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新型コロナがもたらす「リモコンライフ」No.1

2020/08/21

これからは、「観光スポット」よりも「観光パーソン」が人を呼ぶ

お互いの距離は離れていても、テクノロジーを上手に使うことで、今までよりも近くに感じられる。ちょっとした発想の転換で、まったく新たなつながりが生まれる。新型コロナをきっかけにして始まりつつある新しいライフスタイルは「リモコンライフ」(Remote Connection Life)といえるものなのかもしれません。リモコンライフは、Remote Communication Lifeであり、Remote Comfortable Lifeも生み出していく。そうした離れながらつながっていくライフスタイルの「未来図」を、雑誌の編集長と電通のクリエイターが一緒に考えていく本連載。1回目は「Discover Japan」の編集長・高橋俊宏さんに話を伺いました。


<目次>
【リモコンライフストーリー#01 】旅に出る理由
「ECサイト」にファンが集まり「旅行サイト」に変貌する!?
「ディスカバー・ご近所」0泊1時間の小さな旅でリフレッシュ
  毎日使える「一生モノ」を買う豊かさ

 

【リモコンライフストーリー#01 】旅に出る理由

(カワバタ メイ/IT系スタートアップ勤務/28歳の場合)

世界的なパンデミックによって、海外渡航が禁止され、世界中の人が旅の行き場を失った。新型コロナウイルスは、旅行のあり方もいや応なく変化させようとしています。この先、海外への渡航禁止が解除されたとしても、海外旅行を計画する人は少なくなるかもしれません。では、人々の旅行に対する意識は国内回帰に向かうのか?国内の観光スポットが再びにぎわいを見せるのか?

「Discover Japan」の編集長・高橋俊宏さんは、「観光の究極は“人”。会いたい人に会いにいく“人観光”なんです」と指摘する。「その土地に友達がいれば友達に会いに行きますよね。宿だって同じです。ひいきにしている宿のご主人とか女将とかと触れ合える瞬間が楽しい。その瞬間を求めて、毎年、訪ねてしまう。あの感覚です」。

そんな高橋編集長からの示唆をもとに、「リモコンライフ」で「旅」はどう変化するのか?ちょっとしたストーリーにまとめてみました。 

野澤友宏(電通1CRP局)

リモコンライフストーリーイラスト
イラストレーション: 瓜生 太郎

 

時刻は午前11時。メイは、ノートブックを閉じて、大きく首を回した。朝イチから30分刻みで続いたリモート会議で、すでに首と肩はカチコチだ。新型コロナの感染は、これで第何波目になるのだろう……週の半分以上を自宅で仕事するようになって、早一年がたとうとしていた。メイは、ソファにもたれてスマホを手にとった。「次のGWはどこに行こう?」

去年は、学生時代の友人であるマヤと京都に行く予定だったが、新型コロナの影響でキャンセルした。今もまだ感染拡大は懸念されているが、国内旅行はかなり緩和されている。京都にリベンジするか?それとも、沖縄でのんびりするか?ぼんやり、あてもなくトリップアドバイザーをスクロールしていると、玄関のチャイムが鳴った。「お、きたきたきたきた……」

メイには、最近、ハマっているものがある。野生の鹿やイノシシの肉、“ジビエ”だ。特に、南伊豆にいる猟師さんがつくる ソーセージにハマっている。最初にイノシシ肉のソーセージを食べた時の衝撃は、いまだに忘れられない。かつて味わったことのない濃厚な旨味に一発でやられてしまった。それ以来、多い時で週に一度のペースで取り寄せている。

その猟師さんの存在を知ったのはTwitterがきっかけだった。それからInstagramでフォローするようになり、今ではFacebookでつながっていて、「今日仕留めた獲物」や「今開発中のソーセージ」など、日々の活動をリアルタイムで知ることができるようになった。もともとは一部の飲食店にしか卸してなくて、一般人は手の出しようがなかった。けれど、新型コロナで各地の飲食店が休業したことをきっかけにオンライン販売を開始。誰でもお取り寄せできるようになったのだ。

