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“ダボス会議”2020リポートNo.2

2020/04/08

【ダボス2020】メンタルヘルスも経済・政治的なリスク

ダボス会議2020 世界経済フォーラム50年の歴史
メイン会議場前の世界経済フォーラム年次総会50年の歴史

連載第1回でも紹介ましたが、2020年の世界経済フォーラム(以下フォーラム)の年次総会(いわゆる“ダボス会議”)では、サステナブルな社会の構築へ視点がシフトしたといわれています。気象変動や脱プラスチックが話題の中心となり、次世代を担う若者の活躍が目立っていました。

その中で、フォーラムに関わる若者のコミュニティーを中心に、昨年からメンタルヘルスに関しても注目が集まっています。今回は、投資促進や政策変更から支援プログラムの開発などの具体的な行動に至るまで、多くの議論がなされていたメンタルヘルスを中心にレポートします。

※世界経済フォーラム年次総会は、2020年1月21日~24日の間、開催されました。

なぜ今メンタルヘルスに注目するのか

今、世界では約4億人がメンタルヘルスの問題を抱えており、その問題の多くが24歳以下から始まっています。労働力の減少による経済損失はもちろんですが、メンタルヘルスが経済のシステムや政策、運用にまで悪影響を及ぼす可能性も示唆されています。

2019年のグローバルリスク報告書では、人間的な側面でのグローバルリスクとして「感情」が初めて特集されました。その背景には、下記2点が挙げられます。

・社会不安や経済不安によって「心理的および感情的な充足度が低下している」というエビデンスが蓄積されこと

・メンタルの問題が社会の結束や政治に影響を及ぼし、より広いグローバルリスクとして捉えるべき状況に至っていること

現在は、人間の心理的状態による間違った意思決定、間違った経営判断が多発する可能性が高まっている状態といえるのです。

鍵は「共感」と「社会的つながり」

フォーラムのグローバルリスク報告書では、社会、テクノロジー、仕事の三つの領域で起きているメンタルの問題について取り上げています。共通して見られるのは「共感」や「つながりの欠如」。それらは「孤独」や「コミュニケーションの不足」に関連しています。

「孤独」などの要因として、最新のある研究ではテクノロジーが挙げられています。テクノロジーによってつながりやすくなる側面がある一方、テクノロジー上での交流は、共感力(相手の立場に立って考える能力)が、現実世界より6倍も弱くなるという研究結果が提示されているのです。

また、閉じたコミュニティーの中で、自分と同じ意見の人々だけと交流し、特定の意見や攻撃的な考えを正しいと信じてしまう「デジタル・エコーチェンバー」が起こる可能性もあります。さらに、フィルター機能によってユーザーの好みに合うものばかりが表示され、偏った情報しか見えなくなる「フィルターバブル」も懸念されています。今後、つながりや共感のあり方や重要性の議論は、ますます高まっていくのではないでしょうか。

2019年の“ダボス会議”から、行動を軸にした取り組みが広がる

2019年の“ダボス会議”では「#TimeToAct on mental health」が、2020年では「#TimeToInvest」が掲げられ、メンタルヘルスの議論が活発化しています。

中でも2019年にウィリアム王子がパネリストとして登壇し、語ったことは注目を集めました。王子はキャサリン妃らと共に「Heads Togehter」(※1)というチャリティーキャンペーンを立ち上げています。立ち上げた当初は他のセレブからの支援をなかなか得られなかったそうです。メンタルヘルスはセンシティブな話題で、その言葉自体にネガティブなイメージもあり、語られにくい。英国では感情を抑制することで心の傷に対処していることに触れながら、そのネガティブなイメージを変え、もっと語り合い、感情をオープンにするべきだと話しました。

※1= Heads Together
王立財団と七つの慈善団体によって立ち上げられたキャンペーン。メンタルヘルスに対する偏見を取り除くためチャリティーマラソンの開催、電話相談のボランティア募集、メンタルヘルスの問題に関する情報発信など複数のプロジェクトを行っている。


メンタルヘルスへの対応は、人に知られないように専門の精神科医にかかるような対処法ではなく、人間の感情を大切にし、オープンに語り合っていく流れが加速していくのではないのでしょうか。

多くのセッションで“JOY”がキーワードに

あるパネルディスカッションでは働く上での「喜びのギャップ」をテーマに議論がなされました。経営コンサルティング会社カーニーの調査によると、ほとんどの人々が働くときに喜びを感じたいと思っている一方、実際に喜びを感じられているのはその半数程度だそうです。では、どのようにしてそのギャップを埋めるのか、いくつかアイデアを出し合っていました。

その中で、会社の文化を変えていくためには対話が必要であり、その対話においてまず必要なのはエモーショナルリテラシー(感情を理解し、使いこなす能力)だとFatima Azzahra El Azzouzi氏(※2)は語っています。小グループで共感について語り合う時間を持っているマイクロソフトを例にとり、そういった時間を繰り返し持つことで会社の空気は変わっていくと話しました。

※2=Fatima Azzahra El Azzouzi氏
マイクロソフトカナダでエンジニアとして活躍する傍ら、メンタルヘルスの変革者として、世界経済フォーラムの次世代を担う若きリーダーコミッティーであるグローバルシェイパーズで、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン分野の推進の中心を担っている。


また、“ダボス会議”の別のプログラムでは、「喜び(JOY)」というタイトルのワークショップも。雪山に登って自然の景色を楽しみながら、お互いにとっての喜びについて語り合い、瞑想をし、最後には参加者みんなで歌うというものでした。

ダボス会議 雪山
山の上のセッション会場へはリフトに乗って移動
ダボス会議 JOYのセッション
「喜び(JOY)」のセッション

自然、音楽、瞑想によって喜びを感じるだけでなく、初めは名前も知らないお互いが感情について語り合い、楽しみを共有していくことで、ひとつの心地よいコミュニティーになっていく。

テクノロジーが発達し、多様性が増していく時代に必要なことは、感情を伝え合い、共感をつくっていくことかもしれない、という示唆が得られる2020年の“ダボス会議”でした。