「インナーアクティベーション」
組織の中にこそ、クリエイティビティーを。
2020/06/22
電通ビジネスデザインスクエア(以下BDS)のインナーアクティベーション・チームは、「企業を内側(インナー)から動かし、事業や経営を良い方向へ変化させること」をミッションとして活動。今回は、独自のアプローチで経営課題と向き合うこの取り組みについて、BDS江畑潤氏に語ってもらいました。
経営者が抱える「組織の内側の課題」に応える
BDSは、「愛せる未来を、企業とつくる」をビジョンとして掲げ、これまで多くの経営者や経営幹部の方々とプロジェクトを進めてきました。その中で気づいたのは、多くの企業が“組織の内側にある課題”と向き合っていることです。
「組織を変革させるための、人づくりができていない」
「未来を見据えて開発したビジョンが、現場に浸透していない」
「時代の変化の中で、創業の精神が失われている」
多くの経営者が、経営課題の大きなテーマのひとつとして組織の内側と日々向き合っています。そうした課題を電通らしいアプローチで解決するために開発したプログラムが「インナーアクティベーション」です。BDSでは、当局の前身となる未来創造グループとして活動していた時期も含めて10年ほど前からインナーアクティベーションを行ってきました。
インナーアクティベーションの特徴は、“人を動かすことで、組織を動かす”こと。それが、“アクティベーション”という言葉が名前に入っている理由です。
そして、私がいくつかの企業とプロジェクトをご一緒する中で感じるのは、「組織のアクティベーションには、電通のクリエイティビティーや実行力が効く!」ということです。
働く人が主語の時代、Withコロナの時代の「人と組織の動かし方」
人と組織の関係は、働く人が主語の時代にシフトしています。社会の変化に合わせて、企業は社員の意思や思いをくみ取りながら、響くメッセージを開発したり、前向きに行動するきっかけを提供する必要があります。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で社会が大きく変化しました。テレワーク導入が一気に進んだり、オンラインコミュニケーションが増えたりする中で、組織や働き方にも変化が起きています。
家庭と職場、社内と社外、事業活動と社外活動などの「境界線」が、コロナ禍で急速に溶けてゆくような体験を多くの人がしているのではないでしょうか。例えば、働き方の中心がテレワークになった人は、ワークとライフの境界線が溶けてなくなっていますよね。これまでは職場がワーク、家庭がライフとゆるやかに区分されていたものがなくなり、「仕事のきりがついたら炊飯器のスイッチを入れ、1秒後には仕事に戻る」というような、ONとOFFのスイッチが目まぐるしく変わる生活になっています。ワークライフ・バランスは壊れ、言ってみれば、“ワークライフ・カオス”な状態です。
これはコロナ禍で起きた働き方の変化のひとつですが、そんな変化の中にはコロナ収束後も残り続けるものがあります。インナーアクティベーションでは、そうした社会の変化と組織や働き方のあり方にも常に注目しながら、「組織を内側から動かすとは何か?」を探求しています。
Withコロナ期の組織と働き方を考える「境界線が溶けゆく時代のインナーアクティベーション 」をnoteで配信していますので、ぜひそちらもご覧ください。
“人を動かす”ことにまで責任を持つという強み
インナーアクティベーションのプログラムをこれまで数十社に提供してきましたが、ご一緒してきた方は「社員の行動が変わるところまで伴走する」ことに価値を感じてくださっています。当たり前のことですが、戦略がいくら整理されていても、人が動かなければ組織自体も変わりませんよね。私たちが重視するのは “人を動かす(=アクティベーション)”ことまでを責任範囲として活動すること。人を動かし組織を変えていくために、インナーアクティベーションのプログラムには下記のような特徴を持たせています。
● 意識や行動に変化を起こすクリエイティビティー
正しいだけの改革では、人の心は動かせない。そのため、インナーアクティベーションのプログラムには「思わずやってしまう!」「いつの間にか心に残っている!」という接点をデザインし、意識や行動に具体的な変化を生み出します。コミュニケーションデザインをなりわいとする電通が培った“人を動かすクリエイティビティー”を、組織の内側に全力で注入することを意識しています。
● 企業に合わせてオーダーメイド
業種や規模、歴史や社員特性などによって、組織の動かし方はさまざまです。大事なのは、どんな企業にも平均的に効く施策ではなく、その企業だからこそ効く施策を提供することだと思っています。ある会社とご一緒したときは、社員の特性や施策の有効性を検証し、徹底的にビジュアルコミュニケーションを突き詰めながら施策を展開しました。「その企業だから響く」というベストなやり方を、ヒアリングや現場の観察からデザインしています。
