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SDGs達成のヒントを探るNo.19

「VERY」は、なぜママたちに支持されるのか?

2023/03/16

SDGsの達成やサステナブル社会の実現へのヒントを探る、本連載。今回のゲストは、ファッション&ライフスタイル誌「VERY」編集長の今尾朝子氏です。

「VERY」は、ファッション、美容、インテリア、料理、教育などへの感度が高い主婦に向けて雑誌やウェブでさまざまな情報を発信して、大きな支持を得ています。

「VERY」は主婦層とどのように向き合い、企画や連載を考えているのか? 今尾氏の話は、企業がSDGsやサステナブルの文脈で自社の製品やサービス、理念などを生活者に伝えるときに大いに参考になるはずです。

TeamSDGs
今尾朝子氏:フリーのライターを経て、1998年に光文社に入社。2007年、「VERY」編集長に就任。同社において女性がファッション誌の編集長に就いたのは初めて。出産・育休を経て、現在は子育てをしながら編集長の仕事を続けている。

「VERY」
仕事や子育てで忙しくても、家族も自分も大切にして毎日を楽しみたい女性たちを応援する、ファッション&ライフスタイル誌。ファッション、美容、インテリア、料理、教育などへの感度が高いママに向けてさまざまな情報を、紙媒体、ウェブ、SNSなどで発信している。
 

VERY

 

企業が考えていることと、ママたちが考えていることには、ズレがある

──生活者に向けて、企業が商品やサービス、自社の姿勢を伝えていくとき、生活者の思いや行動をきちんと把握することは大事だと思います。「VERY」はメイン読者の主婦を引き付ける企画を数多く打ち出しています。企画はどのようにして生まれるのでしょうか? 

今尾:私を含め、「VERY」の編集部員は毎月、読者や、読者以外のママたちと直接お会いして、今、関心があることや悩んでいることなど、さまざまな話を伺っています。「VERY」編集部に限らず、読者と会って読者の思いを知ることは光文社の伝統で昔から続けてきたことです。

ママたちの意識や購買行動は時代とともに変化します。大きな災害や事件などが起こると、すぐに変わるのは当然。ママたちの考えは常に進化していくので、できる限り追いつけるように努めています。そして、読者への取材活動から「VERY」編集部では毎月200本近い企画が上がってきます。時間と労力をかけて地道にママたちと向き合うことが「VERY」の企画立案の原点です。

──「VERY」ではサステナブルやカーボンニュートラルに関する企画もありますね。

今尾:今、世の中でSDGsやサステナブル、カーボンニュートラルが話題になっているから「VERY」でも取り上げよう、というスタンスではないです。そもそも、「VERY」の誌面でSDGsというワードはそれほど出てきません。

サステナブルという言葉が浸透する前から、読者に取材をすると、「ママになった途端に子どもの未来に目が向くようになり、いろいろな社会課題が見えてきた」という声を多く聞いていました。そうした声を聞く中で、私が編集長に就任した2007年以降、「環境問題」や「心地よい暮らし」について、あくまで読者と一緒に子どもの未来について考えるいろいろな企画を打ち出してきました。

知れば知るほど、ママたちの関心が、どんどん未来やサステナブルに向くようになってきたと感じました。関心の高まりを受け、2020年に「サスティナママは知っている いま、イケてるFASHIONには愛がある!」という巻頭連載を始めました。

──どのような連載ですか?

今尾:「環境問題に関心があり、行動に起こしながらも無理せずおしゃれを楽しむ人」を「サスティナママ」と名付け、そんなママたちに向けて、リサイクル素材を使ったり、環境負荷を減らしたりして作られたサステナブルなファッションアイテムを紹介しました。

SDGsやサステナブルという言葉が認知される中で、ファッション業界が抱える大量生産・大量廃棄といった課題が浮き彫りになってきました。ファッションはSDGsの敵と捉えられることもある。一方で、多くのファッションブランドや国内外のデザイナーや企業は、課題解決に向けて積極的に取り組んでいます。その取り組みを「VERY」でも伝えていきたいと考えました。

コロナ禍を経た現在は、ものを大切にする志向が強まり、長く使えるものにお金をかけたいという意識がママたちの間で高まっています。そこで、連載を「サスティナママと『ビスポーク』の素敵な関係」にリニューアル。オーダーメードをテーマに、より愛着がわくような商品を紹介する企画にアップデートしました。

VERY
「VERY」の巻頭連載「サスティナママと『ビスポーク』の素敵な関係」。サイズやカラーをカスタマイズしたり、イニシャルを入れたりできるオーダーメードの商品を毎月紹介している。

──サステナブルに関する企画についても、あくまでもママファーストといいますか、ママたちが何に関心を持っているのか、というところから企画が生まれてくるのですね?

