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自由に動いてビジョンでつながる「ティール組織」によるアイヌ文化の新価値発掘

ティール組織で挑む地域活性化の価値創造 ~阿寒湖の若手アイヌ工芸家による伝統のアップデート~No.2

2019/11/27

自由に動いてビジョンでつながる「ティール組織」によるアイヌ文化の新価値発掘

2019年10月、新宿のビームス ジャパンで、北海道阿寒湖温泉の若手アイヌ工芸家と日本各地の手仕事を紹介し続けているセレクトショップBEAMSのレーベル<fennica(フェニカ )>のコラボ商品が発売されました。本連載第1回では、「地産外商」や「観光地から交流地への変革」というビジネスモデルや、持続的にプロジェクトを進めるためのモチベーション・ビルディングについて紹介しました。

第2回では、私たちが出合ったアイヌ文化が現代社会に提起する、「未来へのヒント」ともいうべき価値と、その価値への気付きを社会の需要に結び付け、コラボレーション商品の開発に至った「自由意思で動くチーム=ティール組織」について組織論的視点で考察します。

「アイヌ文化」という異文化との遭遇

「アイヌ」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。私は以前、土産物店でアイヌ文様らしきものを見かけたことがありましたが、「個性的だな」という印象にとどまり、その後は全く接点がなく、深く知ることはありませんでした。

今回、阿寒湖の地域活性プロジェクトをスタートするに当たって思い出したのが文様のこと。アイヌの方々と話していくうちに、木彫りなどに施される個性的な文様には魔よけの意味があり、着物に刺繍する際には、着る人・使う人を思って刺繍するなど、アイヌ民族・文化に独特な特徴があり、これは魅力的なコンテンツになることを確信しました。

一方で、当初は個性が強い文様ゆえにアイヌ工芸をふだんの暮らしに取り入れるのは難しいかもしれないという直感も働いていました。われわれは「地産外商」という目標を掲げ、旅の思い出にアイヌ工芸品を買うという"土産品”で終わることなく、例えば「イイな」と思って買ったらアイヌ工芸だったというような普遍的価値のある商品の開発を目指しており、「古き良きアイヌ」にはとどまらない、どこか新しい見せ方で、ターゲットとなる地域外の人々との接点をつくりたいと考えました。

伝統的なアイヌ文様があしらわれた着物
伝統的なアイヌ文様があしらわれた着物

現代人のバイブル?! SDGsの先を行くアイヌ民族

彼らとの接点が濃くなるうちに印象的だったのが、アイヌ民族の自然と共生する姿勢。すべての動物、植物、ひいては道具にまでカムイ(神)が宿るという教えがあります。獲物として捕らえた母熊と一緒にいる子熊は、殺すことなく大きくなるまで育てていた習慣があったり、衣料やカゴなど織物の素材になる植物を採る際には「いただく」と言ったり、「感謝の気持ちを持つように」「採る際には根こそぎ採らないように」と生命を絶やすことのないよう、語り継がれています。

また日本国内で後継者不足により消滅していく手工芸品も多い中で、アイヌの人たちの手仕事が暮らしの中で自然と代々受け継がれているケースを耳にしました。「おばあちゃんに刺繍を習った」「おばちゃんと一緒に材料を採りに行った」というように。自然やモノを大事にすることを生まれながらに知っている民族なのです。これはSDGsの先を行っている、と感じました。

このようにアイヌ社会での考え方や暮らし方には、現代人が失ってしまったものを取り戻し、強く生きていくための未来へのヒントがあるのではないかと感じ、「現代人のバイブル」的存在に捉え方が変わりました。

工芸品の素材となる「ツルウメモドキ」を採集
工芸品の素材となる「ツルウメモドキ」を採集

「阿寒湖で生きる」がブランドストーリーの核

初めて阿寒湖温泉を訪問したのは、アイヌ新法の成立に先立つこと2年近く。2017年初秋でした。豊かな大自然を味わいながら現地を散策するとともに、道内屈指のアイヌコタン(村・集落)にある幾つかの土産店や工房を訪ね、コラボレーションの可能性を探りました。同じように見えていた商品群の中でも「これは」と心に触れる作品に幾つか出合い、幸いにもその制作者の方々から参画の承諾を得られ、木彫り、刺繍、織物、彫金の技術を持った若手の作家たちが集まりました。

工房内でカフェを営む彫金作家
工房内でカフェを営む彫金作家

出会った初日から、作品の味わいだけではなく、魅力あふれる人間性、また阿寒湖という森と湖に囲まれた風土が阿寒湖アイヌ民族の個性を下支えしている様子がうかがわれ、確固たるブランドに昇華していくだろうとの予感を抱きました。阿寒湖温泉ではアイヌ舞踊のシアターを構えたり、民族衣装で観光船のガイドをするなど他地域に先駆けて文化発信に取り組んできた特徴があり、伝統を守るだけではない「開かれたアイヌ」というポジションも生かせると考えました。

こうした気付きから、開発していく商品とともに作家のライフスタイルや人物像をブランドの核にしたいと考えるようになりました。作家の内面にまで迫りたいと、アイヌコタン出身、アイヌ文化の中で育ったライターの方に参画いただき、作家自身をフィーチャーしたウェブサイト「kar pe kuru ~創り手の街 阿寒湖温泉」を商品発表の半年前から公開して下地をつくり、発売時、作家のプロフィールと作品をひも付けて詳細に紹介するなど、ブランドの核を固めていきました。

