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潜在嗜好に着目!直感マーケティングNo.2

2020/08/07

本音をあぶり出す、直感マーケティングの新手法、STPとは?

昨年、人間の無意識の領域を扱う「デザイン心理学」について紹介しました(デザイン心理学による、直感マーケティングとは?)。そこでは、画像を用いた実験により人の気分を数値化し、気分に添った商品をレコメンドする方法について述べました。

2020年も電通は、このデザイン心理学を推進する千葉大工学部の日比野治雄教授、および千葉大発のベンチャー企業BBSTONEデザイン心理学研究所と共同プロジェクトを継続しています。今回は、直感的に良いと感じるものをあぶり出すメソッド「STP」の有用性について紹介します。

では、まず、なぜ直感にこだわるのか?というところから…。

従来型調査は「頭打ち」!?

市場は気の遠くなるような数の商品でひしめき合っています。最近は「なんでもネットで!」というトレンドが進み、オンラインショッピングの場においても商品情報が大氾濫しています。まさに「レッドオーシャン」。特にコロナショック以降は、なおさらのことではないでしょうか。

各マーケティング企業は、アンケート調査やインタビュー調査の結果を頼りに、この過酷な競争にしのぎを削っていますが、デザイン心理学の見地からは、このような従来型手法だけで戦い続けるのには限界があるのではないかと考えます。従来型の手法だけでは「頭打ち」となり、これ以上のビジネスの成長が難しくなる可能性があるというのです。

では、なぜ「頭打ち」なのか?三つ理由が挙げられます。

一つ目の理由は、「消費者自身、そもそも自分の好きなものや自分の気持ちが分かっていない」ということです。iPhoneを世に誕生させたスティーブ・ジョブズ氏は、かつて「消費者は欲しいものを知らない」と語ったといいます。人間は自分自身のホンネが分かっていないことが多々あるため、従来型調査だけではうまくいかないのです。それどころか、人は自分の行動の選択・決定の理由を“後づけする”傾向さえあること(心理学の領域ではChoice Blindnessと呼ばれる)も立証されています。

二つ目の理由は、調査回答にはその人の過去の経験や先入観による“ノイズ”が混入してしまうことです。これまで自分が選んできたブランドからなかなかスイッチできないという無意識の“現状維持バイアス”などは、その最たる例です。ゆえに、つい当たり障りのない回答をしてしまうこともあれば、自分の本心を偽る傾向さえもあるのです。これが、調査結果へ悪さをし、ひいてはマーケティングの精度を低下させるわけです。

三つ目の理由ですが、人間の意志決定は動物的・直感的になされる部分が多く、その直感部分(むき出しの心理:後述のドナルド・ノーマン氏は“内臓感覚”と呼んでいる)をひも解く必要があるということです。日比野教授は「人間は非合理的な存在です」と述べています。人間の嗜好や選択行動(何を好むか?何に良い印象を持つか?)は、必ずしも常に論理的に決まるものではなく、もっと本能的な部分も大きな影響を及ぼすのです。この点については、次章でさらに詳しく説明します。

ゆえに2020年、電通と千葉大のチームは直感的反応に重きを置いたメソッド「STP」(Short-time Presentation)を用いてソリューションの開発を進めました。この手法をこれまでのマーケティングに加えることによりイノベーションが起き、レッドオーシャンから一つ飛び抜けたブルーオーシャンへと移行することが可能になると考えています。

STPとは何か?

正式には Short-time Presentation by DPUというメソッドです。BBSTONEが特許手法を用いて開発したもので、調べたい商品、デザイン、パッケージ、広告などを非常に短い時間(通常0コンマ数秒程度)、被験者へモニター画面で瞬間呈示し、直感的な評価を記録させる仕組みです。

…とだけ書くと単純なものと感じられるかもしれませんが、例えば画像を露出させる秒数も実験により精緻に決定されるなど、実験プログラム全体が専門的な知見に基づくソフトとなっています。また、得られたデータは、デザイン心理学のさまざまな手法を駆使して分析され、人間の心理の奥底にまで通じる結果が抽出されます。

【図1】STP実験イメージ

STP実験イメージ

STPの何が良いのか?

それでは、STPから具体的にどのような恩恵が得られるのでしょう。

その第一の恩恵は、ずばり「直感的にいいと思うデザインや表現」が分かることです。ここで、BBSTONEデザイン心理学研究所の手掛けた具体的な成功事例を紹介します。

商材は、ある化粧品ブランド。

一般に女性は同じような色の化粧品ばかり持っています。何らかの思い込みで、自分にはこの色が合う、この色が好き、と元から思い込んでいる、つまり経験・思い出などによるバイアスが強いため客観的な評価ができません。ゆえに販売スタッフが、「この色がお似合いです!」「この色が新たな魅力を引き出しますよ!」と言っても、お客さまはなかなか納得しないという問題がありました。

そこでBBSTONEが開発したSTPにより、顧客自身が気づかない、心の底で求めているニーズを明らかにすることで新しいサービスが実現。顧客の驚き(普段選ばないカラーのおすすめ)、納得度を高めることで、絶大な支持を集め大幅な売上拡大を成し遂げました。

その他、デザイン心理学が手掛けてきたケースとして、食用オイルで直感的に優れたデザインを適用した結果、売り上げが30%増、他にも、感覚的に見やすく「作業が捗る罫線」の開発(特許出願)に成功など、さまざまな事例があります。

なぜ、STPだとうまくいくのか?

