“勝手KPI”のススメ!
2020/01/09
これまでKPIの役立て方やその測定における課題、オウンドメディアの効果測定、海外の状況などを述べてきました。これらは実は以前から議論されてきたことでもあり、また企業や団体、PR会社やPR業界もこのアップデートに日々努力をしている状態でもあります。
われわれもまずは業界における回答として、何らかのデファクトスタンダードでも示せればよいのですが、各企業・団体の置かれているそれぞれの状況が異なるため、そう簡単にいくものでもありません。そこでまず私がお勧めしたいのが“勝手KPI”の実践です。
“勝手KPI”って意味あるの?
現状PR活動のKPIにおいて完全なものはありません。誰しもが同様の基準でそのKPIを算出し、横並びで比較できればどんなに楽なことか。また各PR活動の目標設定なども数値だけで示せれば、よりシンプルなゴール設定が可能となるでしょう。ただし、その設定数値を常に上回ることだけを考えていてよいのかという疑問が頭をもたげてくるのです。
例えば手段を選ばず、この最終的な数値を向上させるためだけにPR活動を続けたときに、その数値は最終的に100%に到達するのでしょうか?私は不可能とも思いますし、そもそもどんな手を使っても、という条件下の取り組みは再現性がないと思うのです。
KPIを使ってPDCAを回していくというのは、すなわち常によりよい方向への改善を促し、活動を継続していくためなのではないでしょうか。この自身が今いるポジションを把握し、次の一歩でどの方向へどれだけ進めるのか、それを設定し最適と思われる手段を選びチャレンジするのがPDCAの意味だと思うのです。
よってKPIに絶対値はなく、「常に以前の自分を超える」ことがその指標であってもいいのではないかと思うのです。そこで周辺環境とばかり比較するのではない、自社独自の“勝手KPI”をまずは実行してみることをお勧めします。
広報リーダーが悩まされるPRチームへの社内理解不足
広告換算が定着しているのは“認知向上型コミュニケーションにおけるコストパフォーマンスの向上”という意味で分かりやすいからです。広告だと知名度アップにこれだけの費用がかかるのに、PRによる露出や情報拡散で“こんなにお金が節約できました!”というのが経営者に喜ばれたわけですね。リーマンショック後の各企業における販管費大削減の時にはなおさらだったでしょう。
以来、その単純さからこの広告換算による金額の上昇ばかりがその指標として掲げられてきました。社内のPR担当者からすれば、これが上に報告していくのにも納得感が高いと思っていたし、その他の部門に対しても“お金”という共通の物差しで見ることができるのでアピールがしやすかったはずです。
企業のトップや、事業部などの他部門を相手としてみていると、このような社内事情によるKPI設定に陥りがちです。しかし、実際のところ経営トップはこの数字に本当の意味を見いだしているのでしょうか?答えは否といえるでしょう。そしてこれが後の戒めの言葉として、“量だけでなく、質をしっかり把握すべき”“アウトプットよりアウトカムを見るべし”といった原則として語られるまでになっていったのだと思います。
社長はみんな知っている
タレントを起用したCMを上手に使うあるクライアントさんでは、常に記者発表会においてその広告換算値を更新し続けていました。社長も発表会には非常に前向きで、ご自身も発表会に登壇され、またメディアの気持ちをつかむ発言で人気を博していました。あるときこれまでのPR活動を振り返る場に出席させていただき、そのPR活動への会社としての前向きな姿勢やご自身のPR的目線、メッセージングのうまさについて触れ、その露出の成功についても言及しました。
ところがここに意外な回答をいただいたのを覚えています。社長曰く、「広告換算という数字で社内報告書は常に上がってきているし、短い時間でこういった報告書をまとめていただいているのもありがたい。CMを多用している会社だから、こういう数値が喜ばれると思っているのでしょう。PRの担当者のやる気をそぎたくないのでその時は褒めてやりますが、私が直後に見るのは実際の商品の売れ行きデータだけなんです。今回のPRがそこにどれだけ貢献できたのか。外部の皆さんにはぜひここを明らかにできるような、新しいKPIで活動を再設定していただきたい」と。
この言葉は私自身にも突き刺さり、クライアント側で容認・定着された手法だからそれでいいじゃないか、と半ばおざなりに対応してしまっていたことを強く反省しました。勝手に思い込んでいた社長の評価基準、やりやすさでルーティン化してしまっていた評価手法、導き出していた数値の本来的意味の欠落、これらはまさに各企業・団体が現状を把握し、個々の事情に合わせて今こそ再設定/設計すべき部分なのです。
ちなみにその後、私たちは記者発表会の情報発信がどこまで生活者に理解され、評価されているかなどをメディア露出とは別に、ソーシャルリスニングなどを活用しながら拾っていくなどもしています。実際にわれわれが伝えたかったことが、どこまで生活者に届いているのかを、そのつぶやきの中から確認するわけです。
ここでも面白い発見がありました。メディアにおいてはある程度、狙った文脈でこちらの意図が書かれていたにもかかわらず、それらを見た生活者の実際の声を拾ってみると「なんかよく分からない」「もう少し、かみ砕いてもらわないと」など、少しポイントがぼやけた形で伝わってしまっている部分があったのです。
もちろん即座に、これらをカバーする情報発信をソーシャルメディアやオウンドメディアを通じて行うなどして対応しましたが、こういう生活者の声をダイレクトに拾うといった評価軸もこの時代に大切なのだと思います。さらには、先の社長の発言のように、情報発信と売り上げの相関もきちんと見ていく必要があるでしょう。PRと売り上げ上昇を結ぶデータの収集・解析法の構築なども急務といえるでしょう。
日々の成長を実感できるかが最重要
KPIに絶対的なものはなく、各施策や日々の活動において以前より改善されてきているか。これを数値のみならず、そのスキルの蓄積やアイデア創出の頻度、社内各部署との関係性など、いろんな角度から自己評価することが必要です。
これらを一つずつでも高めていくことができれば、実はそれが現場の成長とそれに伴う成果の創出において最強なのではないかとも思うのです。そこに抜け漏れがあったっていい、要は昨日と違う自分や会社の成長が、緩やかでも右肩上がりで感じられればいいのではないでしょうか。このような“勝手KPI”を経て、自社が目指す、上回りたいPR上手な企業をベンチマークしてみるといったステップを踏むのもいいかもしれません。
ここで再度、広報・PRに携わる皆さんに申し上げたいのは、他者とばかり比較せず、自身の成長をどこまで客観的に見つめられるかといった自己評価がまず先にあるべきということです。
ニュースリリースの書き方、メディアとのリレーションのつくり方、オウンドメディアの活用方法、その他ステークホルダーへの対応など、広報・PR部門が対峙しなければならない領域はとても広いです。それぞれをすでに100%対応できているところなんかないと安心していただきたい。そして急がず、着実に自身やチームのスキルや経験値を整えていただくことに注力していただきたいのです。
私自身、すでにこの世界で30年やってきましたが、今も時代の流れの速さにほんろうされている状態です。ただこの変化を楽しみ、日々の一歩一歩を自己反省/評価することで一歩でも、いや半歩でも成長できていると思えるからこそ、いまだこの業界にとどまれていると思うのです。完璧なんてつまらないですからね。皆さんも、失敗し、反省し、成長して、この仕事を完成形に近づけていく、そんな姿勢でやってみませんか。
“KPIは誰がためにあるのか?”そう、それは社長のためでもない、他部署のためでもない。まさに経営を支えるため、そしてあなたが成長するため、“汝のために”あるのです。