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TANTEKI -新しすぎるアイデアが、伝わる。加速する-No.7

2020/03/27

コピーライターは、経営にどう貢献できるのか。

企業の伝えたいことを「伝わる形」にデザインする電通TANTEKI。今回のゲストは、賃貸不動産サービス「ietty」(イエッティ)の小川泰平社長です。

iettyは店舗を持たないオンライン完結型の不動産サービスで、仲介手数料を大幅に削減しつつユーザーに最適な物件を紹介することを実現しており、この数年で多くのユーザーの支持を集めています。

同社の事業を定義する「ことば」をつくったコピーライター/CMプランナーの諸橋秀明が、小川社長に、同社における「ことば」の活用方法、実感している効果、そして経営にどうコピーライターが貢献できるのか、について聞きました。

電通・諸橋秀明氏、ietty・小川泰平社長
電通・諸橋秀明氏、ietty・小川泰平社長
<目次>
スタートアップの従業員数が150人を超えると何が起きる? 
スタート地点にある「ことば」を全ての企業活動に落とし込む
「ことば」を外に説明することで社員の思いも強くなる


スタートアップの従業員数が150人を超えると何が起きる? 

誠実を、テクノロジーで実現する。

諸橋:iettyの価値や世界観を表わし、会社を一つにしていく言葉として、「誠実を、テクノロジーで実現する。」というものを提案しました。TANTEKIから「ことば」をお買い上げ頂いた決め手はなんだったのでしょうか。

小川:数人から始まった当社が、成長して250人の規模になり、オフィスも分散したことで、創業当時と比べて「社員の気持ちが一つにならない」「何にコミットメントしているのかが分かりづらい」という課題が出てきたのです。以前から「従業員が150人を超えると思想が一つになりづらい」という話は聞いていたのですが、まさにそれを実感しました。

特に採用を急ピッチで進めて、20代前半の社員が多数入社したことで、一人一人がコミットメントする対象がバラバラになっていると感じるようになりました。そんなときに、電通から「会社の事業価値を定義する言葉をつくらないか」とご提案いただいたわけです。

諸橋:思想が一つにならないと実感するのはどんな時ですか?

小川:生々しい話ですが、退職者が増えた時です。「やりたいことが分からない」という曖昧な理由で辞めていってしまう社員がいたんですよ。まだ人数が少なかった頃なら、私と社員が1対1で直接対話することで、会社としてやりたいことや世界観を共有できていましたが、人数がここまで増えるとそれも難しくなります。

諸橋:「誠実を、テクノロジーで実現する。」という言葉を提案させていただきましたが、その活用に関しては、電通はそこまでコミットできていません。現在、社内でどのように活用されているのでしょうか?

小川:ありとあらゆる場面で活用しています。例えば社内の全体会議の冒頭に、「当社のミッション実現に向けて」という話をするのですが、まず、「僕らは、『誠実を、テクノロジーで実現する』ためにここに集っていますよね」というところから話をスタートします。その上で、具体的なミッションについて伝えていくのですが、「なぜこのミッションに取り組まなくてはならないのか」「なぜこの数値目標を達成しなくてはならないのか」の根本が明確に示されているので、理解が早く、深くなります。

あるいは、社員採用の際にも、「われわれは『誠実を、テクノロジーで実現する』会社です」と説明をしています。もちろん、以前も「不動産業界でAIを使ってコストを下げ、嘘のない、良いサービスを提供することを目的としている」ということは伝えていたのですが、それを一言でスパッと伝えられる言葉がないと、コミュニケーションが冗長になります。

「ことば」があることで、会社が目指している世界観の魅力を、社内にも社外にも、何倍にも増して伝えることができるようになりました。退職者も減りましたし、辞めるとしてもその理由が明確であることが多くなりました。 

スタート地点にある「ことば」を全ての企業活動に落とし込む

ietty 小川泰平代表

諸橋:そういった活用をしていただけるのは、ことばを提案した者としてとても嬉しいです。社内で貼ってたりするんですか?

小川:あらゆるところに貼っています。一つのオフィスに10カ所ぐらい。トイレにも貼っています(笑)。あとは、先ほど言ったように、全体会議で大きなミッションを伝えるときは必ずこの「ことば」に触れます。例えば、当社は上場を目指していますが、その目標に向かって全社員にコミットメントしてもらいたい。そこで、こういう話をしています。

「僕は、『誠実を、テクノロジーで実現する。』という言葉を、サービスを良くしながら、シェアを伸ばし、会社を知ってもらうことで実現しようと思っています。そして、会社のサービスを多くの人に知ってもらうためには、上場が不可欠です」

このように、会社の存在意義と、「上場」というミッションの関係性を明らかにした上で、そのためには各社員が何をしていくべきか、という話につなげていっています。

諸橋:スタート地点の「ことば」があることで、そこを起点にこの1年で何をすればいいのか、この3カ月で何をすればいいのか、明日何をすればいいのか、とブレークダウンしていけるのですね。

小川:そうなんです。従来は、「自分のこの業務はなんのためにやっているのか」を理解せず、それぞれが違うものにコミットメントしてしまっていることがあった。この「ことば」を中心に据えたことで、コミットメントする理由が明確になり、会社が文字通り一つになれたんです。