自粛期間中には、お取り寄せ仲間と一緒に猟師さんとのリモート飲み会を開催した。イノシシ肉と鹿肉のソーセージを食べながら、猟師さんの話を聞く。どこで獲物を見つけてどうやって仕留めたのか、ひとつひとつの仕事にそれぞれのストーリーがあり、ついつい聞き入ってしまった。最高に楽しい夜だった。

「そうだ、猟師さんに会いに行こう」早速、マヤにLINEをする。彼女ももちろんイノシシ肉にやられている一人である。すぐにソーセージにかぶりついている写真と合わせてOKの返信がくる。さすが肉食女子、話が早い。それから、猟師さんにmessengerを送る。すぐに返信が……来るわけはない。ので、南伊豆の観光案内をチェックする。すぐに、とある「観光案内所」のサイトが目に留まった。

「観光案内所」のサイトといえば、由緒ある神社だとか見晴らしのいい展望台、牧場や吊り橋の社員が並んでいるのが普通だろう。けれど、その「観光案内所」には、農家のご夫婦、神主さん、猟師さんらしきお兄さん、何をしている人か分からないおばあちゃん……、いろんな人の笑顔が所狭しと並んでいる。その土地の人たちとの交流をメインとした「観光案内所」だった。メイは、鼻の頭にしわを寄せて笑っている若い男性が気になった。イケメンというわけではないが、メイの好みの顔だった。

「お!陶芸家さんなんだ……!」その観光案内所のサイトはECサイトも兼ねていて、若い陶芸家の作品も販売している。一つ一つの作品を丁寧に撮影していて、クローズアップの写真からはザラついた手触りが伝わってくる。「今、買うか、それとも行ってから買うか……」。メイが小ぶりのお皿を見つめながら迷っていると、PCから新着メッセージを知らせる音が鳴った。猟師さんから返信だ。「ぜひぜひ、来てください。僕の友人夫婦2組も来る予定なので、一緒に山をご案内します。カワバタさんは器とか好きでしたよね。去年こっちに来た若い陶芸家がいるんで、工房に遊びに行きましょう。」──なにぃ!?

メイは、新しく増えた旅の目的に胸を躍らせながら、猟師さんへのメッセージを打ち始めた。

(このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません)

「ECサイト」にファンが集まり「旅行サイト」に変貌する!?

上記の「リモコンライフストーリー」のヒントにさせていただいた「Discover Japan」編集長・高橋俊宏さんのインタビュー内容を、ぜひご覧ください。

リモート取材に応じていただいたDiscover Japan高橋編集長。(下段は、電通のプロジェクトチームメンバー)
リモート取材に応じていただいたDiscover Japan高橋編集長。(下段は、電通のチームメンバー)

人とモノとの距離って、実は、ECサイトができることによって近くなります。コロナの感染拡大によって旅行業界が大打撃を受けたことで、一流ホテルや名旅館がその名物料理などをオンラインで販売するようになりました。今まで現地に行かないと食べられなかったモノや買えなかったモノが身近に手に届くようになった事例がたくさん出てきています。

人とモノがオンラインで出会い、感想を伝えたりすることで新しいコミュニケーションが始まる。その結果、「じゃあ、現地に行ってみよう」といってオンラインからオフラインにつながっていくことが頻繁に行われるようになる。オンラインをきっかけに人とモノとの距離感がすごく縮まって、人と人とのつながりも近くなる、というような好循環が数多く生まれつつあります。

SNSを使って個人が発信しやすい時代のいいところは、地方にいてもその人の「キャラクター」を全国的に知ってもらえるということと、同じ価値観を持つ人がどんどんつながっていけること。SNSなどを通じてオンラインからファンになって、その人に会いに現地に行くっていう、そういう旅の形がどんどん出てくるはずです。ただ単に泊まりたい宿があるんじゃなくて、宿のご主人とか女将とか、その人の顔を見たくて旅をする。そういう方々が中心となって「おもてなしツアー」をしっかり組むとか、新たなビジネスチャンスがたくさん出てくるでしょう。

