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PRの効果測定~データ・ドリブンで経営を支える~No.3

PRの効果測定は世界共通の悩み

2019/12/05

PRやコミュニケーションの効果測定について悩んでいるのは日本だけではありません。世界中のPRやコミュニケーションの実務家が、より良い測定方法を求め、研究やディスカッションをしています。第3回では、PRの効果測定の海外での状況をご紹介します。

効果測定専門のグローバルな業界団体が存在

コミュニケーション効果測定・評価協会(AMEC:Association for Measurement and Evaluation of Communication、本部ロンドン)というグローバルな団体をご存じでしょうか。このAMECは1996年に設立され、コミュニケーションの効果測定の教育を提供し、原則を議論したりしている団体です。また、ベストプラクティスを表彰しながら、業界のスタンダードを構築し、業界全体が利用できるようなツールも開発しています。

設立当初は7人しかメンバーがいませんでしたが、今では160の団体が加盟し、会員は86カ国に広がっています。北米、南米、ヨーロッパ、アジアには支部もあります。大手PR会社、調査会社が会員になっているほか、米PR協会、ICCO(International Communications Consultancy Organisatio)など主要なPRの業界団体とパートナーシップを組んでいます。効果測定専門の業界団体ができるほど、PRやコミュニケーションの効果測定は、常に課題となっている状況なのです。

ユニバーサルな業界スタンダード「バルセロナ原則」

ご存じの方も多いかと思いますが、AMECは2010年に「バルセロナ原則」というコミュニケーションの効果測定に関する七つの原則を発表しました。この「バルセロナ原則」は名前が示すように、あくまでも“原則”で、測定方法そのものではありません。2015年にはコミュニケーションの環境変化に合わせて更新された「バルセロナ原則2.0」を発表しました。

バルセロナ原則2.0
バルセロナ原則2.0

2014年にカンヌPRライオンズの審査員を務めた米ミッチェル・コミュニケーションズ・グループCEOのエリース・ミッチェル氏(現会長)は、この年のカンヌPRライオンズでは、バルセロナ原則に留意しながら審査が行われたとリポートしています。

また、私自身が2016年に参加したIn2Summitという、Holmes Groupが主催するPR業界の国際カンファレンスにおいても、効果測定のパネルディスカッションでは、まず壇上のモデレーターが会場の参加者に向かって、バルセロナ原則に同意しているか確認をしてからディスカッションが始まりました。バルセロナ原則は、PR業界のユニバーサルなスタンダードで、この原則についての認識や共通合意がないとディスカッションは始まらないのです。

5番目の原則のみ独り歩きし、「バルセロナ原則」を「パブリシティーの広告換算禁止原則」だと認識されている方も少なくありませんが、広告換算の否定は七つある原則の一つであり、むしろ今の日本のPR業界で重視しなくてはならないのは、1番目と2番目の原則ではないでしょうか?

手段の目的化はだめ

1番目の原則では、ゴールの設定が重要だということを提言しています。この連載の第1回第2回でも触れられていましたが、われわれはPR活動を行う上で「何のためにPR活動を行っているのか」という目的を明確化しなくてはなりません。これが重要になってくる理由の一つに、手段の目的化を防ぐことがあります。

マイクロサイトなどプラットフォームの制作やイベントの実施、あるいはメディアに報道してもらうこと自体を目的化し、それによって何を達成したいのかを明確にしないまま走りだしてしまうというケースを多々見かけます。マイクロサイトのローンチ、イベントの実施は手段であり、メディアの報道はアウトプット(施策の成果)です。これらはアウトカム(目的に対する成果)でありません。そういった意味で、1番目の原則は2番目とリンクしています。

2番目の原則は、PRの効果測定は、アウトプットだけではなく(“だけ”という部分が重要)、アウトカムでも評価すべきであるという提言となっています。報道件数やメディアインプレッション、イベントの来場客数がアウトプットですが、それらだけではなく、ターゲット層の行動変容といったアウトカムを成果とし、それを測定すべきであるという趣旨です。

