もしも「縛られた上級者向けの豆腐」が、女子高生に流行るなら?
2019/09/10
科学史上、あらゆるイノベーションの陰には「荒唐無稽な仮説」の存在がありました―。
いきなり壮大な話になりましたが、電通Bチームでは「荒唐無稽な仮説」を短時間で無尽蔵に生み出し、アイデアのジャンプにつなげるためのツールを開発しました。その名も、
「荒唐無稽仮説発射台」(Foolish Idea Catapult)
です。でもこれを紹介する前に、少しだけ科学の歴史について語らせてください。
光の速さで飛行しながら鏡を見るとどうなるの?
電通Bチームの福岡郷介です。大学時代には物理学を専攻し、B チームでは「サイエンス」担当リサーチャーを務めています。
実は科学的発見の裏には、冒頭で述べた「荒唐無稽な仮説」がゴロゴロ転がっています。
例えばアルバート・アインシュタインが提唱した「光速度不変の原理」。これは「光源や観測者の速度に関わらず光の速度は一定である」という原理です。
(ちなみに「原理」とは、いろいろ役に立つし、おそらく合っているだろうから、証明しなくてもそうであると認めてしまう仮説のことです)
アインシュタインは16歳のときに、
もし自分が鏡を持って光速で飛んでいたら、自分の顔がどう映るのか?
を考えたそうです。
(※編注:以下、難解な話になるので流し読み推奨です)
顔が鏡に映るのは、「自分の顔で反射した光が鏡へと向かい、鏡で反射して自分の目に戻ってくるから」。しかし、もし仮に自分と鏡が同じ方向に光速で飛んでいたら…
・「顔で反射した光」は鏡に追いつけないのではないか?
・とすると、自分から見たら、「顔で反射した光」は静止しているように見えるのか?
こんな思考実験を経て、彼は「誰がどこから見ても光速度は一定である」と唱えました。そしてどうやらそれは「いろいろ役に立つし、正しそう」だったので、「原理」として確立されています。
難解な理論のことはさておき、ここでお伝えしたいことは一つです。アインシュタインは実験やロジックを積み重ねてこの原理にたどり着いたというよりも、まず
もし仮にこうだったとしたら?
という荒唐無稽な仮説を打ち立て、その仮説に基づいて世界を紐解いていくアプローチを取った、ということです。
同じく荒唐無稽な仮説を立てた人物として、19世紀の物理学者、ジェームズ・クラーク・マクスウェルがいます。彼は「もしこんな悪魔がいたら?」と考え、熱力学の法則に疑問を投げかけました。
彼の考えはこうです。
(※編注:難解なので、深く考えずに流し読みしてください)
小さな悪魔が、仕切りのある箱の真ん中に鎮座し、動きが速い分子と遅い分子を仕切りの左右に振り分けていくとする。すると、動きが速い分子を集めたほうの空間は温度が上がり、もう一方の空間は下がる。
・もしこんな悪魔がいたとしたら、エネルギーを使わずに箱内の空間に温度差を生み出せる。
エネルギーを使わずに温度差を生み出せるというのは、科学の常識である「熱力学第二法則」に反するため、注目を集めました。マクスウェルは偉い先生でもありますし。
もちろんこんな悪魔はいません。しかし世の学者たちはマクスウェルに倣い「もしいたら?」と考え続けました。
そして今では、このマクスウェルの悪魔が「分子の速度の情報」をやりとりするエネルギーを計算に入れると、辻褄が合うことが分かりました。つまり情報はエネルギーに変換できるのです!こうして「情報熱力学」という新たな学問が生まれるに至りました。
他にも、真空が負のエネルギーで満たされているとする「ディラックの海」や、万物が一次元のひもからできているとする「超ひも理論」など、さまざまな荒唐無稽な仮説が、科学を前進させてきました。
…などというエピソードをBチームのメンバーに語っていたとき、ふと、商品やサービスにイノベーションを起こすためのアイデアのジャンプも「荒唐無稽な仮説」から生み出せるのではないか?と閃いたのです。
さっそく筆者は、Bチームの高橋鴻介くんと共に、「荒唐無稽な仮説」を短時間で無尽蔵に生み出すツールの開発に取り掛かりました。
アイデアを遥か彼方にジャンプさせる「荒唐無稽仮説発射台」
こうして出来上がった荒唐無稽仮説発射台。一人でも複数人でも手軽にアイデア出しができるように、ブラウザ上で動作するウェブアプリとして開発しました。
ツール化に当たっては、以下の①ホップ、②ステップ、③ジャンプの3ステージで進めました。
①ホップ:商品やサービスに「大きい」「小さい」など修飾語を付けて仮説を立てる
例えば、企業が「まったく新しい豆腐」を開発したいとします。
