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SDGs達成のヒントを探るNo.3

SDGsを企業経営に取り入れるためには?

2020/04/16

さまざまな有識者や実践者の方からお話を聞き、連載形式で、SDGs達成のためのヒントを探る本連載。

SDGsの採択によって、企業の取り組みにどのような変化が生まれたのか?企業はSDGsの活動をどのように発信していけばよいか?

今回は、企業でESG経営/CSR活動を推進している金田晃一さんに話を聞きました。

金田晃一
NTTデータのサステナビリティ担当として、SDGs達成に向けた取り組みをサポートしている金田晃一氏。

途上国の人間開発に携わるため、サステナビリティ担当に

──金田さんはこれまで、多彩なキャリアを経て、現在は企業のサステナビリティ担当として活動しています。これまでどのようなキャリアを歩んでこられたのですか?

金田:大学を卒業して約10年間は、ソニー、アメリカ大使館と、職場やセクターを変えながらも、外務省や通商産業省(現在の経済産業省)を中心とした日本政府とのガバメント・リレーションを担当していました。

その一方で、アメリカ大使館に転職したあたりから、自分のキャリアの可能性を広げるために、業務外の時間を使って、自分の関心事に対して自己投資を始めました。

アナウンサーになるという子どもの頃からの夢があり、土日に開講していた当時の日本テレビ・アナウンスカレッジ(現在の日テレ学院)でトレーニングを受けていたところ、タイミング良くブルームバーグ テレビジョンから話があり、CS放送のアナウンサーとして2年間、経済・企業ニュースを担当しました。

その後、ソニーに再入社した1999年から今日に至るまでの20年余り、五つの企業でサステナビリティ担当を務めています。

──具体的に、サステナビリティーに興味を持たれたきっかけを教えてください。

金田:サステナビリティ担当への転身のきっかけは、ソニー時代に留学したイギリスのレディング大大学院で、「多国籍企業による途上国での人間開発」に興味を持ったことでした。

実は、アナウンスカレッジでのトレーニングと並行して、業務時間外に国際開発機構(FASID)や海外コンサルタンツ協会(ECFA)ほか、複数の研修機関で国際協力を体系的に学びました。

また、NGOが主催するタイやカンボジアでの開発プログラムに参加するなど、人間開発のリアリティを感じるために途上国に足を運びました。

そうしているうちに、ソニーの元上司から、ソニーに戻って社会貢献室でコミュニティー・リレーションをやらないかと声がかかり、「多国籍企業による途上国での人間開発」を業務として実践できるサステナビリティ担当としてのキャリアが始まりました。

SDGsを将来起こり得る「機会とリスク」の参照リストとして捉える

──現在勤務されているNTTデータではどのような業務に取り組まれていますか?

金田:NTTデータは、2019~21年の中期経営計画に、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮したESG経営を通じて、SDGsの達成に貢献することを明記しました。

また、これに合わせて、5年ぶりに、CSR重要課題(マテリアリティ)の見直しを行い、優先的に取り組む12個の課題をセットしました。現在は、これらの課題に対応したKPIを策定中です。

私は、これら一連の活動に関わっています。企業のSDGsに向けた取り組みをサポートしている経団連とのコミュニケーション、国内外の社会課題を深く理解しているNGO/NPOとのプログラム形成、SDGsを活用したESG経営/CSR活動の社内浸透などを主に進めています。

金田晃一2
経団連SDGsミッション2019で、ワシントンD.C.の世界銀行を訪問

──金田さんはSDGsが採択される2015年より前からサステナビリティ担当として活動されています。SDGsの登場によって、企業のESG経営/CSR活動にはどのような変化がありましたか?

金田:SDGsが採択される以前の持続可能な社会に向けたアプローチは、ガイドラインやアクションプログラムに沿って、過去の経験をもとに実施可能な行動をフォアキャスト(予測)して活動する“行動規定型”が主流でした。

個々の取り組み方法は示されていたのですが、持続可能な社会に関する共通イメージや、それを達成するための共通目標があいまいでした。企業は設定しやすい目標を各自で設ける傾向にあり、国際社会全体としては、グローバルな課題解決に向けての一体感を欠いていました。

他方、SDGsは、17ゴールと169ターゲットで社会像を明確に示した“社会規定型”のアプローチとして登場しました。国際社会全体で2030年の目標と社会像を共有しつつ、そこからバックキャスト(逆算)して、各企業は自由な発想や新しい技術を用いて活動に取り組めるようになりました。

“行動規定型”と“社会規定型”のアプローチが併存することによって、持続可能な社会を実現する確度は高まったと思います。

SDGs図
金田氏作成

また、日本においては、CSR元年といわれる2003年以降、ESG、CSV、サステナビリティーといったさまざまな関連コンセプトがメディアを賑わし、新しいコンセプトが現れるたびに「社内理解が追いつかず、それが活動の推進を妨げる」という声も多く聞かれました。

しかし、2030年までに達成すべき目標、実現すべき社会像を提示するSDGsの登場によって、これらのコンセプト間の関係がシンプルに整理できるようになりました。

──具体的にどういうことでしょうか?

