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2020にまだ間に合う! 中国インバウンド&越境EC入門No.2

2020/01/24

中国市場戦略のカギは“モノづくり”ではなく“物語づくり”

内需の減少に悩む日本企業にとって、中国からのインバウンド向けビジネスや、越境ECの重要度がますます高まりつつあります。電通CXCは日本・中国クロスオーバー消費行動モデル概念「SSSフレーム」を開発し、中国人の消費行動を旅マエ(共感:Sympathize)、旅ナカ(驚感:Surprise)、旅アト(共有:Share)の3段階に分類し、消費者の心理変容を表しています。

3段階の中で特徴的なのが、旅マエの「共感:Sympathize」。中国ではウェブ上の情報量が年々増加しており、情報を一方的に伝える従来型の広告的なアプローチだけでは、商品やサービスの購入に至らないのが現状です。そんな中国市場攻略の要となるのは、エンタメコンテンツの物語性を活用し、「共感」を獲得するアプローチ。

自らショートフィルムの映画祭を長年主催し、中国のコンテンツ事情にも精通する俳優の別所哲也氏と、日本のリアルな土着文化を中国の動画配信サイトで発信し、人気を博している日本人クリエイターの山下智博氏に、電通CXCプランナー武藤隆史が、中国市場開拓のポイントを伺いました。

左から、山下智博氏、別所哲也氏、電通 武藤隆史氏
左から、山下智博氏、別所哲也氏、電通 武藤隆史氏


日本と世界をつなぐ、グローバルプラットフォームを構築

武藤:近年、ネットの情報量は世界レベルで急激に増えています。2010年から2020年にかけての情報量が40倍にも膨れ上がっているというデータがあり、中国でも同様の状況があるかと思います。情報が飽和しているソーシャルメディア時代において、商品をユーザーに買ってもらうためには、まず彼らに“共感”してもらうことがとても重要だと考えています。

山下さんは中国の動画配信サイトbilibili動画で配信者として活動し、日本人クリエイターながらチャンネル登録者数200万人以上と、中国のファンにまさにカリスマ的な人気を博していますよね。その爆発的な人気にはなにかきっかけがあったんですか?

山下:2013年から中国人視聴者向けに動画を配信しているんですが、その頃の中国ってまだインターネットが黎明期で動画をつくる人がいなかったし、動画配信サイトなどのプラットフォームもなかったんです。逆にその頃の日本では、少しずつYouTuberによる配信文化が盛り上がり始めていて、この流れは絶対に中国にも来るだろうと思っていました。

株式会社ぬるぬる 山下智博氏
株式会社ぬるぬる 山下智博氏

当時の中国の若者にとって、日本ってアニメやドラマの世界でしかなかったんですよね。日本の文化祭にはめちゃくちゃ上手い学生バンドがいたり、みんな校舎の桜の木の下で告白したり…といった感じだったので、華々しい日本の学校生活しか知らない中国の若者に対して、“陰キャ代表”として「若い日本人のリアルな学校生活なんてこんなもんだぞ」ということを発信したら「なんだ、中国とあまり変わらないじゃないか」という気付きがあったみたいで。そこで「リアルな日本」を求めていた若者たちの共感が得られたんだと思います。

武藤:山下さんは、今年「株式会社ぬるぬる」を立ち上げましたね。どういった狙いがあるのでしょうか?

山下: 今の主な事業は、“日本製コンテンツの中国向けローカライズ”です。日本にあるけど中国にはなくて、中国で人気が出そうなものをピックアップし、中国のオーディエンスに受け入れられる形にアレンジして届ける挑戦をしていきたい。今、中国に持って行きたいコンテンツとして注目しているのは、日本のミュージックビデオとバラエティー番組のひな形ですね。うまくいけば中国でも流行するかなと思っていて、そのために、既に制作したものを自分のチャンネルで実際に配信して反応を集めており、バラエティー番組は成功の兆しが見えてきています。自分のチャンネルを、日本チームの試作品を流すことのできる、オープンなプラットフォームにしたいと思っています。

武藤:あらゆるコンテンツの窓口となるプラットフォームということであれば、別所さんは俳優業のイメージが強いですが、実は、ショートフィルム限定の映画祭「SSFF(ショートショートフィルムフェスティバル)」を長年主催されていますよね。

別所:映画祭をつくるきっかけは、役者としてアメリカに行ったことでした。

俳優 別所哲也氏

俳優 別所哲也氏

1989年頃、僕がハリウッドにいたときに、「日本人は、モノづくりはできるけど、プラットフォームをつくれない」「アーカイブオークションのビジネスができない」と言われたんです。当時は20代だったのでピンと来ませんでしたが、確かに僕たち日本人って「黙って良いモノをつくったら売れるし、伝わる」という奥ゆかしい発想で(笑)。

