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「令和 若者が望む未来調査2019」より 令和を生きる若者にアプローチするためのヒントNo.3

若者にとって大事なものとは?「しなやかな集団主義」と消費意識

2020/07/01

未来予測支援ラボの「令和 若者が望む未来調査2019」から、若者の思いを明らかにすることで、未来へのヒントを探る本連載。第1回は「社会の期待と若者の思いのすれ違い」について解説し、第2回では、確固たる自分を持ちながら周囲との協調を大切にする「しなやかな集団主義」ともいうべき、若者の社会意識を紹介いたしました。

最終回となる今回は、対人交流、消費に関する意識を通じて「しなやかな集団主義」的特徴を持つ若者たちのインサイトを深耕し、企業が若者にアプローチするヒントについて考察します。

SNSは“友人”を増やすのか?

「しなやかな集団主義」的な特徴を持つ若者たち。彼らが日常的に使っているSNSは、周囲との交流にどのように利用さているのでしょうか。図表1は、若者の友人の数についての質問結果をまとめたものです。

【図表1】

友人の数
「令和 若者が望む未来調査 2019」12月調査

友人の数は1~10人が41.5%でボリュームゾーンです。0人も含めると友人の数が、10人以内が約5割。また、ネット・SNSで知り合った友人の数を併せて質問したところ0人と答えた人が約半数を占めました。若者にとって、友人関係は、ネットではなく対面可能な周囲の人間関係が起点のようです。

リアルの人間関係は若者に行動を促す

では、彼らはリアルな対面交流と、ネットの人間関係にそれぞれどんな意識を持っているのでしょうか。さまざまな質問をした中で、「ネットの人間関係」が特に優勢だったのは、下記の三つです。

【図表2】

ネットとリアルの違い
「令和 若者が望む未来調査 2019」12月調査

「暇つぶし」「時間帯を気にしない」「気軽」といった、自分にとっての便利さをネットの人間関係に期待していることが分かります。それに対して、「実際に顔を合わせたとき」が特に優勢だったのは、下記の三つです。

【図表3】

ネットとリアルの違い
「令和 若者が望む未来調査 2019」12月調査

「思い出に残る」「気持ちが伝わる」「約束を守る」といった自分の心に生じる感情的な実感を評価しています。特に面白いのは、「約束を守る」といった行為に関わる回答が上位に来たことです。対面による感情交流は若者の行動を喚起する力があるようです。

さらに、6月の調査から発言をいくつか見てみましょう。

<10年後に望まない自分/社会像>

10年後に望まない自分/社会像
<10年後に望む自分像>

10年後に望む自分像
「令和 若者が望む未来調査 2019」6月調査

“地域の人との密接な関係”“相手の立場を考え、理解し合える関係”“人と人との直接的なコミュニケーション”“家族の存在”といった、人肌が感じられるくらいの距離感で、より深い人と人との相互理解を望んでいることが分かります。

若者はSNSで自在にネットワークを広げている印象がありますが、若者の対人交流の中心は、あくまで身の回りの人々です。対面を通じて、人と人との感情交流の実感を大切にする。「しなやかな集団主義」な若者のひとつの特徴ではないでしょうか。

若者が持つ社会への危機意識とは

そんな、若者にとって人間の価値とはどのようなものなのでしょうか。

それを知るために、下記のように2段階で質問をしました。あなたが考える「人間にとって大事な要素」を回答してもらい、選択したものの中から「世の中から、失われそう」と考える要素を答えてもらいました。その結果を散布図にしたのが図表4です。

【図表4】

若者が社会に持つ危機意識
「令和 若者が望む未来調査 2019」12月調査

横軸が「人間にとって大事」と答えた割合、縦軸が「世の中から、失われそう」と答えた割合です。読み解くために、それぞれのスコアの平均値で4象限に分割しています。

最も注目したいのは、第1象限の人間にとって「大事だが失われそう」と危機感を持っている要素の領域です。「助け合い」「思いやりホスピタリティー」といった、互助互酬の精神が高いスコアでプロットされています。「決断力」「クリエイティビティー」といった個人の能力は第4象限の「大事ではないが、失われそうにない」領域にあるのと対比的です。

まさに「しなやかな集団主義」な若者たちの面目躍如なのですが、自分たちが大事だと思う人間の価値は、世の中の趨勢ではないと感じていることが伺えます。

連載第2回では、調査データから、周囲に気を使いつつ、役に立ちたい気持ちもあるのに、“社会の中で自分の役割を見いだせない若者”について触れました。その背景には、人間の価値に関する、若者と社会のすれ違いがあるのかもしれません。

平成時代の、能力主義、成果主義的趨勢は、若者たちにとって自己実現のチャンスというより、一種のプレッシャーと捉えられているのではないでしょうか。少なくとも、「しなやかな集団主義」な若者をもっと社会に巻き込んでいくには、彼らの大切だと思う互助互酬の人間的価値を織り込んだ、未来社会像を提示していく必要があるでしょう。

若者がお金を使う理由、第1位は?

