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チャンスはSDGsにある!No.6

<CASE STUDY>
SDGs の「最新事例」を自治体や企業の活動に見た。

2019/10/17

ケース①

 


対談:つくば市の先進事例に見る

   SDGsの在るべき姿

世界屈指の研究学園都市として知られる茨城県つくば市。
2018年2月に「持続可能都市ヴィジョン」を公表すると、同6月には内閣府から「SDGs未来都市」に選定されています。先進的な行政の取り組み事例を通し、SDGs活動に関するヒントを探すべく、五十嵐立青市長に、電通Team SDGsの池田百合氏が聞きました。

つくば市長 五十嵐立青氏  1978年つくば市生まれ。筑波大国際総合学類、ロンドン大 UCL 公共政策研究所修士課程、筑波大大学院人文社会科学研究科修了、博士(国際政治経済学)。つくば市議を経て、2016年からつくば市長。現在1期目。第11回マニフェスト大賞首長部門優秀賞受賞。
つくば市長
五十嵐立青氏
電通Team SDGs 池田百合氏  信託銀行勤務を経て、プロジェクト・プロデュース局、ソーシャル・ソリューション局などで、シニア、日本文化・芸術などのコンテンツ開発やコミュニケーションを担当。近年は主にSDGsの啓発やクライアント案件に従事。
電通Team SDGs
池田百合氏

SDGsは世界の共通言語

池田:SDGs未来都市に選定されたつくば市ですが、SDGsに取り組もうと考えたきっかけは?

五十嵐:つくば市は1985年のつくば万博開催、2005年のつくばエクスプレス開業など、研究学園都市として整備された環境にあります。つくば市のSDGsの特徴はSociety5.0とSDGsを組み合わせていることです。つくば市のゴールと、SDGsのゴールは同じ方向を向いています。科学技術を通して市民を幸せにすることはもちろん、人類に貢献することが、つくば市の使命だと捉えています。

また「誰一人取り残さない包摂社会をつくっていく」というのが私の政治信条。市長になってもう離れていますが、もともと障がい者が働く農場の経営をしており、障がいのある方々や農業に携わる方々の現状を自分の目で見て、社会が持続可能でない状況を理解していました。そんな中で「持続可能」「包摂性」をキーワードとするSDGsを知り、市政の中心に据えたいと考えました。

池田:もともと持続可能な社会を目指していた市長にとって、SDGsへの取り組みは自然な流れだったのですね。

五十嵐:はい。SDGsに取り組むために計画を考えるというより、すでにあった構想をSDGsの各ゴールと結び付ける作業を行ったというイメージですね。例えば「自動運転車椅子を走らせる」という計画は、「住み続けられるまちづくりを」や「すべての人に健康と福祉を」といったゴールにつなげるというように。

池田:SDGsに当てはめて市の活動を発信することで、どのようなメリットがありましたか?

五十嵐:SDGsは課題をきれいに整理してくれていますし、共通言語になるのでありがたいですね。何もない中で「包摂社会」と言ってもなかなか理解していただきづらいですが、SDGsという文脈の中で語ると伝わりやすい。また、昨年11月、モロッコで開催された全アフリカ市町村長サミットにも日本の市長として初めて招待され、われわれの計画や取り組みを国境を超えて知っていただくこともできました。そのような広がりもSDGsという共通言語があってこそだと感じています。

各ゴールを点でなく線で捉えるソリューションを

池田:現在つくば市が力を入れているSDGsへの取り組みを教えてください。

五十嵐:集中的に取り組んでいるのは、子どもの貧困問題です。つくば市は科学都市として知られていますが、一方で現在の小・中学生世代に、ランドセルが買えず支援を受けた子どもが1200人以上います。具体的な取り組みとしては、寄付をしてくれた方に青い羽根を渡して支援の輪を広げる「つくばこどもの青い羽根基金」をはじめ、地域団体が運営している子ども食堂の支援、塾のクーポン発券などを行っています。