「日本の商品やコンテンツはクオリティーが高い」というブランドイメージはあって、とても良いことなんですけど、モノづくりに自信を持っているがゆえか、その後のコミュニケーションが足りていない。

ショートフィルムの魅力にとりつかれたときに、やっぱり世界に発信するプラットフォームが必要だなと思って、作品が集まる場所、人が集まる場所、ショートフィルムがランキングされる場所としてのSSFFをつくりました。


日本から世界に向けて、つくるだけではなく発信する必要性

山下:たしかに、日本のコンテンツホルダーって、せっかく良いコンテンツを持っていても、ライセンスを海外の代理店に売って終わりというビジネスで、その後の現地での展開に関わっていないから、もったいないんですよね。いいモノをつくっていれば売れるっていうのは幻想で。

そう考えると、別所さんがショートショートのプラットフォームをつくられて、コンテンツを現地に紹介するだけでなく、各国でビジネスとして広げているのはすごく価値があると思います。

武藤:この流れでお聞きしたいのですが、SSFFの公式部門である「Branded Shorts(ブランデッドショート)」について聞かせてください。なぜこの部門をつくられたんですか?

第1統合ソリューション局 武藤隆史氏
第1統合ソリューション局 武藤隆史氏

別所:ブランデッドショートは企業やブランドのメッセージをただの広告動画として発信するのではなく、物語性のあるエンターテインメント動画にすることで、ユーザーの共感を得ることができるショートムービーコンテンツです。最近は、マス広告を打った商品が売れるという構図ではないケースが増えていますよね。例えば小樽の小さなお店のせんべいが、中国のインフルエンサーの口コミで急に注目を集めるようになって、中国人観光客に爆買いされていたり。

武藤:なんで急に売れたのか分からないというクライアントの話もよく聞きます(笑)。

山下:今の時代、あらゆる商品やサービスが、価格と品質も、大体寄ってきちゃっているので、口コミだったり、背景の物語だったり、別のモノで判断していかないとなかなか選べないですよね。

別所:例えば、おむつを買うという行為ひとつとっても、テレビCMのナレーションが「このおむつは機能性に優れていて、デザインにこだわり…」と言っていたモノよりも、信頼できるママ友が「これはうちの子どもが使っていたおむつ、おすすめだよ」と言ったモノを買う。この場合はママ友が子育てに苦労したことを知っているから、その物語に共感できる。そこにあるお母さんの物語とか、その商品をつくっている人たちの誠実な思いとか、なにか自分の価値観とつながっているから買うんですよね。

そういう意味で、ブランデッドショートのような、物語性の高い、共感のできる「動画」は非常に有効になってくるんです。ですので、設立理由としては、企業側からの要望という面もありましたが、世界の需要に応えるため、必然的に生まれたモノでした。

俳優 別所哲也氏


人を動かすストーリーのポイントは“共感”と“違和感”の融合

武藤:共感してくれるコンテンツの裏側には、やはり共通点がありそうですね。

山下:商品自体の物語ももちろんですが、ユーザーと商品の間に生まれるストーリーがあると、ずっと好きでいてもらえるんですね。「俺、こういうことがあったからこの商品を使い続けているんだよ」「俺、こういうことがあるから毎年ここに行くんだよ」というストーリー。

僕の場合でいうと、多感な年頃に僕の変な動画に出合って頭から離れなくなってしまった人のことは生涯アフターケアしたい(笑)。そういうファンに「中国人のためにがんばってくれた山下を応援したいし、山下がいいっていうモノなら見たい」と思われる人間になれれば、ずっと関係性が続いていくし、そこにはうそとか欺瞞も生まれない。そういうことをずっとやっていきたいです。

株式会社ぬるぬる 山下智博氏

別所:共感も大事だけど、「違和感」を大事にするのがポイントだと思っています。というのは、国が違えば文化や価値観も違うじゃないですか。日本と中国ではファイティングポーズのとりかたも、握手の仕方も、酒の飲み方も違う。そういう違和感を否定せず、共感も違和感もセットで発信していくのがいいのかなと。悪い意味じゃなくて、最後は冗談を言い合えたり、違いを認め合えればいいのであって。

山下:そういう意味でも、僕は日本人クリエイターが中国にもっとどんどん入ってこられるようなプラットフォームをつくりたいですね。それでもっと日中合作で良いモノができればいいなと。

別所:できますよ。「僕らは同じアジア人なんだから握手をして、世界で名を成そうぜ」というノリで(笑)。言葉が分からなくても、頑張れば筆談だってできますからね。中国と日本のさらなる連携が楽しみですね。

左から、山下智博氏、別所哲也氏、電通 武藤隆史氏
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株式会社電通 Dentsu CXC(デンツウ シー・バイ・シー)
Email:dentsucxc@dentsu.co.jp