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SDGs達成のヒントを探るNo.6

サステナブルな思考とは、現代のパンクである!~マリエさんが語るSDGs

2020/08/13

モデル・タレントとして活躍するマリエさん。現在はサステナブルやエシカルを意識したアパレルブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカル マリエ デマレ)」のデザイナーとしても注目を集めています。

ミレニアル世代が、“かっこいい文脈”で語るSDGsとは?若者のロールモデルとして、また、企業の経営者として、多方面で活躍するマリエさんの話から、サステナブル時代の新しい姿が見えてきました。

マリエ
アパレルブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS」のデザイナーとして活躍しているマリエさん。


「ファンにうそはつけない」、その思いがブランドの立ち上げにつながった

──マリエさんは、エシカルやサステナブルをテーマにしたアパレルブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカル マリエ デマレ)」を運営していらっしゃいます。どのような背景があって、ブランドの立ち上げを決意されたのですか?

マリエ:ブランドを立ち上げようと思ったのは、若いときの後悔がずっと胸の奥に引っかかっていたから。以前の私は、「マリエちゃんみたいになりたい」「マリエちゃんの着ているものや食べているものをマネしたい」、そう言ってくれるファンの子たちに、正しい情報を伝えることができていませんでした。

本当に良い商品や、心から納得できるもの・ことを、自信を持って勧めることができていなかった。それは自分が周囲の大人たちに忖度していたからであったり、知識や経験が不足していたからであったり、いろんな理由があるのですが…。

大人になった今、より強く、意志を持って、「ファンの子たちにうそはつけない」「正しい情報を教養として広めたい」と思うようになりました。それで、自分の好きなファッションというものに乗せて、情報を発信したいと考えたのです。

もうひとつ、身体を壊したこともきっかけになりました。若いときは、モデルやタレントとして売れること、テレビに出て活躍することが成功なのだと信じて、がむしゃらに仕事をしていました。ところが、実際にテレビにたくさん出て、有名になっても、全然幸せだと感じられなかったんですよね。それどころか、自分にうそをついているような気持ちになってしまって。やりたいことも全然できていなかったし、未来も見えませんでした。ストレスから体調を崩し、1日に30粒もの薬を飲む毎日を送るようになってしまって…。そのとき「このままじゃいけない」「このままでは大切ななにかを失ってしまう」と思い、自分に向き合うため、ニューヨークのパーソンズ美術大学に留学しました。

ファッションについて勉強しながら、とにかくたくさんの人に会い、話を聞いて、自分が本当にやりたいことはなんなのか、なにをすべきなのかを探していきました。同時に、食事や生活を見直し、処方薬をやめることにも挑戦して。4年かけて、すべての薬を絶つことができました。

自分が苦しい経験をしたからこそ、若い子たちに、健やかでいることの大切さ、方法、知識を広めたいと思うようになったんです。キラキラした、手の届かない、憧れの存在としてではなく、挫折や迷いを経験した身近なロールモデルとして若い子たちにアプローチしていきたい。そんな思いで、今、エシカルやサステナブルを意識したブランド運営や講演活動に力を注いでいます。

あらゆる無駄をなくし、愛と志を持ってファッションを届けたい

──「PASCAL MARIE DESMARAIS」とはどのようなブランドなのでしょうか?特徴や意識されていることなどについてお教えください。

マリエ:ファッションに関するあらゆる無駄をなくすこと、オーガニックコットンを含めた本当に良い素材を使用すること、愛と志のある企業と取り引きすることなどを意識して展開しています。
    
具体的には、過剰な包装や買ったらすぐ捨ててしまうタグをできるだけ排除したり、無駄に豪華になりがちな展示会のインビテーションをシンプルかつ意義のあるものに変える試みに挑戦したり…。展示会のインビテーションについては、難民キャンプの子にフィーを払ってデザインしてもらう取り組みを進めています。子どもたちは収入やノウハウの獲得につながり、文字の読み書きも身に付けられる。ただ生産して消費するのではなく、未来につながる取り組みになればいいなと思って、いろいろと仕掛けているところです。

PASCAL MARIE DESMARAIS
ヨルダンの難民キャンプで暮らすシリアの子どもたちが書いた展示会のインビテーション。
PASCAL MARIE DESMARAIS2
洋裁を学ぶインドの女の子がデザインしたTシャツ。©ACE

オーガニックコットンについても、肌に良さそうという理由だけで取り入れているわけではありません。大量に農薬が散布されているコットン農場で働く子どもたち、その“当たり前”を変えて未来を守るために、意志を持ってオーガニックコットンを選んでいます。

他に、さまざまなブランドの工場から、本来なら廃棄されてしまうはずの布の切れ端や糸くずを集めてラグにするという「The LEFT OVER」というアップサイクルプロジェクトも行っています。

こうした活動をする際に心掛けているのが、とにかく現地へ行って、人と会うこと。取引先のオフィスだけでなく、工場や農家まで行き、実際に現場を見学させていただいて、互いに信頼できると感じたパートナーとだけ取引をするようにしています。

若者のマインドそのものを、根っこからサステナブルに変える!

──とてもアクティブにブランドを運営されているのですね。他に、イベントや講演活動なども精力的に行っているとのこと。イベントを通じて感じる、若者の傾向のようなものはありますか?

