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新型コロナがもたらす「リモコンライフ」No.2

2020/08/25

リモートワークで見えてくる、マイノリティーの新しいチカラ

お互いの距離は離れていても、テクノロジーを上手に使うことで、今までよりも近くに感じられる。ちょっとした発想の転換で、まったく新たなつながりが生まれる。新型コロナをきっかけにして始まりつつある新しいライフスタイルは「リモコンライフ」(Remote Connection Life)といえるものなのかもしれません。リモコンライフは、Remote Communication Lifeであり、Remote Comfortable Lifeも生み出していく。そうした離れながらつながっていくライフスタイルの「未来図」を、雑誌の編集長と電通のクリエイターが一緒に考えていく本連載。
2回目は「AERA」の編集長・片桐圭子さんに伺いました。


<目次>
【リモコンライフストーリー#02】見えないものを見るチカラ
オンラインで見えなくなったものは、「想像力」で補う
2011年はボランティア元年。2020年は寄付元年!?
「マジョリティーとマイノリティー」が同じスタートラインに立っている
教育の原動力は「モチベーション」
鬱々とした時代に絶対に必要な「正義感とエンタメ」

 

【リモコンライフストーリー#02 】見えないものを見るチカラ

(ノザワ トモキ/金融会社勤務/44歳の場合)

リモート会議、リモート飲み会、リモート帰省……新型コロナをきっかけに、私たちのコミュニケーションの多くがオンラインで済ませられるようになってきました。しかし、「オンラインで見えるものには、限界がある」とAERAの片桐編集長は警鐘を鳴らします。「オンラインになると、今まで意識しなくても見えていたものが見えなくなります。例えば『あれ?今日は顔色が悪いな』とか『足をひきずってるように見えるけど、どうしたんだろう?』といった情報が、一切、入ってこない。そのことに、私たちはもっともっと敏感になるべきだと思いますし、情報を発信する人間として、そのことを常に意識しておく必要があると思っています」

そんな片桐編集長の示唆をもとに、新型コロナによって、見えなくなった問題とは何か?見えてきた課題は何か?「教育」や「障がい者の雇用」はどう変化するのか?ちょっとしたストーリーにまとめてみました。 

野澤友宏(電通1CRP局)

リモコンライフイラスト#02
イラストレーション: 瓜生 太郎

 

「オッケー」とトモキはPCの画面に向かって大きくうなずいて言った。「ここまでやってくれてればあとはこっちでなんとかする。お疲れさま」

リモート会議では、ちょっとした表情の変化が伝わりづらい。だから、なるべく大きなリアクションをしないと、相手に「ちゃんと聞いてくれていない」という印象を与えてしまうよう。PC画面の中で、入社したばかりの女性社員が「ありがとうございます」と満面の笑みを浮かべてから、両手を合わせて深々とお辞儀をした。彼女もまた、リモートでのリアクションを心得ていた。採用面接から入社後のオンボーディングまですべてリモートで行われているので、採用を担当したトモキ自身、まだ、彼女に会っていなかった。だから、彼女が車椅子に乗っているということを情報として知ってはいたが、その姿をなかなか想像できなかった。

リモートワークで仕事を進めることが増えることで、上司に求められるものもまた変わりつつある。会えば一瞬で分かることが、リモートでは分からない。PC画面に映る相手の顔色、声のトーン、背景写真で隠されている家庭環境、メールが来る時間……より一層、細やかに気を配り、画面の向こう側へと「想像力」を研ぎ澄ます。

「マジ、疲れる……」とトモキがPCを閉じてソファにもたれかかった瞬間、小学4年生になった娘のハナが帰ってきた。「今日はリオちゃんが遊びに来るからぁ」とハナが洗面所で手を洗いながら大声で言った。「玄関にあるパパの自転車、ちゃんと片付けておいてねぇ!」リオちゃんと同じクラスになってから、ハナの勉強に対する態度が変わったようだ。リオちゃんが熱っぽく将来医学の道に進むという夢を語るのを聞いているうちに感化されたらしい。