「ディスカバー・ご近所」0泊1時間の小さな旅でリフレッシュ

「不要不急の外出は避けましょう」という言葉がメディアで繰り返される中、改めて気づいたのは「余白」の重要性でした。特に、仕事をする上で何がいちばん重要かと考えて気付いたのは、雑談(笑)。オンラインでも会議はできるし、仕事の大半は済んでしまう。でも、「ちょっと集まって話そうぜ」みたいな他愛もない会話から実は多くのアイデアが生まれるということに改めて気付きました。世の中の発明って、きっと、考えようと思って考えついたことではなくて、井戸端会議や雑談とか、ふとしたときに気付いたことがほとんどだと思うんですね。

雑談がいろいろなものを生む「余白」として仕事に欠かせない時間であるように、自分にとって「旅」もまた大切な「余白」のひとつです。けれど、外出自粛期間中は「旅」に行けない。その代わり、近所を「散歩」をする時間が増えました。歩いているうちに「あ、こんなところに祠があるのか……」とか「なんだこの店?」とか、思わぬ発見がたくさんあって…。クリアな目でいろいろ見ていくと、自分が住んでいる場所にも実は目にしてないところがたくさんあることに思い至る。

そういうことに気付くことは、実は「旅」と何も変わらない。それも、ひとつの「観光」なんです。これから先、人々の「旅」そのものに対する思考も、自分の近所を見直すとか、自分の住んでいる地域や日本を見直すという方向に変わっていくだろうなと強く思いますね。コロナ禍が、自分の「足元」の魅力を再発見するきっかけになっていってほしいです。

毎日使える「一生モノ」を買う豊かさ

ひと昔前の“ゴージャス”みたいなものが、ここ数年チープに聞こえるようになってきています。「カネ出せばいいものを持てる」という時代から、セレクトするセンスが問われる時代へ……人々の考え方がずいぶん変わってきている。さらに、コロナをきっかけにして、今まで海外のハイブランドに使っていたお金を日本のハイクオリティーなものに使うようになるかもしれません。ハレの日のために特別なものを大金を出して買うというよりは、毎日を豊かに楽しむために上質なものを丁寧に選ぶという感覚です。

安さ優先・コスパ優先で消費してきた人たちの中にも、外出自粛期間が今の暮らしを見直すきっかけになった人がたくさんいました。ご飯茶碗ひとつ買うにしても、今までは100均で済ませてきたけれど、ちゃんとした器屋さんに行って、お気に入りの作家さんを見つけて買うようになる。「1万円のご飯茶碗だけど、毎日使うものだし、一生モノと考えるとお得かも……」みたいになっていくのかなと思います。

実際に、日本の伝統的なものはお直しがきいたりして一生使えるものが多い。経年変化して古びていくことが美しいというのは、日本人独特の感覚です。今まで持続可能性という概念だけが先走っていたSDGsの話も、実際に「暮らし」のところに落とし込んで考える人が増えるのではないでしょうか。そんなふうに、日々の働き方や暮らし方の「最適化」が進んでいくと、「ジャパン・ルネッサンス」が始まるかもしれないですね(笑)。ペストのあとにルネサンスが始まったように、日本から大きなイノベーションが起きることを期待しています。


【「リモコンライフ」チームメンバーより】

今回の取材で浮き彫りになったリモコンライフで「旅行」を楽しむためのキーワードとは以下のようなものだ。

◉「観光スポット巡り」より「観光パーソン巡り」
◉「人」を案内する観光案内所
◉ 手触りが伝わるECサイト 
◉ ECサイトと旅行サイトの直結
◉ 生産者とつながるリモート飲み会

新型コロナウイルスで、私たちのライフスタイルはどう変わるのか──人々の暮らしの中にまぎれたささいな変化や日々の心の変化に目を向け、身近な “新常態”を未来予測し、新たな価値創造を目指したい。この連載では「リモコンライフ」という切り口で、その可能性を探っていきます。

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