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“ワクワク”のスイッチをONにせよ。〜オンライン教育の本質と可能性〜No.3

オンラインの対話を補完するカギは「背景」にあり

2020/06/24

BBT大学ロゴ床面積0㎡。日本初、100%オンラインで経営が学べるBBT大学。世界110カ国に居住する在学生が、サイバースペースに集結する。その最前線で教壇に立つグローバル経営学科長の谷中修吾教授に、オンライン教育の本質と可能性について聞いた。(第3回)

このコラムでは、100%オンラインのビジネス教育における私の現場経験に基づいて、教育とは「ワクワクを思い出し、そのスイッチを入れる場」であるという考え方を最初にご紹介しました。そして、ワクワクと向き合うために、過去の原体験を手掛かりとして、ライフストーリーの軸を浮き彫りにするという視点をご紹介したのが前回のお話です。

さて、その原体験を探るプロセスは、人の「背景(Background)」を読み解くということを意味するわけですが、同時に、オンラインでコミュニケーションの品質を著しく向上させるカギでもあります。今回は、その秘密に迫ってみたいと思います。

谷中先生の講義の様子
谷中教授によるオンライン講義の様子。東京・麹町のスタジオから配信し、世界110カ国に居住する学生が受講。谷中教授はBBT大学の人気科目『マーケティング基礎』を教えている。

いま、新型コロナの影響を受けてオンライン会議が急増する中で、なんともいえない「オンライン疲れ」を感じている方も多いことでしょう。自宅から外に出ることなく会議ができるし、ビデオ通話における回線事情も安定しているし、資料の画面共有も問題ない。とても便利なのに、「なぜか疲れる」「伝わっていない感じがする」「やっぱり対面で会議がしたくなる」のは、一体なぜか?

私たちが意識的に認識している以上に、対面のコミュニケーションから得られている情報の量と質は膨大であるということです。つまり、オンライン会議で伝わる情報の量と質は、リアル会議と比べて圧倒的に低いということを意味しています。だから、オンライン会議では、いつもより集中していないと、対面の時に自然と得られている情報が得られない。しかも、その情報の差異が何たるかについて、必ずしも自分で認識しているわけではないため、なんともいえないモヤモヤが残るわけです。

ライブ講義のマシン
BBT大学のスタジオには、ライブ講義に必要な機材が並ぶ。学生から提出された成果物に対して、バラエティ番組感覚でフィードバック講義を行っている。


別の表現をするならば、オンラインのコミュニケーションは、現実の膨大な生データ(Raw Data)のごく一部をサンプリングしたものといえます。もしコミュニケーション手段別に伝わる情報の量と質の関係性を表現するならば、以下にようになるでしょう。

【 メール < チャット < 音声通話 < ビデオ通話 <<<……<<< 対面 】

要は、ビデオ通話を基本とするオンライン会議と、対面で会うリアル会議の間には、思っている以上に大きな開きがあるということです。

これを理解すると、オンラインでコミュニケーションの品質を補完するための方策が見えてきます。ビデオ通話で得られない情報を「推察」できればよいのです。そのために有効なのが、相手の「背景」(Background)を理解すること。相手がどういう環境で育ってきた人なのか。どのような思想や価値観を持っている人なのか。相手の背景の中核にあるライフストーリーを理解していると、発言のウラにある思いを推察できるため、オンラインでも足りない情報を補完しながら良質な対話が実現できるというわけです。

だからこそ、私は、100%オンラインのビジネス教育においても、課外の対面イベントでの接点をとても重視しています。たった数分の会話でも、対面でのコミュニケーションには、相手のライフストーリーを五感で知覚できる情報があるからです。それは、相互の信頼関係にもつながります。相手の背景を理解できると、オンラインでの対話も円滑になります。

加えて、オンラインでは、その日の相手のコンディションも重要な背景です。モニター越しに、表情、声のトーン、服装などから、今日の背景を読み解く。また、画面に映り込む「物理的な背景」も重要な情報で、「この人は今、こういう環境で話をしているんだ」ということを理解できるし、逆にこちらの状況も伝えられます。くしくも、オンライン会議ツールでは、背景のぼかし機能や差し替え機能が充実していますが、背景の有無によって、伝わる情報の量と質が変わることに感づいている方もいることでしょう。可能な限り、相互にリアルな背景を共有することで、オンラインの対話の品質が向上するものです。

リモトート卒業式の様子
BBT大学では教授が自らワクワクをカタチにする。2020年3月、新型コロナに対応して、谷中教授が「アバター卒業式」をプロデュース。卒業生が自宅からアバターロボットを操作して、大前研一学長から卒業証書を受け取った。


総括すると、オンラインの対話を補完するカギは「背景」にあり。私がBBT大学に着任して以来、100%オンラインのビジネス教育環境の中で、授業もゼミも安定的なパフォーマンスを発揮し続けるに至ったのは、オンラインの対話の特性を踏まえて「背景」の理解を重視した結果ともいえるでしょう。