マリエ:サステナブルやSDGsに興味はあるけれど、なにをしたらいいのかよくわからない、という子が多いように思いますね。「なにをすればいいと思う?」と聞くと、「ごみ拾いですかね?」みたいな回答をする子もとても多い。それはそれで大切なことだと思うのですが、私は、「もうそんなことを言ってる段階じゃない」「もっと広い視野を持って、“サステナブルな思考”を身に付けなきゃね」と話すようにしています。

例えば、サーフ系のショップで働いている女の子。彼女には、「例えばあなたが、あなたのショップに並んでいるオーガニックコットンの服を1枚でも2枚でもいいから販売すれば、そのお客さまが他の合成繊維の商品を少しでも手にしないように方向性を変えてあげることができる。それって、すごく世の中が変わる、サステナブルなことじゃない?」と話しました。

それから、最近よく見かける、グリーンダウンプロジェクトのリサイクルボックス。グリーンダウンプロジェクトというのは、羽毛を再利用してグースのライブハンドピッキング(生きたまま毛をむしり取ること)を止めようという日本発の素晴らしいプロジェクトなんですが、これをお客さまに説明して広めるだけでも、SDGsへの貢献につながると思うのです。

自分の周囲になにがあるのかをよく見て、そこで自分になにができるかを考える。そうすると、意外とできることはたくさんあるはずです。「ごみはごみ箱へ」みたいな当たり前の手段に注目するのではなく、マインドや思考そのものをサステナブルに変えていかなければならない、そういうコミュニケーションを若い子たちとしなければならないと感じています。

──若者とのコミュニケーションで、なにか意識していることはありますか?伝え方、話し方など…。マリエさん流の交流術のようなものがあったら教えてください。

マリエ:若い子とコミュニケーションを取るときは、真面目にならないようにしています。昨年、5回ほどイベントを行ったのですが、会場はすべてカフェやクラブのようなところ。ダンサーを入れて、音楽をかけながら、ビートルズやカート・コバーン、忌野清志郎さんといったミュージシャンたちのファッションとメッセージについてレクチャーしました。

そのなかで、「サステナブルな思考とは、現代のパンクである!」と打ち出して。かつてのミュージシャンたちが世の中の不条理や理不尽に抗いながら歌でメッセージを伝えていたように、今の当たり前に「ちょっと待った!」をかけること、疑問を呈し行動することが社会や私たちの暮らしをよくしていくんだよと伝えるようにしています。

「サステナブルって、超パンクだ、超かっこいいよ!」、こう話すと、若い子たちの熱量が一気に高まるんですよね。次に会ったときに、「こんなこと始めました!」「こんな取り組みをやってるバンドもいるらしいです!」と報告してくれる子も多くて。

サステナブルとかエシカルというと、「意識高い系」みたいなイメージを持つ子も多いと思うのですが、そこをできるだけカジュアルに。ファッションやカルチャー、かっこいいという文脈で、もっともっと盛り上げていきたいと思っています。

企業には、良い人材を探し続け、未来に向けて育てる責任がある

──留学を経験され、さらに現在も、世界中の工場や農場に出向いているというマリエさん。国内と海外で、SDGsに対する意識の違いを感じることはありますか?

マリエ:アメリカやヨーロッパでは、そもそもSDGsという言葉を、あまり耳にしないような気がします。それはサステナブルな思考が日常のなかに根付いているから。打ち合わせに行って「ハーイ」とあいさつした次の瞬間、当たり前のように、「最近、どんな貢献してる?」みたいな雑談が始まります。若い子が、「最近、誰と付き合ってるの?」「うまくいってるの?」と話す感覚に近い感じ(笑)。それが30分、1時間と続いて、やっと本題に入るんです。

ここまでSDGsやサステナブルな思考が定着しているのは、恐らく、国が強制力を持って関連する取り組みを進めてきたからではないかと思います。例えばニュージーランドやオーストラリアでは、まず国が、「これはダメ」と言ってしまうことが多い。その“強さ”が、意識の定着を後押ししているのだと思います。

日本の場合は強制力が弱めなのでなかなか定着しないのだと思うのですが、一方で、ゆっくりと時間をかけてリベラルな価値観が染み渡っていくというメリットもあるんじゃないかなあと。「誰かに言われたからやる」というのではなくて、一つ一つの企業、一人一人の人間が、当たり前を見つめ直し、ベストを模索して、その結果、より静かで深い思想として根付いていく…。オセロのマスが変わっていくように、いずれ日本も変わっていくのではないかなと思っています。

──そうした未来に向けて、企業は、どのようなことを行っていけばよいのでしょうか?企業ができる取り組みや意識すべきことがあったら教えてください。

マリエ:良い人材を見つけること、これに尽きると思います。持続可能な社会というのは、未来に希望を持っている人、楽しんで働き、楽しんで暮らす人によってつくられるもの。私は、嫌だな嫌だなと思いながら適当につくられたTシャツと、きっとこれが袖を通す誰かの暮らしを豊かにするのだと信じてつくられたTシャツとでは、絶対に違うと信じています。

だから、思いを持ってものをつくる人を探し続けたい。正社員として採用するだけでなく、プロジェクトベースでパートナーを募集する、SNSで声をかけるなどさまざまなやり方で、副業、派遣、フリーランスなど、いろいろな形の“光を持って頑張っている人”を見つけ出したいと思っています。

若い子をモチベートし、育てることも大切です。私は、入社した子に、「君たちが先々、どこに行っても構わない。転職しても独立しても引き抜かれてもいいと思っている。ただそのときに、『こいつのスキル半端ないな、どこで勉強したの?』と思われるところまで鍛え上げると決めている、とにかくそこまで、君たちをあきらめない」と話すようにしています。完璧を求めず、手放さないと約束する。こうしたメッセージをガツンと伝えることで信頼感が高まり、その後、グンと成長する子が多いような気がすんですよね。

若手ができるようになっていく姿を見るのは、本当に幸せなこと。未来をつくるのは若い子たちですから。企業には、人を育てる責任があると思っています。


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