ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.4
大企業を本当に変革したい人に送る「全員スター化」と「演じ分け」のススメ(後編)
2020/09/18
前編に続き、東急グループでTokyu Accelerate Programを運営する福井崇博氏から、大企業の変革に挑戦した話を聞いていきます。確固たるビジネスモデルと伝統を築き上げた組織において、若手社員が変革を起こすためには何が必要なのでしょうか。
電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英が聞き手となり、「会社を変えたい」と願う若手社員へのヒントを探っていきます。
イノベーション成功の鍵は組織化と自分の中の多様性
吉田:これまで2社でアクセラレータープログラムに携わってきて、イノベーションの成果というものをどう定義し、どう評価していますか? 新規事業の場合は、売上のような従来の経営指標だけでは効果測定が難しいと思います。一方で説明責任という意味では、やはり数字が強いのも事実です。
福井:これをどう指標にするかは企業によって違うと思いますが、「組織として次のステップに進める状態をつくる」ことが成果の一つの捉え方だと思っています。
「0→1」をするためのプロジェクトであれば、いかに組織化や事業化に向けた基礎を築けるか。その土台ができているのならば、「1→10」の段階だと思いますが、そこではいかに組織や事業を完成させられるか。一口にアクセラレーターといっても、会社によってその位置づけが変わるので、成果の定義も変わるのだと思います。
また、プロジェクトの性質ごとにリーダーやメンバーに求められる資質も変わります。「0→1」ができている企業であれば、次は「1→10」ができる体制に変化することが重要です。たとえばそのプロジェクトでリーダーを務める人が「0→1」に向いているタイプとしたら、次のフェイズで引き続き「1→10」をやらせてもワークしないこともあります。
吉田:スタートアップ企業で、成長フェイズによって求める人材が変わるのと似ているかもしれませんね。福井さん自身はこれまでリーダー的な立場でチャレンジをしてきて、どのように変わりましたか?
福井:日本郵便では、私の好きなサッカーで例えると10番(司令塔)のようなポジションに徹していました。東急に入ってからは、10番の後ろでオールマイティに器用にこなす6番(ボランチ)のようなポジションを2年弱やってきました。
それはチーム内での役割だけでなく、企業内でのチームの役割にも通じると思っています。本来のアクセラレータープログラムなどのオープンイノベーション活動は、全社戦略に沿って、経営目標を達成するための手段として位置付けられるべきです。しかし最近は、アクセラレートプログラムやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を運営すること自体が目的になっているケースもあります。
なので、まず全社経営戦略に沿ったオープンイノベーションを定着させることを私も意識しています。司令塔として音頭を取るだけでなく、そうしたブレを感じたらそっと軌道修正していくような役割です。
吉田:なるほど。日本でイノベーション志向の人はとかく坂本龍馬になりたがるけど、必要なのはいわば勝海舟というわけですね。異なる利害を統べるミッドフィールダー的な役割。龍馬は最終的に殺され、代わりは誰もいなくなってしまいました。その意味だと、企業における革命児は誰か一人に属人化させるのではなく、“イズム”を会社に残すことが大事かもしれませんね。
福井:そのとおりだと思います。私は最終的に、大企業でイノベーションを産み出すための汎用的な成功モデルをつくりたいと思っています。私が東急でやっている取り組みも、その目標を実現させるためのチャレンジです。
東急のアクセラレートプログラムでいうと、私が入る前の2015~2017年は旗揚げ&ポジション確立の第1フェーズ、2018~2019年は通年応募制などによる組織化/仕組化の第2フェーズ、2020年からはそれをグループ内のより幅広い人たちに選択肢として広げていく民主化の第3フェーズだと捉えています。実はそう思えるようになったのは、司令塔であることに固執せず、「組織としていかに力を蓄積できるか」を考えながら行動した今の経験があったからなのですが。
自戒を込めて言うと、大企業のイントレプレナーは、スタートアップ企業のような売上や利益貢献としての成果が出てなくてもチヤホヤされやすい風潮があります。その結果、特定のイノベーターだけに依存する体質になってしまうし、チームとしてイノベーションを起こせない。短期的にはそれでいいかもしれません。しかし組織を本当に変革させるならば、新たに人材を雇用したり、チームを大きくしてレバレッジを効かせないと、いつまでも同じフェーズの取組みだけやり続けることになってしまいます。
吉田:大企業に入らず起業する人と、大企業でのし上がる人は、性質が違いますよね。そのバランスを取ることができると、大企業という土台がなければ成立しえないイノベーションを、起業家のようなサラリーマンによって起こすことができる。私も大企業に所属する一人として、その精神は理解できます。
福井:またサッカーのたとえになりますが、東急に来てからは、真上からグラウンドを観ているようなイメージで、ねらったところにパスが通るようにするにはどうすれば良いかを考えたり、不在のポジションを自分が補ったりするように意識できるようになったと思っています。ある時には中盤、またある時には司令塔というふうに、演じ分けるイメージです。
ただ、あまりにも長いこと10番(司令塔)を離れると鈍ってしまうので、時には意識して自ら前に出ることも必要だと痛感した2年弱でした。これもバランスですね。そういったこともあり、1年ほど前からは、アクセラレートプログラムをやりながらもそれとは別のオープンイノベーションの取組みについて、主担当者として準備を進めてきました。今の部署はプロジェクトベースでチームが組まれることが多いので、いまは10番と6番両方をさせてもらっています。また、今の時代はリモート環境やITツールなども整っていろんなことができるようになってきているので、例えば会社では調整役をしながら、ONE JAPANのような課外活動では10番のプロジェクトを進めるといったことも1つだと思います。。
吉田:能力を保つ意味でも、周りに対して多彩さをアピールする意味でも、自分の中にいろいろな顔を持っておくことが大事ですね。とはいえ、福井さんのように器用なユーティリティープレーヤーになれない、という人はどうすれば良いのでしょう?
福井:リーダーだからといって必ずしもユーティリティプレーヤーでなければいけないわけではありません。自分の良さを引き出してくれるようなユーティリティプレイヤーを味方につけておくことが大事だと思います。
大企業にいるからこそできること
吉田:先ほど課外活動の話もありましたが、今は価値観が変わってきていて、個の力や存在感が強くなってきています。あえて聞きますが、それでもなお、大企業の存在は必要なのでしょうか?
福井:大企業にしかできないことがあると思っています。たとえば日本郵便や東急のように、人々の生活を支えるインフラになっている企業などが特にそうだと思っています。また、土台としての企業があってこそ個が輝くこともあります。
同時に、そうした輝いている個があるからこそ土台も生きます。個人と組織がお互いを支え合うバランスが大事であって、どちらかが良いという二元論ではない気がします。大企業の中で、共同体感覚を持って仕事をする満足感を得ながらも、多様な働き方ができる。その両立を実現できたら理想的ですよね。
吉田:電通もそうですが、大企業だと規模の大きいチャレンジもできるし、社外で個人的なチャレンジも両立できる。起業やベンチャー企業への転職も選択肢ですが、大企業でアクションを起こすことも、ある種“両取りの”キャリア形成ができる道なのかもしれませんね。