今尾:そうですね。いろいろな企業とタイアップや商品開発などのお仕事をさせていただいていますが、特に役に立てたと思うときは、企業とママの意識のズレを感じるときです。

例えば家電について、ママが関心を持つのは洗濯機やドライヤーといった家事や美容領域の家電だろう、と真っ先に思われるとします。しかし、在宅勤務が増えたこともあり、例えば今ママたちの間ではプリンターのニーズが高いんです。ママたちと話をすると、「どこのメーカーのものがいいですか?」と聞かれることも。 ママ層に向けて、家電をPRする方法や選択肢はまだまだいろいろあると思います。

──意外ですね。

今尾:家電については、女性は機械に弱いとか、機能なんて詳しく見ていないとか、決めつけられがちですが、実際はそんなことないですよね。女性も機能はよく吟味していて、「たくさん機能がついていてもいらないものが多い。それなら価格が安い方がいい」という意見もあります。家庭で買い物をするときにママが決定権を持っているケースも多いです。企業と「VERY」がコラボすれば、もっとママたちの心に刺さるコミュニケーションができそうなのに……と思っています。

学びたい、子どもに追い付きたいというママの思いに応える

──「VERY」では2021年、2022年とカーボンニュートラルに関する企画を実施しました。カーボンニュートラルもママたちの関心は高いのでしょうか?

今尾:ママたちは「子どもの未来のためにも住みやすい地球であってほしい」と考えているものの、普段の生活で環境問題について学んだり考えたりする機会はなかなか少ないと感じています。一方で、今の子どもたちは学校でSDGsや環境問題について学んでいます。子どもの方が詳しくて追い付いていない、と考えるママは多いです。もともと「VERY」の読者は知的好奇心にあふれ、学ぶことへの意欲が高い方がたくさんいらっしゃいます。そこで、「VERY」のサイトに「VERY×Carbon Neutral Action!」というコーナーを立ち上げ、その中でトヨタ自動車との企画を実施しました。

──どのような企画ですか?

今尾:2021年には、「カーボンニュートラルオンライン講座」と「カーボンニュートラル検定」を実施しました。オンライン講座はZoomで2回開催し、1回目はモータージャーナリストの岡崎五朗さんを迎えて、車選びと環境問題について学びました。2回目は、カリフォルニア発のアパレルブランド・ロンハーマンの根岸由香里さんを迎えて、同社のサステナブルな取り組みをお話しいただきました。

「VERY」世代にとって身近な「車」や「ファッション」を入り口にしたり、「VERY」モデルたちにも登壇してもらい一緒に学んだりすることで、読者が気軽に楽しく参加できるようにしました。

さらに、学びの成果を試すための「カーボンニュートラル検定」をオンラインで実施して、50問中40問以上正解した方には「合格証」を発行するという仕組みもつくりました。ちなみにこの検定は、作成した自分たちでさえなかなか合格できないほど難易度が高いんですよ(笑)。

この企画は、ママ自身がカーボンニュートラルについての理解を深めて、自分の考えを自分の言葉で語れるようになることを目標にしました。参加した方からは「勉強を頑張る子どもの隣で自分の学ぶ姿を見せることができてよかった」という声をいただいたりもしました。

──2022年はどのような企画を実施しましたか?

今尾:親子で取り組むカーボンニュートラルアクション(の計画)を一日一つずつ立てたアドベントカレンダー作りを提案しました。「VERY」編集部でもカーボンニュートラルのアクション例をいくつか考えてウェブサイトで公開しました。さらに、アドベントカレンダーの画像と実行したアクションを書き込んだ達成シートを送ってもらい、コンテストも実施しました。

VERY
VERY
──読者からの反響はいかがでしたか?

