loading...

日本の広告費No.7

「2019年 日本の広告費」解説―インターネット広告費が6年連続2桁成長、テレビメディアを上回る

2020/03/11

3月11日、「2019年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ4媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーションラボの北原利行が解説します。

北原利行
 

2019年 日本の広告費の概要

2019年(1~12月)における日本の総広告費は前年比106.2%(※)の6兆9381億円で、2012年から8年連続で前年実績を上回りました。

※今回から新たに「日本の広告費」における「物販系ECプラットフォーム広告費」(※1)と「イベント」(※2)を推定対象に追加した。前年同様の推定方法では前年比101.9%の6兆6514億円。


日本の広告費は大きく「マスコミ4媒体広告費」「インターネット広告費」「プロモーションメディア広告費」に分類しています。

総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ4媒体が37.6%、インターネットが30.3%、プロモーションメディアが32.1%です。マスコミ4媒体のうちテレビメディアは26.8%でした。2014年以来2桁成長を続けるインターネット広告の構成比が、テレビメディアの構成比を上回りました。

媒体別広告費 2017~2019媒体別広告費 2017~2019

●マスコミ4媒体広告費

新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマスコミ4媒体広告費は、前年比96.6%の2兆6094億円でした。内訳は、新聞が前年比95.0%、雑誌が91.0%、ラジオが98.6%、地上波と衛星メディア関連を合わせたテレビメディアが97.3%と、いずれも減少しています。

●インターネット広告費

6年連続で2桁成長を遂げているインターネット広告費(媒体費+広告制作費+「物販系ECプラットフォーム広告費」)は、前年比119.7%の2兆1048億円で、テレビメディアの1兆8612億円を上回りました。

なお、「物販系ECプラットフォーム広告費」を除いたインターネット広告費は、前年同様の推定方法でも前年比113.6%の1兆9984億円で上回っています。

内訳を見ると、媒体費は前年比114.8%の1兆6630億円。制作費は前年比107.9%の3354億円となっています。今回追加推定した「物販系ECプラットフォーム広告費」は1064億円、参考値となりますが、前年比は129.4%程度とみられます。

特に媒体費は、大型プラットフォーマーを中心に堅調な伸びが続いています。そのうえで、後述する「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」や、今回追加推定の「物販系ECプラットフォーム広告費」が、広告費全体をさらに押し上げる結果になりました。
 

●プロモーションメディア広告費

前年比107.5%の2兆2239億円ですが、この数字には2019年から推定範囲を増やした「イベント・展示・映像ほか」の増加分「イベント」も含んでいます。その増加分を抜きにしても、「屋外広告」「交通広告」「展示・映像ほか」が純増しています。

交通広告は紙媒体の落ち込みをデジタルサイネージでカバーする傾向が続いています。2019年は特にタクシービジョン市場が急速に拡大しており、今後に注目です。

媒体別構成比

総括すると、さまざまな情勢の変化で日本のGDPがかなり減速する中でも、インターネット広告が変わらず広告費全体を牽引したといえるでしょう。

総広告費 2011~2019

「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント・展示・映像ほか」を追加推定

2019年から、インターネット広告費に「物販系ECプラットフォーム広告費」、プロモーションメディア広告費に「イベント」の項目を新たに設定し、それぞれの広告費を推定しています。

●新設項目「物販系ECプラットフォーム広告費」

ECプラットフォーム広告市場は「物販系」「サービス系」「デジタルコンテンツ系」の三つから成り立っています。今回はその中でも、推定が困難なサービス系、デジタルコンテンツ系以外の「物販系ECプラットフォーム」を追加推定しました。

推定に際しては、すでに「日本の広告費」に含まれている部分は排除いたしました。

(参考記事:「2018年 物販系ECプラットフォーム広告費の推計調査」解説

●改定項目「イベント・展示・映像ほか」

昨年までの「展示・映像ほか」から推定範囲を拡張した「イベント・展示・映像ほか」は5677億円。

推定範囲が広がっているためあくまでも参考値になりますが、昨年の「展示・映像ほか」の3585億円と比べると前年比158.4%と急伸しています。前年同様の推定方法の場合は108.1%となります 。

新元号制定に伴う祝賀イベントや、東京大改造が進む各エリアでシティブランディングを目的としたイベントが多数実施されました。プロジェクションマッピングなどの映像テクノロジーを活用したイベントやセレモニー、パーティーなどの開業イベントなどです。また、大阪で開催されたG20や、ローマ法王の来日、ラグビーワールドカップなど大型イベントが続いたことで、好調に推移したと考えられます。

映像関連に関しては、スマートフォンの普及により、動画コンテンツを生かしたプロモーションが大幅に増加。消費者へのブランディングや購入促進など、態度変容を促しやすいことが強みとなっています。また、テクノロジーによるエンタメの多様化が進み、VRを活用した体験型のアトラクションが増えています。
 