でも、なぜSTPだと直感的な評価が抽出できるのでしょうか?そのメカニズムの背景となっている理論について、少しだけ触れたいと思います。

ドナルド・ノーマン氏(カリフォルニア大学名誉教授/認知科学・認知工学)らの研究によると、感情処理の始まりは「内臓感覚レベル」(本稿での直感レベルに当たる)からだそうです。

人間は、感覚器から情報が入ると、好悪や善悪・安全について素早く判断し、筋肉(運動神経)に信号を送って、脳やその他の部分に警告を発します。これは、生物レベルで決定されている情報処理レベルです。この「本能レベル」よりも上位の階層にある情報処理レベルに「行動レベル」と「内省レベル」がありますが、これらは、人の心理へ経験や行動に基づく現状維持バイアス(いわばノイズと言ってもよいもの)をかけたりします。ゆえに、「本能レベル」(直感レベル)の感情処理がもっとも純粋な反応でありホンネに近い情報処理なのです。

さて、従来型の調査・実験では、被験者は長時間じっくり考えることが許されますが、このため、個人の経験値・固定観念などが実験結果へ関与し、バイアスとなって表れることがあります。それどころか、対象者は自分を偽って当たり障りのない回答をしたりすることさえあります。本音を言わない、言えない、というか、そもそも自分も分からないということがあるわけです。

そこで、ノーマン氏のモデルに基づき、行動・内省レベルまで評価が浸潤する手前の(すなわち、経験バイアスや先入観に邪魔されない)直感レベル・内臓感覚レベルの「純粋な評価」だけを抽出することを可能にする手法として、STPを用いることをBBSTONEが考案したのです。

【図2】STP(短時間呈示)がバイアスを回避する仕組み

STP(短時間呈示)がバイアスを回避する仕組み

STPのもたらす「さらなる恩恵」とは?

STPでは、さらなる恩恵が得られることも分かっています。この「第2の恩恵」ですが、結論から言うと、“商品の購入意向に影響を与える特定の心理要因”、および“各心理要因の影響度”が明瞭に分析できるのです。

人があるブランドを買いたい気持ちになるとき、心の中ではどのようなメカニズムが働いているのでしょうか。日比野教授の分析によると、購入意向に影響を与える要因は複数の心理的要素が絡み合っており、相互作用によってそれは生成されると述べています。端的な表現としては日比野先生の次のフレーズが象徴的です。

「人間は単純ではない」

実はSTPを適用すると、このような購買意欲に対する内的構造・因果関係のモデルを明らかにすることも可能です。これについて、電通は千葉大と2020年に新たな実験を行いました。

いろいろな商品の画像について、STPによる短秒数呈示、および時間制限なしの持続的呈示の二つの方法で、これを見た際の心理的評価(下記に示す評価項目)を回答してもらいました。ちなみに、今回の実験の対象者は20~30代の女性(サンプルは20人)で行いました。

評価項目① 購入意向(買いたい)
評価項目② 実体験意向(実物を見たい)
評価項目③ 好印象(好き)
評価項目④ 価格相応価値(高くても買う価値がある)
そして、各商品の購入意向に対し影響を与える他の心理要素についての重回帰分析(※)を行いました。

※=重回帰分析
ある結果を説明する際、関連する複数の要因のうち、どの要因がどの程度結果を左右しているのかを数値化し、それを元に将来の予測も行える統計手法。


【図3】商品A(かばん)の実験結果

商品A(かばん)の実験結果

さて、その結果(図3)ですが、実験に用いたある商品A(かばん)においては、持続的呈示(すなわち従来型の評価方法)の場合は、購入意向へ影響を与える要素の明瞭な構造分析はできませんでした(=有意な回帰分析モデルが成立せず)。

一方、STPを用いた場合は、「商品への好印象」と「実体験意向」の二つが購入意向へ強く作用していることが検出されました。ここから、購入意向の拡大へは、商品の見た目の好感度が影響するのと同時に、顧客へ実体験を誘うというマーケティング施策も有効となることが分かります。そこで、例えば、ターゲットに訴求力のある女性インフルエンサーを使い、彼女らがさまざまなシチュエーションでスタイリッシュにこの製品を使いこなすイメージをターゲットに与え「実物を見てみたい!」という気持ちをあおるといった打ち手が浮かんでくるわけです。

STPでは対象者の経験によるバイアスや先入観などの影響を除外した直感ベースのピュアなデータが取れるため、このような明瞭な分析が可能となったのです。日比野教授の言葉をお借りすると、「持続型呈示の場合、各要因の関係性等を解明することは困難となることがあり、誤った解釈を導いてしまうというリスクさえ生じると考えられる」ということです。


今回ご紹介した話は、アンケート調査やインタビュー調査などの従来型手法を否定するものではありません。そこに「直感」「内臓感覚」といった無意識領域も活用できるデザイン心理学の「直感マーケティング」を新たに加えてみてはいかがでしょうか?という提案です。

デザイン心理学による「直感マーケティング」で、マーケティングにイノベーションを導入し、ブルーオーシャンを狙いませんか?

興味がありましたら、電通メディアイノベーションラボの長尾までご連絡(mediainnovation@dentsu.co.jp)お願いいたします!

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