CARTAと電通のデジタル航路No.3
DXの時代に、電通とCARTAがクライアントに提供するもの
2020/06/29
国内電通グループのメディアソリューションのDX(デジタルトランスフォーメーション)を大きく加速させると期待されているのが、CARTA HOLDINGS(以下、CARTA)です。
同社の会長に就任したVOYAGE GROUP創業者・CEOの宇佐美進典氏と、電通の副社長を務める榑谷典洋氏に、CARTAと電通が目指すデジタルプラットフォーム構想について聞きました。
<目次>
▼電通に必要だった、データテクノロジー領域の強化
▼デジタルプラットフォームとマスメディアの「掛け算」が必須になる
▼変化の激しいデジタルの世界を電通グループがリードしていく
電通に必要だった、データテクノロジー領域の強化
──デジタル広告プラットフォームの雄であるVOYAGE GROUPが、電通グループのサイバー・コミュニケーションズ(CCI)と経営統合し、CARTA HOLDINGSが誕生しました。CARTAの誕生は電通にとってどういう意味を持つのでしょうか?
榑谷:電通はクライアントのビジネスグロースに貢献するための統合サービスを提供したいと考えています。そのために重要なのがデータテクノロジー領域であり、この領域における国内電通グループのリソースをもっと充実させたいと考えていました。
そこで、デジタルプラットフォームのテクノロジーに強みを持つVOYAGE GROUPと、国内電通グループでパブリッシャーやメディアに向き合っているCCIが一緒になることを考えたのです。
宇佐美:経営統合の目的をVOYAGE GROUP側の観点からいうと、広告プラットフォームの事業をさらに成長させ、事業の可能性を広げるためです。VOYAGEはデジタル広告のプラットフォーム事業を中心に会社を大きくしてきましたが、販促型広告やパフォーマンス広告の領域には強いものの、いわゆるブランド系の広告主や、プライムなメディアとの取引は弱かったんですね。そこで弱点領域を強化して、より成長していくためには、CCIとの相性が非常に良かったんです。
ただ、単に「CCIと連携して、それぞれの強みを生かしたネット広告をやろう」ということではないんです。今は広告主がパフォーマンス広告もブランディング広告を分けずに、横断的なプランニングを行うようになっています。だからこそ、両方に対応できる広告プラットフォームやプロダクトを提供しなければならない。そこで経営統合後にまず生まれたのが、ブランド広告主向けの統合マーケティングプラットフォーム「PORTO」(https://porto.cartaholdings.co.jp/ )です
──運用型のパフォーマンス広告を得意とするVOYAGEと、ブランディング広告を得意とする電通の強みを合わせた広告サービスが、今の広告主から求められていると。
宇佐美:はい。さらに今後は、テレビやラジオなどマスメディアもDXが進み、運用型のプログラマティック広告が増えていくでしょう。そうなるとCCIだけでなく、国内電通グループ全体と連携して取り組んでいくことで、もっと面白い未来がつくれると考え、当初からマスメディアにおけるDX化についても電通内のさまざまな方と話をしていました。そして、先日やっと、次世代型TVマーケティングプラットフォーム「PORTO tv」(https://portotv.cartaholdings.co.jp/ )としてリリースすることができました。
──業務提携のような形ではなく、経営統合を選んだ理由は?
