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通販広告と心理学のタッグで見えてきた「現代人の購買心理」No.4

2020/05/13

買ってほしいなら、「迷わせた」方がいいんです。

通販広告と心理学、異色タッグのプロジェクトチームが、3年かけて通販広告のデータを解析。その成果をまとめた『売れる広告 7つの法則』 (光文社新書)より、全7回シリーズでトピックスをご紹介します。

買うべきか、買わないべきか、迷って迷って、何度も欲しい商品をお店に見に行った。そんな経験はありませんか。特に外出が難しい今の時期だと、インターネットモールの商品紹介ページを何度も何度も見返す、といったことも多いと思います。

迷った挙句に「やっぱりいらないから買うのやめよう」と思われるかもしれないので、売り手からすれば、消費者に「迷われる」のは避けた方がよいように感じます。ですが、実際は正反対。買ってほしいのなら、「迷わせる」ことがとても有効なんです。今回は、そんなことに関わる「Discussion(対話)」の話をしていきたいと思います。

購買の第3のステップ「Discussion(対話)」とは?

「Discussion(対話)」とは、私たちが通販の反応データから導き出した購買心理モデル、「A・I・D・E・A(×3)」の3ステップ目のこと(モデルの全容は1回目の記事 にまとめておりますのでそちらをお読みください)。

AIDEA×3モデル
現代人は、まず自分のニーズに気づき、そのニーズを満たすものとして商品を認識した後、商品の価値を具体的に検証するステップに移ります。これが第3ステップの「Discussion」、すなわち自分との「対話」です。このステップで商品の価値を自問自答して、充分にニーズを満たすものだと判断しない限り、人はその先のステップへと進むことはないのです。

ところで、こうした購買心理モデルの代表格といえば、1920年代に提唱された「AIDMA」モデルです。この「AIDMA」モデルのDと、私たちが提唱する「A・I・D・E・A(×3)」モデルのDを並べてみると、興味深い事実が浮き彫りになります。

AIDEAとAIDMA比較表
「AIDMA」モデルのDが「Desire(欲求)」なのに対し、「A・I・D・E・A(×3)」モデルのDは「Discussion(対話)」。なぜこの違いが生まれたのでしょうか。ちょっと余談になりますが、解説しましょう。

「AIDMA」モデルのDが「Desire(欲求)」であること。これが意味するのは、1920年代は、商品に興味を持った後に生まれていたのは、「Desire(欲求)」という強い感情だったということです。しかし100年後の2020年はどうでしょう。商品に興味を持ったとしても、次に生まれる心の動きは「Discussion(対話)」、すなわち買うべきかどうかを「自問自答」するという、冷静な心理に変わっているのです。

理由は言うまでもなく、この100年間でモノや情報が格段に増えたから。モノが少なかった時代は、商品を知ることがそのまま「欲しい」という欲求になっていました。ですが、モノや情報があふれた現代では、興味がそのまま欲しい気持ちにはなりません。「欲求のままに買って大損した」という失敗体験を積み上げてきた人類は、100年で購買行動を進化させ、第3ステップの「D」の中身を自ら変化させたのです。

「Discussion(対話)」の中で、どんな心の動きが起きているのか?

では続いて、この「自問自答」の中で、実際にどのような心の動きが起きているのかを見ていきます。結論から言うと、自分の中で対話をすることで、商品の価値がより理解できるようになる、という効果が生まれます。これを証明するために、私たちが行った実験を紹介しましょう。

【実験①】「街頭インタビュー」の有無による、情報の受け止め方の変化 

一つ目は、「自問自答」するかどうかで情報の受け止め方がどう変わるのかを調べた、通販広告の実験です。

実験1

具体的には、「日本人の大半が、野菜摂取量が足りていない」という情報を伝えるに当たり、その情報をナレーションでストレートに伝えたパターンAと、野菜不足を実感している人たちの街頭インタビューを挟んだパターンBの2つの広告を制作。それぞれを見た人に、「日本人の野菜不足」の情報をポジティブに捉えたか、ネガティブに捉えたかを聞いてみました。

結果はごらんの通り。なんと、日本人の野菜不足という全く同じ情報に対して、反応は真逆になったのです。

実験1結果

パターンAを見た人たちは、多くが野菜不足の情報をポジティブに評価しました。それに対してパターンBを見た人たちは、その多くがネガティブな評価を下したのです。なぜ、このような結果になったのでしょう? 

