「令和 若者が望む未来調査2019」より 令和を生きる若者にアプローチするためのヒントNo.2
若者の意識から見える今後の日本人の新しい特性?「しなやかな集団主義」とは
2020/06/16
これからの令和の時代はどのような時代になっていくのか?そのヒントを未来予測支援ラボの「令和 若者が望む未来調査2019」から探る本連載。第1回は「社会の期待と若者の思いのすれ違い」について解説し、若者が、きたる未来に「便利な社会」よりも「心による社会のけん引」を期待している様子を紹介しました。
今回は、「若者が自分と社会との関係をどう捉えているか?」に焦点を当て、「新しい集団主義の形」を浮き彫りにします。
若者は周囲との関係性を重視?
まず以下の表をご覧ください。若者から得られた「10年後になっていたい自分のイメージ」(自由回答)をクラスター分析で分類したものです。
【図表1】
「周囲との関係性」に分類される回答は、全体の約46%を占めています。具体的には「人・社会に貢献し周囲に必要とされる」「家庭と仕事を両立できている」「自立し、他人を思いやる」「みんなと笑顔で暮らせている」「幸せな家庭を築く」などの内容です。
「周囲の人・家庭・社会」に対して「貢献しているか・必要とされているか」、すなわち社会的な役割を適切に果たすこと、「他者を思いやれているか・他者と良い関係性を築けているか」など他者と情緒的なつながりがあることの重要性が示唆されています。
私たちは、「若者の『未来の自分像』に関する回答の半分近くが、周囲や社会からの評価、参加、情緒的なつながりなど『周囲との関係性』に関する内容であった」というこの定性調査のデータに注目し、続いての定量調査で「若者の周囲との関わり方」について分析を進めていきました。
自己アピールよりも周囲への配慮を重視する若者
以下は、「人間関係における考え方」に関する質問への回答です。
【図表2】
最近は教育の現場で、積極的な自己表現やプレゼンテーションが重視されています。しかし「人と話すときにはできるだけ自分の存在をアピールしたい」32.5%、「大勢の人が集まる場では、自分を目立たせようとする」20.6%と低いのに対して、「自分の意見を言うとき、みんなに反対されないか気になる」65.3%、「不愉快な表情をした相手には、なるべく機嫌を戻してもらうようにする」59.5%(以下全て「当てはまる」「やや当てはまる」計)など、“若者は自己アピールよりも、周囲への配慮を優先している”ことが明らかです。
次のデータも先ほどと同様、若者に「人間関係における考え方」について質問した結果です。
【図表3】
「話している相手が喜ぶことを心がける」73.2%、「周りの人が助けを求めていれば、率先して手を差しのべる」64.5%、そして「人の相談事にはできるだけ耳を傾ける」79.9%といずれも高い数値を示しており、“若者は周囲への貢献意識・利他的な心がとても強い”ことを示しています。
「日本社会は『集団主義』であり、個人の自己主張を抑制する『同調圧力』が強い」という議論があります。前のデータでも若者が自己アピールよりも周囲への配慮を優先することを示しており、若者の世代でもこの「集団主義」「同調圧力」が強いようにも見えます。これらから何が読み取れるのでしょうか?
「個人の主体性」を持ちつつ「集団主義」的にふるまう~「しなやかな集団主義」の萌芽
若者は従来の日本人と同様に依然として周囲への見え方を重視する意味で「集団主義」的に見えます。それは、自己アピールよりも「周囲への配慮」を重視する行動に表れています。一方で、周囲に合わせながらも個々人の内面は生き生きと動いているようで、周囲の人が喜ぶことを心掛け、人に手を差し伸べ、話を聞く主体性と自由度を持っています。そして、周囲に合わせつつも、「自分が良いと思うものを選ぶ」ことができる人たちです。
まとめますと、
・周囲に合わせる、自分を抑える、という集団主義的なふるまいはこなしつつ
・主体的に、自分の気持ちに従って人に寄り添う意識と行動を示せる、自分の好みをはっきり持っている
という、背反しそうな二律を上手に両立させている人たちに見えます。
集団主義的にふるまいつつ、「しなやか」に自分を生きている人たちなのです。集団主義のように見えますが、その運用が硬くなくゆるやかなのです。
【図表4】
以下は昨年6月に30歳未満の若者に質問した「10年後になってほしい社会像/自分像」の回答の一部です。
これらを総合すると「しなやかな集団主義」のような社会観が浮かび上がってきます。周囲の集団と足並みを揃えつつ、自分の好みははっきり持っていて、必要な際には進んで周囲の個人に助けの手を差し伸べる。そんな今どきの若者の、社会との関わり方が見えてくるようです。
今20~30代の、フリーランスや社会起業のリーダーとその周辺で、このような人たちを数多く見かけます。彼ら・彼女らは集団の空気をとても大事にしつつ、その場の一人一人の事情や感情にも寄り添います。各人明確な意思を持ちつつ互いの考えの違いを尊重し、協力する時はさっと集まり、終わると解散します。かっちりした組織をつくりたがりません。人当たりは柔らかいのですが、歩みを止めず進み続ける芯の強さを持っています。
まだ重ねての検証が必要ながら、平成から令和に至る時代は、従来の日本人の「集団主義」を残しつつ、今このような新しい日本人を産み出しつつあるように思えるのです。
でも若者は「自分は社会や人の役に立っていない」と感じている
他者への貢献意識が高い若者ですが、調査結果では「自分は社会や人の役に立っている」は30.3%にとどまっています。彼らは“自分が社会や人の役に立っている実感”に乏しいのです。
【図表5】
周囲に気を遣いつつ、でも主体的に役に立ちたい気持ちもあるのに、社会の中で自分の役割を見いだせない若者たち。もしそうだとしたら、社会には「しなやかな集団主義」の若者たちの声に耳を傾け、適切な機会や役割を提示することが求められているのではないでしょうか。第3回は、「しなやかな集団主義」と消費意識について考えます。