支援の輪を広げるための青い羽根
支援の輪を広げるための青い羽根

池田:SDGsの目標1「貧困」やさらに目標4「教育」にも該当しますね。

五十嵐:はい。私はSDGsの各ゴールを点でなく線でつなぐような取り組みに発展させたいと考えています。例えば、つくば市には他にも、農業が盛んであるにもかかわらず地域の野菜や米を食べられる場所が少ないという課題があります。これに対しては、市が“地産地消レストラン”を認定・宣伝し、地域の食材を地域で食して経済の循環を促すという対策が考えられますが、これではまだ点。そのレストランでの売り上げの一部を「青い羽根基金」に入れてもらう。さらに、貧困家庭の親が働き場所に困っているのであれば、そのレストランで雇用する。こうして目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標1「貧困をなくそう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」などといった課題を連動的に解決させる形を築くことが、SDGsへの取り組み効果を大きくするひとつの方法だと考えています。

「SDGs」は言い換えれば「やさしさのものさし」

池田:つくば市のSDGsへの取り組みの軸に「これからのやさしさのものさし つくばSDGs」というステートメントが掲げられています。ものさしを生かしたデザインもすてきですが、このコンセプトに至った経緯を教えてください。

五十嵐:SDGsへの取り組みに市民の皆さんを巻き込もうとしたとき、そもそもSDGs自体の説明が難しいという悩みがありました。誰にでも伝わるような分かりやすい言葉が必要な中で、たどり着いたのが「これからのやさしさのものさし」という言い換えでした。「すべての人が、しあわせになれるか」(=包摂性)、「先のことまで、考えられているか」(=持続可能性)を見つめる「やさしさのものさし」を持とうという伝え方です。

池田:とても印象的かつ分かりやすくSDGsを表す言葉だと感じます。

つくば市が市民のSDGsに対する理解を促進するために制作した小冊子。 すべての人が幸せになれるか。先のことまで考えられているか。そんな 「やさしさのものさし」を持って世の中を見詰め直そうと伝えている。
つくば市が市民のSDGsに対する理解を促進するために制作した小冊子。すべての人が幸せになれるか。先のことまで考えられているか。そんな「やさしさのものさし」を持って世の中を見詰め直そうと伝えている。
【パンフレット紹介されている内容の一例】
「こどもたちの未来」こども7人のうち、1人が貧困状態。世界の話ではなく、日本の話です。
「科学」他の星ではたらくことが、他の国ではたらくことぐらいに思えるように。
「教育」学びたいという気持ちがある。なら、学び方は何だっていいんだ。 遊びが、学びにつながるまち。それが、つくばです。
 

五十嵐:職員ともかなり時間をかけて議論を重ねました。ただし、大切なのはステートメントを決めることでなく、浸透させること。ここから私が「やさしさのものさし」という言葉を繰り返し言い続けることが重要だと考えています。つくば市の「世界のあしたが見えるまち。」というコンセプトも、さまざまな場所で1万回くらい口にしてやっと皆さんに覚えていただけました。企業も、組織や世の中にビジョンを届けるとき、社長が1回言うだけじゃ覚えてもらえないのと同じですよね。

SDGs活動に周囲を巻き込む方法とは

池田:どのようにして組織内部にSDGsへの理解を促していますか?

五十嵐:全職員の名刺を「やさしさのものさし」デザインに変えたり、SDGs研修を終えた者にSDGsバッジを提供したりするなど、職員がSDGsに関わりたくなる仕組みをつくりました。市民を巻き込むためには、市役所の一部の職員だけでなく、全職員でSDGsを深く理解することが非常に重要です。せっかく市民の方が関心を持ってくださっても、職員が「SDGsって何?」という反応では、熱量が失われてしまいますから。

池田:一方、市民につくば市のSDGs活動を認知させるために行っていることは?

五十嵐:すでに何台か走っていますが、市内の公共バスのラッピングをすべて「やさしさのものさし」デザインに変更します。他にもいろいろな場所で見かける仕掛けをつくり、「あれ何だろう?」というところから、繰り返し目にしてもらうことで徐々に浸透させられればと思っています。

小冊子用に制作したデザインモチーフを、つくば市内を走る公共バスのラッピングにも採用。自然と市民の目に触れる機会をつくりSDGsの浸透を図る。「やさしさのものさし」をビジュアル化したイラストはテーマ別に約30種類つくられている。

 