パターンAのポジティブ評価。これは、野菜不足の情報をストレートに見せられた人は、その情報をテレビから流れてきた有益なネタとして、そのまま“有益”だと評価したことを意味します。

一方で、パターンBのネガティブ評価は、次のように解釈できます。視聴者はまず最初に、野菜不足の人たちの街頭インタビューを見ました。これにより、視聴者は自分が野菜が足りているかどうかが気になり始めたはずです。言うなれば「野菜不足が気になるスイッチ」が入った状態です。

そこに投下されたのが「日本人の大半が野菜が足りてない」という情報。この情報は、スイッチが入った人にとって、「自分も野菜が足りない可能性が高い」と思わざるを得ない情報です。つまり、街頭インタビューを見て「自問自答」してもらったことで、パターンBでは、野菜不足を自らのネガティブな課題として捉えた、すなわち“自分ごと化”してもらうことができたのです。

この事例は、「Discussion(対話)」をすることによって、現代人がニーズへの意識を高め、商品の必要性をより深く認識してくれることを端的に示す例だといえます。

 【実験②】「ほうれん草10株分」による、情報の理解度の変化

二つ目は、説明の分かりやすさが情報の理解にどのように影響するかを調べた実験です。

実験2

実験に用いたのは、ビタミンE、ビタミンB1・B6、食物繊維を一度に取れるサプリメントの通販広告です。サプリメントの特長を「ビタミンE〇〇ミリグラム」のようにストレートに伝えたパターンAと、「ほうれん草10株分のビタミンE」のような換算表現を用いて、ビジュアル的にも分かりやすく表現したパターンBの映像を用意。それぞれの反応の差を調べたのですが、中でも特に注目すべきが、「この商品で、どの栄養素がたくさん取れると思うか」を聞いたアンケート結果です。

実験2結果

ごらんの通り、パターンBを見た人の方が、各栄養素を多く取れそうだと評価しています。そして、注目してほしいのが、下の表の右側に追加で示した、「鉄分」「βカロテン」「ビタミンC」の各栄養素への評価。

実験結果2の2

これらは実際には商品には含まれていない、もちろん広告でも触れていない栄養素。つまりダミーの選択肢だったのですが、パターンBを見た人は、これらに対しても高い評価をしたのです。

説明が分かりやすいと、おのずと理解度も高まる。理解度が高まると、勝手に想像が広がり、本来の価値以上の期待までも生まれる。この結果は、人間の持つそんな思考のパターンを示しています。「自問自答」と形は違うかもしれませんが、理解を高める、すなわち自分の中で考えを深めることが、正しい価値判断のみならず、いわば「幸せな誤解」まで生む力があることを、この結果は示しているのです。

迷わざるを得ない時代だからこそ、「Discussion(対話)」が不可欠。

二つの実験から言えること、それは「自問自答」をするという行為が、確実に自分のニーズへの意識を高めたり、確実に商品の特長の理解を高めることにつながる、ということです。

モノや情報があふれる現代は、裏を返せば、何を選ぶか一発で決められない時代です。この時代に「買う」という決断を下すには、商品が本当に間違いないものかどうかを、自分の中でしっかりと比較検討することが欠かせません。だからこそ冒頭で紹介した通り、買ってほしいのなら、「迷わせる」ことが有効。「Discussion(対話)」のステップは、まさにそのカギを握っているわけです。

40代のオッサンが言うには気持ち悪い例えですが、この心理って、少女漫画によくある(ホントにあるんでしょうか?)花びらを1枚1枚ちぎりながら、「スキ」「キライ」と迷う心理と似ている気がします。「自問自答」することで、相手を求める気持ちが自然と高まってしまう。そしてあばたもえくぼ的に、本来持ち合わせない特長まで評価してしまう。現代人の買い物って、このような少女漫画的過程を経て、買いたい気持ちを高めていく行為なのではないでしょうか。

この先もモノや情報は、増えることはあっても減ることはないと思われます。しかも突発的な事態をきっかけにリモートな手段を取り入れざるを得なくなった私たちの生活は、今後ますますリモート化していくでしょう。そうなると、近い未来の買い物は、今以上にしっかりと選択することが欠かせないものになるはずです。

つまり、より「迷う」時代であり、より「Discussion(対話)」が大切な時代がやって来るのです。そんな時代に向けて、私もさらに「Discussion(対話)」を深掘りし、もっともっと「迷わせ」られるよう、頑張っていきたいと思います。