● 一過性ではない“持続可能”な改革
一過性の変化を、このチームでは成果と認めていません。人が動き続け、組織が良い方向へ変わり続けることをゴールとして、定期的に効果を測るPDCAの仕組みや、改革のスピードを緩めないプロデューシング、電通チームが離れた後も自走し続けられる体制を提供することを目指しています。改革を止めずに続けるときに、電通の持ち味であるゴリゴリとリードする力が生きてくると感じています。
こうした“人を動かす”ことをとことん考えていくことが、インナーコミュニケーションやインナーブランディング、組織や人事のコンサルテーションなどと異なる強みかもしれません。
インナーアクティベーションの五つのアプローチ
インナーアクティベーションには、大きく分けて五つのプログラムがあります。ご一緒する企業の方と対話しながら、「どこから取り組むか」「どこを重点的に行うか」を決めて進めています。
Issue Capturing 「本当に解くべき課題を見つけ出し、構造化する。」
枝葉の課題を一つずつつぶしていっても、組織は変わらない。根っこの課題を特定することが大切だと思っています。そのために「現場の生声」から本音や本質を発見するプロセスが重要です。経営層、マネージャー、多様な年代やセクションの現場社員へのヒアリングを行いながら「課題構造マップ」の形にまとめます。課題構造マップは、その組織を動かす施策をプランニングしていく上の戦略地図になったり、組織の状態を一覧化し、定点観測するツールになっています。
i-Visioneering 「エンジニアリング発想で、組織の目指す姿を言語化。」
“Visioneering”は、VisionとEngineeringを掛け合わせた造語で、言語化したビジョンが組織の中で機能するかどうかまで強度検証を行い、響く言葉まで磨き込むことを指しています。「i」はinnerのi、一人一人の「私」のiを意味して名づけました。組織が変革を目指す中で「自分はどう動けばいいのか?」が言語化されることで、社員一人一人が動くきっかけをつくります。インナーアクティベーションのプロジェクトでは、多くの場合コピーライターがメンバーとして参加し、組織の内側に響く言葉を開発します。
Activation Design 「一人ひとりの行動を変える具体策を実行する。」
五感を刺激するアクティベーション施策など、人の意識や行動を変化させる施策を開発することに加えて、その施策が継続して実行され続ける自走化の仕組みまで開発。打ち上げ花火で終わらない、持続的な改革を意識してプランを練るように意識しています。また、カスタマージャーニーの従業員版ともいえる「エンプロイージャーニー」を開発し、どのタイミングでどんな施策を提供することが有効かの仮説を立て施策をプランニングすることもあります。
Dialogic Analysis 「PDCAから対話を生み、次の機会を発見する。」
「100ページ以上の社員意識調査の結果報告資料を、見ずに放置してしまっている」という企業は多いのではないでしょうか。大事なのは生きた“報告書”であり、そこを出発点に組織の中で対話が生まれることです。このアプローチでは、プロジェクトの効果分析の結果をもとにしながら戦略地図を見直し、「どのようにプロジェクトをブラッシュアップするのか」など、ネクストステップへ向けたPDCAを重ねます。
Project Leading 「ともに課題と向き合い、ゴールへと伴走する。」
数カ月・数年単位のインナープロジェクトをモチベーションを維持しながら継続するのは難しい。社長直轄プロジェクトとして始まったけれど、兼務の社員も多くてリソースが足りない。そうして勢いをなくしてしまう企業を多く見てきました。計画変更や想定外がつきもののプロジェクト推進において、スケジュール管理から、実施・検証まで、豊富なプロデュース経験を生かしてサポートしています。
この五つのアプローチを柔軟に組み合わせて、一社一社にとって最適な形にカスタマイズするのも、私たちのチームの特徴です。今回は紹介しきれませんでしたが、それぞれのアプローチには独自に開発したツールや、ワークショッププログラム、ヒアリングメソッドなどもたくさんストックしています。インナーアクティベーションでご一緒してきた企業の中には5年以上継続している会社もあります。
イノベーションを生み出せる組織を目指したり、コロナウイルス感染症がひとつの要因となってトランスフォーメーションを進める組織も多いと思います。そうした時代に、「組織を内側から駆動させ、改革を目指す“人”をつくる」ことは、ますます求められていくのではないでしょうか。そのときに「インナーアクティベーション」が力になれるよう、私たちのアプローチに磨きをかけていきます。