SDGs達成のヒントを探るNo.4
子どもたちは、大人が思っているよりもSDGsに真剣だよ
2020/05/01
SDGsは、あらゆる世代が目標達成に向けて取り組む必要があります。さまざまなステークホルダーがアクションを行っていますが、目標達成期限の2030年に、社会に出て活躍している子どもたちにとっても、いや、子どもたちこそSDGsは他人事ではないのです。
今回は、学校の授業にSDGsを取り入れている学校デザイナーの山藤旅聞(さんとう・りょぶん)先生にインタビュー。先生のお話から、子どもたちとSDGsに取り組むためのヒントが見えてきました。
SDGsを窓にすると、授業の学びと社会課題のつながりが見えてくる
──山藤先生は都立高校の生物教諭を15年務めた後、2019年から都内の新渡戸文化小中学校・高等学校で生物を受け持ち、SDGsを取り入れた授業を展開されています。まず、山藤先生ご自身がSDGsに関心を持たれたきっかけを教えてください。
山藤:都立高校の教諭時代から、大学合格がゴールの教育や、教師が一方的に教える“知識詰め込み型授業”に疑問を感じていました。旧来の教育をすべて否定するわけではありませんが、これまでとは違う価値観で教育を行う学校があってもいい。もっと生徒が主体となって、学校での学びと社会のつながりが実感できるような授業を行いたいと考えていました。
そんな理想を実現するために、いろいろな試みを行ってきました。例えば、生徒と先生の対話がメインの双方向性授業デザインです。僕の問いに生徒が答えたら、次は生徒の問いに僕が答える、これをずっと繰り返していくことで、生徒自らが疑問を生み出し、それを解決するための力を養います。
学びと社会との関わりを知ってもらうために、社会人をゲストスピーカーに招き、学生時代の生物の授業が仕事にどのようにつながったかを語ってもらう授業をしたこともあります。次年度は、オンラインでもこのような授業を実施していこうと思っています。
授業を通して生徒たちには、学ぶことの意義や面白さに気付いてほしい。そのために、「社会と教育をもっとつなげたい」「人々の未来や地球のために社会活動をしている多様な大人と感性豊かな子どもたちをつなげたい」という気持ちがどんどん高まっていきました。2012年ごろからは、勤務時間外にさまざまなステークホルダーと会い、積極的にコミュニケーションを取るようになりました。
特に企業やNPO・NGOの方が参加するCSRやCSVの勉強会にはよく参加していました。そのときに「SDGsって、よく話題になっているな」と感じて…。話を聞けば聞くほど、SDGsについての興味は増すばかり。そこで企業向けの勉強会や大学の講座に1年ほど通って学び、2016年の夏ごろから少しずつ授業に取り入れていきました。
──4年も前からSDGsを授業に活用されているのですね。山藤先生は生物教師としてSDGsのどのようなところに魅力を感じたのでしょうか?
山藤:SDGsはあらゆるものを包括していると感じます。さまざまな社会課題もそうですし、生徒一人一人の興味のあることややってみたいことも、最終的にはSDGsが掲げるよりよい未来につながりそうだと。しかもSDGsの各目標は分かりやすいし、子どもも共感できる内容です。
SDGsと出合う前から、授業で環境問題などを取り上げることはありました。生物と環境は親和性が高いので、授業内容にうまく結びつけられる。しかし、他の社会課題、例えば貧困や経済成長、産業と技術革新の基盤づくりなどは、生物学と結びつけるのは少し難しい。
しかし、SDGsの本質の一つである「つながり」を意識できると、環境問題も、他の課題に関係性があることが分かり、結果的には生物学を学ぶ意義も強まる。SDGsを窓にして授業を展開すれば、いろいろな思いを持った生徒にアクセスできると思っています。
SDGsを窓にすると生徒は自分の“好き”と未来をつなぐイメージができる。そして、社会課題解決のために生物の教科を学ぶという意義も強まる…。さまざまな魅力を感じ、授業でSDGsを活用するようになりました。
子どもたちの枠にとらわれない発想と企業の実現力を掛け合わせる
──山藤先生が行っているSDGsを取り入れた授業とは、どのようなものでしょうか?