「マジで疲れたぁ……」とハナが目頭を指で押さえながらリビングに入って来る。ハナが通っている公立小学校でも、新型コロナの収束宣言を受けて、やっと授業が本格的に再開した。ただ、オンライン授業の体制が整ったおかげで、教室でも「授業の動画」を見る機会が増えたという。各自が不得意な科目の復習をするなど、「自習」はオンライン化されて「個別学習」へと変わろうとしている。先生たちは教室で授業をする時間を減らし、生徒一人一人にかける時間を増やしているようだ。どんな興味・関心を持っているのか。どこでつまずいているのか。勉強へのモチベーションを上げるために、どんな声がけをすればいいのか。「教える」こと以上に「ファシリテーター」としての役割が重要になってきている。そのおかげで、娘のハナの「医学部熱」も、先生が上手にキープし続けてくれているようだ。

「あれ?」とハナがリビングに置いてあった箱を指差して言った、「これ亀千のどら焼き?つぶれたんじゃなかったの?」「つぶれてないよ」とトモキはハナに向かって口を尖らせた。「大将が店をたたむっていうから、地元のみんなで協力金を募って、なんとか続けてもらうことにしたんだよ。こんなにおいしいどら焼きが食べられなくなるなんて、考えられないだろう?」

「ふーん」と言いながらハナがスマホを手に取り耳に当てた、「オッケー!じゃあ、迎えに行くね」リオちゃんが、マンションのエントランスに着いたようだ。
トモキは亀千のどら焼きを一つ手に取り、ほお張った。「マジ、うまい……」。お取り寄せで大抵の物は手に入るようになったが、やっぱり「出来たて」よりも美味しいものはない。

「パパァ!だから、自転車を片付けてって言ったじゃん!」「ごめんごめん……」と玄関に迎えにいったトモキは娘の友達を見てハッとした。娘の口から同じクラスの「リオちゃん」という名前はよく聞いていたし、リビングでZoomを使いながら一緒に勉強している姿も何度となく目にしてきた。今、玄関の扉の向こうで待っているリオちゃんを見て、いかに自分の想像力が欠けていたかを実感した。「お邪魔しまーす」電動車椅子に乗ったリオちゃんがトモキに晴れやかな笑顔を向けた。

(このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません)

オンラインで見えなくなったものは、「想像力」で補う

上記の「リモコンライフストーリー」のヒントにさせていただいた「AERA」編集長・片桐圭子さんのインタビュー内容を、ぜひご覧ください。

片桐編集長

新型コロナの影響はあらゆるところに出てきますが、ネガティブな影響を少しでも少なくするために「想像力」の果たす役割が大きくなると思います。それは、「思いやり」と言い換えてもいいかもしれません。想像力を発揮して相手のこと考えることは、個人にとっても重要だし、チームや会社にも重要だと思います。そもそも、SNSを使ったコミュニケーションだと相手の顔が見えない分、「なんでこんなひどいことを……」と思えることまで言えてしまいます。そういうような状況が、直接会って触れ合う機会を制限されている中で拡大していってしまうと、とんでもないことになってしまう。想像力や想像したものが本当かどうか確かめる能力が、特に決定権がある人たちに求められるようになっていくのではないでしょうか。

2011年はボランティア元年。2020年は寄付元年!?

