoshさん)

フォロワー数による定義もさることながら、ここでの核心は「発信する側の当事者性」にあると考えます。私たちは、後段にも述べるように、フォロワー数よりも大事なことがあるという仮説を持っています。

そのような情報環境のあり方が浸透する中で、ファンとの距離の近さを意識し重視しているインフルエンサーが増えてきています。星玲奈さんは、ブログからインスタへの移行でファンの顔やライフスタイルがより明確に見えるようになったし、その人たちから影響も受けるようになったと述べています。

ファンとの関わりという話で言うと、インスタってブログの時と比べると自分のページを持っている人の書き込みの方が多い。変なことをしようと思ってやって来るんじゃなくて、純粋にこれが知りたくてこれを教えてほしい、というコメントをしてくれる人が多いですね。あとは早いですね。入ったらすぐ見られて、すぐ返信ができる。だからブログよりもうちょっと密になったと思います。

(ファンの投稿を見に行ったりしますか?という話題の中で)しますね。子どもをすごく載せている方を見て「あ、子育て中なんだ」とか。「あ、ファッションがすごく好きなんだ」とか、「あ、この方、外国の男性なんだ」とかいろいろ分かるので。そうすると、より信頼感は生まれますね。(星玲奈さん)

つながり合うこと、親密的なコミュニティー性がより深まっているということがここには示されているでしょう。ゆうこすさんは「ファンファースト」というキーワードを残していました。自分のシェアしたものがファンにどう届いているのか、意識的なインフルエンサーが増えています。

調査から見えてきたのは、下記のような指標がチェック項目になっているようです。

ゆうこすさんは、ファンが読んでいそうな雑誌からキーワードを拾ってハッシュタグ化することで、届けるための精度を上げているといいます。既存メディアとの関連性も無視できない視点となります。

このマニキュアの投稿は、この時ちょうど雑誌がどれもブラウン推しをしていて。美容誌も、ViViとかでもやっていたんですよ。絶対ブラウンネイルは、みんな気になってるなーと思って。みんなが検索しているであろうことを取り入れました。あと、アシンメトリーで左右違う色とかが流行ってたので、「#アシンメトリーネイル」とか「#左右非対称ネイル」とかは入れるようにしました。(ゆうこすさん)

ゆうこすさんはファン同士のつながりについてこう述べています。

一般のファン同士も緩い横のつながりが生み出せる場が欲しいと思っていると思います。
芸能人のAさんのガチファンに、イベント行くか?って言われたら行かなくないですか。リアルタイムでAさんのファンクラブ入ってまで横のつながりを作る子は相当少ないんじゃないか?と思うんですよ。(ゆうこすさん)

インフルエンサーとファンという関係だけでなく、ファン同士のつながりをどう生み出すのか。ここには、コミュニティーへの意識が深く関係していることでしょう。ファンを緩やかに率いていく存在というインフルエンサーの役割が見えてきます。これは第1回で触れた熱量とも関係する論点です。

このような視点が重要だと思うのは、インフルエンサーとは、ファンの多さやルックス/生活のキラキラ感などではなく、フォロワーの行動に影響を与えることができる人であるという原点に基づいています。意識・無意識を含め、人が行動を決めるときのスイッチは多様であるからこそ、またその影響力は時にアンバサダーのようにファン化による長期的な行動の変化も見込めるからこそ、そのインフルエンス力の指標もフォロワー数やリーチ単価などだけではなく、多様であるべきではないでしょうか。

一方で、もっと濃いファンにつながるにはどうしたらいいか?が重要性を増し続けていることは、さまざまなインフルエンサーが述べるところです。つまり、両者の熱量のバランシングが課題となっており、言い換えれば、マッチングプロセスに改善の余地があるということを意味します。

EVANGELIST FINDERの熱量指標、マッチングとマイクロインフルエンサー

電通ではインフルエンサーマーケティング領域のソリューションとして、EVANGELIST FINDERというツールを開発・運用しています。フォロワー数推移や平均エンゲージメント率、使用ハッシュタグなどはもちろんのこと、フォロワーのデモグラフィックデータ、画像解析AIによる日頃の投稿特徴、投稿特徴ごとのエンゲージメント率などを常時可視化しています。

そのチーム(メンバーは第1回登場の西村太一、第3回登場の平岡真吾など)では、今回の調査知見をもとにインフルエンサー側の「熱量」(※)を指標として開発しました。それをEVANGELIST Scoreと呼んでいます。施策後にインフルエンサーにアンケートを行い、NPSの調査分析に基づいてスコアを算出します。もしEVANGELIST Scoreが低ければ、それを上げるための諸施策(オリエンMTG、キックオフイベント、中長期間モニター…など)をクライアント側に提案して改善することができます。

具体的な考え方は連載第3回に譲りますが、ポイントはインフルエンサー自身のブランドロイヤルティーを聴取し、それがファンに与える影響を見ていくことによって、インフルエンサー、ファン、ブランドの三者を結ぶ施策PDCAに、より高い水準でチャレンジできる点です。

このEVANGELIST FINDERのアップデートは、いま私たちが抱える課題にフォーカスし、「スケール至上主義」の修正を図るものです。それは、一人一人のインフルエンサーのポテンシャルをより正しく、リスペクトを持って把握しようという試みに他なりません。

このような視点に連なるものとして、ダンカン・ワッツ氏(マイクロソフトリサーチ主任研究員、コーネル大学教授)も『偶然の科学』(2012年)の中で重要な指摘をしています。彼の主張を要約すると、情報がいかに広がるのかを考えるとき、多様な要因の中で「影響力ある個人」を大きく見積もってしまう錯覚に陥りがちだということです。これはさまざまな現象にも影響します。例えばある映画がヒットしたとき、私たちは「監督が○○だから」「主演が○○だから」と個人にフォーカスしがちですが、現実にはそのときの競合作品の状況や他のレジャー要因との関連性など、さまざまな要因でその映画のヒットの成否は決定されます。

ワッツ氏は専門とするネットワーク・サイエンスの知見を用いながら、実際には巨大な影響力を持つ一人よりも、ほどほどの影響力を持つ多くの人が発信する情報の方がより拡散することを明らかにしました。

その意味で、マイクロインフルエンサー(様々な定義が存在するものの、おおむねフォロワー数が数千~数万ほどの影響力ある個人を指す)の方が重要であるというのは、ネットワーク理論からも支持されることのようにも思います。確率的な視点を持ち、そしてポートフォリオ的にコミュニケーション施策を組み立てていくこと。それは私たちのコミュニケーションが持つ不確定性に根差した真摯な見方でもあるのです。

※熱量:インフルエンサーが、商品やサービスをファンに推奨し、ブランドにコミットしたいと思う気持ち

【インフルエンサーアンケート調査概要】
調査時期:2018年12月
調査会社:トレンダーズ株式会社
調査手法:インターネット定量調査
サンプル構成:登録インフルエンサー346人
 
【インフルエンサーデプスインタビュー調査概要】
調査時期:2018年12月
調査会社:トレンダーズ株式会社
調査手法:デプスインタビュー(2時間ほど)。韓国のインフルエンサーについては現地で収録されたものをビデオで確認。
サンプル構成:美容、フード、ファッション…などジャンル別著名インフルエンサー7人