榑谷:経営が一緒になればすべてをスピードアップできますし、グループ全体のリソースを俯瞰して、必要に応じて効率化や強化をしていけるからです。お互いカルチャーフィットもしていたし、目指すところも大きくは異なっていなかったので、最初から経営統合した方がいいと判断しました。
宇佐美:僕たちも業務提携の形はまったく考えていませんでしたね。昔からそうなのですが、一緒に何かをするなら「一蓮托生でやるぞ」という思いがないと意味がないと思っていて。経営統合はお互い痛みを伴う部分もありますが、踏み込まないと見えてこない部分がある。現場同士が本当に連携しなければならなくなりますし、そうでないと新しいものは生まれてこないと考えていました。
デジタルプラットフォームとマスメディアの「掛け算」が必須になる
──現在、国内電通グループは、クライアントやメディアのDXを大きく推進しています。このDX推進戦略の中でのCARTAの位置づけを改めて教えてください。
榑谷:これからの時代は「デジタルプラットフォームとマスメディアとの掛け算」が重要になります。電通のグループ会社でも、特にその力を持っているのが、すでに独自のデジタルプラットフォーム運営に実績のあるCARTAだと思っています。
今の電通は広告やコミュニケーションだけでなく、「クライアントのビジネスグロースにコミットする」という、統合的なソリューションを提供しています。しかし、今までの延長線上では、どちらかというと脳みそに汗をかく知的労働集約型ビジネスになりがちです。フィービジネスとして多くの利益を上げようとすると、より多くの人間を投入しなければならず、疲弊していきますし、収益面でも限界があります。だからこそ、労働集約型ではない仕組みづくりが必要で、データを蓄積するほどに、生産性や収益性を大きく高められるプラットフォームを、CARTAとつくっていきます。
──CARTAが誕生して間もない2019年5月に、電通、電通デジタルと共に「Premium Audio広告」をリリースされましたね。radikoやSpotifyといったオーディオメディアに広告を配信するためのプラットフォームですが、これがまさにブランディング領域に踏み込んだ例となるのでしょうか。
宇佐美:実は少し前の4月に「PORTO」をリリースしていました。サービスリリース時点では、ブランド広告向けDSPとして多様なディスプレイフォーマットへの対応や、VOYAGE GROUPが保有する独自データの活用などのみの機能でしたが、5月に、オーディオ広告配信機能を拡充しました。「Premium Audio広告」は、電通とCARTAが連携したブランド広告向けの取り組みの第1弾です。
その後「PORTO」では、「Premiumオーディオ」や「Premium DOOH」「Premiumインストリーム」など、機能拡充・改善に取り組んでいますが、将来的には、先日リリースした「PORTO tv」とも統合したいなと考えています。「PORTO」は、デジタルだけ、テレビCMだけの最適化でなく、オンライン・オフラインをまたいだ多様なフォーマットを、統合計測・管理・配信できる、唯一無二のブランド向け統合マーケティングプラットフォームを目指しています。
ブランド広告のプラットフォームとして必要な機能や要件は、まだ手探りの部分もありますが、マスメディアのセールスを実際に担う電通のメンバーと一緒に取り組む中で、新しいプラットフォームの可能性がいろいろ見えてきたかなと思います。
榑谷:一緒に仕事をして感じるのは、 CARTAは強力なテクノロジーの部隊が内部にいるので、何をやるにしてもスピードが速いですよね。デジタルのビジネスでは、最初から完璧なものができるということはないわけで、すぐにPOC(概念実証)などにトライして、改善すべきところが見つかればすぐに対応するというスピード感が何より重要なんですね。
──お話を聞いていると、入り口はCCIとの経営統合でも、国内電通グループ全体の中にCARTAが入って、連携していくというイメージなのですね。
宇佐美:PORTOというものをつくり、Premium Audio広告やPremium DOOH広告、PORTO tvをリリースする中で、統合の基盤づくりが進んできたので、今年はより国内電通グループ各社との連携に踏み込んでいきたいですね。もともとCCIでは電通グループ各社ともさまざまな取り組みを行ってきていましたが、最近では、Gガイドを運営しているIPG社と番組コンテンツデータを活用したデータマーケティング事業で業務提携を行ったりと、新しい取り組みも増えてきました。
──CARTAの目下のミッションは、テレビなどマスメディアのDXという理解でよいでしょうか?