アウトプットの測定も重要

ただし、アウトプットの測定を否定する必要はありません。たとえば、アウトプットの評価は生産性のチェックに利用することができます。特定のコミュニケーションチャネルを他のチャネルと比較したり、特定の施策を他の施策と比較する上で、アウトプットの測定は有効です。

ある製品の認知度アップを目的とした活動をする場合、メディア向けのイベントをやる方が報道件数が増えるのか、商品をメディアにサンプルとして配るだけでも同程度の報道件数が期待できるのか、さらに、より少ない予算で同程度の報道件数を獲得できるのかなど、アウトプットの測定も施策の見直しに効果をもたらします。アウトプットの測定・評価で得たデータは、部署内で共有し、将来のPRプログラムの企画に役立てるべきです。

アウトプットも単なる数字ではなく、より意義のある数字に

アウトプットを測定する際に、メンション(発言・投稿件数)、インプレッション(接触可能数)、SOV(Share of Voice:競合ブランドと比較してのメディア露出件数の割合)、SOI(Share of Impression:競合ブランドと比較しての接触可能数の割合)などがありますが、単なる数字で評価するだけではなく意義のある数で評価すべきでしょう。

例えばメンションやインプレッションであれば、ネガティブ・ポジティブ・ニュートラルといったセンチメントもチェックし、ポジティブなものに絞って数をチェック、また、オーディエンスもターゲット層だけに絞ってチェックすべてきです。まったくターゲット層が読まない新聞に記事が出ても、その発行部数をインプレッションの数に組み入れるのは意味のない評価となります。


測定に関する成熟度マップ「M3」

AMECは2018年11月にM3(The Measurement Maturity Mapper)というPRの効果測定の成熟度を診断する無料のツールを発表しました。以下簡単にご紹介します。

M3の日本語版はまだありませんが、各組織・団体の効果測定の能力レベルを明らかにし、今後の改善に生かすべきスターターツールとして開発されました。M3はバルセロナ原則2.0およびAMECの統合評価フレームワーク(IEF:Integrated Evaluation Flamework)に基づき、組織がどのようなアプローチでコミュニケーションを測定・評価しているか、九つのグループに分類された57問の設問によって明らかにしていくものです。

このツール自体は、PRの効果測定を行うものではありません。しかしながら、約5~10分程度、設問に答えることにより、組織のベンチマーキングに加え、M3は実務的なアドバイスも提供してくれます。設問の前に、まずは、国、地域、業態、業界、規模、所属する業界団体など、組織の属性を選びます。これにより選択した属性が同じ組織同士の結果が比較できるようになります。多くの組織が登録して利用すればするほど、このツールの精度は上がります。日本企業の利用は今のところ少ないと推測されますので、今後より多くの利用が望まれます。

M3のベンチマークスコア
M3のベンチマークスコア

まず、設問を終えると上のイラストが画面上に出てきます。左から、「Reporting(測定レベル)」「Planning(計画のレベル)」「Impact」「Total」とそれぞれのゴール(山)への登頂度を表しています。左側の点線が平均値で右が回答者のスコアとなります。

M3のサイトの「Benchmark my scores against▼」というプルダウンメニューから、比較対象グループを選択できるようになっています。業態、所属部署、業界、エージェンシーのタイプ、組織規模(従業員数)、地域を自分と同じものを選ぶことにより、それぞれ選択したグループの平均値との比較ができます。

•    Reporting: どの程度まで、組織がアウトプット、アウトテーク、アウトカムを測定しているかといったレベルを表しています。
•    Planning: 組織が、コミュニケーションの計画、目的やKPIの設定、戦略や戦術を立てる上での事前の調査、PR以外の手法との統合において、どのようなアプローチを取っているか?
•    Impact: コミュニケーションと組織の望ましい成果をリンクするためにどのような手法を利用しているか?

具体的にはその組織のStrength(強み)とAction(とるべき行動)を「Reporting」「Planning」「Impact」の三つの領域でそれぞれ示してくれます。

最後に表示される実務的なアドバイス
最後に表示される実務的なアドバイス

このように各組織は測定・評価の改善のために、次に進むべきステップを確認することができます。無料なので、一度試してみるのもよいかもしれません。

M3はこちらのURLからお試しいただけます(現在は英語版のみ)。