「知ろうとすること」が情報へのリテラシーを高める上ではとても大切です。少なくとも「自分は無知なんだ」ということを思いながらいろんな情報に触れようとする努力がますます大事になってきます。自分の立っている場所と全然違う場所にいる人のことを見たり聞いたりすることで、それこそ想像力もさらに育まれますし、有効なお金の使い方もできるようになると思います。欧米で言うところの「ノブレスオブリージュ」のような考え方はなかなか日本に根付いてきませんでしたが、今、その実現に向けて動き出している方々が増えてきています。震災がボランティア元年だとすると、新型コロナが日本にとっての寄付元年になるという意見もありますが、私もそう思います。寄付するためには自分に納得感がないとできませんし、そういう意味でも「知ること」「想像すること」がますます大切になってきます。

「マジョリティーとマイノリティー」が同じスタートラインに立っている
 

乙武洋匡さんが、AERA5月18日増大号のインタビューの中で「今まで僕らが『本当に困ってる』と言って声を上げてもまったく改善されなかったものが、誰も外出できないとなった途端に一気に改善された」とおっしゃっています。例えば、寝たきりの子が大学に通う時に、その子ひとりのためにオンライン授業をするなんて聞く耳も持ってもらえなかった。それなのに、緊急事態宣言が出て多くの人たちが「大学に通えない」となった途端に一気にオンライン授業になって、すごく不条理を感じたのだそうです。

乙武さんに指摘されるまで私自身その不条理に気づきませんでしたし、今までハードルが高かったところに立てるようになった人たちがいるということは、社会全体が知る必要のある情報だと思います。マイノリティーの方々とそうでない人たちが同じように「できない」状況が生まれたことによってやっと同じスタートラインに立つことができた、という言い方もできるかも知れません。同じスタートラインに立ったことで、マイノリティーの方々が持っている能力を社会全体が活用しやすくなるという側面も出てくるはずです。そういう状況は、コロナが収束してからも保ってほしいと強く思いますね。

教育の原動力は「モチベーション」
 

うちには小学5年生の娘がいまして、外出自粛期間中は同じテーブルで過ごす時間が長かったのですが、目の前で塾の宿題に四苦八苦している娘を見ていると「ただやらされている」という感じがして、親として勉強するモチベーションを与えられていないことに深く反省しました。自分のこれまでの仕事を振り返っても、心の底から「やりたい!」と思ったことしか身に付いていませんし、「いろんなことの源はモチベーションだな」と、今改めて実感しています。

だからこそ、今後の教育の肝は「モチベーション」にあると思っています。「何のために勉強するのか」がしっかり腹落ちできていればパワーになる。誰かに指示されて、頭だけで理解して「これをやっといたら、きっとこうなれるから」みたいな気持ちでやるのとでは理解の深みが違ってきます。それは、子ども達に限った話ではありません。編集長として、記者やデスクの人たちのモチベーションをどうやってサポートするかも課題だと思っています。

鬱々とした時代に絶対に必要な「正義感とエンタメ」

『AERA』の編集長として今やるべきことは、地道に取材して情報を出していくことしかありません。ただ、私自身、誰かをおとしめるようなことは大嫌いですし、センセーショナルな言葉であおるようなこともしたくありません。この鬱々とした時代に健全な情報と健全なエンターテイメントを届けるために、『AERA』は「正義感とエンタメ」の両方をちゃんと担保したいと思っています。困っている人の役にも立ちたいし、落ち込んでいる人の背中を押したいし、頑張ろうとしている若者は応援したい。ビジネスで必要なさまざまな情報・ニュースとともにエンターテインメントもしっかり届けながら、仕事に向かうモチベーションを高めるような雑誌。それが私が目指す『AERA』です。


【リモコンライフチームメンバーより】

今回の取材で浮き彫りになったリモコンライフにおいて重要な「思いやり」から見えてくるキーワードとは以下のようなものだ。

◉ 採用基準のバリアフリー化 
◉ 障がい者の雇用 
◉ モチベーション教育
◉ ティーチャーからファシリテーターへ 
◉ 公教育でも個別学習 
◉ 形を変えた寄付(応援消費・先飲み)
◉ マイクロ寄付/ローカル寄付/ジモト寄付

新型コロナウイルスで、私たちのライフスタイルはどう変わるのか──人々の暮らしの中にまぎれたささいな変化や日々の心の変化に目を向け、身近な “新常態”を未来予測し、新たな価値創造を目指したい。この連載では「リモコンライフ」という切り口で、その可能性を探っていきます。

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