榑谷:現実にクライアントが最も大きな予算を投下しているのはテレビですが、テレビは今、新しくなろうとしています。いろんなデジタルデータを使ってプランニングをするようになってきていて、この傾向は今後ますます加速するでしょう。そもそもテレビの定義も変化して、放送局がオンラインでテレビ番組を配信していく形も出てくるし、逆にテレビでデジタルコンテンツを視聴することも当たり前になっている。言ってみれば「すべてがデジタルメディアになってきている」ということです。
だけど、デジタルになったからといって、デジタル広告の取引の形態やプラットフォームの在り方が、そのままテレビに使えるのかといえば、必ずしもそうではありません。ある部分においては。これまでやってきたテレビCMの仕組みを応用しなければならない。そんな中で、VOYAGE GROUPのデジタル広告のノウハウと、電通のマスメディアのノウハウ、その両方を持っているCARTAの役割は非常に大きくなると思います。
変化の激しいデジタルの世界を電通グループがリードしていく
──デジタルとマスの境目がなくなり、融合し始めたタイミングだからこそ、その両方の知見を兼ね備えたCARTAという会社の役割があるということですね。
榑谷:繰り返しますが、CARTAを含めた国内電通グループは、クライアントのビジネスのグロースに資する統合的なソリューションを提供できる存在になろうとしています。他の広告会社やコンサルティング会社も同様の方向性を出していますが、完全な形で実現できているところはまだありません。電通は「統合的なソリューション提供」に必要なリソースが最も充実している状況だと思いますので、事例をいち早くつくってグループの方向性を明確に示していくことで、他社との差をクライアントに理解していただけるのではないでしょうか。
──単純なメディアのDXだけでない、統合的なデジタルプラットフォームをクライアントに提供することで、ビジネス全体の成長を支援していくと。この場合、コンサルティングだけでなく、実際にクライアントに提供するプロダクトやサービスをつくって、さらに運用する技術力や開発力も必要ですね。
榑谷:そこは大前提です。今、グローバルを含めたデータテクノロジーの中核をなしているのは、「ピープルベース」「ピープルドリブン」という考え方です。要するに、ふわっとしたマーケットの捉え方ではなく、生活者一人一人の興味、関心、具体的な行動、置かれている環境、状態に合わせて、最適なエクスペリエンスを提供できる企業こそが、グロースできます。
それを実現するためには強力な技術基盤が不可欠ですし、さらにそのピープルドリブンのデータを扱える力も必要になります。より豊富で、リッチで、深いデータを持つことで、クライアントのビジネスグロースにつなげてゆく。それが、国内だけでなく、電通のグローバルも含めた意志です。
──PORTOというプラットフォームを活用し、オーディオアドやテレビCMといったマスメディアのDXを実現しつつあるCARTAですが、今後の展開はどのようなものを考えていますか。
宇佐美:今後は国内電通グループ全体として、プラットフォームやプロダクトといったソリューションを強化していこうという流れがあります。CARTAは、デジタル領域における「武器」をつくっていくことで、電通グループの競争力の向上と成長に貢献していきたいと思います。
この1年間はCCIとの経営統合に力を注いできましたが、CARTAがどういった会社なのかは、クライアントからも国内電通グループからもまだまだ見えにくいと思います。そこで、事業上だけでなく、いろいろなところで連携を深めることで、新しい可能性を一緒につくっていけることを国内電通グループの皆さんに知ってもらいたい。そして、CARTAにできることや可能性について、グループ内でも情報発信していきたいですね。
榑谷:テレビをはじめ、マスメディアがオンラインの手段を使って自分たちが制作したコンテンツを届けていく取り組みはさらに拡大していくでしょう。そこで最も良い形でプラットフォームを提供できるのはCARTAを含む電通だと考えています。
また、CARTAに期待しているのは、技術的なことだけではありません。デジタル業界は常に変化が目まぐるしく、今言っていることも、来年にはまったく違う形になっているかもしれないという世界です。VOYAGE GROUPは、そんなデジタル業界の中にあって、何度も大きく方向性を変えながら成長してきたという実績があります。宇佐美さんの、過去の成功体験にとらわれず、常に先手を打って変革をリードしてきたという部分に、国内電通グループ全体が学べるのではないかと思っています。
電通グループにはもともと多様な才能とリソースがあふれています。ここにCARTAの技術やカルチャーが加わることで、より良いソリューションをクライアントに提供できるグループにしていきたいですね。