企業は「しなやかな集団主義」な若者にどのようにアプローチすればよいのでしょうか。彼らにお金を使いたい理由を質問し、トップ10をグラフにしました。

【図表5】

若者がお金を使いたい理由
「令和 若者が望む未来調査 2019」12月調査

「癒やされたい」が1位、続いて「夢やロマン」「非日常の世界」「遊び心」が続きます。第1回、第2回、そして本稿でも現れる若者と社会のすれ違いが、この1位の「癒やされたい」に表れていると思われます。

2位以降は、若者らしい好奇心や冒険心が上位にあり、若者のストレスを解消してあげられれば、前向きな消費活動につながることが期待できます。

さらに、先ほど示した散布図(図表4)の第1象限に位置する「思いやりホスピタリティー」「助け合いの心」について「大事だが失われそう」と回答した人を対象にクロス集計を行いました。「しなやかな集団主義」な若者のうちでも、特にその傾向が強いと考えられる人たちです。全体平均との差分で、彼らに特徴的な「お金を使う理由」を探してみました。(+5ポイント以上を網掛け)

【図表6】

若者がお金を使いたい理由クロス集計
「令和 若者が望む未来調査 2019」12月調査

「思いやりホスピタリティー」「助け合いの心」、それぞれの回答者で差はありますが、総じていうと、個人的欲求では、「未知のもの・目新しいものを体験したい」「安心・安全に過ごしたい」「夢やロマンを感じたい、感動を味わいたい」「探求したい」など幅広い項目で高くなりました。また、対人的欲求では、「癒やされたい」「好かれたい、愛されたい」が、社会的欲求では「人の役に立ちたい」「正しいことをしたい」が平均より高い結果となりました。

以上を総合すると、「しなやかな集団主義」な若者がお金を使うに値することは、「人への貢献」「社会的な大義」「自分の理想につながる新しいチャレンジ」、そしてそこからは「ちょっとした人の好意を得ることができる」、といったイメージが見えてきます。

“人の役に立ちたい”から始まる取り組み

コロナ禍による外出自粛で経営が苦しい地元飲食店を応援するため、墨田区在住の若者たちは今年4月、土日限定のデリバリーサービス「すみだローカルフードデリバリー 」を始めました。同サービスのSNSには、


外出自粛により途絶え始めたお店と個人の関係を取り戻したい
外になかなか出られない人のために美味しいものを届けて、みんなを幸せにしたい!
墨田区のお店と有志による地元密着デリバリー。
 

とサービスを始めた趣旨が書かれています。
きっかけは、個人的な知り合いである飲食店店主からの相談であったといいます。困っている人の役に立ちたいという一心が、このような活動につながったのです。

この活動は、前述の「しなやかな集団主義」な若者のお金を使いたい理由の特徴とよく符合します。「すみだローカルフードデリバリー」はいわゆる“消費”ではありませんが、若者に行動をコミットさせるためのさまざまなヒントにあふれています。

周囲との顔の見える人間関係、誰かの役に立ちたいという思い、活動を通じた仲間とのつながり、仲間と力を合わせて問題を解決する喜び、その結果得られる相手の笑顔が、さらなるモチベーションにつながっていく…。企業は、若者を単に消費者としてだけではなく、感情を共有し、一緒に活動する対等な仲間として捉えることが大切です。

コロナを契機に今、新しい時代の社会のあり方が問われています。個人主義的であり、集団主義的側面もある、「しなやかな集団主義」な若者たち。本連載でご覧いただいた若者の在り方には、未来の日本人の社会づくりのヒントが隠されているのではないでしょうか。
 

【調査概要】
調査名:「令和 若者が望む未来調査2019 6月調査」
実施時期:2019年6月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国に住む15~29歳の男女(10000サンプル)
調査会社:電通マクロミルインサイト
 
調査名:「令和 若者が望む未来調査2019 12月調査」
実施時期:2019年12月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国に住む15~29歳の男女(600サンプル)
調査会社:電通マクロミルインサイト
 
※本レポートは、新型コロナウイルスの感染拡大以前に実施した調査に基づいて作成しています。そのため現在は、本レポートと異なった新たな意識が生まれている可能性もあります。