「令和 若者が望む未来調査2019」より 令和を生きる若者にアプローチするためのヒントNo.1
なぜ、社会と若者はすれ違うのか?
2020/05/19
「令和 若者が望む未来調査2019」とは
昨年5月に元号が令和となり、新たな時代の幕が開けました。令和は、どのような時代となっていくのでしょうか。これを探るヒントは、令和の時代をけん引する若者たちの思いの中にあると、われわれ未来予測支援ラボは考えました。そこで、彼らがどのような未来を望んでいるのか、それを把握するために「令和 若者が望む未来調査 2019」を実施しました。
本調査では、令和時代をけん引する世代である若者を、平成生まれ(調査パネル上は15~29歳)の男女と定義しています。調査は、2019年6月に1万人を対象に、記述式で若者の思いを把握。この6月調査から得られた若者像の確認と深掘りのため、同年12月に600人を対象に、選択式の追加調査を行いました。
この連載では、本調査のサマリーを、全3回に分けてご紹介します。第1回は、「社会の期待と若者の思いのすれ違い」です。
社会が若者に期待するのは「社会への主体的な貢献」
初めに、若者を取り巻く環境を見てみましょう。その時々の若者への期待が反映される学習指導要領から、国は「周囲と共に学び、その知識の活用に主体的に取り組む人材」を求めていることが分かります。
また、経団連の調査では、企業は新卒者に論理性やリーダーシップよりも、「チームと一緒になって主体的に取り組める人材」を求めていることが分かります。これらから、社会から若者への期待とは、「社会の発展への主体的な貢献」だと考えられます。
一方、社会から若者に提供する環境は、経済状況をはじめとする制約により、厳しいものに変わっています。国の予算は、社会保障関連が急激に増大する半面、文教関連は緩やかな上昇にとどまり、シニアらに手厚いとの認識を生みやすい状況です。
企業も、平成の30年間で、賃金を大幅に低下させました。また、非正規雇用を増加させた結果、正規雇用が狭き門になりつつあります。この数年、経済の回復基調が続いていましたが、税負担なども増しており、若者に厳しい環境は変わっていません。
若者が社会に求めるものは、「平等な負担」と「自由な暮らし」
若者は、このような環境をどのように捉えているのでしょうか。彼らは環境が厳しいことを理解しています。それは次のような意見からも確認できます。
このように負担の増加や不安定さに強い懸念を持つ若者が、社会からの求めに応じた成長を選択するのでしょうか。まずは、自身の生活について考えるのではないでしょうか。この傾向は、「実現したいと思う成長」(図表1)で確認できます。
【図表1】
若者の成長イメージは、起業や企業内での昇進といった組織や社会を前提とするものよりも、収入や着実な能力成長、資格取得といった個人の成長です。ここから若者の生活防衛の意識は明らかだといえます。この背景には「社会から、個人の安定が得られない」との思いがあると考えられます。「10年後になってほしい社会」(図表2)にはその思いが強く表れています。
【図表2】
彼らが望むのは、自分や周囲の人々を含め、生活の基盤としての「社会の安定」です。若者も発展より、安定を強く望んでいるのです。では、その具体的に望まれる安定とは、どのようなものなのでしょうか。そのヒントが次のような記述に表れています。
若者が求める安定の一つが、「平等な負担」だといえます。若者は、社会のため負担自体は肯定しています。ただし、平等であることを望んでいるのです。そして、それぞれの「自由な暮らし」が実現できる未来も求めていることが分かります。
若者がテクノロジーの発展に対して抱く懸念
若者は、社会の安定を望んでいますが、これは社会の発展に否定的であるということではありません。彼らはどのような社会の発展を望んでいるのでしょうか。社会の発展段階においては、さまざまな技術やサービスが現れます。そこで、若者の技術などへの思いを掘り下げることで、彼らが望む発展の姿を探っていきます。はじめは技術への期待です。
【図表3】
「AI・ロボットなどの技術発展への期待」(図表3)では、技術に期待する若者は5割です。若者はさまざまな通信サービスの利便性を享受しているものの、その技術への期待が半数にとどまっているとも捉えられます。これが、先ほどの社会の発展に対する期待の低さの理由のひとつではないでしょうか。なぜなら、若者は技術に対し次のような認識を持っているからです。
若者は人を補完するものとして技術に期待する半面、人の役割が奪われるのではないかと、技術、特にAIに懸念を持っています。技術が人々に利便性をもたらし、社会の発展につながることを理解する一方、技術は万能ではなく、人の役割、特に人としての心を脅かすものとも考えているようです。ここから解釈を広げていくと、若者は社会基盤の一つとして「人間らしさ」「人の心の存在」を求めているとも考えられます。それは若者がAIなどの技術と、どのように付き合っていきたいのか、その中にも表れています。
【図表4】
「AI・ロボットなどの技術に対する考え方」(図表4)から、技術に“人のサポート”を期待していることが分かります。意思決定のサポートであり、タイミングを含め、イニシアチブを持つのは人です。日々の暮らしにおいては、工場のような完全自動化は理想にはなり得ません。
また、アウトプットだけではない丁寧なコミュニケーションを求めています。ボタン一つで便利なアウトプットが得られることより、アウトプットに至った過程に納得感を求めています。
最後のリスクはやや割れています。リスクの低減を望みつつも、現状を変える最適案としてリスクを許容しています。一見矛盾するものだといえますが、「リスクを回避したいという思いが根底にあるものの、現状はリスクを取ってでも変える必要がある」と認識しているのかもしれません。非常に人間らしい揺らぎです。
以上の結果から、技術の導入では人への配慮を期待していることが分かりました。社会の発展に当てはめるならば、利便性だけでは彼らには届かないといえます。彼らに届く社会の発展とは、利便性よりも、人々の心をどのように豊かにしていくのか、を目的とし、その発展イメージにも、心の豊かさの具体化とそのプロセスの提示が必要なのではないでしょうか。現在の社会の安定を求める気持ちとは、利便性を手放してでも心の豊かさを優先する、その思いの表れとも捉えられるのです。
今回は下記三つの、社会と若者、それぞれの思いのすれ違いを見てきました。
【個人目標のすれ違い】
「若者は社会などが求める社会への貢献よりも、個人のスキルを磨く自己の防衛を重視している」
【社会目標のすれ違い】
「若者は社会の発展よりも、安定を強く望んでいる」
【技術の発展にあるすれ違い】
「若者は技術などによる利便性の追求よりも、人間らしさを損なわない技術の在り方に関心がある」
技術の発展におけるすれ違いは、社会に対する若者の思いを反映しています。若者はAIなどの技術を用いた社会の発展に対し、働くことや自身の意思や思考といった人の本質的な価値を脅かされる恐れを抱いています。ここから、若者は便利な社会よりも、心による社会の牽引に期待しているとも感じられるのです。第2回では、若者に見られる新たな社会の萌芽をご紹介します。