キャッシュレス・ジャパン〜風穴が開いた現金の壁
2020/01/21
2019年10月1日。
消費増税スタートを期に、政府がキャッシュレス還元施策を導入。
世界的に見て「キャッシュレス後進国」といわれる日本。
政府のキャッシュレス推進も本格化する中、いよいよ「キャッシュレス・ジャパン」の幕が開けたといってもよい状況になりつつあります。
モバイル決済が急拡大する中、カード会社や銀行といった既存業界のみならず、さまざまな業界の主要プレーヤーに実装され、マネタイズが進んでいます。特に「3通」と呼ばれる、通信・流通・交通業界のプラットフォーマーは、キャッシュレスをてこに経済圏ビジネスを進めようと意欲的に展開しています。
そうした中、まさにこのタイミングを「キャッシュレス・ジャパン」のスタートと位置づけ、電通ビジネス共創ユニット キャッシュレスプロジェクトでは、「キャッシュレスに関する意識調査」を独自で実施。今回は、この調査結果をベースに、生活者のキャッシュレスがどう変化しているか、「キャッシュレス・ジャパン」の現況について、見ていきます。
生活者の約7割は、「キャッシュレス決済の頻度が増えた」
政府が消費税増税対策としてキャッシュレス還元施策をスタートして以降、「キャッシュレス決済の利用頻度が増えた」という生活者は71.0%となり、順調に広がっていることが分かりました。中でも、注目したいのは、「現金派」の動向。日本人はよく現金好きといわれる。そういった人たちがどう動いたのか。
調査結果の中でも、
「これまで現金しか使わなかったが、キャッシュレス決済を使うようになった」(5.6%)
「これまで現金がキャッシュレス決済より多かったが、キャッシュレスが増えた」(18.1%)
と全体の23.7%を占め、「現金派」のキャッシュレスシフトが着実にうかがえます。タイトルでも「風穴が開いた現金の壁」と書きましたが、こうしたキャッシュレスシフトが「日本の現金好きにも風穴が開いた」状況を示しているようにも見て取れないでしょうか。
では、生活者のキャッシュレスが順調に伸びている理由は何か。
キャッシュレス決済の利用頻度が増えた理由を聞くと、「政府のキャッシュレス還元施策を受けたいから」(49.3%)、「決済会社のキャンペーンや特典が魅力的だったから」(40.0%)、「レジでの決済スピードが速いから」(36.4%)の順で高い結果となりました。
政府やキャッシュレス事業者のインセンティブ、さらにはキャッシュレス本来の提供価値であるスピードが、生活者のキャッシュレスを後押ししているのがよく分かる結果となりました。
キャッシュレスが増えたのは、身近なコンタクトポイント
生活者のキャッシュレスは、一体どこで伸びたのでしょう。
キャッシュレス決済回数が増えたのは、「コンビニエンスストア」(69%)、「スーパー・ショッピングモール」(60.3%)、「ドラッグストア」(49.0%)の順で高い結果となりました。
生活者が日常よく利用するコンタクトポイントでの決済で増えており、キャッシュレスが、生活者にとって身近な存在になリつつあり、日常生活にも浸透している状況がうかがえます。
最も増えたキャッシュレスは、スマホ決済
では、どんな決済手段が伸びたのか。
最も増えたという回答が多かったのが、「モバイルQR決済」(58.1%)、次いで、「クレジットカード」(55.7%)という結果。
キャッシュレス決済手段として長らく存在しているクレジットカードを押しのけて、モバイルQR決済が、最も伸びたということになります。
一方で、過去10年を振り返ると、世界では2010年のGoogle Walletに始まり、14年のApple Payで加速。日本においても16年の楽天Payや18年のPayPayと、2010年代のキャッシュレスは、まさにスマートフォンが変えていったとも見えます。こうした状況を鑑みると、「スマホ決済」は、まさにキャッシュレス・ジャパンのけん引役になっているといえるでしょう。
スマホ決済で伸びる小口決済
増えているスマホ決済は、通常、どのくらいの金額帯で決済が行われているのか。
平均利用単価で見ると、クレジットカードが6747円なのに対して、例えばモバイルQR決済では、1957円と小口決済となっています。元々、高額決済においては、現金よりもクレジットなどのキャッシュレス利用が多く、比較的少額決済では、キャッシュレスよりも現金の決済が多かった状況の中で、こうした変化が足元で出てきていることも、小口決済で「風穴が開いた現金の壁」を象徴している傾向といえるかもしれません。
生活者の約8割は、「継続してキャッシュレスを使い続ける」
足元のキャッシュレスが好調に推移している状況はこれまで見た通りですが、今後、生活者のキャッシュレス動向はどうなるのでしょうか。
今回の調査結果では、政府のキャッシュレス還元施策が終了する20年6月以降も、全体の82.8%の生活者がキャッシュレス決済を利用し続けると回答し、今後もキャッシュレス決済の継続利用意向が高いことが分かりました。この調査結果を見ても、現状のキャッシュレスの成長は一過性ではなく、今後も好調に推移していくことを暗示しているように見えます。
2020年は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される。また、厚生労働省が省令改正の方針で推進している電子通貨の給与払いなどの検討を進めています。電通キャッシュレスプロジェクトでは、こうした動向を背景に、「キャッシュレスジャパン」が、「スマホ決済」をけん引役として今後もますます高まっていくと見ています。
<電通 キャッシュレスプロジェクト>
キャッシュレスプロジェクトの詳細については、電通 BD&A局 事業基盤開発部 吉富(cashless@dentsu.co.jp)までお問い合わせ下さい。