マス4媒体のデジタルトランスフォーメーションが本格化

多くの人がスマートフォンで情報を検索する時代。2019年も大規模プラットフォーマーを中心に、インターネット広告費が高い成長率を見せました。

広告主にとって、閲覧頻度やユーザー数が多いインターネット広告は利点が大きく、高効率が見込める運用型広告が全体の伸びに寄与する流れは例年通り変わりません。

一方、近年は特に運用型広告の課題として、アドフラウド(広告詐欺)やブランドリスクといったトピックが浮上しました。これに対して広告主が、自社サイト・オウンドメディアやソーシャルメディアを起点に広告活動を行う動きも活発化しています。

そんな中「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」が、インターネット広告費の伸び率よりも高く伸長しています。2019年の「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」は715億円、前年比122.9%と2桁成長しており、特に雑誌、テレビメディア関連動画(後述)のデジタル広告が伸長しました。

マスコミ4媒体由来のデジタル広告費

●新聞デジタル

前述のデジタル広告の課題に対し、新聞のデジタル版が信頼性の高い枠として評価されています。プラットフォーマーへのコンテンツ配信などの試みもあり、各社デジタルファーストに向けて、着々と変容しつつあることがうかがえます。

●雑誌デジタル

現在、電子出版市場が大きく伸びているため、紙と電子出版を合わせた「市場全体」は前年比100.2%と、電子出版の統計開始以降で初めて前年を上回りました(数字出典:出版月報2020年1月号)。紙媒体の落ち込みをデジタルでカバーし、さらに成長に転じています。

こうした背景もあり、雑誌デジタル広告は前年比120.2%と大幅に伸長。雑誌自体がデジタル化するという意味でのデジタルシフトが進む中で、新たな広告市場も生まれつつあります。

そしてタイアップ広告、動画広告などの企画広告がアドネットワークとともに大きく拡大。また、SNSやインフルエンサー育成、コンテンツスタジオ設立、スタートアップ企業との協業など、デジタルを起点とした新事業も積極的に展開しています。

●ラジオデジタル

radiko「ラジコオーディオアド」などの広告は順調に増加しています。今後は5GやIoTが本格化する中で、ジオターゲティングなどを活用し、さらに大きく開拓されていく広告領域と考えられます。

●テレビメディアデジタル

テレビメディアのデジタル広告は依然成長を続けており、特に「テレビメディア関連動画広告」が前年比148.5%と急成長しています。これはテレビ受像機向けアプリでの配信も始まった民放公式テレビポータルTVer(ティーバー)など、インターネット動画配信における広告費です。

TVerに限らず、地上波テレビ由来のコンテンツ力が徐々にデジタル領域で活用されつつあるといえそうです。さらに、2020年はスポーツコンテンツのライブ・ハイライト配信がさらに加速することが期待されています。

いよいよ本格化する5GやIoTなどの技術の進歩に伴い、アドテクノロジーはこれからも進化し続けることでしょう。データマーケティング時代の中で、従来のようにメディア単位で考えるのではなく、あくまでもターゲットを中心に据えた上で、いかに精緻にアプローチしていくかというのが、これからの「広告」だと思います。ターゲットの好みや属性なども細やかに捉えた、横断的な広告のあり方が当たり前になってくるのではないでしょうか。

「2019年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。

日本の広告費推定範囲日本の広告費推定範囲
※1 「日本の広告費」における「物販系ECプラットフォーム広告費」
生活家電・雑貨、書籍、衣類、事務用品などの物品販売を行うEC(電子商取引)プラットフォーム(これを、本広告費では「物販系ECプラットフォーム」と呼ぶ)上において、当該プラットフォームへ“出店”を行っている事業者(これを、本広告費では「店舗あり事業者」と呼ぶ)が当該プラットフォーム内に投下した広告費と定義した。より広い意味での「EC領域での販売促進を図るインターネット広告費」全体を指すわけではない。また、2019年7月29日にD2C・CCI・電通3社共同で「物販系ECプラットフォーム広告費」を発表したが、今回「2019年 日本の広告費」調査によって、新たに「日本の広告費」との重複部分を排除、再定義し追加推定した。2018年822億円(参考値、「2018年 日本の広告費」には含まれない)/2019年1064億円(参考前年比129.4%)

参考)2019年7月29日 D2C・CCI・電通3社共同リリース;
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0729-009857.html
2018年実績1123億円(前年比120.6%)
2019年予測1441億円(同128.3%見通し)

↑本文へ

 

※2 「イベント・展示・映像ほか」
販促キャンペーンも含む広告業が手掛ける各種イベント、展示会、博覧会、PR館などの製作費、シネアド、ビデオなどの制作費と上映費などを合計したもの。従来より推定していた「展示・映像ほか」の項目に、次の定義によるイベント部分を追加した。

「日本の広告費」における「イベント」広告費(2019年1803億円、2018年は推定できなかったため非開示)の定義:広告業が取り扱うイベント領域のうちディスプレイや展示会、博覧会、プロモーション映像制作などを除外した販促キャンペーン、ポップアップストア、スポーツイベント、PRイベントなどの製作費。
 

↑本文へ