金田:各コンセプトは、持続可能な社会と持続可能な企業づくりに向けた、一連のプロセスを示すコンセプトとして捉えることができると考えました。SDGsを起点と終点としたループで説明できるので、私はこれを「SDGsループ」と呼んでいます。

SDGsループ
金田氏作成

SDGs (Sustainable Development Goals)
SDGsは、2030年までに自社に訪れる“機会とリスク”の参照リストとして活用します。SDGsを参照して、自社のビジネスモデルをどのように変容(トランスフォーム)すればよいかを考えるところから、SDGsループは始まります。

ESG (Environmental, Social, Governance)
SDGsを参照したのち、具体的にはどのような“経営”をしていくべきか。経営の際に「考慮」すべき側面を、環境、社会、ガバナンスの大枠で説明するコンセプトが、それらの頭文字をとったESGです。

環境破壊や人権侵害に加担しないといった、自社の事業プロセスやバリューチェーン上の誠実な「配慮」を超えて、ESGを「考慮」した収益事業、すなわち、最終消費者やクライアント組織向けにESGソリューションを提供して収益を得る、環境ビジネス、社会ビジネス、ガバナンスビジネス(例えば、クライアント組織のガバナンスを強化するサービスなど)などもESG経営には含まれます。

CSR (Corporate Social Responsibility)
ESG側面を「考慮」しながら、具体的にどのような“活動”を行うのかを説明するコンセプトがCSRになります。

CSR活動は、①社会課題の解決に資する製品やサービスの市場への提供活動、②事業プロセスにおいて人権や環境などの側面で社会にかけている負荷を低減する活動、③寄付やボランティア活動に代表される社会貢献活動、の三つで構成されます。

①の社会課題の解決に資する製品やサービスの市場への提供活動をCSR活動の一部とみなすことには抵抗がある方もいると思います。しかし、深刻化するグローバルな社会課題を前に、企業に対する社会からの期待は年々高まり、企業が負うべき責任ラインは相当引き上げられています。①の活動は、「企業として当然実践すべき活動」という意味で、CSR活動の重要な一部として織り込まれているといっても良いでしょう。

CSV (Creating Shared Value)
企業がこうしたCSR活動を通じて創出する共有“価値”、すなわち、社会価値と企業価値がCSVです。①の社会課題の解決に資する製品やサービスの市場への提供活動のみをCSVとみなす議論がありますが、ここでは、文字通り、CSVを“価値”と捉えます。

②の社会にかける負荷を低減する活動は、社会価値だけでなく、資源・流通・調達・社員の医療コストを低減することで企業価値を創出し、③の寄付やボランティア活動も、社会価値だけでなく、取引先、大学などの研究機関、社会課題を理解するNGO/NPOを含んだクラスター形成に有効であるため、競争力向上を通じて企業価値創出に寄与します。共有価値を創出する活動は①の専売特許ではなく、②③にもあてはまります。但し、①が最も高いCSVを創出する活動であり、イノベーティブな発想やデジタル技術に期待が集まります。

サステナビリティー (Sustainability)
CSVが創出されれば、社会や企業はどのような“状態”になるか、それを説明するコンセプトがサステナビリティーになります。社会と企業が持続可能な状態になれば、その結果、SDGsが掲げている2030年“目標”の達成に近づくわけです。

このように、五つのコンセプトを「機会やリスク(SDGs)→経営(ESG)→活動(CSR)→価値(CSV)→状態(サステナビリティー)→目標(SDGs)」のステップで整理する考え方が「SDGsループ」です。

SDGsに携わる人を増やすための広告が必要

──金田さんはNTTデータが主催したカンファレンスで、デジタルを通じた社会課題の解決をテーマとしたセッションのファシリテーターを務めるなど、社外に向けた発信にも携わっていますよね。

また、今年の広告電通賞では、SDGsの達成に向けて広告にできることを真摯に模索した作品に贈られる「SDGs特別賞」の選考委員長も務めていただきます。企業がSDGsについて発信していく上で、重要なポイントを教えてください。

金田:発信を「報告」と「広告」に分けて考えてみます。「わが社はSDGsに対してこのように考えます」「こんな取り組みをしています」というようなメッセージや事例を自社のウェブサイトやサステナビリティ・レポートを通じて透明性高く開示すること、このような「サステナビリティー報告」はSDGsの達成に向けてもちろん重要です。

他方、「協働」のフェーズには、SDGsの達成に向けて、異なるセクターや多様な発想・才能を持った人々と一緒に取り組むことが必須です。

「広告」には説得機能があるため、持続可能な社会創りに対して人々を「協働」に向かわせる、コレクティブ・インパクトの有効な手段となり得ます。広告主である企業は、優れた「サステナビリティー広告」を通じて、自社の企業価値を高めることもできるでしょう。

そこで、「SDGs特別賞」の選考に当たっては、SDGsが提起しているキー・メッセージを自社なりに咀嚼し、表現しているかという視点に加え、「広告」を見た人々が、SDGsを自分ごととして捉え、持続可能な社会の実現に向けてアクションを起こすようなユニークな仕掛けやクリエイティビティがあるかという点についても評価したいと考えています。


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TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。