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戦略クリエイションは、『進撃の巨人』に学べNo.3

2020/05/18

『進撃の巨人』編集者が語る、これからの時代のサバイブ力

大ヒット漫画『進撃の巨人』をベースにした戦略論の解説書、『進撃の相談室』(発行:講談社)。その著者であり、クリエーティブ・ストラテジストの工藤拓真氏が、講談社の『進撃の巨人』担当編集者・川窪慎太郎氏とともに、「いまを生き抜くための『問いの作法』」について語り合います。

仕事、学校、人間関係…。あらゆる悩みに苦しむ現代人が課題を乗り越え、自分らしく生きる思考法とは?若い世代に必要な教育とはどんなものなのか?そのポイントを紐解きました。

前編:『進撃の巨人』編集者と考える、“人を動かす物語”とは

川窪慎太郎氏と工藤拓真氏のツーショット

一生懸命に人間の生を描き続ければ、結果として世界に届く

川窪:『進撃の巨人』が世界中でヒットした理由は、扱っているテーマがシンプルで普遍的なものだからだと思うんですよね。壁の内側と外側があって、外側には立ち向かわなければならない圧倒的な敵がいる。しかし話が進むと、壁の内側にも敵がいることが分かったり、敵だと思っていたものが、実は敵とはいえなかったり…。こういう構造って、どんなものにも当てはめられるものだと思うんです。日本だけじゃなく世界中にあるものでもありますよね。だから、いろいろな国の人が、自分の置かれた状況と重ね合わせて、「ああ、分かる分かる」と読んでくれているのだと思いました。

工藤:不自由に対する反逆っていうのかな、そういうことが描かれているんですよね。それでちょっと気になったんですが、川窪さんと作者である諫山創先生は、最初から世界を見据えて、こういう普遍的なテーマを扱おうと思っていたのですか?もともと日本だけでなく海外に広げたいと考えていたのでしょうか?

川窪:あ、それはまったくないですね。世界のことなんて考えていないし、もっといえば日本がどうという意識もありませんでした。諫山さんが純粋に描かんとするもの、描かなければいけないと思うものを描いただけだと思いますし、僕もそれをサポートしたいという思いだけでしたね。ただ、一生懸命、人間や人間の生を描いていくと、結果として世界に届くというか。思いを込めて作った物語が存在し続ければ、それが隣にいる日本人に届くように、隣にはいない世界の人にも届くのだなと思いました。

工藤:それはすてきですね。エレンたちが常に強い目的意識に突き動かされていたように、作り手の皆さんも、純粋で、強く、明確な目的意識を持っていらっしゃった、と。

僕は、心の中に強い目的意識のようなものを持っていれば、いろいろな悩みや息苦しさを乗り越えていけるんじゃないかと思っているんです。なにかを目指して、何度も何度も当たって砕けて。そういうことを繰り返して積み重ねていけば、どこかで道が開ける。それが、生きていくためにとっても大切なことなんじゃないかと思っています。

戦略論とは“問いの作法”を体系化したもの

工藤:もう一つ、川窪さんに、ぜひお聞きしたいと思っていたことがあるんです。僕自身が、子どもの頃から大の漫画好きだったということもあって、漫画編集者さんって、漫画家さんとどんなことを話しているのかなあということに興味があって。必ず伝えるようにしていることやアドバイスしていることなどはあるのでしょうか?

川窪:はい、あります。新人の漫画家に会うとき必ず聞くようにしているのが、「なんで漫画家になりたいの?」ということ。こう聞くと、「漫画が好きだからです」という子がすごく多いのですが、でもそれって、「=漫画家になりたい」ということじゃないですよね。僕も昔から漫画が好きでしたけど、漫画家になりたいとも、なれるとも思いませんでしたし。

もし漫画を読むだけで満たされるのであれば、普通に就職してお給料をもらって、そのお給料で漫画を買って読み続けるという道もありますよね。絵を描くことが好きなら、早く帰れる仕事に就いて、プライベートな時間でイラストを描いてSNSにアップするという手段もあるわけで。「今、あなたが漫画家になりたいと言っている、その思いはどこから来るものなのか」「どういう感情なのか」、それをしっかり考えた方がいいよと伝えています。

それは、100人のうち99人が漫画家になれずに終わっていくからです。何者にもなれずに去っていく子が多いからこそ、スタート段階で「本当に漫画家になりたいの?」「それはなんでなの?」という“問い”を投げかけることを大切にしています。

工藤:問いが大切…。これは、漫画家だけに限らず、どんな職業にもいえることですよね。職業だけでなく、なにかを選ぶときや始めるとき、行き詰まったときなど、あらゆるときに言えることだと思います。

川窪:そう思います。ちょっと話がズレてしまうかもしれませんが、昔読んだ本に、こんな話がありました。「どうして殺人がいけないのかに答えはない」「もし君に考えなければいけないことがあるとしたら、なぜ、今、この本を手に取ったかということだ」。もしかしたら友達との関係に悩んでいるのかもしれないし、将来の夢を描けず苦しんでいるのかもしれない。とにかく、その“なぜ”と真剣に向き合った方がいいんじゃないの、というようなことが書かれていたんです。

「これはすごくいい考え方だな」と思って、以来、何かを始めるときは「なんでやるんだっけ?」とか「なんのために始めるの?」と、必ず自分に聞くようにしています。

工藤:問いとか自問自答って、僕が『進撃の相談室』で伝えたいと思っている戦略論にも通じる、とても本質的で大切なことだと思います。戦略論って、問いの立て方というか、分析の手法というか、“問いの作法”とでも言った方がよいのかな、そういうものを体系化したものでもありますからね。

川窪:僕も『進撃の相談室』を読んで、そう思いました。本のメインターゲットである中学生ぐらいの子どもたちって、なんだか漠然とつらかったり、そもそもなんで悩んでいるかも分からなかったり、とてもモヤモヤした状況の中にいると思うんです。それは漫画家になりたいと言っている子たちも同じかもしれませんが。そこに、ちょっと新しい考え方や解決法、視点を変えるような問いが入ると、ガラッと景色が変わることがある。そういう、若い子たちのためのサバイブ術のようなことが書かれている本だと思いました。

『進撃の巨人』の担当者であるということを抜きに、一人の人間として、この本を、多くの小中学生に読んでもらえるといいなと思っています。

血肉の通った物語には、生きるヒントが詰まっている

川窪:前編でもお話ししたように僕は、問いだけでなく「物語」というものも、人間にとって必要不可欠なものだと思っています。物語には、人間がどう生きていけばいいのかを考えるヒントやエッセンスが詰まっていますから。

工藤:そうですね。今、小学校や中学校で、盛んに、問題解決能力を養うための対話教育が行われています。漫画や小説が取り入れられていることもあるようですが、その内容は「さあ、問題解決の時間ですよ」「ある日、突然、大きな男が襲ってきました。どうしますか?」といったような、多分に教科書的で現実離れしたものが多いように思います。

そうではなくて、血肉の通った物語を取り入れてほしい。幸い日本には漫画という良質なコンテンツがたくさんあるわけですから、これを活用しない手はありません。教科書的な漫画や小説を作って生きるヒントを“教える”のではなくて、多くの人に愛される良質な物語を生かして、「どう解釈するか」を、みんなで問いを立てながら“考える”ことが学びになります。そこに可能性や未来があるんじゃないかと思っています。

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