このとき
- 「ものすごく大きい豆腐があったら?」
- 「ものすごく小さい豆腐があったら?」
といった「大小軸」の仮説を立ててみると、簡単に新しい商品が発想できますよね。
他にも「高級か/チープか」「硬いか/柔らかいか」など、対照となる修飾語を組み合わせた軸を用意して、それぞれ当てはめていくと、次々とアイデアが出てきます。
しかし軸が1本だけでは、「そこそこ飛躍したアイデア」にしかなりません。私たちはさらにツールを進化させました。
②ステップ:「縦」「横」の2軸を掛け合わせて仮説を立てる
先ほどの「真逆の意味を持つ修飾語」を1軸ではなく2軸にして、それらを掛け合わせて4象限のマトリクスにしました。
例えば縦が「自由か/縛られているか」、横が「上級者向けか/初心者向けか」だとすると、縦横組み合わせて
- 「上級者向けで自由な豆腐があったら?」
- 「初心者向けで縛られた豆腐があったら?」
といった視点から発想します。
掛け合わせにより、先ほどよりさらに荒唐無稽なアイデアが大量に出せます。ランダムで表示される「軸」は、150組ほど用意しました。この時点で、理論上は4万通り以上の「○○&△△な豆腐」がつくれます。
荒唐無稽仮説発射台の強みは、短時間で大量のアウトプットを生み出せることです。「気の利いた良いアイデアを出さなくては」などと身構えずに、思いついたアイデアをどんどん書き込み、保存していきましょう。
③ジャンプ:さらに「深める」ボタンで自分に無茶振りをする!
アイデアがある程度出揃ったら、書き込んだアイデアの「一覧表示」をします。すると、各アイデアの横に「深める」というボタンが表示されます。
このボタンをクリックすると、さらなる荒唐無稽な質問、いわば「無茶振り」がランダム表示されます。
お題:「縛られた&上級者向けの豆腐があったら?」
→【アイデア1】「リボン結びプレゼント豆腐」
→【深める】「それが女子高生の間で流行るとしたら?」←無茶振り
→【アイデア2】「リボンをほどくと崩れてしまう豆腐キャラクターとして商品化」
このように、「深める」ボタンで思いがけないジャンプが発生します。そして深めるボタンによる無茶振りも1クリックでどんどん切替可能ですので、すごいスピードでアイデアが量産されていきます。
- 「それが海底にあったら?」
- 「それを1秒でできるようにしてみたら」
- 「トランプ大統領が使うとしたら?」
- 「サイズが百倍になったらどうなる?」…
いったん思い切りジャンプさせたら、実現可能なアイデアに落とし込む際にもいろんな切り口が生まれてきます。「すぐに崩れてしまう豆腐のキャラクターでラインスタンプをつくる」「タピオカ店みたいに内装からパッケージデザインまでこだわったポップアップストアで豆腐を売る」など、そういう具合です。
豆腐に続いて、「新しいカラオケサービス」をお題にやってみました。
お題:「前払い&若者向けのカラオケがあったら?」
→【アイデア1】「カラオケ年パス」(サブスクリプション)
→【深める】「それを体に埋め込むなら?」←無茶振り
→【アイデア2】ピアスなどアクセサリーをサブスクリプションの認証装置にする
今回、高橋くんと一緒に15分間ツールに向き合っただけで、50個以上の荒唐無稽な「新しいカラオケ」のアイデアが生まれました。クオリティーにばらつきはありますが、普通に考えただけでは15分でこれだけぶっとんだアイデアは出てこないでしょう。
まとめ:短時間で膨大なアイデアを生み出せるツール、使ってみませんか?
このツールが面白いのは、上記の手順で荒唐無稽な仮説を生み出す中で、新規商品の開発だけでなく、PRプランや統合キャンペーンなど、コミュニケーションのアイデアまで同時に出てくるところです。
例えば「深める」ボタンで
- 「それが無料だったら?」
- 「100万個あるとしたら?」
といった無茶振りが出てくると、ちょっと荒唐無稽なPR施策が思いつきそうですよね。「予算が無限だったら?」とか。
この荒唐無稽仮説発射台は、すでにいくつかの企業にワークショップ形式で使っていただきました。そして実際に商品化に向けて動き出しているアイデアもあります。
Bチームでは今後も、ランダム出力される言葉の中に随時トレンドワードを追加するなど、ツールを進化させていきます。アインシュタインやマクスウェルのように、イノベーションにつながる荒唐無稽な仮説を生み出したい方は、ぜひBチームにご連絡ください!
電通Bチーム
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