山藤:4月は、何のために生物を学ぶのか、生徒たちに理解してもらうことから始めます。新聞などを使って社会課題や時流を読み解きつつ教科書の内容を見て、生物の学習とSDGsがどのようにつながっているのかを生徒と一緒に考えるのです。そして、生徒自身が何を深く学びたいかディスカッションします。
SDGsを授業に取り入れるといっても、目標やターゲットがいくつあるか暗記させたり、それぞれの内容を覚えさせたりといったことはしません。それに、「〇番の社会課題の解決方法を考えなさい」と、僕から強制することもない。生徒一人一人が、自分にとってSDGsのどの目標が大事か、課題解決のためにどんなことをやってみたいのかを考えます。
そして、生徒がこんなことをやってみたい!と言ってきたら、僕が普段コミュニケーションしているステークホルダーを紹介します。この企業や団体とならこんなことができそうだよとアドバイスして、生徒のアクションにつなげていきます。
──生徒の「やってみたい」気持ちに、山藤先生が持ついろいろな選択肢をリンクさせるのですね。生徒たちはどんなアクションを起こすのでしょう?
山藤:例えばエシカル消費の具体策では、バレンタインデーのチョコレートに地球環境のことを伝えるメッセージを入れるアイデアを食品業界に提案しに行きました。
脱プラスチックに関心を持つ生徒は、マイボトルに飲料を注げる自動販売機がつくれないかというアイデアを企業へプレゼンしたこともあります。
現在動いているプロジェクトには、東京都檜原村での里山保全活動があります。耕作放棄された畑を開墾して地元の農作物やオーガニックコットンを栽培して、加工・販売までの6次産業化を目指すチャレンジです。
──さまざまなプロジェクトを通し、SDGsに真剣に取り組む生徒たちと接した、ステークホルダーの反応はいかがですか?
山藤:生徒たちの発想力はずば抜けていて、僕の想定外の方向性やアイデアを出してくることに驚きます。しかも企業に提案しに行くと、相手も「それは一理あるよね」とうなずくケースも少なくありません。加えて、ビジネスではない、子どもたちのピュアな発想に企業の方も初心を思い出され、自社の社会的価値を再認識することも多々あります。
企業が持っている実現力や、豊富なコネクションは生徒にはないので、そこはリスペクトすべき点です。一方で、生徒たちには、ピュアで枠にとらわれない発想という大きな武器がある。お互いの長所を掛け合わせれば、一段階上のプロジェクトに醸成できることが多いんじゃないかと感じます。
子どもたちとフラットな関係を築き、課題を一緒に考える
──山藤先生のお話には、若い世代と一緒にSDGsに取り組むためのヒントがあると感じました。生徒たちと活動するときに気を付けていることはありますか?
山藤:プロジェクトをイベント化させないことですね。授業にSDGsに取り入れ始めた当初は、一回アクションを起こしたらそれで終わり、ということが時々ありました。そうなってしまう原因は、僕たち大人の主導が強いから。生徒は「自分でやろう」という気持ちを持って取り組んでいないと途中で苦しくなってしまいます。
SDGsのプロジェクトを、子どもたちにとって持続可能なものにするためには、大人がレールを敷き過ぎないようにすることが大事です。話し合いをしていても、大人の方が知識や経験が豊富なので、先にいろいろと意見を言ってしまいがち。そこを少し待ってもらうだけで、僕たち大人が思いつかないようなアイデアが出てくることがあります。
それと、もう一つ心がけているのは、先生と生徒という上下関係でなく、フラットな関係で、答えのない世界の課題を一緒に考える姿勢をいつも忘れないこと。そのためには、SDGsとは関係がない、人としてパーソナルな部分での共感が大事です。
僕は初めて子どもたちに会ったとき、まずは、山藤旅聞がどういう人間なのかを分かってもらうように努めます。「二人の子を持つ普通の父親です」「昨日はこんな友達と会って楽しかった」「高校時代はラグビー部で一心不乱にボール追いかけてたよ」って、パーソナルな話をします。そんな一人の人間に、教師としての肩書が乗り、今は社会と教育と掛け算する活動を行っているよと。
生徒と一緒に活動をしていく中では、意見がぶつかることもあります。でも、人として理解して共感し合えていたら、生徒も思い切って意見がいえるし、委縮することなく取り組んでいけます。
──確かに今の時代は、人も企業も“共感”が大事なキーワードになってきています。人間関係の土台をつくることは、子どもたちが自発的にSDGsに取り組む上で大切なんですね。では最後に、これから子どもたちとSDGsに取り組んでいきたい大人に向けてメッセージをください。
山藤:子どもたちは体力があるし、エネルギーがどんどん湧き上がってきます。そんなパワフルな存在をずっと学校に閉じ込めておくのはもったいない。いろいろなステークホルダーの方たちと一緒に活動すれば、すごいアイデアを出せるし、社会課題解決の大きな原動力になってくれるはずです。ぜひ、もっと接点を持って、子どもたちの話に耳を傾けていただけると面白いんじゃないかと思います。
TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。