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デジタル・マーケティングは本当に「“人”基点」になれるのか

デジタル・マーケティングの今とこれからNo.1

2019/10/25

デジタル・マーケティングは本当に「“人”基点」になれるのか

NewsPicks|マーケティングのリアルを語ろう/鈴木禎久氏(電通デジタル)、佐藤俊介氏(トランスコスモス)

電通デジタルが2017年に始動した「“人”基点」のマーケティングPeople Driven Marketing(以下、PDM)。人の「意識」と「行動」に着目したPDM2.0、さらに今秋スタートの3.0によって、マーケティングがどう変わっていくのか。トランスコスモスCMOの佐藤俊介氏を迎え、電通デジタル代表取締役社長の鈴木禎久氏とデジタル・マーケティングの今とこれからについて、意見を交わした。


結果を追求するデジタル・マーケティングの時代へ

鈴木:佐藤さんにはこれまで何度かマーケティング業界の集まりでご挨拶していますが、きちんとお話しするのは今回が初めてですね。デジタル・マーケティングを語るにあたって、電通がなぜ電通デジタルを設立したか、ということからお話ししたいと思います。

電通はこれまで広告を中心に、トップランナーとして存在感を示してきました。しかし、正直、デジタル領域では後塵を拝してきました。広告がマーケティングにおける「one of them」に過ぎなくなっているという現実もあります。

鈴木禎久氏(電通デジタル代表取締役社長)

広告業界に就職できず、ネット業界に

佐藤:実は、僕は就職活動の第1希望が電通だったんですよ。広告やマーケティングがやりたかったんですが、あっけなく落ちてしまって(笑)。

結局、新卒で入ったのがインターネット企業で、そこからデジタルの世界でのキャリアがスタートしました。

鈴木:それは、面接官の見る目がなかったんですね(笑)。今では、佐藤さんはデジタル・マーケティング業界の牽引者ですからね。

佐藤:鈴木さんがおっしゃるように、今、広告が大きく変わってきています。SNSの普及で従来型のマス広告のパワーが相対的に落ちています。

佐藤俊介氏(トランスコスモス取締役 上席常務執行役員兼CMO)

僕が電通に入りたかったころは、誰もがどんなテレビCMに誰が出演しているといったことをみんなが話題にしていました。でも、デバイスが1人1台になり、情報が多様化していく中、テレビCMに代表されるようなマス型のプッシュ広告では、もはや顧客の心をつかむのは厳しいでしょう。

一方で、広告枠や入札額、ターゲットなどをリアルタイムで最適化する運用型のネット広告も、プラットフォームによる自動化がかなり進んでいます。すでに、広告枠を売るだけで広告代理店が利益を上げること自体が、難しくなってきています。

MaaS、サブスクがデジタル・トランスフォーメーションの引き金に

鈴木:そういう大きな変化の中で、電通がカバーしきれていないデジタル領域で、エッジを立てていこうと生まれたのが電通デジタルです。

ここ2、3カ月、日本企業のデジタル化がかなり急激な変化を遂げているのを感じます。デジタルによって商品やサービスのあり方そのものがアップデートしているからです。

例えば、移動をサービスとして捉える「MaaS(Mobility as a Service)」、商品やサービスを定期的定額で購入する「サブスクリプション」などは、その代表例です。

この変化の中で生き残るためには、今あるものを生産しているだけでは難しい。これからの企業は、サービサー、デジタル・プラットフォーマーへと変化が加速していくと想定しています。

あらゆるデータが、コンプライアンスやプライバシーポリシーを厳守しながらもインフォマティブデータ(※)として統合され、データ活用によって成功の確率・アルゴリズムは一段と鮮明に見える化していきます。

令和の時代を迎えて、そんなデジタル・トランスフォーメーションが加速度的に進んでいます。ここでは、スピードが勝負を決めます

※インフォマティブデータ=インターネット利用にかかるログ情報などの個人に関する情報で、特定の個人を識別することができない情報

 

(左から)鈴木禎久氏(電通デジタル)、佐藤俊介氏(トランスコスモス)

