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SDGs達成のヒントを探るNo.5

2020/06/01

「企業×大学」で広がる、SDGsの可能性とは?

SDGs研究の第一人者として知られる、蟹江憲史教授。慶應義塾大の「xSDG・ラボ」を中心に、企業や自治体と大学が協働しながらSDGsを推進する、さまざまな取り組みを行っています。

学生や研究者と組むことによって生まれるSDGsのシナジーとはどんなものなのか?新型コロナウイルスの影響で変わりつつある社会の課題にも目を向けながら、「企業×大学のSDGs」をテーマにお話しいただきました。

蟹江憲史氏
慶應義塾大大学院(政策・メディア研究科研究室)教授の蟹江憲史氏。地球温暖化や気候変動の問題を中心に、地球環境ガバナンスの問題を研究している。写真:市村円香 

金融機関や認証団体とともに、SDGsに関わる仕組みを整理する

――蟹江さんは、慶應義塾大の湘南藤沢キャンパスで「xSDG・ラボ」を主宰されています。どのような活動を行っているのでしょうか?

蟹江氏:「xSDG・ラボ」は、SDGsに関するベストプラクティスを創出し集積するための研究組織です。企業や地方自治体などによる取り組み、消費や投資活動、IoTなど、世の中のいろいろな活動やテクノロジーとSDGsを「掛け合わせる」こと(=xSDG/エックスエスディージー)で、真に持続的な成長を実現することを目指しています。

ラボの中に、企業や自治体と協働してSDGsに取り組む研究コンソーシアム(共同事業体)があり、さまざまな取り組みを行っています。

――具体的にどのようなことに取り組まれているのでしょうか?

蟹江氏:昨年度は「企業の評価に関する検討」「認証制度の整理」「プラスチック問題」の、三つの課題に取り組みました。

「企業の評価に関する検討」については、主に金融機関の方々と一緒に取り組みました。今、多くの金融機関が、社会的事業を行う企業などに投資する“インパクト投資”に注目しています。

ところが、インパクト投資をはじめとする社会的な投資事業を行うため、どのように企業を評価したらよいか、評価の基準や項目はどうあるべきかといった“評価の中身”の部分が、あまり公開されていません。

公開されていたとしてもSDGsとの結びつきが弱く、分かりにくいことも少なくありません。そこで、いくつかの金融機関の方々とわれわれとで、「企業評価や金融分野での評価において、これが『正しい』SDGsのアクションだ」といえる基準づくりを行いました。

「認証制度の整理」というのは、FSC(Forest Stewardship Council/森林管理協議会)やMSC(Marine Stewardship Council/海洋管理協議会)による認証制度とSDGsの関係を明らかにする取り組みです。

SDGsと親和性の高い認証を取り扱う団体や、認証制度に関心を持つ企業の方々に集まってもらって、「その認証を取ることで、どのようなSDGs目標に貢献できるか」といったことを調査・議論していきました。

例えばFSCの場合。直接的にはSDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」との結びつきが強いわけですが…。それだけでなく、貧困、飢餓、クリーンなエネルギー、労働環境、気候変動など、さまざまなSDGsの目標に深く関係しているんですよね。これらの関連性について整理し、「FSCが達成に貢献できる目標」と「達成基準(ターゲット)」をまとめ、公表するところまで持って行きました。

また、「プラスチック問題」を扱う分科会では、提言書「SDGs の視点から見た日本のプラスチック利活用のあり方の実現に向けた処方箋」をとりまとめ、発表します。

こうした取り組みを、約20社の企業、三つほどの自治体、政府、大学が一緒になって行っているのが、「xSDG・ラボ」コンソーシアムの特徴です。全体の会合は年3回、シンポジウムは年1回。他に分科会を頻繁に実施して、課題の解決に向き合っています。

ピュアな視点を持つ学生たちが、SDGsに関する議論を熱くする!

――学生たちは「xSDG・ラボ」の活動に、どのように関わっているのでしょうか?

蟹江氏:SDGsについて学びながら、さまざまな活動のアシスタントをしています。各種調査に携わる他、企業の方とディスカッションすることもあります。いろいろな面で助けられています。

――皆さん、最初からSDGsに対する関心が高いのでしょうか?どんな意識でラボの活動に関わっていると感じますか?

蟹江氏:単純に「なんとなく面白そう」という感じで入ってくる学生が多いように思います。ただ、「なんとなく」ではあるのですが、その根底には「よいことをするのが当たり前」という意識があるような気がするんですよね。

今の学生たちは、10歳ぐらいのときに東日本大震災を経験しているんです。多感な時期に自然の脅威を目の当たりにして、今ある日常が当たり前ではないことを実感しています。だからでしょうか、地球や人にとってよいことをしたいという意識が自然と身についているように思うのです。価値観がわれわれの世代とはちょっと違うなあという印象を持っています。

――SDGsに関わる多くの識者の方が「昭和世代の大人たちが考える以上に、若者は、社会貢献意識が高く利他の精神が強い」とおっしゃっています。これからSDGsに取り組まなければいけないと考えているビジネスパーソンと、SDGsという言葉すら意識せず“よいこと”をしようとする若者たち。この両者が関わることで、どのようなシナジーが生まれるとお考えでしょうか?