今尾:「工作が好きな子どもと楽しんで取り組めた」「友だちと集まって一緒に作りながら意見交換ができた」と好評でした。カーボンニュートラルに興味を持ってもらい、気軽に参加できたり楽しみながらアクションを起こしてもらえるようなコミュニケーションを考えることは、私たちにとっても学びが多く、今後も取り組みを広げていきたいです。

今尾朝子

誰一人取り残さない、「VERY児童館」の取り組み

──カーボンニュートラルの他に、企業とどんな取り組みをしていますか?

今尾:読者の中で特に苦しい環境に置かれているのが、コロナ禍で出産をしたママたちでした。当初はコロナがどういうものか分からない中で妊娠し、立ち会い出産も里帰りもできずに病院で一人過ごさなければいけない方も多くいました。さらに、子育てが始まっても外出が制限されたり、不安があったりしてママ友をつくることができない、マスクをずっと着けていて子どもの発育は大丈夫なのかと、涙ながらに話すママもたくさんいました。

ただでさえ産後うつになることもある時期のママたちに、「VERY」にできることは何かを考えた末、2020年12月に立ち上げたのが、月に1回ママたちがZoomでつながってホッとできる時間を提供する「VERY児童館」です。VERYモデルや識者、助産師さんにも毎回入ってもらい、質問を何でも受け付けるようにしました。

──誰一人取り残さないという、SDGsにもつながる取り組みですね。企業にはどのように協力してもらっていますか?

今尾:最初から、早い段階でスポンサーを見つけ、マネタイズしていくのが目標でした。結果、花王さんが半年間、その後、トヨタ自動車さん、その後はストッケさんについていただくことができました。この企画は現在も継続しています。

読者の思いやニーズをくみ取りながら、企業とコラボレーションしていきたい

──お話を伺っていると、読者に寄り添って読者の困り事を解決したいという熱意に企業が引かれて集まってくる感じがします。

今尾:そうですね。あくまでもビジネスですから、マネタイズはしないといけません。読者にとって絶対に必要だという強い確信があるので、そこはきちんとプレゼンをして、賛同してくださる企業を見つけています。

「VERY」がサステナブルに関するさまざまな企画を打ち出していることは、企業や広告会社にも浸透しつつあります。近ごろは、読者のママたちに向けてサステナブルをテーマにした企画を「VERY」で実施したいと、企業からお声がけいただくことが増えてきました。

私たちの役割は、企業が信念を持ってつくった製品やサービスの特長を、読者に響くように翻訳して伝えることです。そのため、今の読者の感覚に合わせて、「この商品だったらこう伝えるのはどうですか?」と提案するなど、常に読者の立場に立って発言することを意識しています。それができるのは、私たちがずっと読者と向き合ってきたからです。

また、タイアップで商品を紹介するときに企業は、フォロワーの数といった定量的なデータを重視することもありますが、「この商品を誰にレビューしてもらったら読者の方にも良さをうまく伝えられるか」というところを大事に考え、キャスティングしています。

商品の認知度を上げるだけなら、SNSのフォロワーが多い方に宣伝してもらうだけでも効果的ですが、企業は、実際に手に取ったりアクションを起こしたりするところまでを求めていることがほとんどです。そのため、例えば自転車を紹介するなら「自転車が苦手で転んだこともあって、自転車の安全性の大切さが身に染みてわかっているモデルさん、毎日の送り迎えに自転車が欠かせないと言っているモデルさんにレビューしてもらおう」とか、誰が発信すれば説得力を持って読者に魅力を伝えられるかを考えるようにしています。

「VERY」には、誌面の中で日々のライフスタイルや考えを発信しているモデルたちがいて、それを理解しているファンもついています。だからこそ、モデルたちが納得しておすすめしていることは読者にもきちんと伝わりますし、読者に刺さる発信ができる。そこが強みでもあると考えています。

これからも読者の想いに正面から向き合い、読者に寄り添った企画を実施していきたいです。

TeamSDGs

TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。

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