企業はマーケティング、販促、製造や経営のダッシュボードなど、部門ごとに自社のデータを持っています。でも、それぞれの部門のデータは断絶してバトンタッチ型になっています。データを蓄積し、ひとつに統合すれば、企業活動がスピードアップできる可能性があります。

例えば、顧客動向が変化して、生産調整が必要となった場合、経営判断が必要です。これまでは各部門から順にバトンを渡さないと判断できなかったことが、データが統合されていれば瞬時に経営判断できる。そのスピードを実現するのがデジタル・トランスフォーメーションであり、デジタル・トランスフォーメーションこそが生き残る条件となります。

グローバルでは中国のアリババやテンセントが、マーケティングとシステムを一体化したサービスをすでに展開。国内でもアドビシステムズやセールスフォースのソリューションを採用する企業が急増しているのも見逃せません。

リアルとデータをどうつなぐか

佐藤:マーケティングの部署だけではなく、企業自体が変化することが重要ですよね。

しかし、大企業は変化に時間がかかるのが課題です。トランスコスモスでは、アウトソーサーとして企業が蓄積したデータを一気通貫で統合。大企業の変革に必要なデジタル・トランスフォーメーション・パートナーとして事業を推進しています。

例えば、トランスコスモスはコールセンターの受託に強みがあります。これまでであれば、コールセンターはコストが出ていく「掛け捨て型のサポート」でした。コールセンターの情報を業務改善に使うことはあっても、マーケティングに活用するという概念はそもそもなかったんです。

ところが今はスマホの普及によって、カスタマーサポートは電話だけでなく、メッセージングアプリやSNSなどさまざまな接点があり、そのデータをデジタルで蓄積する一方、マーケティングとの接点はほとんどなく、分断されたままです。

(左から)鈴木禎久氏(電通デジタル)、佐藤俊介氏(トランスコスモス)

何とかそこをつなげようとしても、大企業特有の縦割りが壁になっています。それを打ち破るために、トランスコスモスが3年前にスタートしたのが「DEC(デジタル・マーケティング、EC、コンタクトセンターの頭文字)」という、サポートからマーケティングまでトータルで支援するサービスです。さらにDECがリアルとデータをシームレスにつなげていくことで、「勝負に勝てる」デジタル・マーケティングを実現していきます。

個人がそれぞれデバイスを持ち、個人が得る情報も多様化しています。広告だけでは取りきれないデータをいかに収集するか。サポートデータ、コミュニケーションデータ、ECの購買履歴なども、今後の可能性につながっていきます。またデジタル上で獲得したデータをどうリアルにつなげていくのかも、今後大きなテーマとなっていきます。

これを実現するには、コンテンツを重視しなければならなかったり、より消費者の声に耳を傾け、顧客に新たな体験を提供する必要があると思っています。

キャッシュレス戦争が盛り上がる理由

鈴木:確かに、昔はテレビのような強力なメディアでコンテンツをつくれば、誰もが振り向いてくれました。しかし、今は価値観、チャネル、メディア、ライフスタイルが個人でまったく違い、多様化しています。

テレビだけではなく、個人ごとの、その時点での状況に寄り添わないと、人の「気持ち」を動かしたり、「行動」を引き起こすことはできません。

そういう個々人の状況をデータとして獲得し、理解できたものが、最終的な勝者になっていくと考えています。

佐藤:今は、デジタル上でのOne to Oneデータはかなり取れていて、次はそこにリアルなデータをどれだけつなげられるかという段階でしょう。そこには新たな顧客体験が必須です。

佐藤俊介氏(トランスコスモス)

リアルデータとネットをつなげた成功例がUberです。新たな移動の体験によって得たリアルデータの獲得が、Uberを成功に導きました。

これだけ「キャッシュレス戦争」が盛り上がっているのも、キャッシュレスという新たな顧客体験によって得たリアルな購買データには、極めて大きな価値があると考えているからです。