自由に動いてビジョンでつながる「ティール組織」が生んだ想像以上の成功

今回、電通が得意とするブランディングやプロモーションの領域を超えた事業のプロデュースが可能となったのは、自由なチーミングが鍵だったと考えます。今回のメンバーは数年前たまたま席を並べていて、現在はそれぞれが異なる部署で異なるミッションに当たっていた3人のチームでした。われわれには営業・ストラテジックプランニング・出版・コンテンツ・人事・経営企画の経験があり、さまざまな職能を持ち合わせたチームです。プロジェクト後半には電通北海道のメンバーも加わり、共にプロジェクトを進めています。

経営の世界では次世代型の組織モデル「ティール組織」が話題ですが、われわれも事前の役割を規定せず、専門性の異なる一人一人が主体的に職能を発揮しつつ、プロジェクトが有機的に進んでいきました。常に本質的な問題と向き合い、異なる視点から多角的に課題を発見。時には領域侵犯しながら考えをぶつけ合いソリューションを生み出していくことで、各人のスキルアップも実現しました。

SDGsでは企業や自治体の活動が頻繁に紹介されますが、そこにアイヌ民族が受け継いできた暮らし方に着目し「われわれに未来のヒントをくれるバイブル的存在」と捉えてみるなど、これまで見いだされていないソリューションのポイントをつくり出すためには、このような自由意思に基づく幅広い視野と動き方が肝要だったと考えます。

また、ゼロからのスタートで規定演技は通用せず、東京と阿寒湖という物理的な距離や、アイヌ民族とセレクトショップという業態の縁遠さを埋めていくチャレンジングな取り組みという点でもフレキシブルな発想が必要でした。

上意下達ではない自主運営のティール組織においては、プロジェクトが目指すべき方向性・ゴールといった「ビジョン」がメンバーの自由な動き方を規定する唯一のルールといえるでしょう。ビジョンを共有し、変化に自由であること。それらは活動しながら、さらに皆で発展させていくのが望ましい形です。

本プロジェクトにおけるティール組織が生んだ効果

さまざまなプレーヤーとのフレキシブルな体制にもビジョンが重要

阿寒湖温泉で活動する若手アイヌ工芸作家と、日本各地の手仕事を市場に紹介し続けているセレクトショップBEAMSのレーベル<fennica>(ディレクターはロンドン在住)。本来巡り合うことのなかった両者を結び付けましたが、社内のメンバーに加えて阿寒湖温泉の観光協会、釧路信用金庫、現地コーディネーター、アイヌ民族のライターの方々とのフレキシブルな連携がそれを可能にしました。そこにもビジョンの存在が重要であったことは間違いありません。

阿寒湖訪問初日にfennicaディレクターの北村恵子氏は語りました。「日本の手仕事は各地で消滅の危機を迎えています。今なら、後継者がいなくても、そばで見ていた人がいたり、かつては触ったことがある人がいたり、ギリギリ間に合うタイミング。技術は途絶えてしまったらそこで終わりですから。素晴らしい技術は守らなくては、今やらなくては、という使命感のようなものがわれわれにはあります」。

実際に仙台の伝統工芸品であるこけしをアップデートして「インディゴこけし」としてよみがえらせ、コレクターの女性「こけ女」が発売前に行列する「こけしブーム」を仕掛けた方です。説得力がありました。こうした思想はfennicaの元々の活動ビジョンにあるものですが、結果としてわれわれのモチベーションへとつながり、プロジェクトのビジョンに組み入れられてチームの全員が意識するようになりました。

自由意思でチームを動かすためのコンセプトワード開発のすすめ

ティール組織の運営において効力があったのは「ことば」です。立ち上げ当初から、プロジェクトのビジョンや世界観をコンセプトワードにまとめ意図的に使用してきました。ゼロからの立ち上げという点を逆手に取り、常に高い目標設定でプロジェクトを描いていましたが、「阿寒湖Next Generation」もその一つ。作家のブランディングとして、単なる若手ではなく、もともと瀧口政満氏、藤戸竹喜氏、床ヌブリ氏をはじめ木彫作家の巨匠たちを輩出してきた阿寒湖の次世代を担う人たち、というポジションを形成し地域の資産を活かしたいという狙いでした。

当初からチーム内で使っていたプロジェクトの仮称「AKAN AINU Collection」に込めていたのは、阿寒湖のアイヌ文化らしさが感じられ、コレクション欲をそそるアイテム群をつくり、一過性ではなく永続的なブランドとして立ち上げること。そしてお土産物とは一線を画したアート性×ライフスタイルのあるイメージです。

これらのワードは、fennicaディレクターのテリー・エリス氏による“新作コレクション”発表イベントのタイトルへと引き継がれます。題して「アイヌ クラフツ 伝統と革新 -阿寒湖から-」(英題:AINU CRAFTS from Lake Akan Tradition and Innovation)。2年余の歳月の中でメンバーの思いは「ことば」で引き継がれながら進化し、やがてかたちになったのです。

イベントのキービジュアル
イベントのキービジュアル