また、「ことば」を社員の評価指標にも落とし込んでいます。具体的には、上場するための定量的な目標に加えて、定性的にどう行動していくかを設定するI・E・T・T・Y(イエッティ)という行動指針を設定しています。Iはイノベーション、Eはエフォート、Tはサンクス、チームワーク、Yはユアセルフで、この五つの行動指針をもとに、「誠実を、テクノロジーで実現する。」を達成していこう、という構造にしています。

これら全ての大上段に「誠実を、テクノロジーで実現する。」があるので、例えばプロダクトの機能を決めるときにも、誠実を実現するための機能を入れていくという発想になります。

諸橋:私が提案した「ことば」が、想像以上にいろんな使われ方をしていくのが興味深いです。例えば、アプリのUIも「獲得効率が高いか/おしゃれかどうか」よりも、「お客様に対して誠実かどうか」という判断基準が実装されていくというようなことでしょうか。

小川:はい、まさに会議でそういう会話が交わされたりしています(笑)。新たなサービス開発の議論の中で、「そのやり方は誠実じゃないんじゃないか?」という意見がエンジニアから出てくることもあるんです。結果として、以前に増してお客様に対して誠実であり続けることが軸になってきていますね。

「ことば」を外に説明することで社員の思いも強くなる

電通・諸橋秀明

諸橋:スタートアップ経営者と話をしていると、「自分たちでつくった言葉が浸透していかない」という悩みもよく聞きます。こうした「ことば」を社内にしっかり浸透させるために何が必要だと思いますか?

小川:まず、すごく大事なことは言葉が“イケてること”です。「誠実を、テクノロジーで実現する。」という言葉は、僕の中ではめちゃくちゃイケてるんです。社員も気に入っています。しかし、僕らは言葉のプロではないので、自分の思想をイケてる風に表現することはできません。そのためには諸橋さんのように、経営者が言った言葉を、世の中に分かりやすく表現する人が必要だと思います。

諸橋:スタートアップでは役員合宿などをして、自分たちで言葉をつくっている会社が多いと聞きます。やはり、会社の芯となる言葉は、自分からしか出てこないと考えている経営者が多いと思います。外部のコピーライターに発注していただくのには、勇気が必要だったのではないでしょうか。

小川:そこは、もともとの電通との信頼関係があったから依頼できたのだと思います。私も本音を伝えられますし、しっくり来ないなと思ったら遠慮することなく差し戻しもさせてもらいました。そういう意味ではやはり、経営者の気持ちに寄り添ってもらえる人と、コミュニケーションをしっかり取りながらつくっていくことが大事かなと。

実は僕らもそういう役員合宿をやったことがあるんです。「この会社のいいところ、何だと思う?」と言って、言葉が10個ぐらい出てくるのですが、それらを全部表そうと思うと、だんだん「世界を変えよう」みたいな抽象度の高すぎる言葉になってくる(笑)。何を言って、何を言わないべきかの判断が、どうしても自分の会社のことなので、「削る」ことがなかなかできないのです。

諸橋:最大公約数的になってしまうのですね。これもあれも押さえて、あれも入れる、みたいな。それは届かない言葉になることが多いですね。かといって、逆に「AIチャットで部屋探し」のように、事業を狭く規定し過ぎてしまう場合もあるかと思います。

小川:コピーライターのように、人に伝える能力というのは、おそらく特殊能力なのではないでしょうか。どんなに良いことを考えていても、それが人に伝わるか、刺さるかというのはまた別の問題です。150人を超える人間の思いの方向をまとめるためには、“刺さる言葉”でなければなりません。

採用活動で良い人材を集めるためにも、スタートアップが大企業と戦える武器があるとしたら、「どんな強い気持ちでこの会社を立ち上げたか」という、思いの部分です。だから思いを端的に伝えられる「ことば」を持っているかいないかで、大きな差が出てきます。インナーコミュニケーションだけでなく、例えば投資家用の資料にも、最初にこの「ことば」があることで、強い思いが伝わりやすくなります。

諸橋:対外的にこの言葉を発信したときの反応はありますか?

小川:まず、僕のキャラクターと「誠実」「テクノロジー」という言葉が一致しないので、いじられますね (笑)。とは言いながらも、キャッチ―なので、一発で覚えてもらえます。もっと早くから「誠実を、テクノロジーで実現する。」と言っておけば、会社の見え方が変わっていただろうと思いますね。

あとは、社員がお客様に説明するときにも「僕らはこういう会社です」と言えばスパッと伝わりますし、伝わることで社員自身も「そうしていかなくては」というマインドセットになる。つまり、「外に対して分かりやすい言葉を自分たちで唱えていくことで、その思いが強化される」という循環が生まれています。

諸橋:内側につくった言葉を外に出していくことで、また内側が高まるという構造なのですね。ここまで使い倒していただけて、本当にありがたいです。

小川:会社が実現したい世界観を分かりやすく表現する言葉を持って、人を束ねていければ、僕も幸せですし、従業員も幸せです。そして、本当にテクノロジーで不動産業界を誠実にすることができたら、お客様もみんなうれしいですよね。

諸橋:本日は貴重なお話を、ありがとうございました。

電通・諸橋秀明氏、ietty・小川泰平社長