蟹江氏:経済という枠組みの中で動いている企業などと、ピュアな目線を持つ若い学生が協働することで、なにかこう、本質が浮かび上がるというか…。企業や自治体だけではたどり着けないイノベーションが生まれているなと感じます。

SDGsは、まず目標があり、目標に向けて「どうすべきか」を考えるという流れで進められることが多い取り組みです。こういうバックキャスト的なプロジェクトというのは、余計なしがらみや知識のない学生の方が純粋な目線で向き合えると思うのです。「なんでこんなに無駄なことをしているの?」「なぜこれができるのにやらないの?」、そんなフレッシュな視点で、アイデアを出したり、気付きを提供してくれたりするんですよね。

例えば、「無印良品」を運営する良品計画との共同研究でのこと。良品計画はもともとサステナビリティーに対する感度がとても高い企業なのですが、われわれ大学や学生が入ってディスカッションや調査などを行うことで、「あれ、まだできることがありそうだね」「意外とできていないことが多いかもしれないね」ということが分かりました。

「売られている商品はオーガニックコットンを使ったTシャツなど、SDGsの点から見ると先進的で良いものが多いけれど、作る過程で石油や石炭を原材料とした枯渇性のエネルギーが使われているよね」とか、「枯渇性エネルギーを再生可能エネルギーに変えるなど、まだまだ改善の余地があるよね」とか。無印良品の事例だけでもいろいろな発見があって、すごく面白いなと思いました。

企業は、大なり小なり利益を上げ続けなければならない組織体です。ゆえに、論理的に両立させることが難しい“経済活動”と“社会貢献”のバランスを取りながらSDGsに向き合わなければなりません。だからこそ、社会貢献寄りの視点を持った現代の学生たちの存在が、大きく役立つのではないかと思います。

コロナの影響で世の中が変わる今、持続可能な社会を改めて考えたい

――企業が学生とつながるときのコツのようなものがあったら教えてください。

蟹江氏:「自分たちにない視点を求めるのだ」「対話するのだ」というスタンスで向き合っていただけるとよいのではないかと思います。学生ですから知識や経験が足りないところも多々あろうかと思います。ただ、そこで「こんなことも知らないのか」「もうちょっと勉強してこい」というような態度を取ってしまっては意味がありません。ぜひとも、学生の意見に耳を傾けてほしいですね。

もうひとつ、企業側が本音をハッキリと言うことも大切です。「SDGsに取り組むのはリクルーティングの一環で、学生に興味を持ってもらいたいからである」、こういうケースもたまにあるのですが、それならそうと最初にきちんと言ってほしい。変に隠すより目的を明確に表明してもらった方が、プロジェクトがスムーズに進むと思います。

以前は、企業と研究者が組んでなにかをするというのは、なかなか難しいことでした。使っている言語も異なりますし、取り組んでいる活動も違います。うまく話が通じなかったり、心を通わせることができなかったり、そうして頓挫してしまったプロジェクトも少なくありませんでした。

しかし、SDGsが登場して、これを共通言語にして活動ができるようになりました。これからますます、産学連携の取り組みが拡大していくはずです。お互いに得るものがあるイノベーションや大胆なトランスフォーメーションが生まれるのではないかなと期待しています。

――今後の広がりが楽しみですね。一方で、課題というのはどんなところになるのでしょうか?SDGsを推進する上で、企業はどんなことを意識したらよいと思いますか?

蟹江氏:僕が課題だと感じているのが、企業が、自分たちにとって都合のよいところばかりを見てしまうところです。SDGsの目標と事業を結び付け、「こんな良い取り組みをしています」とアピールすることに終始してしまい、その背後にある他の社会課題との関係性を見ていないことがよくあります。

例えば、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を達成するため新たな発電事業を行うことにしたけれど、発電事業によって発生する産業廃棄物の処理方法が決まっていないとか、大企業が単独で運営してしまい、地域の産業や人を豊かにするような結び付きを生み出せず、結局、持続可能な街づくりにつながっていないとか…。自分たちが掲げているSDGsの目標以外の視点から見たときにも、きちんと整合性が取れるようにしなければならないと思います。多角的に見て整合性が取れているSDGsの数を増やしていくことがこれから必要になっていくのではないでしょうか。

また、新型コロナウイルスの影響により、期せずして起こっているトランスフォーメーションを一過性のものにしないということも大切だと思います。感染症の流行が落ち着き経済を復活させる、そのときにかじ取りを間違ってしまうと、私たちはまた、CO2を吐き出しながら大量生産大量消費を行う方向に歩きだしてしまうと思うのです。

ですから、過去には戻らないように。ここ数カ月で起こっている、感染症の世界的な流行や経済活動の縮小、これによる解雇、そして働き方の問題などは、持続可能な社会になっていないという証拠でもありますから。これを改善して定着させる方向で動かなければならないと思うんですよね。

新型コロナウイルスへの対策というのは、SDGsの目標に向かうことそのものだと思います。より包括的に、よりサステナブルに。強い意志をもってトランスフォーメーションを定着させることが大切であると思っています。

TeamSDGs

TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。

TeamSDGsのウェブサイトでは、ウェブ電通報とは違う切り口で蟹江教授のインタビューを紹介。併せてご覧ください。

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