池田:この4月から始まった「つくばSDGsパートナーズ」も魅力的な取り組みですね。

五十嵐:つくばSDGsパートナーズは、市と共にSDGsに取り組む会員を集めようというプロジェクト。個人会員は、講座を受けていただいた方に認定証をお渡ししています。団体会員は、市内で取り組みを行っている、あるいは、行う予定のある団体が対象です。「市が何かやってるな」という認知だけで終わらせず、「チェンジメーカーは自分たちなんだ」と自分ごと化してもらうことも重要なんですよね。募集をかけるとすぐに定員オーバーする状況で、市民の皆さまがSDGsに関心を寄せてくださっていることをうれしく思います。

池田:最後に、電通報の読者であるビジネスパーソンに向けて一言お願いします。

五十嵐:引き続き、つくばSDGsパートナーズは絶賛募集中です。オープンなので、市内で活動する方であれば市外の個人・団体の参加もお待ちしています。SDGsの17番目のゴールも「パートナーシップ」。みんなでやらなきゃだめだよね、と思っています。

市民向けのSDGsワークショップで。つくば市が実施する「つくばSDGsパートナー講座」を受講した市民には「パート
ナーズ認定証」が授与される。交流会やワークショップを通して、一人一人が市の社会課題を解決する当事者意識を高めている。

ケース②


企業もこんな取り組みを推進しています

<サラヤの取り組み>

「手洗い」でアフリカの衛生向上、さらに雇用も創出
第1回ジャパンSDGsアワード(※)副本部長(外務大臣)賞受賞

※ジャパンSDGsアワード:SDGs達成に資する優れた取り組みを行っている
企業・団体などを、SDGs推進本部として表彰するもの。
2017年6月の第3回SDGs推進本部で創設が決定された。

 

日本で初めて薬用手洗い石けん液を開発・事業化し、現在は衛生・環境・健康に関連する商品・サービスを幅広く展開するサラヤ。

対象の衛生商品の出荷額の1%をウガンダで展開するユニセフ手洗い促進活動の支援に充てる「100万人の手洗いプロジェクト」を実施するとともに、ウガンダに現地法人「サラヤ・イーストアフリカ」を設立し、現地生産の消毒剤とその使用方法を含めた衛生マニュアルを提供。東アフリカ諸国の衛生向上だけでなく、現地の雇用の創出も実現させた。

ユニセフの支援するコミュニティーでの手洗い啓発から、医療施設にアルコール手指消毒剤を配備するソーシャル
ビジネスを展開。

また、持続可能なパーム油類(RSPO認証油)の使用、アブラヤシ生産地の生物多様性の保全への取り組みなどを通して、日本の消費者にエシカル消費(環境や社会に配慮した製品やサービスを選んで消費すること)も啓発している。

SDGsにおける3「すべての人に健康と福祉を」、6「安全な水とトイレを世界中に」、12「つくる責任 つかう責任」、14「海の豊かさを守ろう」、15「陸の豊かさも守ろう」の5ターゲットに貢献。
 

<LIXILの取り組み>

開発途上国に安価で高品質なトイレを提供
第2回ジャパンSDGsアワード副本部長(外務大臣)賞受賞

住まいの水まわり製品と建材製品を開発、提供するLIXIL。
世界の社会・衛生環境問題を解決すべく、安価で革新的な簡易式トイレシステム「SATO」を提供。国際機関やNGOと協力しながら「現地に根差したソーシャルビジネス」で、衛生意識改革、衛生インフラの整備も進めた。

SATOを囲むインドの子どもたち

SATOは現在25カ国以上に出荷され、ビジネスとしてバングラデシュで初の黒字化を達成したと6月に発表された。また、国内で同社のシャワートイレが1台購入されるごとにSATOを1台開発途上国へ寄付するCRM「みんなにトイレをプロジェクト」で、社会課題解決の事例を創出。現地で生産、販売、設置、維持などを包括して行うことで雇用を生み出し、トイレの提供を通してジェンダー平等も推進するなど、その包摂性も評価されている。

SDGsにおける1「貧困をなくそう」、3「すべての人に健康と福祉を」、5「ジェンダー平等を実現しよう」、6「安全な水とトイレを世界中に」、9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、17「パートナーシップで目標を達成しよう」の6ターゲットに貢献。