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SDGs達成のヒントを探るNo.1

2020/04/03

SDGsに必要なのは“本気の議論”と“横のつながり”

本連載ではさまざまな有識者や実践者からお話を聞き、SDGs達成のためのヒントを探っていきます。

第1回は、SDGsを広く浸透させるために尽力している、国連広報センター所長・根本かおるさんにインタビュー。

日本のSDGsに対するこれまでの取り組みを振り返り、現在の課題を踏まえて解決のための提言を頂きました。

根本かおる氏
国連の活動を日本で伝えている、国連広報センター所長の根本かおるさん。あらゆる世代でSDGsについての理解が深まり、目標達成に向けてアクションを起こしてもらえるように、メディアやイベント、SNSなどで幅広く情報発信を行っている。

行政のSDGsへの取り組みは早かった日本。制度的なレールはすでに敷かれている

――2015年9月に国連総会でSDGsが採択されました。各国で取り組みがスタートしてから今年で5年目を迎えます。これまでの日本の取り組みを振り返っていただけますか?

根本氏:SDGs(Sustainable Development Goals)は、193の国連加盟国が2016~2030年の15年間に達成するために掲げた「持続可能な開発目標」です。世界のあらゆる貧困や差別をなくし、気候変動や環境保護などにも目を向けながら、社会開発を行っていくために、17の目標と各目標に紐づく169のターゲットを定め、世界が一丸となって取り組む非常に大きなチャレンジです。

SDGs
取り組みがスタートしたのは2016年1月ですが、日本は同年のG7サミット(伊勢志摩サミット)の議長国でした。このサミットではSDGsが初めて首脳レベルで議論されることもあり、日本は首相を本部長に全ての閣僚がメンバーとして関わるSDGs推進本部を設けました。全省庁を横断する会議体をつくる取り組みは、世界の中でも大変早かったと思います。

さらに2016年12月には、日本の方向性を示すSDGs実施指針を策定。その改訂版が2019年12月に出されました。加えて、政府はSDGsの目標を実現するためには、自治体の動きが大切と考え、自治体の中から、SDGsに向けた優れた取り組みを提案する29都市を「SDGs未来都市」に選定。中でも特に先導的な取り組みを行う10事業について補助金を出す制度が2018年から始まりました。

政府以外にも、経団連は、Soiety5.0(※)のAI、IoTという技術をベースに、「誰一人取り残さない豊かな社会を築いていこう」というビジョンを掲げています。教育界に目を向けると、小学校では2020年度から、中学校では2021年度から学習指導要領にSDGsについての学びが入ってきます。すでに先取りしてSDGsについて教えている先生もいらっしゃいます。実際、若年層におけるSDGsの認知度や関心は大変高まっています。

これまでの国の取り組みを振り返ると、制度的なレールはすでに敷かれていて、あとは自治体や企業、団体がどれだけ具体的なアクションを起こしていけるかというフェーズになっています。

※Society5.0:狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、政府の第5期科学技術基本計画においてわが国が目指すべき未来社会の姿として提唱された。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会を指す。


根本かおる氏2

日本のSDGsの取り組みは、まだ入り口の段階

――日本の制度整備は早くから行われているのですね。SDGs達成に向けて実際にはどの程度進んでいると感じていますか?

根本氏:SDGsについて企業の方から話を伺う機会がありますが、まだ入り口の段階だと感じます。これまでの自社の取り組みを、SDGsの17の目標や169のターゲットに紐づけしている状態です。2030年に到達したい目標に向けて、「わが社はこう貢献する」と戦略を練り、計画まで落とし込んでいるところはまだ少ないですね。

もちろん良い取り組みもありますが、それらはあまりにも規模が小さく、スピードも遅い。もっと規模を拡大して、加速することが必要です。

企業がSDGsを推進する場合、ガバナンスやコンプライアンスなど対内的なさまざまな施策、コアなオペレーションの計画、パートナー企業や取引先、消費者も巻き込んだエンゲージメント。この三つの要素がありますが、これらが横断的に捉えられていないのかもしれません。

――横断的に捉えていくためにはどうすればいいのでしょうか?

根本氏:SDGs推進室を設けている企業はたくさんあるでしょうが、SDGs推進室のスタッフはさまざまな部局の計画会議などに参加することが重要です。川上から川下まで、SDGs推進室のスタッフが要の時に呼ばれて、「SDGsを推進するためにはこういうことが大切ですよ」「世界のSDGsの流れは今こうなっていて、わが社はここができているけど、ここはできていない」といった議論が、社内でもっと活発に行われるべきだと思います。

――SDGsの17の目標のなかで、世界との乖離を大きく感じる項目はありますか?