リアルデータが手に入れば、あとはネットにつなぐことで、初めてその人の本当の顔が見えてきますから。

「“人”基点」で人に寄り添うマーケティング

鈴木:電通グループでは昨年からPDM 2.0というデジタル・トランスフォーメーションを展開しています。

PDM(People Driven Marketing)

我々は、デジタル・マーケティングが進化した先にあるのは、「人に寄り添う」マーケティングだと考えています。

People Driven Marketing®️2.0への進化(上)People Driven Marketing®️2.0への進化(下)

鈴木:デジタル・マーケティングがいくら進化しても、最終的には「人」。その方法論を概念化したのが「“人”基点」のPDMです。

もともと電通グループは、コミュニケーションが得意な会社です。人の心を動かすもの、感動させるものは、AIやロボットではなく人にしかつくれないというのが、我々の信念です。

この秋からはさらに進化したPDM3.0もスタートします。PDM3.0では、より重要な顧客像を見いだし、CRM(Customer Relationship Management/顧客管理)と広告の両方をマネジメントします。トランスコスモス、アドビシステムズ、セールスフォースなどパートナー企業との連携を強化することで、企業のデータを最大限活用していきます。

そのひとつが、電通グループが提供している「デュアルファネルソリューション」です。これは「新規顧客の獲得」と「既存顧客の育成」を同時に実現するシステムです。

デュアルファネルTMソリューション(上)デュアルファネルTMソリューション(下)

「感動」で熱狂的なファンを獲得する

佐藤:これからのマーケティングでは、「熱狂的なファン」をつくることが、すべてのキーワードです。「デュアルファネルソリューション」ではロイヤル・カスタマー(優良顧客)化と定義されていますね。

人口が減少していく日本では、顧客ひとりひとりとの接点を増やして、ロイヤル・カスタマーになってもらうことが必要です。ひとりの人がその企業のあらゆる商品やサービスを購入してくれる、そこが目指すあり方となるでしょう。

例えば、熱狂的なファンを持つ、LVMHやネットフリックスなどのブランドが車を売り出したら、ファンは購入してくれるかもしれません。そういう強力なファンをどれだけ獲得できるかが勝負です。

しかし、今のマス広告では、それだけで熱烈なファンになってもらうのは現実的に難しいでしょう。個人に寄せたコンテンツやメリットを提供していくパーソナライズされた顧客体験によって、デジタルを活用しながらファンを育成していくしかありません。

日本のマーケティング企業は、これからそのための戦略に力をいれていくべきだと思っています。

鈴木:時間、つまり人との接点の数も重要になってきます。24時間という限られた時間をどう取っていくか。「人の数」と「時間」という有限なものを、どうやって自分たちのサービスに呼び込めるかを考えなくてはいけません。それが、これまでなかったような斬新で豊かな顧客体験となっていきます。

鈴木禎久氏(電通デジタル)

佐藤:外資系企業がどんどん競合サービスをリリースしていくように、サービスは先行事例を後から追いかけることもできます。だからこそ、顧客・ユーザーファーストで強いファンコミュニティをつくることのほうが、何より重要です。それがブランドになっていきます。

また、デジタル・マーケティングはコミュニケーションが取りやすい一方で、チープに陥りがちな側面があります。強いファンをつくるためには、そこも含めた戦略的なコミュニケーションデザインが必要です。

鈴木:我々としてはライフタイムバリューを追求することで、ずっとファンでいてもらえるようにしたいと考えています。そのためには、やはり感動を呼ぶような、あらゆる顧客体験が必要です。

5年後、10年後、お客さまにどんなものを提供していけばいいのか。イノベーションを起こしながら、その部分を常に考えていきたいですね。

従来のマーケティングはプランニングに重点が置かれていましたが、我々のゴールはデジタル・マーケティングの仕組みづくり、運用、改善、そして最終的に結果を出すところまで。さまざまな企業と協働しながら、社会のデジタル・トランスフォーメーションを実現していこうと思っています

(左から)佐藤俊介氏(トランスコスモス)、鈴木禎久氏(電通デジタル)
(制作:NewsPicks Brand Design 編集:久川桃子 撮影:稲垣純也 デザイン:九喜洋介)