With → Afterコロナへ。進化する私たちの食生活No.2
「オンラインレストラン」は、新たな食文化となり得るか
2020/09/03
コロナ禍で大打撃を受けた飲食店を救いたい!
新型コロナウイルスが日本全国で猛威を振るい始めた4月初旬、ちょうど政府から緊急事態宣言が発出される少し前くらいの頃だったでしょうか。私たち電通「食生活ラボ」(以下、食ラボ)では、緊急オンラインミーティングを実施しました。
テーマは、「今、食ラボにできることは何か」。
コロナ禍で困っている人がたくさんいる。
ステイホーム生活は、家に居続けることだけでなく、同時にステイヘルシー、そしてステイスマイルでいることが肝要ではないか。
「食」はそのソリューションになり得るのではないか。
何か、私たちにできることはないだろうか……。
メンバーから次々といろいろな発言、アイデアが飛び出しました。
中でも、コロナ禍で最も(と言っても過言ではないくらい)大きな打撃を受けた外食産業(※前回の記事「リモート飲み会だけじゃない?!コロナで変わった私たちの食生活」ご参照)を、少しでも救う手立てはないだろうか、飲食店はお客さんにおいしい食事を提供する場であるというだけでなく、日本の食文化の担い手でもあるはず……。そんなラボメンバーの声から生まれたのが、「オンラインレストラン」企画です。
飲食店は、自粛期の休業による売り上げ減はもとより、緊急事態宣言解除後もソーシャルディスタンシングへの配慮、席数削減などによって客数減となっている状況です。特に、リモートワーク体制が続く中でのオフィス街や都心部は深刻だと聞きます。
売り上げ大幅減にもかかわらず、感染予防対策のためのパーテーションの出費や、店内の消毒や来客の検温など、やらなければならない作業が増えているのが実態ではないでしょうか。これでは、飲食店が疲弊してしまう一途です。
一方で、私たちだって外食はしたい。せっかくの記念日や、親しい友人たちと語らうときは、やっぱりレストランに行きたい。ステイホーム生活で自宅での調理機会が格段に増えた中で、たまには自炊疲れから解放されたい、そんな声もあるでしょう。
「オンラインレストラン」は、そんな双方の課題を解決し、新たな食の楽しみ方を試行錯誤した結果、生まれました。
離れていてもみんなで同じ食体験ができたら……?
前回の記事でもご紹介した通り、コロナ禍での生活で新たに取り入れられるようになったのが“リモート飲み会”です。飲み会に限らず、リモートワークの推進によって、オンラインでのコミュニケーションは一気に拡大・浸透しました。
リモート飲み会は、各自が気楽に好きなだけ好きなタイミングで好きなものを食べられるというのがメリットといえますが、逆にレストランなどでのリアル飲み会と違い、同じものを味わって「これおいしいね!」と言い合うようなフィジカルな共有体験がないのが残念なところ(飲み会って意外とこういうことで盛り上がったり、みんながまとまったりしますよね)。
ここで、想像してみてください。
画面越しではあるけれど、もしも、まるでレストランに行ったかのようにみんな一緒にシェフの料理を味わいながら、シェフから料理の話が聞けるとしたら、それはきっとステキな共食体験になるのではないでしょうか。
新しい選択肢。オンラインには、オンラインの良さがある。
今のリモート飲み会は、お店に行けないから、集まることができないから、“仕方なく”やっているという人も多いのではないかと思います。しかしながら、実際にリモート飲み会をやってみると、リモートならではの良さがあることも、また事実。
前述の通り、思い思いに好きなものを食べられるというのもそのひとつですが、私が何より大きな利点だなと感じているのは、遠く離れたところに住んでいる人も一緒に参加できるところです。
私が実際にやったママ友とのリモート飲み会では、ロンドンに転居した友人とも近況を報告し合えたり、オンラインでの親戚の集いでは、遠方に住む父や従兄弟もお互い元気な顔を見ながら話すことができました。これはコロナ禍になる前は、やらなかったことです。
“オンライン”はコロナ禍で仕方なく導入された側面が大きいとは思いますが、結果として、新たなコミュニケーションの選択肢になったといえるのではないでしょうか。
コロナが終息した後すべてのコミュニケーションがリアルに戻るかというと、おそらく決してそうではなく、オンラインによる食事体験もまた新たな選択肢のひとつに加わることが推察されます。
例えば父の日。これまでは単身赴任で遠方に住むお父さんに、大好きなビールを送って終わりだったところを、これからはオンラインレストランの予約をして久しぶりに顔をみながら一緒にレストランの食事を楽しむ、という選択肢が増えるかもしれません。
昔はレストランでの食事が趣味だったのに、今は足が悪くて外食に行けなくなってしまったおばあちゃんのために、敬老の日にオンラインレストランを予約して、一緒にレストランの味を楽しむこともできるでしょう。