根本氏:日本においてもっとも大きな課題を感じるのは、ジェンダー平等です。電通の生活者意識調査でも、「17のゴールの中で、もっとも日本の生活者の考えや行動から遠い目標」であることが分かっています。

ジェンダー平等が実現できない原因の一つには、広告などの影響もあるのではないかと思います。グローバル企業をはじめとする世界の人たちは、多様な人々に向けて商品やサービスを販売するため、どのように情報発信をすべきか考えています。そういう人たちから見たとき奇異に映る広告が――特にジェンダーの面から見たときに――日本にはまだまだ多くあるのではないでしょうか。

SDGsを掲げている会社や広告表現・メディア表現を担う会社は、この点を強く意識し改めて、もっとグローバル基準での情報発信をしていかなければならないと思います。

メディアや広告業界においては、女性の決定権者はまだまだ少ない。企業のトップである社長が意識を変えて、役員など責任ある立場の女性を大胆に増やし、多様性に富んだ環境で議論し情報発信する必要があります。

また、少数者への配慮や働き方改革なども、SDGsを達成するために重要です。ガバナンスやコンプライアンスという点でも恥ずかしくない行動をとっていただきたいと思っています。

日本企業は本質的な議論とアクションが足りない

――企業の中には、SDGsのマークを掲げ、取り組みを発信していこうという動きがあります

根本氏:世界的に見て、これほどSDGsのロゴとアイコンが世の中に溢れているのは日本くらいです。その一方で、「企業がSDGsの内容を理解してアクションを起こしているか?」というと、その乖離は大きい。もう少し本質を見据える議論をしてほしいですね。

海外では、日本ほどSDGsのマークを露出していません。ただ、SDGsという言葉やマークは使わなくても、それぞれの社会課題のもっと本質にまつわる議論はしていると感じます。

グローバルな仲間とSDGsについて議論する場に、どんどん日本企業や関係者は入っていってほしい。SDGsは、世界の共通言語であることが良いところです。SDGsの中から同じ目標を選んでいる企業同士は、つながりやすい環境にあります。自分たちの体験、自分たちの教訓というものをシェアし合い、学び合い、高め合うことができます。しかしそのような場では、日本の関係者の姿をあまり見かけないのが残念です。

根本かおる氏3

――1月にはダボス会議(世界経済フォーラム)がありました。今年は、経済問題よりも、SDGsに関することがメイントピックだったように見えました。世界的に議論する内容の「潮目が変わった」という話もありました。日本企業も参加、登壇していましたが、世界の中での存在感はどう映りましたか?

根本氏:私は、もっと現実を捉えた議論をしてほしいと思いました。例えば使い捨てプラスチックのごみ問題。生分解性や植物由来プラスチックの開発ももちろん大切です。しかし現在世の中に溢れているプラスチックは大変な量です。プラスチックごみをどうやったらもっと減らせるのか。その議論を世界がしているときに、日本の関係者はあまりそちらの話をしない。

気候変動も同じです。さまざまな技術革新はもちろん必要ですが、圧倒的に増えてしまい問題となっているCO2排出量をどう革新的に減らせるか。その議論が日本でなかなか巻き起こらないことに、世界とのずれを感じます。

沢山のifが重ならないと、実現の可能性がないさまざまな技術がありますよね。それに賭けると言われても、気候変動のしっぺ返しをもろに受けることになるグレタさん世代の若者たちは納得しないのではないでしょうか。

今年のダボス会議では、気候変動に議論が集中しました。ダボス会議の流れを受けて、日本の多数の企業や団体、自治体が政府に対し、日本の温室効果ガス削減目標を引き上げ、国連に提出することを求めたメッセージが「気候変動イニシアティブ」です。これに賛同の動きがあったことは評価すべきでしょう。

今後はどのように大胆な削減案の策定につなげられるかということがポイントになります。やはり日本がより大胆な削減目標を示さないと、国として信用を失ってしまう。そういう危機感も強くあり、多くの企業が政府に対してものを言う署名を行ったのかなと感じています。

もちろんSDGsは環境問題に矮小化できないところもあります。社会全体の問題であり、経済の問題でもある。経済、社会、環境がつながっています。

今後SDGsを醸成させていくためには、ビジョンを語ることも必要です。もちろんワークプランなどに落とし込まなくてはいけませんが、日本の経営者はビジョンを語らなさ過ぎだと思います。海外の経営者は、経営者同士の集まりになると、社会課題について話し合うのが当たり前です。

ハウツーの話だけではなくて、本質。「わが社の強みや弱みって何だろう?」「どのような場面で社会課題解決のアクションを起こせるだろう?」「同じ問題を共有して解決できる企業はないだろうか?」などなど。SDGsをコンテクストにいろいろ話し合うことがもっとできると思います。

 

TeamSDGs

TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。

TeamSDGsのウェブサイトでは、ウェブ電通報とは違う切り口で根本さんのインタビューを紹介。併せてご覧ください。