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電通クリエイターによるアート展「ONE CREATIVE」ReportNo.2

新旧の垣根を飛び越える、現代の「やまと絵」。

2020/03/04

1月26日~2月8日、東京・日本橋のgalerie H(ガルリアッシュ)で開催された電通クリエイターによるアート展「ONE CREATIVE」Vol.1。

ONE CREATIVE ロゴ

普段、広告をつくっているクリエイターが、クライアントの課題解決という形ではなく、内面から湧き出るものをカタチにしたらどうだろう、というこの企画。 シリーズ第2回では第1CRプランニング局の中澤真純クリエーティブディレクターに話を聞きました。

中澤真純クリエーティブディレクター
中澤真純クリエーティブディレクター

富士山とプリン。

ギャラリーに入ると、縦横がそれぞれ身長ほどもある巨大な作品たちが目に飛び込んできます。岩絵の具や金箔など、日本画ならではの画材で描かれているのですが、モチーフはなんだかとても現代的です。

──これらの作品は、どのような思いで描かれたものなのですか。

日本絵画は、中国・唐時代の「唐絵(からえ)」の影響を受けながら、平安時代の頃から「やまと絵」として成立していったそうです。「やまと絵」は、日本の風土、民衆の生活、物語や和歌、寺社の由来、仏画がモチーフとなりました。
 
私も日本絵画の系譜の末裔ならば、物語や和歌などはともかく、私の感覚で捉えた、日本の風土、民衆の生活、を「やまと絵」として描くべきなのだろうな、と考えていました。
 
例えば、題材としての富士山。

室町時代になると、富士山を中心的モチーフとして扱う絵画が登場するようになり、江戸時代には、富士山信仰が一般化されるにつれ、富士参詣曼荼羅図が量産されるようになったそうです。葛飾北斎が描き、さらに、横山大観、片岡球子が描いたモチーフに、私はどう対峙すればいいのでしょう。
 
プリンはどうだろう。私は、ふとそう思いました。
富士山を中心的モチーフとして扱う絵画において、富士山をプリンに置き換えてみる。これでいいやと。

作品「Cape Town Pudding」
作品「Cape Town Pudding」

富士山の絵が大人気だった江戸時代の人は、富士山の絵をそらで描けたでしょう。現代人も富士山をそらで描けますが、同じようにプリンもそらで描けますよね。江戸時代の人にはプリンは描けません。

富士山という「やまと絵」のアイコンとも言えるモチーフを、プリンというアイコンで置き換えてみる。これは現代人の私だからできるアプローチです。

私は、この、いいかげんなアプローチで、私なりの「やまと絵」をスタートさせました。その後、日本庭園の構成をコンビニの幕の内弁当の盛り付けと置き換えたり、琳派の波紋パターンをラーメンの麺に置き換えたりして、制作を続けました。

作品「Makunouchi Lunch」
作品「Makunouchi-Lunch」
作品「Soy Source Ramen」
作品「Soy Source Ramen」

──なるほど!だからお弁当やラーメンが、こんなに大きく描かれているのですね。言われてみると、お弁当のご飯が石庭に見えてきました。他にも、いわゆる日本画には描かれてこなかったであろう、モダンなモチーフが。

作品「Sunny Day Shinkansen」
作品「Sunny Day Shinkansen」
 
作品「Hot Day Parliament Building」
作品「Hot Day Parliament Building」

──普段はアートディレクター・クリエイティブディレクターとして活躍されていますが、アーティストとしてはどのように活動していますか。

絵描きとしては、公募展へのチャレンジを自分に課して、入社から10年くらいは、毎年2〜3作くらい、出品を続けていました。入賞して賞金が入れば個展も開きました。その後、本業のアートディレクターが忙しくなって休止しておりましたが、最近また描きだしています。

合理的に考える部分と、感覚的な部分

──広告業務とアーティスト活動の両立は、時間的な観点では本当に大変なことだと思います。広告制作者とアーティスト、二つの顔があることで良かったことはなんですか。

広告はカメラマンやイラストレーターとのコラボレーションですし、クライアントの依頼によって作られるものなので、私には動機がなく、自ら手を使いません。頭のみです。絵描きの場合、私には制作の動機が内在していて、自ら手を動かします。頭も使いますが、広告制作の時のように合理的には考えていません。妄想を楽しんでいるような頭の使い方です。おそらく、私の絵描きの部分がアートディレクターとしての機能に影響を与えているように思います。絵描きに立脚したアートディレクターという特徴が、私の広告のビジュアル作りの個性となっています。

──今後のアーティスト活動の予定があれば教えてください。

今、30枚くらいパネルに絵の具を塗りつけています。きっと、1年後くらいに個展ができるかもしれません。その前に、何かまた、公募展にチャレンジしようと思っています。

──ありがとうございました。


「やまと絵」は、進化し続ける。

古くから受け継がれる絵画の手法と、新しいモチーフ。時空を越えて掛け合わせることによって中澤さんのオリジナリティーが生まれます。これからも挑戦を続けていく中澤さんの、今後の展開が楽しみになりました。

このシリーズでは、電通クリエイターのいろいろな創造の源をご紹介していきます。 Vol.2では、若田野枝さん、くぼたえみさん、平田優さんの作品をご紹介します。