そう、オンラインによって、私たちは新たな食事体験の選択肢を得たのです。
ひとつの思い、それぞれの強み。「共創」によって実現
オンラインレストランは、前出のイラストでもお分かりいただけるように、仕組みはとてもシンプルです。しかしながら、ただ“料理を取り寄せて”“リモートで食べる”というだけではありません。この企画は、もともと飲食店とお客さん双方の抱える課題の解決が目的なので、双方にとってWin-Winになるよう細かいところまで設計しています。
コロナ禍では、刻一刻と状況が変わります。なにより、スピード感が求められ、実現のためには今回の目的に賛同くださり、同じ思いを持って同じ方向を向いて協力し合えるパートナーの協力が必要でした。
まず、多くの人気飲食店を経営しながら食雑誌などの編集も手掛けるコバヤシライス代表の小林淳一氏から、飲食店の実情やホンネをヒアリングするとともに、どうしたら飲食店支援につながる仕組みができるかを一緒に企画・立案いただきました。
実施の告知や予約受け付けは、料理人の顔が見えるメディア「ヒトサラ」を運営する株式会社 USEN Mediaさまがこの企画の趣旨に賛同し、お引き受けくださいました。また、料理の配送システムは、同じくUSEN-NEXT GROUPの株式会社 USENさまが運営する、生産者と飲食店をつなぐEC仕入れサービス「REACH STOCK」を活用いただきます。
また、お料理をECで取り寄せる際にどうしてもネックとなってしまう配送料やシステム使用料などをご負担くださり、このオンラインレストラン体験をより豊かなものにするためのサポーター企業には、企画の趣旨にご賛同くださったJ-オイルミルズさまが手を挙げてくださいました。
前述の小林氏のプロデュースにより、本企画第1弾の実施レストランは、敬意と共感を持って生産者に寄り添い続け、旬を大切にし、フードロスやサステナビリティにも取り組む代々木上原のイタリアン、「Quindi」さまがご協力してくださることになりました。
オンラインレストランのロゴは、食ラボのアートディレクターがオリジナルで開発。自宅で少しでもレストラン気分を味わえるようにと、今クリエイターメンバーが梱包やオンライン開催でのアイデアを巡らせているところです。
細かな企画調整から、実施までの段取り、当日の運営までの全般は、食ラボメンバーを中心に、電通ライブが行います。
大事なのは、社会課題解決と持続可能性
このようにそれぞれが得意分野を発揮し、提供することで実現に向けて動き始めている私たちですが、このなかで私が大事にしていることは、“関わる全ての人にとってメリットがある”ことです。
寄付やボランティアといった、困っている人への支援はとても素晴らしいことです。特に緊急事態のときは多様な支援が求められます。ただ、長い目で見たとき、一方的な支援というのは持続可能であるとはいえません。それは、支援する側の状況に委ねられてしまうから。支援が打ち切られればそれまでです。
一部の人が無理しながら奉仕し続けるのではなく、価値を生み出す仕組みをつくり、回していく。私たち企業人が今行うべきは、withコロナにおける、そしてafterコロナに向けたCSV(価値の共創)ではないかと考えています。具体的には、コロナ禍での経験を踏まえ、第2波・第3波に備えた社会課題を、その企業が持つ「リソース」を活用し、「アクション」によって解決しながら、企業のビジネスにも貢献すること。これはまさにSDGs(国連の持続可能な開発目標)の考え方と同様です。
今回のオンラインレストランの取り組みは、社会課題を解決しながら、それを持続可能にするためのビジネスモデルのひとつとしても位置付けられると思います
「オンラインレストラン」は、新たな食文化になり得るか
新型コロナウイルスによって私たちは生活の変化を強いられ、経済的にも、心身の健康面においてもダメージを受けました。そして、それは今もなお続いています。
しかし、私たちはそれを乗り越え、新しい常識をつくり始めています。オンラインレストランもまたそのひとつ。今の時代だからこそ生まれた新たな食事体験です。コロナによって私たちの食生活も進化していく中、新たな食文化のひとつになっていくことを目指します。
オンラインレストラン企画第1弾は、9月21日の敬老の日に実施。
Quindiのシェフが「夏の終わり秋の始まり」をテーマに考案し、「旬の走りと名残」の「出会いもの」と呼ばれる食材を組み合わせた特別メニューが味わえます。
当日はシェフご自身から生産者や食材、料理のこだわりについての話、そして、料理にもふんだんに使われているエキストラバージンオリーブオイルの使い方のTIPSなどについてもお伺いします。
オンラインレストランは、最後の共創メンバーとしてお客さまが参加してくださることで、完成します。現在、「ヒトサラ」で絶賛予約受け付け中。多くの方のご参加をお待ちしています。