【続】ろーかる・ぐるぐるNo.164
「大学のイノベーション」という思考実験
2019/08/29
※授業中の私語・入退出は厳しく禁じます。
※やる気のない登録は他の方への迷惑ですので、厳に慎んでください。
※積極的な参加による「貢献」を評価します。従って、単に出席するだけでは単位取得できません。実際、昨年も「8割近い出席率の学生」が落第しています。
明治学院大学の経営学特講「イノベーションとクリエイティビティ」の、こんなシラバスを見ても怯まず履修してくれた猛者72名が、先日、期末テストを迎えました。
「正解のない問題に挑む方法論」を学んだ総仕上げとして出題したのは、こんな問題でした。
「少子化など厳しい環境を打ち破るには、10年後の<明治学院大学>はどうなっているべきでしょうか?」
学生全員に馴染みがあり、しかも一般的にイノベーティブな変革からは距離がある「大学」について、どんな自由な発想が出てくるか、見てみたかったのです。
しかし学生さんにとっては、これがなかなかの難問でした。講義中、口を酸っぱくして「聞いてきたような正論ではなく、ホンネをベースに考えよう」と伝えたのですが、あまりにもお題が身近過ぎたのでしょう。自分の今感じている「ホンネ」に、疑いなく飛びついてしまった人が大勢いました。
最も多かったのが「将来やりたいことが見つからない学生」に対し「固定的なカリキュラムしか用意していない大学」という現状認識。そこから「必修科目をなくそう」とか、「すべてオンライン講座にしよう」とか、「座学をやめて、すべて企業の実務研修にしよう」とか。
きっと彼らの「ホンネ」ではあるのでしょうが、画期的な明治学院大学の魅力づくりからは遠いものが多く、このパターンは残念ながら点数が低めにつきました。
次に多かったのが「暇と時間を持て余すシニア」をターゲットにしたもの。S村さんの「ふつうの大学は人生スタートの準備をするためのところだが、新しい大学では人生のエンディングに向けた準備をする」という企画のように、なんとか特徴を出そうと頑張ってくれたものもありましたが、全体的に「シニア=未来のないひと」という暗いとらえ方が(立派な中年オヤジであるぼくには)残念でした。
そんな中。
K藤さんは推計60万人を超える「中高年のひきこもり」という社会課題を示しました。その原因のひとつに「能力は高いにもかかわらず、一度の失敗や学歴などのコンプレックスからコミュニケーションが上手く行かず、いまとなっては家を出る理由もなくなった」ことがあると分析。それを解決するコンセプトとして「大学名レンタル」を提案しました。
希望する「ひきこもり」全員に「仮」の学生証を発行。図書館や学校内施設の利用をきっかけとして少しずつ外出に慣れてもらい、それを4年間続けられたら、正式に卒業証書を交付するというアイデアです。
再挑戦の場として大学を活用しようという着想は、明治学院大学の「Do for Others」の精神にも通じます。現実には学歴とひきこもりの関係を精査する必要がありますが、大学の未来を考える思考実験としては目のつけ所がユニークでした。
多くの学生さんが大学を当然のように「教育機関」と捉えている中、S井さんは「研究機関」の側面に注目しました。その提案は「コワーキング講師室」。大学の研究者が外部のワーキングスペース利用者と空間を共にすることで、創発につなげようという発想です。
Y田さんの「縁結び大学」やN村さんの「結婚図鑑」は明治学院大学を教育でも研究でもなく、「やさしくて、魅力的な若い男女が集まる場」と定義したアイデアです。
一方、T橋さんはそれを「いろんな私生活の集合体」ととらえ、そこに集まる学生のあらゆる情報を企業に売却する代わりに学費等を免除する「データ動物園」というコンセプトを披露してくれました。
大学の定期試験という「正しさ競争」の本場で、こういった大胆な思考チャレンジをしてくれた学生さんに、心から敬意を表します。
テストの採点が終わると、ひと段落。ホッとするのと同時に、ちょっと寂しいものです。
そうそう、最後にこの場を借りて学生さんに連絡。自分の解答がどう評価されたか知りたい人は、連絡をください。昼飯でも食べながら、議論しようぜ!
どうぞ、召し上がれ!